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[インデックス 12385] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリnetパッケージ内のmac.goファイルにおいて、bytesおよびfmtパッケージへの依存関係を削除し、MACアドレスの文字列変換処理を最適化することを目的としています。また、関連するテストファイルmac_test.goには、MACアドレスのパースと文字列化の正確性を保証するための追加テストが導入されています。

コミット

  • コミットハッシュ: 82a9294d1bdc230b0b251c5c2505dacefe0b901f
  • 作者: Brad Fitzpatrick bradfitz@golang.org
  • コミット日時: 2012年3月5日 月曜日 11:43:28 -0800

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/82a9294d1bdc230b0b251c5c2505dacefe0b901f

元コミット内容

net: don't import bytes or fmt in mac.go

Also add some more MAC tests.

R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5728065

変更の背景

この変更の主な背景には、Go言語の標準ライブラリにおける依存関係の削減とパフォーマンスの最適化があります。

  1. 依存関係の削減: netパッケージはGoの基本的なネットワーク機能を提供する重要なパッケージです。このような低レベルで汎用的なパッケージは、可能な限り他のパッケージへの依存を少なくすることが望ましいとされます。bytesfmtといったパッケージは非常に便利ですが、特定の機能(この場合はMACアドレスの文字列変換)のためだけにインポートすることは、コンパイル時間やバイナリサイズに影響を与える可能性があります。特にfmtパッケージは、その汎用性の高さゆえに内部的にリフレクションを使用するなど、比較的に重い処理を伴うことがあります。
  2. パフォーマンスの最適化: HardwareAddr.String()メソッドは、MACアドレスをXX:XX:XX:XX:XX:XX形式の文字列に変換する役割を担っています。元の実装ではbytes.Bufferfmt.Fprintfを使用していましたが、これらは汎用的な文字列構築やフォーマットに適している一方で、非常に単純で予測可能なフォーマット(バイト値を2桁の16進数に変換)の場合にはオーバーヘッドが生じることがあります。特に、fmt.Fprintfはフォーマット文字列のパースや型に応じた処理を行うため、単純な16進数変換には過剰な機能です。手動でバイトスライスを操作し、16進数変換を行うことで、アロケーションの回数を減らし、CPUサイクルを節約し、ガベージコレクション(GC)の負荷を軽減することが期待されます。
  3. テストの強化: コードの変更、特にパフォーマンス最適化を目的とした変更は、既存の機能が正しく動作し続けることを保証するために、堅牢なテストによって裏付けられる必要があります。このコミットでは、MACアドレスのパースと文字列化が正しく「ラウンドトリップ」できるかを確認するテストが追加されており、変換処理の正確性がより確実に保証されるようになっています。

前提知識の解説

Go言語のnetパッケージ

netパッケージは、Go言語の標準ライブラリの一部であり、ネットワークI/Oプリミティブを提供します。TCP/IP、UDP、IP、Unixドメインソケットなどのネットワークプロトコルを扱うためのインターフェースや関数が含まれています。HardwareAddr型は、このパッケージ内でMACアドレスなどの物理ハードウェアアドレスを表すために使用されます。

HardwareAddr型とMACアドレス

HardwareAddr[]byte(バイトスライス)のエイリアスであり、MACアドレス(Media Access Control address)などのハードウェアアドレスを表現します。MACアドレスは、ネットワーク上のデバイスを一意に識別するための物理アドレスで、通常は6バイト(48ビット)または8バイト(64ビット)の16進数で表現され、コロンやハイフンで区切られます(例: 00:1A:2B:3C:4D:5E)。

fmtパッケージ

fmtパッケージは、Go言語におけるフォーマットI/Oを実装します。C言語のprintfscanfに似た機能を提供し、様々な型の値を文字列に変換したり、文字列から値をパースしたりすることができます。fmt.Fprintfは、指定されたio.Writerにフォーマットされた文字列を書き込む関数です。非常に柔軟ですが、その分、内部的な処理が複雑になることがあります。

bytesパッケージとbytes.Buffer

bytesパッケージは、バイトスライスを操作するためのユーティリティ関数を提供します。bytes.Bufferは、可変長のバイトバッファを実装した型で、効率的にバイトスライスを構築するために使用されます。特に、複数の小さなバイトスライスを結合して大きなバイトスライスを生成する場合に、余分なアロケーションを避けることができます。しかし、非常に単純な文字列構築の場合には、make([]byte, ...)で初期容量を確保し、appendで直接バイトを追加する方がオーバーヘッドが少ない場合があります。

