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[インデックス 12406] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムパッケージにCompilerという新しい定数を追加するものです。この定数は、現在実行中のバイナリがどのコンパイラツールチェーンによってビルドされたかを示すために使用されます。具体的には、Goの公式コンパイラであるgc(5g/6g/8gスイート)と、GCCベースのgccgoを区別するために導入されました。

コミット

commit 4e110af169869b07950fa6aa543f2625021bb3cb
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Mon Mar 5 22:28:02 2012 -0500

    runtime: add Compiler
    
    R=iant, r, gri
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5720073

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4e110af169869b07950fa6aa543f2625021bb3cb

元コミット内容

runtime: add Compiler

R=iant, r, gri
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5720073

変更の背景

Go言語は、複数のコンパイラツールチェーンをサポートしています。主要なものはGoチームが開発しているgc(Go Compiler)と、GCCプロジェクトの一部として開発されているgccgoです。これらのコンパイラは、それぞれ異なる最適化戦略、ランタイムの挙動、および特定のプラットフォームでのサポート状況を持つ場合があります。

実行中のGoバイナリがどのコンパイラによってビルドされたかをプログラム的に識別できることは、デバッグ、プロファイリング、特定のコンパイラに依存する機能の有効化/無効化、またはコンパイラ固有のバグ回避策の実装など、様々なシナリオで重要になります。例えば、特定のコンパイラバージョンでしか発生しない問題の診断や、異なるコンパイラ間でパフォーマンス特性を比較する際に、この情報が役立ちます。

このコミットは、このようなコンパイラ識別の必要性に応えるために、ランタイムパッケージに標準的な方法を提供することを目的としています。

前提知識の解説

  • コンパイラツールチェーン: ソースコードを機械語に変換し、実行可能なバイナリを生成するための一連のツール(コンパイラ、アセンブラ、リンカなど)を指します。Go言語においては、主に以下の2つの主要なツールチェーンが存在します。
    • gc: Go言語の公式コンパイラであり、Goチームによって開発されています。これは、go buildコマンドのデフォルトのコンパイラです。歴史的に5g(ARM)、6g(x86-64)、8g(x86)といった名前で知られていましたが、現在は統合されたgcとして提供されています。Go言語のランタイムと密接に連携し、ガベージコレクションやスケジューラなどのGo固有の機能に最適化されています。
    • gccgo: GCC(GNU Compiler Collection)のフロントエンドとして実装されたGoコンパイラです。GCCの既存の最適化インフラストラクチャを利用できるため、C/C++などの他の言語と連携しやすいという特徴があります。
  • runtimeパッケージ: Go言語の標準ライブラリの一部であり、Goプログラムの実行時環境を管理する低レベルな機能を提供します。これには、ガベージコレクタ、スケジューラ、メモリ管理、システムコールインターフェースなどが含まれます。runtimeパッケージは、Goプログラムが動作するために不可欠な基盤を提供し、通常、ユーザーが直接インポートして使用することは稀ですが、デバッグやプロファイリングの目的で一部の関数が公開されています。
  • 定数(const: Go言語における定数は、プログラムの実行中に値が変更されない識別子です。コンパイル時に値が決定され、不変であることが保証されます。

技術的詳細

このコミットでは、src/pkg/runtime/compiler.goという新しいファイルが追加され、その中にCompilerという名前のconst定数が定義されています。

// Copyright 2012 The Go Authors.  All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.

package runtime

// Compiler is the name of the compiler toolchain that built the
// running binary.  Known toolchains are:
//
//      gc      The 5g/6g/8g compiler suite at code.google.com/p/go.
//      gccgo   The gccgo front end, part of the GCC compiler suite.
//
const Compiler = "gc"

この定数は、runtimeパッケージの一部として公開され、Goプログラムのどこからでもruntime.Compilerとしてアクセスできるようになります。

重要な点は、この定数の値がコンパイル時に決定されることです。つまり、gcコンパイラでビルドされたバイナリではruntime.Compilerは常に"gc"という文字列を返し、gccgoでビルドされたバイナリでは"gccgo"という文字列を返すように、各コンパイラが自身のビルド時にこの定数に適切な値を埋め込むように設計されています。

これにより、Goプログラムは実行時に自身がどのコンパイラによってビルドされたかを動的に判断できるようになります。これは、クロスコンパイル環境や、異なるコンパイラが使用される可能性のある環境で特に有用です。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/runtime/compiler.goという新しいファイルが追加されました。

--- /dev/null
+++ b/src/pkg/runtime/compiler.go
@@ -0,0 +1,13 @@
+// Copyright 2012 The Go Authors.  All rights reserved.
+// Use of this source code is governed by a BSD-style
+// license that can be found in the LICENSE file.
+
+package runtime
+
+// Compiler is the name of the compiler toolchain that built the
+// running binary.  Known toolchains are:
+//
+//      gc      The 5g/6g/8g compiler suite at code.google.com/p/go.
+//      gccgo   The gccgo front end, part of the GCC compiler suite.
+//
+const Compiler = "gc"

コアとなるコードの解説

追加されたコードは非常にシンプルです。

  1. ライセンスヘッダ: Goプロジェクトの標準的なBSDスタイルのライセンスヘッダが含まれています。
  2. package runtime: このファイルがruntimeパッケージの一部であることを示します。これにより、このファイルで定義された要素はruntimeパッケージの他の部分からアクセス可能になり、また外部からはruntime.Compilerとしてアクセス可能になります。
  3. コメント: Compiler定数の目的と、認識されているコンパイラツールチェーン(gcgccgo)について説明しています。これは、この定数を使用する開発者にとって重要なドキュメントとなります。
  4. const Compiler = "gc": これがこのコミットの核心です。Compilerという名前の定数を定義し、初期値として文字列"gc"を設定しています。
    • この初期値"gc"は、このファイルがgcコンパイラによってビルドされることを想定しているためです。
    • gccgoコンパイラでビルドされる場合、gccgoのビルドプロセスがこのファイルのconst Compiler = "gc"の部分をconst Compiler = "gccgo"に書き換えるか、または別のメカニズムでCompiler定数に"gccgo"という値を設定するように設計されています。これにより、実行時に正しいコンパイラ名が報告されるようになります。

この変更は、Goのランタイムが自身のビルド環境に関するメタデータを提供する能力を拡張するものであり、Goエコシステムにおけるツールやライブラリの互換性と診断能力を向上させることに貢献します。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語公式ドキュメント (runtimeパッケージ): https://pkg.go.dev/runtime
  • Go言語のコンパイラについて (gc vs gccgo): 一般的なGo言語のコンパイラに関する情報源(例: Go公式ブログ、Go言語の書籍、技術記事など)
  • Go言語の定数: https://go.dev/tour/basics/15
  • Go言語のビルドプロセスに関する情報(コンパイラがどのように選択・使用されるか)