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[インデックス 12264] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式ドキュメントである doc/go1.htmldoc/go1.tmpl の2つのファイルを修正しています。これらのファイルは、Go 1のリリースに関する重要な変更点や仕様を説明するドキュメントの一部です。

コミット

このコミットは、Go言語のドキュメント doc/go1 に対して行われた微調整であり、rsc (おそらくRuss Cox) のコメントに対応するためのものです。具体的には、多重代入のセマンティクスに関する記述の明確化、マップの等価性に関する将来的な言及の削除、および encoding/xml パッケージに関する記述の軽微な修正が含まれています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/9e7e6d9ea41b20e176985c1daf9a24a30b74871b

元コミット内容

doc/go1: tweaks to address rsc's comments

R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5706054

変更の背景

このコミットは、Go 1のリリースに向けたドキュメントの最終調整の一環として行われました。コミットメッセージにある「rsc のコメントに対応するための微調整」という記述から、Go言語の主要な開発者の一人であるRuss Coxからのレビューフィードバックに基づいて、ドキュメントの正確性、明確性、および将来的な誤解を避けるための修正が加えられたと推測されます。

具体的には、以下の点が背景にあると考えられます。

  1. 多重代入の明確化: Go言語の多重代入における評価順序は、言語仕様で保証されていますが、その表現がより正確であるように「has long guaranteed」という文言が追加されました。これは、Go 1以前からこの保証が存在していたことを明確にするためと考えられます。
  2. マップの等価性に関する将来的な言及の削除: Go 1では、関数値とマップ値の等価性比較(nilとの比較を除く)が削除されました。以前のドキュメントには、マップの等価性が「より直感的な形でいつか戻ってくるかもしれない」という将来的な可能性を示唆する記述がありましたが、これは不確実な情報であり、誤解を招く可能性があるため削除されました。Go 1の安定性を重視し、将来の変更について憶測を避ける方針が反映されています。
  3. encoding/xml パッケージの記述修正: Encoder 型の導入に関する記述に余分なスペースがあったため、これを修正し、ドキュメントの整形を改善しました。

これらの変更は、Go 1の公式ドキュメントが、リリース時点での言語仕様と実装を正確に反映し、ユーザーに誤った情報や不確実な情報を提供しないようにするための品質向上を目的としています。

前提知識の解説

このコミットの変更内容を理解するためには、以下のGo言語の概念とドキュメントの構造に関する知識が役立ちます。

1. Go言語の多重代入 (Multiple Assignment)

Go言語では、複数の変数に同時に値を代入する「多重代入」が可能です。例えば、a, b = b, a のように記述することで、2つの変数の値を効率的に交換できます。この際、Goの言語仕様では、右辺の式がすべて評価されてから、その結果が左辺の変数に代入されることが保証されています。これにより、代入の順序に依存するような複雑な挙動を避けることができます。

2. Go言語における値の等価性 (Equality)

Go言語では、異なる型や構造を持つ値の等価性比較 (== 演算子) の挙動が厳密に定義されています。

  • 関数値の等価性: Go 1以前は、関数値の等価性比較が定義されていましたが、Go 1からは nil との比較を除いて、関数値の等価性比較は許可されなくなりました。これは、関数の比較が意味を持つケースが少なく、実装上の複雑さや予期せぬ挙動を避けるためです。
  • マップ値の等価性: Go 1以前は、マップ値の等価性比較が定義されていましたが、Go 1からは nil との比較を除いて、マップ値の等価性比較は許可されなくなりました。マップは参照型であり、その内容は動的に変化するため、単純な == 演算子による比較は直感的ではないと判断されました。マップの内容を比較するには、要素を一つずつ比較するなどのカスタムロジックが必要です。

3. encoding/xml パッケージ

encoding/xml パッケージは、Go言語でXMLデータをエンコード(Goのデータ構造からXMLへ)およびデコード(XMLからGoのデータ構造へ)するための機能を提供します。このパッケージは、XMLベースのデータ交換や設定ファイルの読み書きによく使用されます。

  • Decoder: XMLストリームをGoのデータ構造にデコードするための型です。以前は Parser という名前でしたが、Go 1で Decoder に変更されました。
  • Encoder: Goのデータ構造をXMLストリームにエンコードするための型です。

4. doc/go1.htmldoc/go1.tmpl

  • doc/go1.html: Go 1のリリースノートや変更点をまとめたHTMLドキュメントです。Go言語のウェブサイトで公開されています。
  • doc/go1.tmpl: doc/go1.html のテンプレートファイルです。Goのドキュメント生成システムで使用され、テンプレートエンジンによってHTMLファイルが生成されます。このため、HTMLファイルとテンプレートファイルの両方が同時に修正されることが一般的です。

技術的詳細

このコミットは、Go言語のドキュメントの正確性と将来的な保守性に関する重要な側面を浮き彫りにしています。

1. 言語仕様の記述の厳密化

多重代入に関する変更は、Go言語の仕様記述における厳密さの追求を示しています。単に「保証する」と記述するだけでなく、「以前から保証されてきた」というニュアンスを加えることで、Go 1で導入された新しい保証ではなく、既存の保証の再確認であることを明確にしています。これは、言語の進化の過程で、過去の挙動と現在の挙動の連続性をユーザーに正しく伝える上で重要です。

