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[インデックス 12268] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリである io パッケージのドキュメントに、並行アクセスに対する安全性に関する重要な注意書きを追加するものです。具体的には、io パッケージが提供するインターフェースやプリミティブが、下位レベルの様々な実装をラップしているため、明示的に安全性が保証されていない限り、並行実行に対して安全であると仮定すべきではないことを明記しています。

コミット

commit ee149d9a6bf1d25ca0697427a5a1cbf014807a6a
Author: Rob Pike <r@golang.org>
Date:   Wed Feb 29 13:30:08 2012 +1100

    io: document that i/o is not necessarily safe for parallel access.
    
    Updates #1599.
    
    R=golang-dev, adg, dsymonds
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5704052

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/ee149d9a6bf1d25ca0697427a5a1cbf014807a6a

元コミット内容

io: document that i/o is not necessarily safe for parallel access. (io: I/Oが並行アクセスに対して必ずしも安全ではないことを文書化する。)

Updates #1599. (Issue #1599 を更新。)

変更の背景

この変更は、Go言語のIssue #1599 に関連しています。Issue #1599 は「io.Reader/Writer: specify whether implementations must be safe for concurrent use」というタイトルで、io.Readerio.Writer の実装が並行利用に対して安全であるべきかどうかを明確にする必要性について議論されていました。

Go言語の設計思想として、並行処理は重要な要素ですが、すべてのI/O操作が自動的に並行アクセスに対して安全であるとは限りません。特に、io パッケージは os パッケージなどの下位レベルの操作を抽象化するインターフェースを提供しており、その具体的な実装は多岐にわたります。ファイルディスクリプタやネットワークソケットなど、多くのI/Oリソースは本質的に単一の操作ストリームを想定しており、複数のゴルーチンから同時にアクセスされると競合状態(race condition)が発生し、データの破損や予期せぬ動作を引き起こす可能性があります。

このコミットは、このような潜在的な問題を未然に防ぎ、開発者が io パッケージを利用する際に並行アクセスに対する注意を促すために行われました。明示的なドキュメントの追加により、開発者はI/O操作を並行して行う際に、適切な同期メカニズム(ミューテックスなど)を導入する必要があることを認識できるようになります。

前提知識の解説

Go言語の io パッケージ

io パッケージは、Go言語における基本的なI/Oプリミティブを提供します。これには、データの読み書きを行うための Reader および Writer インターフェース、コピー操作を行う Copy 関数などが含まれます。これらのインターフェースは、ファイル、ネットワーク接続、メモリバッファなど、様々なデータソースやシンクに対して統一的なI/O操作を可能にします。

並行性 (Concurrency) と並列性 (Parallelism)

  • 並行性 (Concurrency): 複数のタスクが同時に進行しているように見える状態を指します。Go言語ではゴルーチン(goroutine)とチャネル(channel)を用いて並行処理を容易に記述できます。
  • 並列性 (Parallelism): 複数のタスクが物理的に同時に実行されている状態を指します。これはマルチコアCPUなどのハードウェアによって実現されます。

Go言語のゴルーチンは軽量なスレッドのようなもので、OSスレッドに多重化されて実行されます。複数のゴルーチンが同じリソース(この場合はI/Oリソース)に同時にアクセスしようとすると、競合状態が発生する可能性があります。

競合状態 (Race Condition)

複数のゴルーチン(またはスレッド)が共有リソースに同時にアクセスし、少なくとも1つのゴルーチンがそのリソースを変更する操作を行う場合に発生する問題です。操作の順序が非決定論的になり、結果が予測不能になることがあります。I/O操作においては、例えば複数のゴルーチンが同時に同じファイルに書き込もうとすると、書き込みが混ざり合ってファイルの内容が破損する可能性があります。

同期メカニズム

競合状態を防ぐためには、共有リソースへのアクセスを制御する同期メカニズムが必要です。Go言語では、主に以下のものが利用されます。

  • sync.Mutex: 排他ロックを提供し、一度に1つのゴルーチンだけが保護されたコードセクションを実行できるようにします。
  • sync.RWMutex: 読み取り/書き込みロックを提供し、複数のゴルーチンが同時に読み取りを行うことを許可しますが、書き込みは排他的に行われます。
  • チャネル: ゴルーチン間の安全なデータ交換を可能にし、暗黙的に同期を提供します。

技術的詳細

このコミットの技術的な詳細は、io パッケージのドキュメントにコメントを追加することに集約されます。追加されたコメントは、Go言語のドキュメント生成ツール godoc によって解析され、最終的なドキュメントに反映されます。

追加されたコメントは以下の通りです。

// Because these interfaces and primitives wrap lower-level operations with
// various implementations, unless otherwise informed clients should not
// assume they are safe for parallel execution.

このコメントは、以下の点を明確にしています。

  1. 「これらのインターフェースとプリミティブ」: io パッケージが提供する Reader, Writer などのインターフェースや、Copy などのプリミティブ関数を指します。
  2. 「下位レベルの様々な実装をラップしている」: io パッケージは、os パッケージのファイル操作、net パッケージのネットワーク操作など、様々な具体的なI/O実装の上に抽象化レイヤーを提供しています。これらの下位レベルの実装は、それぞれ異なる並行性特性を持つ可能性があります。例えば、OSのファイルシステム操作は通常、単一のファイルディスクリプタに対する並行書き込みをサポートしていません。
  3. 「明示的に通知されない限り、クライアントは並行実行に対して安全であると仮定すべきではない」: これは、io パッケージのインターフェースを実装する側(例えば、カスタムの ReaderWriter を作成する開発者)が、その実装が並行アクセスに対して安全であることを明示的にドキュメント化しない限り、その実装を利用する側(クライアント)は安全性を期待すべきではない、という強い警告です。

このドキュメントの追加は、Go言語の「明示は暗黙に勝る (Explicit is better than implicit)」という哲学にも合致しています。I/O操作の並行安全性は複雑な問題であり、一律に安全であると仮定することは危険です。この変更により、開発者はI/O操作を並行して行う際に、常にその実装の並行性特性を確認し、必要に応じて適切な同期メカニズムを適用する責任があることを明確に示しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/io/io.go ファイルに対して行われました。具体的には、ファイルの冒頭にあるパッケージコメントに4行が追加されています。

--- a/src/pkg/io/io.go
+++ b/src/pkg/io/io.go
@@ -6,6 +6,10 @@
 // Its primary job is to wrap existing implementations of such primitives,
 // such as those in package os, into shared public interfaces that
 // abstract the functionality, plus some other related primitives.
+//
+// Because these interfaces and primitives wrap lower-level operations with
+// various implementations, unless otherwise informed clients should not
+// assume they are safe for parallel execution.
  package io
 
  import (

コアとなるコードの解説

追加された4行のコメントは、io パッケージ全体のドキュメントの一部となります。Go言語では、パッケージの冒頭に記述されたコメントは、そのパッケージの概要説明として godoc コマンドや Goの公式ドキュメントサイトに表示されます。

このコメントは、io パッケージのインターフェースや関数を使用するすべての開発者に対して、並行アクセスに関する重要な警告を発しています。これは、io パッケージが提供する抽象化レイヤーの下には、ファイルシステム、ネットワークスタック、デバイスドライバなど、様々な並行性特性を持つ具体的なI/O実装が存在するためです。これらの下位レベルの実装が必ずしも並行アクセスに対してスレッドセーフであるとは限らないため、io パッケージのインターフェースを介した操作も、デフォルトでは並行安全ではないと見なすべきである、という指針を示しています。

この指針に従うことで、開発者はI/O操作を複数のゴルーチンから実行する際に、競合状態によるデータ破損や予期せぬエラーを防ぐために、明示的にロック(sync.Mutexなど)を使用したり、チャネルを通じてI/O操作を単一のゴルーチンに集中させたりするなどの対策を講じる必要性を認識できます。

関連リンク

参考にした情報源リンク