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[インデックス 12427] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のパーサー (go/parser) に関連する変更です。具体的には、src/pkg/go/parser/parser.go ファイル内の構文解析ロジックの一部が一時的に無効化されています。

コミット

39b186da6c17c96a0370273e2a8b65c389331ae8

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/39b186da6c17c96a0370273e2a8b65c389331ae8

元コミット内容

go/parser: fix build (temporarily disable recent change)

R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5752059

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のパーサー (go/parser) におけるビルドの問題がありました。コミットメッセージにある「temporarily disable recent change(最近の変更を一時的に無効化する)」という記述から、以前に行われた何らかの変更が原因でビルドが失敗するようになったことが推測されます。

Go言語のパーサーは、Goのソースコードを読み込み、抽象構文木(AST)を構築する役割を担っています。構文解析の過程で、Go言語の文法規則に従ってトークン(キーワード、識別子、演算子など)を解釈し、構造的な意味を付与します。Go言語では、セミコロンの自動挿入(ASI: Automatic Semicolon Insertion)という特徴があり、改行が特定の文脈でセミコロンとして扱われることがあります。

このコミットは、ビルドを修正するために、セミコロンの自動挿入に関連する特定の構文エラーチェックロジックを一時的にコメントアウトすることで、問題を回避しようとしたものです。これは、根本的な原因を特定し修正するまでの暫定的な措置と考えられます。コミットメッセージに記載されている https://golang.org/cl/5752059 は、この変更に関連するGerritのチェンジリスト(コードレビューリクエスト)へのリンクであり、このリンクを辿ることで、無効化された「最近の変更」の詳細や、その変更がなぜビルドを壊したのかについての議論が見つかる可能性があります。

前提知識の解説

1. Go言語のパーサー (go/parser)

Go言語のコンパイラツールチェーンの一部であり、Goのソースコードを解析して抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)を生成するパッケージです。ASTは、プログラムの構造を木構造で表現したもので、コンパイラの次のフェーズ(型チェック、コード生成など)で利用されます。

パーサーは、以下の主要なステップで動作します。

  • 字句解析 (Lexical Analysis / Tokenizing): ソースコードを読み込み、意味のある最小単位である「トークン」に分割します。例えば、func main() {func (キーワード), main (識別子), ( (記号), ) (記号), { (記号) といったトークンに分割されます。
  • 構文解析 (Syntactic Analysis / Parsing): 字句解析で生成されたトークンのストリームを文法規則に従って解析し、プログラムの構造が正しいかどうかを検証し、ASTを構築します。

2. トークン (token パッケージ)

Go言語の go/token パッケージは、Goのソースコードを構成する基本的な要素であるトークンを定義しています。例えば、token.COMMA はカンマ (,) を、token.SEMICOLON はセミコロン (;) を表します。token.LIT はリテラル(数値、文字列など)を表し、p.lit はそのリテラルの実際の文字列値を保持します。

3. セミコロンの自動挿入 (Automatic Semicolon Insertion - ASI)

Go言語の文法には、セミコロンの自動挿入という特徴があります。これは、特定の状況下で改行がセミコロンとして扱われるというものです。これにより、開発者は通常、各ステートメントの終わりに明示的にセミコロンを記述する必要がありません。しかし、このルールは厳密であり、誤った位置での改行は構文エラーを引き起こす可能性があります。

ASIの基本的なルールは以下の通りです。

  • 識別子、整数、浮動小数点数、虚数、ルーン、文字列リテラル
  • キーワード break, continue, fallthrough, return
  • 演算子 ++, --
  • 閉じ括弧 ), ], }

これらのトークンの直後に改行がある場合、その改行の前にセミコロンが挿入されます。

4. エラーハンドリング (p.error)

パーサーは、構文エラーを検出した場合にエラーを報告するメカニズムを持っています。p.error(p.pos, "message") のような形式で、エラーが発生した位置 (p.pos) とエラーメッセージを渡してエラーを記録します。

技術的詳細

このコミットは、src/pkg/go/parser/parser.go ファイル内の seesComma というメソッドに対する変更です。このメソッドは、現在のトークンがカンマであるかどうか、またはカンマとして解釈されるべきセミコロン(自動挿入されたセミコロンを含む)であるかどうかを判断するために使用されます。

変更前のコードは以下のようになっていました。

func (p *parser) seesComma(context string) bool {
	if p.tok == token.COMMA {
		return true
	}
	if p.tok == token.SEMICOLON && p.lit == "\n" {
		p.error(p.pos, "missing ',' before newline in "+context)
		return true // "insert" the comma and continue
	}
	return false
}

このコードの if p.tok == token.SEMICOLON && p.lit == "\n" のブロックは、現在のトークンがセミコロンであり、かつそのセミコロンが改行によって自動挿入されたものである場合に実行されます。この条件が真の場合、パーサーは「context において改行の前にカンマが不足している」というエラーを報告し、あたかもカンマが挿入されたかのように true を返して解析を続行します。これは、構文エラーを検出しても、可能な限り解析を続行してより多くのエラーを報告するための一般的なパーサーのテクニックです。

