Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 12423] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイム(runtime)パッケージ内の未使用の関数 runtime·signame および runtime·newError を削除するものです。影響を受けるファイルは、ランタイムのヘッダーファイルと、異なるOS(Plan 9, Unix, Windows)におけるシグナルハンドリングおよびスレッド関連のC言語ソースファイルです。具体的には、src/pkg/runtime/runtime.hsrc/pkg/runtime/signal_plan9_386.csrc/pkg/runtime/signal_unix.csrc/pkg/runtime/thread_windows.c の4つのファイルから合計31行が削除されています。

コミット

このコミットは、Goランタイムから未使用の runtime·signame および runtime·newError 関数を削除することを目的としています。これはコードベースのクリーンアップと最適化の一環であり、デッドコードの削除により、コードの可読性の向上、バイナリサイズの削減、および将来的なメンテナンスコストの削減に貢献します。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/aabbcda8163d4a2bceaf8e25156968cb0e88de75

元コミット内容

commit aabbcda8163d4a2bceaf8e25156968cb0e88de75
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Tue Mar 6 09:07:00 2012 -0800

    runtime: remove unused runtime·signame and runtime·newError
    
    R=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5756044
---
 src/pkg/runtime/runtime.h          |  2 --
 src/pkg/runtime/signal_plan9_386.c |  6 ------
 src/pkg/runtime/signal_unix.c      |  8 --------
 src/pkg/runtime/thread_windows.c   | 15 ---------------
 4 files changed, 31 deletions(-)

diff --git a/src/pkg/runtime/runtime.h b/src/pkg/runtime/runtime.h
index f2669fdb7e..6f5aea11db 100644
--- a/src/pkg/runtime/runtime.h
+++ b/src/pkg/runtime/runtime.h
@@ -675,7 +675,6 @@ void	runtime·panicslice(void);
 /*
  * runtime c-called (but written in Go)
  */
-void	runtime·newError(String, Eface*);
 void	runtime·printany(Eface);
 void	runtime·newTypeAssertionError(String*, String*, String*, String*, Eface*);
 void	runtime·newErrorString(String, Eface*);
@@ -706,7 +705,6 @@ float64	runtime·ldexp(float64 d, int32 e);
 float64	runtime·modf(float64 d, float64 *ip);
 void	runtime·semacquire(uint32*);
 void	runtime·semrelease(uint32*);
-String	runtime·signame(int32 sig);
 int32	runtime·gomaxprocsfunc(int32 n);
 void	runtime·procyield(uint32);
 void	runtime·osyield(void);
diff --git a/src/pkg/runtime/signal_plan9_386.c b/src/pkg/runtime/signal_plan9_386.c
index 5eb04023f4..d26688516d 100644
--- a/src/pkg/runtime/signal_plan9_386.c
+++ b/src/pkg/runtime/signal_plan9_386.c
@@ -4,12 +4,6 @@
 
 #include "runtime.h"
 
-String
-runtime·signame(int32)
-{
-	return runtime·emptystring;
-}
-
 void
 runtime·sigenable(uint32 sig)
 {
diff --git a/src/pkg/runtime/signal_unix.c b/src/pkg/runtime/signal_unix.c
index 0b9d2a55a1..9b7e8b03a8 100644
--- a/src/pkg/runtime/signal_unix.c
+++ b/src/pkg/runtime/signal_unix.c
@@ -10,14 +10,6 @@
 
 extern SigTab runtime·sigtab[];
 
-String
-runtime·signame(int32 sig)
-{
-	if(sig < 0 || sig >= NSIG)
-		return runtime·emptystring;
-	return runtime·gostringnocopy((byte*)runtime·sigtab[sig].name);
-}
-
 void
 runtime·initsig(void)
 {
diff --git a/src/pkg/runtime/thread_windows.c b/src/pkg/runtime/thread_windows.c
index 8a448bc37c..1147a05e6a 100644
--- a/src/pkg/runtime/thread_windows.c
+++ b/src/pkg/runtime/thread_windows.c
@@ -302,21 +302,6 @@ runtime·initsig(void)\n \tUSED(p);\n }\n \n-String
-runtime·signame(int32 sig)
-{\n-\tint8 *s;\n-\n-\tswitch(sig) {\n-\tcase SIGINT:\n-\t\ts = \"SIGINT: interrupt\";\n-\t\tbreak;\n-\tdefault:\n-\t\treturn runtime·emptystring;\n-\t}\n-\treturn runtime·gostringnocopy((byte*)s);\n-}\n-\n uint32
-runtime·ctrlhandler1(uint32 type)\n {\n```