Goにおける文字列構築のパフォーマンス

Go言語では、文字列はイミュータブル(不変)です。そのため、文字列を結合したり変更したりするたびに、新しい文字列が生成され、メモリがアロケーションされます。このアロケーションとガベージコレクションのオーバーヘッドは、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。

  • +演算子による結合: 最も単純な方法ですが、多数の文字列を結合すると非効率的です。
  • fmt.Sprintf: 汎用的なフォーマットに便利ですが、内部処理が重い場合があります。
  • bytes.Buffer: 効率的なバイトスライス構築に適しており、最終的にString()メソッドで文字列に変換します。
  • strings.Builder: Go 1.10で導入された、bytes.Bufferと同様に効率的な文字列構築のための型。
  • make([]byte, ...)append: 最も低レベルで、アロケーションを最小限に抑えることができる方法です。特に、最終的な文字列の長さが事前に予測できる場合に有効です。

このコミットでは、bytes.Bufferfmt.Fprintfの組み合わせから、make([]byte, ...)append、そして手動での16進数変換に切り替えることで、より低レベルでの最適化を図っています。

テストにおける「ラウンドトリップ」の概念

ソフトウェアテストにおいて「ラウンドトリップテスト」とは、あるデータが特定の変換プロセス(例: シリアライズ、エンコード)を経て、その後逆の変換プロセス(例: デシリアライズ、デコード)を経たときに、元のデータと完全に一致するかどうかを確認するテスト手法です。このコミットでは、MACアドレスのバイト表現を文字列に変換し(String())、その文字列を再度バイト表現にパースし(ParseMAC)、元のバイト表現と一致するかを確認することで、String()ParseMACの両方の正確性を保証しています。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、主にsrc/pkg/net/mac.goにおけるHardwareAddr.String()メソッドの実装変更と、src/pkg/net/mac_test.goにおけるテストの追加に集約されます。

src/pkg/net/mac.goの変更

  1. 不要なインポートの削除:
    • "bytes"パッケージと"fmt"パッケージのインポートが削除されました。これにより、netパッケージの依存関係が減少し、より軽量になります。
  2. hexDigit定数の導入:
    • const hexDigit = "0123456789abcdef"という文字列定数が追加されました。これは、バイト値を16進数文字に変換するためのルックアップテーブルとして機能します。例えば、バイト値の上位4ビット(b >> 4)と下位4ビット(b & 0xF)をそれぞれこの文字列のインデックスとして使用することで、対応する16進数文字を直接取得できます。
  3. HardwareAddr.String()メソッドの再実装:
    • バッファの初期化:
      • 変更前: var buf bytes.Buffer
      • 変更後: buf := make([]byte, 0, len(a)*3-1) bytes.Bufferの代わりに、make([]byte, 0, capacity)を使用してバイトスライスを直接作成しています。len(a)*3-1という容量は、MACアドレスのバイト数(len(a))に対して、各バイトが2桁の16進数(2文字)とコロン(1文字)で表現されることを考慮したものです。例えば、6バイトのMACアドレスの場合、6*3-1 = 17バイト(XX:XX:XX:XX:XX:XXで17文字)が必要となります。これにより、事前に必要なメモリを確保し、append操作における再アロケーションの回数を最小限に抑えることができます。
    • コロンの追加:
      • 変更前: buf.WriteByte(':')
      • 変更後: buf = append(buf, ':') bytes.Bufferのメソッド呼び出しから、バイトスライスへの直接append操作に切り替わっています。
    • 16進数変換ロジックの変更:
      • 変更前: fmt.Fprintf(&buf, "%02x", b)
      • 変更後:
        buf = append(buf, hexDigit[b>>4])
        buf = append(buf, hexDigit[b&0xF])
        
      fmt.Fprintfによる汎用的なフォーマット処理の代わりに、hexDigit定数を利用した手動での16進数変換が行われています。
      • b>>4: バイト値bを右に4ビットシフトすることで、上位4ビット(0-15)を取得します。
      • b&0xF: バイト値b0xF(バイナリで00001111)のビットANDを取ることで、下位4ビット(0-15)を取得します。 これらの値はそれぞれhexDigit文字列のインデックスとして使用され、対応する16進数文字('0''9', 'a''f')が取得され、bufappendされます。この方法は、fmt.Fprintfが持つフォーマット文字列のパースやリフレクションなどのオーバーヘッドを完全に排除し、非常に高速な16進数変換を実現します。
    • 最終的な文字列への変換:
      • 変更前: return buf.String()
      • 変更後: return string(buf) bytes.BufferString()メソッドの代わりに、構築されたバイトスライスbufを直接string()にキャストして文字列に変換しています。これは、Go言語においてバイトスライスから文字列への変換が効率的に行われることを利用しています。

src/pkg/net/mac_test.goの変更

  1. テスト関数名の変更:
    • TestParseMACからTestMACParseStringに名前が変更されました。これは、テストの対象がMACアドレスのパースだけでなく、文字列化(String()メソッド)も含むことをより明確に示しています。
  2. ラウンドトリップテストの追加:
    • 既存のParseMACのテストループ内に、tt.err == ""(つまりパースが成功した場合)という条件で、追加のテストロジックが導入されました。
    • s := out.String(): パースされたHardwareAddrオブジェクトoutを文字列に変換します。
    • out2, err := ParseMAC(s): その文字列sを再度ParseMACでパースします。
    • if !reflect.DeepEqual(out2, out): 再度パースされたout2が元のoutと完全に一致するかどうかをreflect.DeepEqualで比較します。これにより、String()メソッドが正しくMACアドレスを文字列化し、その文字列がParseMACによって元のバイト表現に正確に戻せるか(ラウンドトリップできるか)が検証されます。このテストは、String()メソッドの正確性と、ParseMACとの相互運用性を保証する上で非常に重要です。

これらの変更により、netパッケージはより自己完結的になり、HardwareAddr.String()メソッドはより効率的でパフォーマンスの高い実装に改善されました。同時に、テストの強化によって、これらの変更が機能の正確性を損なわないことが保証されています。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/net/mac.go

--- a/src/pkg/net/mac.go
+++ b/src/pkg/net/mac.go
@@ -6,24 +6,26 @@
 
 package net
 
-import (
-	"bytes"
-	"errors"
-	"fmt"
-)
+import "errors"
+
+const hexDigit = "0123456789abcdef"
 
 // A HardwareAddr represents a physical hardware address.
 type HardwareAddr []byte
 
 func (a HardwareAddr) String() string {
-	var buf bytes.Buffer
+	if len(a) == 0 {
+		return ""
+	}
+	buf := make([]byte, 0, len(a)*3-1)
 	for i, b := range a {
 		if i > 0 {
-			buf.WriteByte(':')
+			buf = append(buf, ':')
 		}
-		fmt.Fprintf(&buf, "%02x", b)
+		buf = append(buf, hexDigit[b>>4])
+		buf = append(buf, hexDigit[b&0xF])
 	}
-	return buf.String()
+	return string(buf)
 }
 
 // ParseMAC parses s as an IEEE 802 MAC-48, EUI-48, or EUI-64 using one of the

src/pkg/net/mac_test.go

--- a/src/pkg/net/mac_test.go
+++ b/src/pkg/net/mac_test.go
@@ -43,12 +43,24 @@ func match(err error, s string) bool {
 	return err != nil && strings.Contains(err.Error(), s)
 }
 
-func TestParseMAC(t *testing.T) {\n-\tfor _, tt := range mactests {\n+func TestMACParseString(t *testing.T) {
+\tfor i, tt := range mactests {
 		out, err := ParseMAC(tt.in)
 		if !reflect.DeepEqual(out, tt.out) || !match(err, tt.err) {
 			t.Errorf("ParseMAC(%q) = %v, %v, want %v, %v", tt.in, out, err, tt.out,
 				tt.err)
 		}
+		if tt.err == "" {
+			// Verify that serialization works too, and that it round-trips.
+			s := out.String()
+			out2, err := ParseMAC(s)
+			if err != nil {
+				t.Errorf("%d. ParseMAC(%q) = %v", i, s, err)
+				continue
+			}
+			if !reflect.DeepEqual(out2, out) {
+				t.Errorf("%d. ParseMAC(%q) = %v, want %v", i, s, out2, out)
+			}
+		}
 	}
 }

コアとなるコードの解説

src/pkg/net/mac.go

  1. import文の変更:
    • import ("bytes", "errors", "fmt") から import "errors" へと変更されました。これにより、HardwareAddr.String()メソッドがbytesfmtパッケージに依存しなくなり、netパッケージの独立性が高まりました。
  2. const hexDigit = "0123456789abcdef"の追加:
    • この定数は、0から15までの数値を対応する16進数文字に変換するためのルックアップテーブルとして機能します。これにより、fmtパッケージの%02xフォーマット指定子を使用せずに、バイト値を効率的に16進数文字列に変換できるようになります。
  3. HardwareAddr.String()メソッドの実装変更:
    • 空のMACアドレスのハンドリング: if len(a) == 0 { return "" } が追加され、空のHardwareAddrが渡された場合に空文字列を返すようになりました。これは、以前の実装ではbytes.Bufferが空のままString()を呼び出すと空文字列を返していた動作を明示的に再現しています。
    • バッファの初期化: var buf bytes.Bufferbuf := make([]byte, 0, len(a)*3-1) に変更されました。これは、bytes.Bufferの代わりに、最終的な文字列の長さを予測して適切な容量を持つバイトスライスを直接初期化することで、メモリのアロケーション回数を減らし、パフォーマンスを向上させるための最適化です。
    • コロンの追加: buf.WriteByte(':')buf = append(buf, ':') に変更されました。これは、bytes.Bufferのメソッド呼び出しから、Goの組み込み関数appendによるバイトスライスへの直接追加に切り替えることで、オーバーヘッドを削減しています。
    • 16進数変換ロジック: fmt.Fprintf(&buf, "%02x", b)buf = append(buf, hexDigit[b>>4]); buf = append(buf, hexDigit[b&0xF]) に変更されました。これはこのコミットの最も重要な変更点の一つです。
      • b>>4: バイトbの上位4ビットを取得します。例えば、0xAB(10進数で171)の場合、0xA(10進数で10)が得られます。
      • b&0xF: バイトbの下位4ビットを取得します。例えば、0xABの場合、0xB(10進数で11)が得られます。
      • これらの値はhexDigit文字列のインデックスとして使用され、対応する16進数文字(例: hexDigit[10]'a'hexDigit[11]'b')が取得され、バイトスライスbufに追加されます。この手動での変換は、fmt.Fprintfが持つフォーマット文字列の解析や型に応じた処理といった汎用的なオーバーヘッドを完全に排除し、非常に高速なバイトから16進数文字への変換を実現します。
    • 文字列への変換: return buf.String()return string(buf) に変更されました。これは、構築されたバイトスライスを直接文字列にキャストすることで、bytes.BufferString()メソッドを呼び出すオーバーヘッドを回避しています。Goでは、バイトスライスから文字列への変換は効率的に行われます。

src/pkg/net/mac_test.go

  1. テスト関数名の変更: TestParseMAC から TestMACParseString へと変更されました。これは、このテストがMACアドレスのパース(ParseMAC)だけでなく、文字列化(HardwareAddr.String())の機能も検証していることをより正確に反映しています。
  2. ラウンドトリップテストの追加:
    • if tt.err == "" ブロックが追加されました。これは、ParseMACがエラーなく成功した場合にのみ、追加のテストを実行することを意味します。
    • s := out.String(): 正常にパースされたHardwareAddrオブジェクトoutを、新しく変更されたString()メソッドを使って文字列に変換します。
    • out2, err := ParseMAC(s): その文字列sを再度ParseMAC関数でパースし、元のHardwareAddrに戻せるか試みます。
    • if err != nil { ... }: 再パース中にエラーが発生した場合、テストは失敗します。
    • if !reflect.DeepEqual(out2, out) { ... }: 最も重要な部分で、再パースされたout2が、元のoutとバイトレベルで完全に一致するかどうかをreflect.DeepEqualを使って検証します。このチェックにより、String()メソッドがMACアドレスを正確に文字列化し、その文字列がParseMACによって元のバイト表現に正確にデコードできることが保証されます。これは、変換処理の正確性と堅牢性を高めるための重要なテストです。

これらの変更は、netパッケージの内部実装をより効率的かつ自己完結的にするとともに、その正確性を厳密なテストによって保証しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • 特になし。この解説は、提供されたコミット情報とGo言語の標準ライブラリに関する一般的な知識に基づいて作成されました。