このコミットでは、上記の if ブロック全体がコメントアウトされています。

func (p *parser) seesComma(context string) bool {
	if p.tok == token.COMMA {
		return true
	}
	/*
		if p.tok == token.SEMICOLON && p.lit == "\n" {
			p.error(p.pos, "missing ',' before newline in "+context)
			return true // "insert" the comma and continue

		}
	*/
	return false
}

この変更により、パーサーは「改行の前にカンマが不足している」という特定のエラーを検出して報告するロジックを一時的に停止します。コミットメッセージが「fix build (temporarily disable recent change)」と述べていることから、このエラー検出ロジック、またはこのロジックが依存する何らかの変更が、Goのビルドプロセスに問題を引き起こしていたと考えられます。

考えられるシナリオとしては、以下のいずれかが挙げられます。

  1. 誤ったエラー報告: 新しいコード変更が、実際には構文的に正しいコードに対して、この seesComma メソッド内で誤って「カンマ不足」のエラーを報告するようになった。
  2. パーサーの無限ループ/クラッシュ: このエラーハンドリングロジックが、特定の入力パターンでパーサーを無限ループに陥らせたり、クラッシュさせたりするバグを引き起こした。
  3. ビルドシステムとの非互換性: このパーサーの変更が、Goのビルドシステムや他のツールとの間で予期せぬ非互換性を生じさせた。

いずれにせよ、この変更はビルドを一時的に安定させるための緊急措置であり、根本的な原因の究明と修正が別途必要とされたでしょう。コメントアウトされたコードは、将来的に再有効化されるか、より堅牢な形で再実装されることを意図している可能性が高いです。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/go/parser/parser.go
+++ b/src/pkg/go/parser/parser.go
@@ -380,11 +380,13 @@ func (p *parser) seesComma(context string) bool {
 	if p.tok == token.COMMA {
 		return true
 	}
-	if p.tok == token.SEMICOLON && p.lit == "\n" {
-		p.error(p.pos, "missing ',' before newline in "+context)
-		return true // "insert" the comma and continue
+	/*
+		if p.tok == token.SEMICOLON && p.lit == "\n" {
+			p.error(p.pos, "missing ',' before newline in "+context)
+			return true // "insert" the comma and continue
 
-	}
+		}
+	*/
 	return false
 }

コアとなるコードの解説

変更されたのは src/pkg/go/parser/parser.go ファイル内の seesComma メソッドです。

このメソッドの目的は、現在のパーサーの状態に基づいて、構文的にカンマ (,) が期待される位置にいるかどうかを判断することです。

  • if p.tok == token.COMMA:

    • これは最も直接的なケースです。現在のトークンが実際に token.COMMA であれば、カンマが見つかったと判断し、true を返します。
  • コメントアウトされたブロック:

    /*
    	if p.tok == token.SEMICOLON && p.lit == "\n" {
    		p.error(p.pos, "missing ',' before newline in "+context)
    		return true // "insert" the comma and continue
    
    	}
    */
    
    • このブロックは、Go言語のセミコロン自動挿入 (ASI) のルールを考慮したものでした。
    • p.tok == token.SEMICOLON: 現在のトークンがセミコロンであることをチェックします。
    • p.lit == "\n": そのセミコロンが、実際のソースコード中の改行によって自動挿入されたものであることをチェックします。Goのパーサーは、自動挿入されたセミコロンのリテラル値として "\n" を設定することがあります。
    • この両方の条件が真の場合、つまり、パーサーが改行によって自動挿入されたセミコロンに遭遇し、かつその文脈でカンマが期待される場合、パーサーは「context において改行の前にカンマが不足している」というエラーを報告します。
    • return true // "insert" the comma and continue: エラーを報告した後も、パーサーは true を返して、あたかもカンマがそこにあったかのように解析を続行します。これは、単一のエラーで解析を停止するのではなく、可能な限り多くの構文エラーを収集するための一般的な戦略です。

このコミットでは、このASIに関連するエラー検出と回復のロジックが一時的に無効化されました。これにより、この特定の構文エラーがビルドプロセスに与えていた悪影響が回避されましたが、同時に、この種の構文エラーが検出されなくなるという副作用も生じました。

関連リンク

  • Go言語のセミコロン自動挿入に関する公式ドキュメント: https://go.dev/blog/go-parser (Goのパーサー全般についてですが、ASIについても触れられています)
  • Go言語の文法仕様: https://go.dev/ref/spec#Semicolons (セミコロンのルールについて詳細に記述されています)
  • Gerrit Change-ID: https://golang.org/cl/5752059 (このコミットが一時的に無効化した「最近の変更」に関連するチェンジリスト)

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード (go/src/go/parser/parser.go および go/src/go/token/token.go)
  • Gerrit Code Review (golang.org/cl)
  • 一般的なコンパイラ理論と構文解析に関する知識