[インデックス 12390] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである runtime/debug
パッケージ内の stack_test.go
ファイルに対する変更です。runtime/debug
パッケージは、Goプログラムの実行時デバッグ情報、特にスタックトレースの取得と操作に関する機能を提供します。stack_test.go
は、このパッケージのスタックトレース関連機能が正しく動作するかを検証するためのテストファイルです。
コミット
このコミットは、runtime/debug
パッケージのテストにおいて、ソースコードが見つからない場合にテストが失敗する問題を修正します。具体的には、GOROOT_FINAL
環境変数が設定されているような、Goのソースコードが通常の場所(GOROOT
)にない環境でテストを実行した際に発生する問題を解決することを目的としています。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/c0a842e57f38b632ae492174519851036979c988
元コミット内容
runtime/debug: fix test when source cannot be found
This happens with GOROOT_FINAL=/somewhere/else
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5727069
変更の背景
Go言語のビルドシステムやテスト環境では、Goのソースコードの場所を示す GOROOT
環境変数が重要です。通常、Goのインストールディレクトリが GOROOT
となります。しかし、特定のビルドシナリオやデプロイ環境では、最終的なGoのインストールパスを GOROOT_FINAL
環境変数で指定することがあります。例えば、Goのソースコードをコンパイルして、そのバイナリを別の場所にデプロイする場合などがこれに該当します。
runtime/debug
パッケージの Stack()
関数は、現在のゴルーチンのスタックトレースを文字列として返します。このスタックトレースには、各フレームのファイル名と行番号が含まれます。通常、これらのファイルパスは GOROOT
を基準とした相対パス、または絶対パスとして表示されます。
問題は、GOROOT_FINAL
が設定され、実際のソースコードが GOROOT
で指定された場所ではなく、GOROOT_FINAL
で指定された別の場所に存在する場合に発生しました。この状況下では、runtime/debug
のテスト (stack_test.go
) がスタックトレースの出力に含まれるソースファイルパスを検証する際に、期待されるパスと実際のパスが一致せず、テストが失敗していました。これは、テストがソースコードの存在を前提としていたためです。
このコミットは、このような特殊な環境(GOROOT_FINAL
が設定されている環境)でも runtime/debug
のテストが正しく動作するように、テストの検証ロジックをより堅牢にすることを目的としています。
前提知識の解説
Go言語の runtime/debug
パッケージ
runtime/debug
パッケージは、Goプログラムの実行時デバッグ情報にアクセスするための機能を提供します。主な機能には以下のようなものがあります。
Stack()
: 現在のゴルーチンのスタックトレースをバイトスライスとして返します。このスタックトレースは、関数呼び出しの履歴、ファイル名、行番号など、デバッグに役立つ情報を含みます。PrintStack()
:Stack()
と同様の情報を標準エラー出力に直接出力します。SetGCPercent()
: ガベージコレクションのトリガーとなるヒープサイズの割合を設定します。FreeOSMemory()
: OSに未使用のメモリを解放するようヒントを与えます。
このコミットでは、特に Stack()
関数が生成するスタックトレースのフォーマットと、それがテストでどのように検証されるかが重要になります。スタックトレースの各行は通常、ファイルパス:行番号
の形式で始まり、その後にタブでインデントされた関数名とコードのコンテキストが続きます。
Go言語のビルドと GOROOT
/ GOROOT_FINAL
GOROOT
: Goの標準ライブラリのソースコードとツールがインストールされているディレクトリのパスを指します。Goのコンパイル時や実行時に、このパスを基準にライブラリやツールが検索されます。GOPATH
: ユーザーが作成したGoのプロジェクトのワークスペースを指します。Go 1.11以降のGo Modulesの導入により、GOPATH
の重要性は低下しましたが、古いプロジェクトや特定のビルドシステムでは依然として使用されます。GOROOT_FINAL
: これは、Goのビルドプロセスにおいて、最終的にGoのインストール先となるパスを指定するために使用される環境変数です。例えば、Goのソースコードをコンパイルして、その結果を/usr/local/go
ではなく/opt/go
にデプロイしたい場合などに設定されます。GOROOT_FINAL
が設定されている場合、コンパイルされたバイナリは、実行時にGOROOT_FINAL
で指定されたパスをGOROOT
として参照するように内部的に設定されることがあります。これにより、Goのツールやライブラリが正しい場所を見つけられるようになります。
このコミットの背景にある問題は、テストが GOROOT
にソースコードが存在することを前提としていたのに対し、GOROOT_FINAL
が設定された環境では、実際のソースコードの場所が異なり、テストが期待するファイルパスと実際のファイルパスが一致しなかったことに起因します。
技術的詳細
変更の中心は、TestStack
関数内のスタックトレースの検証ロジックです。以前のコードでは、check
関数を直接呼び出して、スタックトレースの各行が特定のファイルパスと関数名を含むことを厳密に検証していました。
// 変更前
check(t, lines[0], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
check(t, lines[1], "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
// ...
このアプローチの問題点は、GOROOT_FINAL
のような環境でソースコードが見つからない場合、スタックトレースの行にファイルパスは含まれるものの、その次の行に続くはずの「タブでインデントされたコードのコンテキスト」(例: \t(*T).ptrmethod: return Stack()
)が含まれない可能性があることです。これは、デバッガやスタックトレース生成メカニズムがソースコードにアクセスできない場合に発生し得ます。
新しいコードでは、frame
というヘルパー関数が導入されました。この frame
関数は、スタックトレースの行を検証する際に、より柔軟なアプローチを取ります。
// 変更後
n := 0
frame := func(line, code string) {
check(t, lines[n], line) // まずファイルパスを含む行をチェック
n++
// The source might not be available while running the test.
if strings.HasPrefix(lines[n], "\t") { // 次の行がタブで始まる(コードのコンテキストがある)場合のみチェック
check(t, lines[n], code)
n++
}
}
// ...
frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
// ...
frame
関数の内部では、まず check(t, lines[n], line)
でファイルパスを含む行を検証します。これは常に期待される動作です。その後、n
をインクリメントし、次の行 (lines[n]
) がタブ (\t
) で始まるかどうかを strings.HasPrefix
を使って確認します。
- もし次の行がタブで始まる場合、それはコードのコンテキスト(関数名やコードスニペット)が含まれていることを意味します。この場合、
check(t, lines[n], code)
を呼び出して、そのコードのコンテキストも検証します。 - もし次の行がタブで始まらない場合(つまり、ソースコードが見つからず、コードのコンテキストがスタックトレースに含まれていない場合)、その行の検証はスキップされます。
この変更により、テストはソースコードの有無に依存せず、スタックトレースの基本的な構造(ファイルパス)を検証しつつ、コードのコンテキストが存在する場合にのみその内容を検証するようになりました。これにより、GOROOT_FINAL
のような環境でもテストが安定して実行されるようになります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
@@ -39,13 +39,20 @@ func TestStack(t *testing.T) {
if len(lines) <= 6 {
t.Fatal("too few lines")
}
- check(t, lines[0], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
- check(t, lines[1], "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
- check(t, lines[2], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
- check(t, lines[3], "\tT.method: return t.ptrmethod()")
- check(t, lines[4], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
- check(t, lines[5], "\tTestStack: b := T(0).method()")
- check(t, lines[6], "src/pkg/testing/testing.go")
+ n := 0
+ frame := func(line, code string) {
+ check(t, lines[n], line)
+ n++
+ // The source might not be available while running the test.
+ if strings.HasPrefix(lines[n], "\t") {
+ check(t, lines[n], code)
+ n++
+ }
+ }
+ frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
+ frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\tT.method: return t.ptrmethod()")
+ frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\tTestStack: b := T(0).method()")
+ frame("src/pkg/testing/testing.go", "")
}
func check(t *testing.T, line, has string) {
コアとなるコードの解説
変更の核心は、TestStack
関数内に定義された匿名関数 frame
です。
n := 0 // スタックトレースの行を追跡するためのインデックス
frame := func(line, code string) {
check(t, lines[n], line) // 現在の行が期待されるファイルパスを含むかチェック
n++ // 次の行へ進む
// The source might not be available while running the test.
if strings.HasPrefix(lines[n], "\t") { // 次の行がタブで始まる(コードのコンテキストがある)場合
check(t, lines[n], code) // その行が期待されるコードのコンテキストを含むかチェック
n++ // さらに次の行へ進む
}
}
n := 0
:lines
スライス(スタックトレースの各行を格納)の現在のインデックスを追跡するための変数です。frame := func(line, code string)
: この匿名関数は、スタックトレースの1つのフレーム(ファイルパスの行と、それに続く可能性のあるコードのコンテキストの行)を検証するためのロジックをカプセル化しています。line
引数: 期待されるファイルパスの文字列(例:"src/pkg/runtime/debug/stack_test.go"
)。code
引数: 期待されるコードのコンテキストの文字列(例:"\t(*T).ptrmethod: return Stack()"
)。
check(t, lines[n], line)
: まず、lines
の現在のn
番目の行が、期待されるファイルパスline
を含んでいるかをcheck
ヘルパー関数を使って検証します。これはスタックトレースのファイルパス部分の検証です。n++
: ファイルパスの行を処理した後、インデックスn
をインクリメントして次の行(コードのコンテキストの行である可能性がある)に移動します。if strings.HasPrefix(lines[n], "\t")
: ここが重要な変更点です。strings.HasPrefix
関数を使って、現在のlines[n]
の行がタブ文字 (\t
) で始まっているかどうかを確認します。- スタックトレースにおいて、ファイルパスの行の次にタブでインデントされた行がある場合、それは通常、そのフレームの関数名やコードスニペットなどの詳細なコンテキストを示します。
- もしソースコードが見つからない環境では、この詳細なコンテキストの行がスタックトレースに含まれないことがあります。
check(t, lines[n], code)
:lines[n]
がタブで始まっている場合(つまり、コードのコンテキストが存在する場合)にのみ、その行が期待されるcode
文字列を含んでいるかを検証します。n++
: コードのコンテキストの行を処理した後、さらにインデックスn
をインクリメントして次のフレームの検証に備えます。
この frame
関数を使用することで、テストはスタックトレースのファイルパス部分の検証を必須としつつ、コードのコンテキスト部分の検証は、それが実際にスタックトレースに含まれている場合にのみ行うという柔軟性を持たせることができました。これにより、GOROOT_FINAL
のような環境でソースコードが見つからない場合でも、テストが不必要に失敗することを防ぎます。
関連リンク
- Go CL 5727069: https://golang.org/cl/5727069
参考にした情報源リンク
- Go言語
runtime/debug
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/runtime/debug - Go言語の環境変数 (
GOROOT
,GOPATH
など) に関する情報: https://go.dev/doc/code (Go Modules導入後の情報も含む) GOROOT_FINAL
に関するGoのIssueや議論 (具体的なURLはコミット当時の情報にアクセスしづらいため、一般的なGoのビルドシステムに関する情報源を参照)- Goのビルドシステムに関する一般的な情報源: https://go.dev/doc/install/source
- Goの環境変数に関する一般的な情報源: https://go.dev/doc/installI have retrieved the commit information and formulated a detailed explanation based on the provided structure. I have also incorporated explanations for
GOROOT_FINAL
and theruntime/debug
package.
Now, I will output the generated explanation to standard output as requested.
# [インデックス 12390] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである `runtime/debug` パッケージ内の `stack_test.go` ファイルに対する変更です。`runtime/debug` パッケージは、Goプログラムの実行時デバッグ情報、特にスタックトレースの取得と操作に関する機能を提供します。`stack_test.go` は、このパッケージのスタックトレース関連機能が正しく動作するかを検証するためのテストファイルです。
## コミット
このコミットは、`runtime/debug` パッケージのテストにおいて、ソースコードが見つからない場合にテストが失敗する問題を修正します。具体的には、`GOROOT_FINAL` 環境変数が設定されているような、Goのソースコードが通常の場所(`GOROOT`)にない環境でテストを実行した際に発生する問題を解決することを目的としています。
## GitHub上でのコミットページへのリンク
[https://github.com/golang/go/commit/c0a842e57f38b632ae492174519851036979c988](https://github.com/golang/go/commit/c0a842e57f38b632ae492174519851036979c988)
## 元コミット内容
runtime/debug: fix test when source cannot be found
This happens with GOROOT_FINAL=/somewhere/else
R=golang-dev, bradfitz CC=golang-dev https://golang.org/cl/5727069
## 変更の背景
Go言語のビルドシステムやテスト環境では、Goのソースコードの場所を示す `GOROOT` 環境変数が重要です。通常、Goのインストールディレクトリが `GOROOT` となります。しかし、特定のビルドシナリオやデプロイ環境では、最終的なGoのインストールパスを `GOROOT_FINAL` 環境変数で指定することがあります。例えば、Goのソースコードをコンパイルして、そのバイナリを別の場所にデプロイする場合などがこれに該当します。
`runtime/debug` パッケージの `Stack()` 関数は、現在のゴルーチンのスタックトレースを文字列として返します。このスタックトレースには、各フレームのファイル名と行番号が含まれます。通常、これらのファイルパスは `GOROOT` を基準とした相対パス、または絶対パスとして表示されます。
問題は、`GOROOT_FINAL` が設定され、実際のソースコードが `GOROOT` で指定された場所ではなく、`GOROOT_FINAL` で指定された別の場所に存在する場合に発生しました。この状況下では、`runtime/debug` のテスト (`stack_test.go`) がスタックトレースの出力に含まれるソースファイルパスを検証する際に、期待されるパスと実際のパスが一致せず、テストが失敗していました。これは、テストがソースコードの存在を前提としていたためです。
このコミットは、このような特殊な環境(`GOROOT_FINAL` が設定されている環境)でも `runtime/debug` のテストが正しく動作するように、テストの検証ロジックをより堅牢にすることを目的としています。
## 前提知識の解説
### Go言語の `runtime/debug` パッケージ
`runtime/debug` パッケージは、Goプログラムの実行時デバッグ情報にアクセスするための機能を提供します。主な機能には以下のようなものがあります。
* **`Stack()`**: 現在のゴルーチンのスタックトレースをバイトスライスとして返します。このスタックトレースは、関数呼び出しの履歴、ファイル名、行番号など、デバッグに役立つ情報を含みます。
* **`PrintStack()`**: `Stack()` と同様の情報を標準エラー出力に直接出力します。
* **`SetGCPercent()`**: ガベージコレクションのトリガーとなるヒープサイズの割合を設定します。
* **`FreeOSMemory()`**: OSに未使用のメモリを解放するようヒントを与えます。
このコミットでは、特に `Stack()` 関数が生成するスタックトレースのフォーマットと、それがテストでどのように検証されるかが重要になります。スタックトレースの各行は通常、`ファイルパス:行番号` の形式で始まり、その後にタブでインデントされた関数名とコードのコンテキストが続きます。
### Go言語のビルドと `GOROOT` / `GOROOT_FINAL`
* **`GOROOT`**: Goの標準ライブラリのソースコードとツールがインストールされているディレクトリのパスを指します。Goのコンパイル時や実行時に、このパスを基準にライブラリやツールが検索されます。
* **`GOPATH`**: ユーザーが作成したGoのプロジェクトのワークスペースを指します。Go 1.11以降のGo Modulesの導入により、`GOPATH` の重要性は低下しましたが、古いプロジェクトや特定のビルドシステムでは依然として使用されます。
* **`GOROOT_FINAL`**: これは、Goのビルドプロセスにおいて、最終的にGoのインストール先となるパスを指定するために使用される環境変数です。例えば、Goのソースコードをコンパイルして、その結果を `/usr/local/go` ではなく `/opt/go` にデプロイしたい場合などに設定されます。`GOROOT_FINAL` が設定されている場合、コンパイルされたバイナリは、実行時に `GOROOT_FINAL` で指定されたパスを `GOROOT` として参照するように内部的に設定されることがあります。これにより、Goのツールやライブラリが正しい場所を見つけられるようになります。
このコミットの背景にある問題は、テストが `GOROOT` にソースコードが存在することを前提としていたのに対し、`GOROOT_FINAL` が設定された環境では、実際のソースコードの場所が異なり、テストが期待するファイルパスと実際のファイルパスが一致しなかったことに起因します。
## 技術的詳細
変更の中心は、`TestStack` 関数内のスタックトレースの検証ロジックです。以前のコードでは、`check` 関数を直接呼び出して、スタックトレースの各行が特定のファイルパスと関数名を含むことを厳密に検証していました。
```go
// 変更前
check(t, lines[0], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
check(t, lines[1], "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
// ...
このアプローチの問題点は、GOROOT_FINAL
のような環境でソースコードが見つからない場合、スタックトレースの行にファイルパスは含まれるものの、その次の行に続くはずの「タブでインデントされたコードのコンテキスト」(例: \t(*T).ptrmethod: return Stack()
)が含まれない可能性があることです。これは、デバッガやスタックトレース生成メカニズムがソースコードにアクセスできない場合に発生し得ます。
新しいコードでは、frame
というヘルパー関数が導入されました。この frame
関数は、スタックトレースの行を検証する際に、より柔軟なアプローチを取ります。
// 変更後
n := 0
frame := func(line, code string) {
check(t, lines[n], line) // まずファイルパスを含む行をチェック
n++
// The source might not be available while running the test.
if strings.HasPrefix(lines[n], "\t") { // 次の行がタブで始まる(コードのコンテキストがある)場合のみチェック
check(t, lines[n], code)
n++
}
}
// ...
frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
// ...
frame
関数の内部では、まず check(t, lines[n], line)
でファイルパスを含む行を検証します。これは常に期待される動作です。その後、n
をインクリメントし、次の行 (lines[n]
) がタブ (\t
) で始まるかどうかを strings.HasPrefix
を使って確認します。
- もし次の行がタブで始まる場合、それはコードのコンテキスト(関数名やコードスニペット)が含まれていることを意味します。この場合、
check(t, lines[n], code)
を呼び出して、そのコードのコンテキストも検証します。 - もし次の行がタブで始まらない場合(つまり、ソースコードが見つからず、コードのコンテキストがスタックトレースに含まれていない場合)、その行の検証はスキップされます。
この変更により、テストはソースコードの有無に依存せず、スタックトレースの基本的な構造(ファイルパス)を検証しつつ、コードのコンテキストが存在する場合にのみその内容を検証するようになりました。これにより、GOROOT_FINAL
のような環境でもテストが安定して実行されるようになります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
@@ -39,13 +39,20 @@ func TestStack(t *testing.T) {
if len(lines) <= 6 {
t.Fatal("too few lines")
}
- check(t, lines[0], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
- check(t, lines[1], "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
- check(t, lines[2], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
- check(t, lines[3], "\tT.method: return t.ptrmethod()")
- check(t, lines[4], "src/pkg/runtime/debug/stack_test.go")
- check(t, lines[5], "\tTestStack: b := T(0).method()")
- check(t, lines[6], "src/pkg/testing/testing.go")
+ n := 0
+ frame := func(line, code string) {
+ check(t, lines[n], line)
+ n++
+ // The source might not be available while running the test.
+ if strings.HasPrefix(lines[n], "\t") {
+ check(t, lines[n], code)
+ n++
+ }
+ }
+ frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\t(*T).ptrmethod: return Stack()")
+ frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\tT.method: return t.ptrmethod()")
+ frame("src/pkg/runtime/debug/stack_test.go", "\tTestStack: b := T(0).method()")
+ frame("src/pkg/testing/testing.go", "")
}
func check(t *testing.T, line, has string) {
コアとなるコードの解説
変更の核心は、TestStack
関数内に定義された匿名関数 frame
です。
n := 0 // スタックトレースの行を追跡するためのインデックス
frame := func(line, code string) {
check(t, lines[n], line) // 現在の行が期待されるファイルパスを含むかチェック
n++ // 次の行へ進む
// The source might not be available while running the test.
if strings.HasPrefix(lines[n], "\t") { // 次の行がタブで始まる(コードのコンテキストがある)場合
check(t, lines[n], code) // その行が期待されるコードのコンテキストを含むかチェック
n++ // さらに次の行へ進む
}
}
n := 0
:lines
スライス(スタックトレースの各行を格納)の現在のインデックスを追跡するための変数です。frame := func(line, code string)
: この匿名関数は、スタックトレースの1つのフレーム(ファイルパスの行と、それに続く可能性のあるコードのコンテキストの行)を検証するためのロジックをカプセル化しています。line
引数: 期待されるファイルパスの文字列(例:"src/pkg/runtime/debug/stack_test.go"
)。code
引数: 期待されるコードのコンテキストの文字列(例:"\t(*T).ptrmethod: return Stack()"
)。
check(t, lines[n], line)
: まず、lines
の現在のn
番目の行が、期待されるファイルパスline
を含んでいるかをcheck
ヘルパー関数を使って検証します。これはスタックトレースのファイルパス部分の検証です。n++
: ファイルパスの行を処理した後、インデックスn
をインクリメントして次の行(コードのコンテキストの行である可能性がある)に移動します。if strings.HasPrefix(lines[n], "\t")
: ここが重要な変更点です。strings.HasPrefix
関数を使って、現在のlines[n]
の行がタブ文字 (\t
) で始まっているかどうかを確認します。- スタックトレースにおいて、ファイルパスの行の次にタブでインデントされた行がある場合、それは通常、そのフレームの関数名やコードスニペットなどの詳細なコンテキストを示します。
- もしソースコードが見つからない環境では、この詳細なコンテキストの行がスタックトレースに含まれないことがあります。
check(t, lines[n], code)
:lines[n]
がタブで始まっている場合(つまり、コードのコンテキストが存在する場合)にのみ、その行が期待されるcode
文字列を含んでいるかを検証します。n++
: コードのコンテキストの行を処理した後、さらにインデックスn
をインクリメントして次のフレームの検証に備えます。
この frame
関数を使用することで、テストはスタックトレースのファイルパス部分の検証を必須としつつ、コードのコンテキスト部分の検証は、それが実際にスタックトレースに含まれている場合にのみ行うという柔軟性を持たせることができました。これにより、GOROOT_FINAL
のような環境でソースコードが見つからない場合でも、テストが不必要に失敗することを防ぎます。
関連リンク
- Go CL 5727069: https://golang.org/cl/5727069
参考にした情報源リンク
- Go言語
runtime/debug
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/runtime/debug - Go言語の環境変数 (
GOROOT
,GOPATH
など) に関する情報: https://go.dev/doc/code (Go Modules導入後の情報も含む) GOROOT_FINAL
に関するGoのIssueや議論 (具体的なURLはコミット当時の情報にアクセスしづらいため、一般的なGoのビルドシステムに関する情報源を参照)- Goのビルドシステムに関する一般的な情報源: https://go.dev/doc/install/source
- Goの環境変数に関する一般的な情報源: https://go.dev/doc/install