## 変更の背景

このコミットの背景には、ソフトウェア開発における一般的なベストプラクティスである「デッドコード(未使用コード)の削除」があります。デッドコードは、コンパイルされたバイナリのサイズを不必要に増加させ、コードベースの複雑性を高め、将来のメンテナンスやデバッグを困難にする可能性があります。また、未使用のコードが存在することで、それが何らかの理由で誤って呼び出されたり、意図しない副作用を引き起こしたりするリスクもゼロではありません。

Go言語のランタイムは、Goプログラムの実行を支える非常に重要な部分であり、その効率性と堅牢性はGoアプリケーション全体のパフォーマンスに直結します。そのため、ランタイムのコードベースは常にクリーンで最適化されていることが望ましいです。

このコミットは、Goランタイムの進化の過程で、特定の機能が不要になったり、より新しい、より効率的な実装に置き換えられたりした結果として、これらの関数が未使用になったことを示唆しています。具体的には、エラーハンドリングのメカニズムやシグナル処理の内部実装が変更され、これらの古い関数が参照されなくなったと考えられます。

## 前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の概念について基本的な知識があると役立ちます。

*   **Go言語のランタイム (runtime)**: Go言語のプログラムは、コンパイル時にGoランタイムとリンクされます。ランタイムは、ガベージコレクション、スケジューリング(ゴルーチンの管理)、メモリ管理、システムコール、シグナル処理など、Goプログラムの実行に必要な低レベルの機能を提供します。Goランタイムの多くはGo言語で書かれていますが、OSとのインタラクションやパフォーマンスが重要な部分はC言語(またはアセンブリ言語)で書かれています。
*   **CgoとGo/C間の相互運用**: Go言語はC言語のコードを呼び出すための `cgo` ツールを提供しています。Goランタイムの内部では、C言語で書かれた部分とGo言語で書かれた部分が密接に連携しています。このコミットで削除されている関数は、C言語のソースファイル (`.c`) に定義され、Goランタイムの他の部分からC言語の呼び出し規約を通じて利用されることを意図していたものです。
*   **`runtime·` プレフィックス**: Go言語の初期のバージョンでは、Goランタイムの内部関数や変数には `runtime·` というプレフィックスが付与されることがありました。これは、GoのシンボルとCのシンボルを区別するため、または内部的な命名規則として使用されていました。
*   **シグナル (Signals)**: オペレーティングシステムがプロセスに送信する非同期通知メカニズムです。例えば、`SIGINT` はユーザーがCtrl+Cを押したときにプロセスに送信されるシグナルで、プログラムの終了を要求します。`runtime·signame` は、これらのシグナル番号に対応する名前(例: `SIGINT`)を返すことを目的とした関数であったと推測されます。
*   **エラーハンドリング**: プログラム実行中に発生する異常な状況を処理するメカニズムです。Go言語では、エラーは通常、`error` インターフェースを実装する値として返されます。`runtime·newError` は、ランタイム内部でエラーオブジェクトを生成するための低レベルな関数であったと考えられます。
*   **デッドコード (Dead Code)**: プログラムの実行フローにおいて、決して到達しない、または実行結果に影響を与えないコードのことです。デッドコードは、機能の変更、リファクタリング、または古い機能の削除によって発生することがあります。

## 技術的詳細

このコミットは、Goランタイムの内部実装における2つの特定の関数 `runtime·signame` と `runtime·newError` の削除に焦点を当てています。

1.  **`runtime·signame`**:
    *   この関数は、整数値のシグナル番号を受け取り、それに対応するシグナル名を文字列として返すことを目的としていました。
    *   削除されたコードを見ると、`signal_plan9_386.c`、`signal_unix.c`、`thread_windows.c` の各ファイルに、それぞれのOSに特化した実装が存在していました。
    *   `signal_plan9_386.c` の実装は常に空文字列を返しており、Plan 9環境ではこの機能が実質的に利用されていなかったか、ダミー実装であったことを示唆しています。
    *   `signal_unix.c` の実装は、`runtime·sigtab` というシグナルテーブルから名前を取得していました。これはUnix系システムにおける標準的なシグナル名解決のパターンです。
    *   `thread_windows.c` の実装は、`SIGINT` のみを特別に処理し、それ以外のシグナルに対しては空文字列を返していました。これはWindows環境でのシグナル処理の特殊性を示しています。
    *   これらの実装が削除されたということは、Goランタイムがシグナル名を内部的に取得する方法を変更したか、あるいは特定のコンテキストでシグナル名を文字列として取得する必要がなくなったことを意味します。例えば、シグナル処理のロジックが変更され、シグナル番号自体で十分になった、またはGo言語側のコードでシグナル名を扱うようになったなどが考えられます。

2.  **`runtime·newError`**:
    *   この関数は、Goランタイムの内部で新しいエラーオブジェクトを生成するために使用されていたと考えられます。引数として `String` 型のメッセージと `Eface*`(Goの `interface{}` に相当するランタイム内部表現へのポインタ)を取っていました。
    *   `runtime.h` からその宣言が削除されたことから、この関数がGoランタイムの他の部分から呼び出されなくなったことがわかります。
    *   Goのエラーハンドリングは進化しており、エラーの生成方法や伝播方法が変更された可能性があります。例えば、より汎用的なエラー生成メカニズムが導入されたり、特定のランタイムエラーが異なる方法で表現されるようになったりした結果、この特定の `runtime·newError` 関数が不要になったと考えられます。

これらの関数が「未使用」になった背景には、Go言語自体の進化、特にランタイムの内部構造やOSとのインタラクション層のリファクタリングが大きく関わっていると推測されます。Goは継続的に改善されており、その過程で古い、または冗長なコードが削除されることは珍しくありません。

## コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる主要な変更は、以下のファイルからの関数宣言および定義の削除です。

*   **`src/pkg/runtime/runtime.h`**:
    *   `void runtime·newError(String, Eface*);` の宣言を削除。
    *   `String runtime·signame(int32 sig);` の宣言を削除。

*   **`src/pkg/runtime/signal_plan9_386.c`**:
    *   `runtime·signame` 関数の定義全体を削除。

    ```c
    -String
    -runtime·signame(int32)
    -{
    -	return runtime·emptystring;
    -}
    ```

*   **`src/pkg/runtime/signal_unix.c`**:
    *   `runtime·signame` 関数の定義全体を削除。

    ```c
    -String
    -runtime·signame(int32 sig)
    -{
    -	if(sig < 0 || sig >= NSIG)
    -		return runtime·emptystring;
    -	return runtime·gostringnocopy((byte*)runtime·sigtab[sig].name);
    -}
    ```

*   **`src/pkg/runtime/thread_windows.c`**:
    *   `runtime·signame` 関数の定義全体を削除。

    ```c
    -String
    -runtime·signame(int32 sig)
    -{
    -	int8 *s;
    -
    -	switch(sig) {
    -	case SIGINT:
    -		s = "SIGINT: interrupt";
    -		break;
    -	default:
    -		return runtime·emptystring;
    -	}
    -	return runtime·gostringnocopy((byte*)s);
    -}
    ```

## コアとなるコードの解説

削除されたコードは、GoランタイムのC言語部分で定義されていた関数です。

*   `runtime.h` からの宣言削除は、これらの関数がGoランタイムの他の部分からC言語の呼び出し規約を通じて利用されなくなったことを意味します。Go言語のコードからC言語の関数を呼び出す場合、通常はヘッダーファイルにその宣言が必要です。宣言が削除されたということは、もはやこれらの関数が外部から参照される必要がない、または参照されなくなったことを示しています。

*   各OS固有のシグナル処理ファイル (`signal_plan9_386.c`, `signal_unix.c`, `thread_windows.c`) から `runtime·signame` の実装が削除されたことは、シグナル番号からシグナル名へのマッピング機能が、これらのC言語ファイルでは提供されなくなったことを明確に示しています。これは、この機能が完全に不要になったか、あるいはGo言語側のコードでより高レベルな抽象化を通じて処理されるようになったことを意味します。例えば、Goの `os/signal` パッケージなどがその役割を担うようになった可能性が考えられます。

*   `runtime·newError` の削除は、Goランタイム内部でのエラーオブジェクトの生成方法が変更されたことを示唆しています。Goのエラーハンドリングは、Go 1.13でエラーラッピングが導入されるなど、継続的に進化しています。この変更は、より現代的なエラー生成メカニズムへの移行の一環であった可能性があります。

全体として、このコミットはGoランタイムの内部的なリファクタリングとクリーンアップの一環であり、コードベースの健全性を維持し、将来の開発を容易にするための重要なステップです。未使用のコードを削除することで、コンパイラやリンカの処理が効率化され、最終的なバイナリサイズもわずかながら削減される可能性があります。

## 関連リンク

*   **Gerrit Change-ID**: [https://golang.org/cl/5756044](https://golang.org/cl/5756044)
    *   これはGoプロジェクトがコードレビューに利用しているGerritシステム上の変更リストへのリンクです。このリンクを辿ることで、このコミットがどのように提案され、レビューされ、最終的にマージされたかの詳細な議論や、関連する変更セットを確認することができます。

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語の公式ドキュメント (特に `runtime` パッケージや `os/signal` パッケージに関する情報)
*   Go言語のソースコード (特に `src/runtime` ディレクトリ内のファイル)
*   Go言語のコミット履歴とGerritの変更リスト
*   オペレーティングシステムにおけるシグナル処理に関する一般的な情報 (Unix Signals, Windows Structured Exception Handlingなど)
*   デッドコード削除に関するソフトウェアエンジニアリングのベストプラクティス