2. 不確実な情報の排除

マップの等価性に関する将来的な言及の削除は、公式ドキュメントが推測や不確実な情報を含むべきではないという原則に基づいています。特に、Go 1のようなメジャーリリースでは、言語の安定性と予測可能性が最優先されます。将来のバージョンで機能が再導入される可能性があったとしても、それが確定していない段階でドキュメントに含めることは、ユーザーの混乱を招いたり、将来の設計変更の足かせになったりする可能性があります。この修正は、ドキュメントが「現状」を正確に反映することの重要性を示しています。

3. ドキュメントの整合性と品質

encoding/xml パッケージの記述における余分なスペースの削除は、小さな修正ですが、ドキュメント全体の品質と整合性を保つ上で重要です。特に、コード例やAPIリファレンスを含む技術ドキュメントでは、細部の正確性がユーザーの理解に大きく影響します。このような微調整は、ドキュメントが専門的で信頼できる情報源であることを保証するために不可欠です。

4. テンプレートと生成されたHTMLの同期

doc/go1.htmldoc/go1.tmpl の両方が変更されていることは、Goのドキュメント生成ワークフローを示しています。tmpl ファイルがソースであり、そこから html ファイルが生成されるため、両者を同期させることで、ビルドプロセスを通じて常に最新かつ正確なドキュメントが提供されることを保証します。これは、ドキュメントのバージョン管理とデプロイメントのベストプラクティスに沿ったものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットでは、doc/go1.htmldoc/go1.tmpl の2つのファイルが変更されています。変更は主にテキストの修正と軽微な整形です。

doc/go1.html および doc/go1.tmpl の変更点

1. 多重代入に関する記述の修正

--- a/doc/go1.html
+++ b/doc/go1.html
@@ -348,7 +348,7 @@ was unspecified. This change codifies the unpredictability.
 <h3 id="multiple_assignment">Multiple assignment</h3>
 
 <p>
--The language specification guarantees that in assignments
++The language specification has long guaranteed that in assignments
 the right-hand-side expressions are all evaluated before any left-hand-side expressions are assigned.
 To guarantee predictable behavior,
 Go 1 refines the specification further.

2. マップの等価性に関する記述の修正

--- a/doc/go1.html
+++ b/doc/go1.html
@@ -520,8 +520,7 @@ using element-wise comparison.
 <p>
 Second, Go 1 removes the definition of equality for function values,
 except for comparison with <code>nil</code>.
-Finally, Map equality is gone too, also except for comparison with <code>nil</code>,
-although it may return one day in a more intuitive form.
+Finally, map equality is gone too, also except for comparison with <code>nil</code>.
 </p>

3. encoding/xml パッケージに関する記述の修正

--- a/doc/go1.html
+++ b/doc/go1.html
@@ -1125,7 +1124,7 @@ as <a href="/pkg/encoding/gob/"><code>encoding/gob</code></a>.
 The old <code>Parser</code> type is renamed
 <a href="/pkg/encoding/xml/#Decoder"><code>Decoder</code></a> and has a new
 <a href="/pkg/encoding/xml/#Decoder.Decode"><code>Decode</code></a> method. An
-<a href="/pkg/encoding/xml/#Encoder"><code>Encoder</code></a> type was also     introduced.
+<a href="/pkg/encoding/xml/#Encoder"><code>Encoder</code></a> type was also introduced.
 </p>

doc/go1.tmpl も同様の変更が加えられています。

コアとなるコードの解説

1. 多重代入に関する記述の修正

  • 変更前: "The language specification guarantees that in assignments..."
  • 変更後: "The language specification has long guaranteed that in assignments..."

この変更は、Go言語の多重代入における右辺の評価順序の保証が、Go 1で新しく導入されたものではなく、以前から言語仕様によって保証されてきた事実であることを明確にするためのものです。「has long guaranteed」という表現を追加することで、ドキュメントの歴史的正確性を高め、読者がGo 1の変更点と既存の仕様を混同しないように配慮しています。

2. マップの等価性に関する記述の修正

  • 変更前: "...Finally, Map equality is gone too, also except for comparison with nil, although it may return one day in a more intuitive form."
  • 変更後: "...Finally, map equality is gone too, also except for comparison with nil."

この変更は、マップの等価性比較がGo 1で削除されたことに関する記述から、「より直感的な形でいつか戻ってくるかもしれない」という将来的な可能性を示唆する部分を削除しています。これは、公式ドキュメントが不確実な情報や将来の憶測を含むべきではないという方針に基づいています。Go 1のリリース時点での確定した仕様のみを記述することで、ドキュメントの信頼性と明確性を向上させています。

3. encoding/xml パッケージに関する記述の修正

  • 変更前: "...An `Encoder type was also introduced." (余分なスペースあり)
  • 変更後: "...An `Encoder type was also introduced." (余分なスペースなし)

この変更は、Encoder 型の導入に関する記述に含まれていた余分なスペースを削除するものです。これは純粋にドキュメントの整形に関する修正であり、視覚的な整合性を保ち、読みやすさを向上させることを目的としています。

これらの変更は全体として、Go 1のドキュメントが、言語の仕様を正確に、かつ誤解の余地なく伝えるための細部にわたる配慮を示しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク