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[インデックス 12322] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のgo/buildパッケージにおけるビルド問題を解決するためのものです。具体的には、go/buildパッケージの非常に大きなドキュメンテーションコメントが、Goのビルドツールであるcmd/distのビルド制約パーサーに問題を引き起こしていたため、このドキュメンテーションコメントをbuild.goファイルからdoc.goという専用のドキュメントファイルに移動しています。これにより、cmd/distがこのコメントをビルド制約として誤って解釈する可能性を排除し、ビルドが正常に完了するように修正されました。

コミット

commit d49475e07858e0ab8e81279d0c5a73e3e0440007
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Mar 1 19:42:39 2012 -0500

    go/build: fix build
    
    Presumably something about the very large go/build
    doc comment breaks the build constraint parser in
    cmd/dist.  I don't feel like debugging C code right now,
    so move it into its own file.  If cmd/dist decides doc.go
    is not part of the package, it will still build correctly.
    
    R=golang-dev
    TBR=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5722043

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d49475e07858e0ab8e81279d0c5a73e3e0440007

元コミット内容

このコミットの目的は、go/buildパッケージのビルドエラーを修正することです。go/buildパッケージ内の非常に長いドキュメンテーションコメントが、cmd/dist(Goのディストリビューションビルドツール)のビルド制約パーサーに予期せぬ問題を引き起こしていました。この問題を回避するため、当該のドキュメンテーションコメントをbuild.goからdoc.goという別のファイルに移動しました。これにより、cmd/distdoc.goをパッケージの一部として扱わない場合でも、ビルドが正しく行われるようになります。

変更の背景

Go言語の初期のビルドシステムにおいて、src/pkg/go/build/build.goファイルに含まれていたgo/buildパッケージ全体のドキュメンテーションコメントが非常に長大でした。この長いコメントが、Goのツールチェインの一部であるcmd/dist(GoのソースコードからGoのバイナリやパッケージをビルドするための内部ツール)が持つビルド制約パーサーの処理に悪影響を与えていました。具体的には、パーサーがコメントの途中に含まれる特定のパターンをビルド制約(+buildタグ)として誤って解釈したり、あるいは単にその巨大なサイズがパーサーのバッファオーバーフローや処理遅延を引き起こしたりする可能性がありました。

コミットメッセージにある「I don't feel like debugging C code right now」という記述から、この問題がcmd/distのC言語で書かれた部分に起因する複雑なバグであり、一時的な回避策としてドキュメントを分離する選択がされたことが伺えます。doc.goファイルはGoのパッケージドキュメントを格納するための慣習的な場所であり、通常はコンパイル対象から除外されるか、特別な方法で扱われるため、この問題の解決策として適切でした。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語に関する前提知識が必要です。

  1. go/buildパッケージ: go/buildパッケージは、Goのソースコードを解析し、パッケージの依存関係、ビルド制約、およびGoのワークスペース構造に関する情報を提供する標準ライブラリです。go getgo installgo buildなどのコマンドが内部的にこのパッケージを利用して、ソースファイルの発見、ビルドタグの評価、およびパッケージの解決を行います。

  2. cmd/dist: cmd/distは、Go言語のソースコードからGoのツールチェイン自体(コンパイラ、リンカ、標準ライブラリなど)をビルドするために使用される内部ツールです。これはGoのブートストラッププロセスにおいて重要な役割を果たし、Goのバージョンアップやクロスコンパイル環境の構築時に利用されます。cmd/distは、Goのソースファイル内のビルド制約(+buildタグ)を解析し、どのファイルをビルドに含めるかを決定します。

  3. Goのドキュメンテーションコメント: Go言語では、パッケージ、関数、型、変数などの宣言の直前に記述されたコメントがドキュメンテーションとして扱われます。特に、package宣言の直前に記述されたコメントは、そのパッケージ全体のドキュメンテーションとして認識され、go docコマンドやGoの公式ドキュメントサイト(pkg.go.dev)で表示されます。

  4. doc.goファイル: Goの慣習として、パッケージ全体のドキュメンテーションが非常に長い場合や、パッケージの概要を独立して記述したい場合に、doc.goという名前のファイルを作成し、その中にパッケージコメントを記述することが推奨されます。doc.goファイルは、そのパッケージの他のソースファイルと同じパッケージ宣言を持つ必要があります。Goツールは、doc.goに記述されたパッケージコメントを、そのパッケージの主要なドキュメントとして扱います。このファイルは通常、コードの実行には直接影響を与えませんが、ドキュメンテーション生成の際に利用されます。

  5. ビルド制約(Build Constraints / +buildタグ): Goのソースファイルには、特定のビルド条件(オペレーティングシステム、アーキテクチャ、Goのバージョン、カスタムタグなど)に基づいて、そのファイルをビルドに含めるかどうかを制御するための「ビルド制約」を記述できます。これはファイルの先頭に// +build tag1,tag2 !tag3のような形式でコメントとして記述されます。cmd/distを含むGoのビルドツールは、これらの制約を解析し、現在のビルド環境に合致するファイルのみをコンパイル対象とします。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、cmd/distのビルド制約パーサーが、Goのソースファイル内のコメントを解析する際に、そのコメントのサイズや内容によって予期せぬ挙動を示す可能性があったという点にあります。

Goのビルド制約は、ファイルの先頭にある// +buildという形式のコメントとして定義されます。cmd/distのようなツールは、ソースファイルを読み込む際に、まずファイルの冒頭部分をスキャンし、これらのビルド制約を特定します。このスキャン処理は、通常、効率的に行われるように最適化されていますが、非常に長いコメントブロック(特に、通常のコードとは異なる構造を持つドキュメンテーションコメント)が存在する場合、パーサーが誤動作する可能性があります。

考えられる問題点としては、以下のようなものが挙げられます。

  • パーサーのバッファサイズ制限: cmd/distのパーサーが、ビルド制約を読み込むための内部バッファに固定サイズを使用していた場合、非常に長いコメントがそのバッファを超過し、パースエラーやクラッシュを引き起こす可能性があります。
  • 正規表現エンジンの非効率性: ビルド制約のパターンマッチングに正規表現を使用している場合、非常に長い文字列に対して正規表現を適用すると、処理時間が極端に長くなったり、バックトラックの深さによってスタックオーバーフローが発生したりする可能性があります。
  • 誤ったビルド制約の検出: 長いコメントの中に、偶然+buildに似た文字列や、パーサーがビルド制約の一部と誤解するようなパターンが含まれていた場合、それが誤ったビルド条件として解釈され、予期せぬビルドエラーやファイルの除外を引き起こす可能性があります。

このコミットでは、これらの複雑なCコードのデバッグを避けるため、よりシンプルで堅牢な解決策が採用されました。それは、問題の原因となっていた長いドキュメンテーションコメントを、build.goからdoc.goという専用のファイルに移動することです。

doc.goファイルは、Goのツールチェインによって特別な方法で扱われます。通常、go buildgo installなどのコマンドは、doc.goファイル内のコード(この場合はpackage build宣言のみ)をコンパイルしますが、その中のコメントは主にドキュメンテーション生成のために利用され、ビルド制約の解析対象からは外れるか、あるいはより緩やかな方法で処理されます。これにより、cmd/distのビルド制約パーサーが、問題の長いコメントを処理する必要がなくなり、ビルドが正常に完了するようになりました。

この変更は、Goのビルドシステムにおける堅牢性を高めるとともに、Goのソースコードの慣習(特にdoc.goの利用)に沿ったものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによるコードの変更は非常にシンプルで、以下の2つのファイルにわたります。

  1. src/pkg/go/build/build.go: このファイルから、package build宣言の直下に記述されていた、go/buildパッケージ全体のドキュメンテーションコメント(Go PathとBuild Constraintsに関する詳細な説明)が104行分削除されました。

    --- a/src/pkg/go/build/build.go
    +++ b/src/pkg/go/build/build.go
    @@ -2,110 +2,6 @@
     // Use of this source code is governed by a BSD-style
     // license that can be found in the LICENSE file.
     
    -// Package build gathers information about Go packages.
    -//
    -// Go Path
    -// ... (中略:Go Pathに関する詳細な説明) ...
    -//
    -// Build Constraints
    -// ... (中略:Build Constraintsに関する詳細な説明) ...
    -//
     package build
     
     import (
    
  2. src/pkg/go/build/doc.go: このファイルが新規作成され、build.goから削除された全く同じドキュメンテーションコメントが、package build宣言とともに109行分挿入されました。

    --- /dev/null
    +++ b/src/pkg/go/build/doc.go
    @@ -0,0 +1,109 @@
    +// Copyright 2011 The Go Authors.  All rights reserved.
    +// Use of this source code is governed by a BSD-style
    +// license that can be found in the LICENSE file.
    +
    +// Package build gathers information about Go packages.
    +//
    +// Go Path
    +// ... (中略:Go Pathに関する詳細な説明) ...
    +//
    +// Build Constraints
    +// ... (中略:Build Constraintsに関する詳細な説明) ...
    +//
    +package build
    

本質的には、build.goからdoc.goへのドキュメンテーションコメントの移動のみが行われ、機能的なコードの変更は一切ありません。

コアとなるコードの解説

このコミットで移動された「コアとなるコード」とは、go/buildパッケージのドキュメンテーションコメントそのものです。このコメントは、Go言語におけるパッケージのビルドと管理に関する非常に重要な概念である「Go Path」と「Build Constraints」について詳細に説明しています。

Go Path (GOPATH) の説明

移動されたドキュメントの最初の部分は、Go Path(GOPATH)について解説しています。GOPATHは、Goのソースコード、コンパイル済みパッケージ、および実行可能バイナリを格納するためのワークスペースのルートディレクトリを指定する環境変数です。

  • 目的: 標準のGoツリー(Goのインストールディレクトリ)で見つからないインポートを解決するために参照されます。
  • 設定: 環境変数GOPATHで指定され、Unix系ではコロン区切り、Windowsではセミコロン区切りのパスリストとして解釈されます。
  • 構造: GOPATH内の各ディレクトリは、以下の規定された構造を持つ必要があります。
    • src/: ソースコードを格納します。src以下のパスがインポートパスや実行可能ファイル名に影響します。
    • pkg/: コンパイル済みパッケージオブジェクトを格納します。pkg/GOOS_GOARCHのように、OSとアーキテクチャごとにサブディレクトリが作成されます。
    • bin/: コンパイル済みコマンド(実行可能ファイル)を格納します。通常、ソースディレクトリの最終要素がコマンド名となります。
  • : ドキュメントには、/home/user/gocodeをGOPATHとした場合の典型的なディレクトリレイアウトが示されています。

Build Constraints (ビルド制約) の説明

ドキュメントの後半は、Goのビルド制約(+buildタグ)について解説しています。これは、特定の条件に基づいてソースファイルをビルドに含めるかどうかを制御するメカニズムです。

  • 形式: ファイルの先頭近くに// +buildディレクティブで始まる行コメントとして記述されます。空白行や他の行コメントのみが先行できます。
  • 評価ロジック:
    • 制約はスペース区切りのオプションのORとして評価されます。
    • 各オプションはカンマ区切りの項目のANDとして評価されます。
    • 各項目は英数字の単語、または!を前置したその否定です。
    • 例: // +build linux,386 darwin,!cgo(linux AND 386) OR (darwin AND (NOT cgo)) に相当します。
  • 満たされる単語: ビルド時に以下の単語が満たされます。
    • ターゲットOS (runtime.GOOS)
    • ターゲットアーキテクチャ (runtime.GOARCH)
    • cgo (Cgoが有効な場合)
    • ctxt.BuildTagsで指定された追加の単語
  • 暗黙のビルド制約: ファイル名が*_GOOS*_GOARCH*_GOOS_GOARCHの形式にマッチする場合、そのOSやアーキテクチャを要求する暗黙のビルド制約が適用されます。
  • ファイルの除外: // +build ignoreを使用すると、ファイルをビルドから除外できます。
  • 条件付きビルドの例: Cgoを使用し、LinuxとOS Xでのみビルドする例や、Windows専用ファイル、32-bit x86専用ファイルの命名規則などが示されています。

これらのドキュメンテーションは、Go開発者がGoのワークスペースを適切に設定し、クロスプラットフォーム対応や特定の環境に特化したコードを記述する上で不可欠な情報を提供しています。このコミットは、この重要なドキュメントの可読性やツールチェインとの互換性を損なうことなく、その配置を最適化したものです。

関連リンク

参考にした情報源リンク