[インデックス 12440] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のmisc/dist
パッケージにおけるWindows環境下でのグロブパターン(glob pattern)の不具合を修正するものです。具体的には、パスの結合にオペレーティングシステムに依存しないfilepath.Join
関数を使用することで、Windows上でのビルドツールの配布(bindist)が正しく機能するように改善されています。
コミット
commit 7db4384354e43e41e34f17299ff33cd1a895d769
Author: Andrew Gerrand <adg@golang.org>
Date: Wed Mar 7 13:34:01 2012 +1100
misc/dist: fix glob pattern under windows
R=bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5753066
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/7db4384354e43e41e34f17299ff33cd1a895d769
元コミット内容
misc/dist: fix glob pattern under windows
このコミットは、Windows環境下でのグロブパターンの問題を修正することを目的としています。
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のクロスプラットフォーム対応におけるパス区切り文字の差異があります。Unix系システム(Linux, macOSなど)ではパスの区切り文字としてフォワードスラッシュ(/
)が一般的に使用されますが、Windowsではバックスラッシュ(\
)が使用されます。
misc/dist/bindist.go
ファイルは、Goのバイナリ配布(binary distribution)に関連する処理を行っています。このファイル内で、特定のツールディレクトリを検索するためにグロブパターンが使用されていました。元のコードでは、b.root + "/pkg/tool/*/dist"
のように、パスの区切り文字としてフォワードスラッシュがハードコードされていました。
このハードコードされたフォワードスラッシュは、Unix系システムでは問題なく機能しますが、Windows環境ではパスの区切り文字が異なるため、filepath.Glob
関数が期待通りにファイルを検索できないという問題が発生していました。結果として、Windows上でGoのビルドツールを配布する際に、必要なファイルが見つからず、処理が失敗する可能性がありました。
このコミットは、このようなオペレーティングシステム間のパス区切り文字の差異に起因する問題を解決し、GoのビルドプロセスがWindows環境でも安定して動作するようにするための修正です。
前提知識の解説
グロブパターン (Glob Pattern)
グロブパターンは、ファイル名やパスをパターンマッチングするためのシンプルな構文です。正規表現に似ていますが、より単純で、主にシェルやファイルシステム操作で使われます。
*
: 任意の0文字以上の文字列にマッチします。?
: 任意の1文字にマッチします。[]
: 角括弧内の任意の1文字にマッチします(例:[abc]
はa, b, cのいずれかにマッチ)。**
: ディレクトリ階層をまたぐ任意のパスにマッチします(再帰的なマッチング)。
このコミットでは、*/
がディレクトリ名にマッチするために使用されています。
filepath.Glob
関数 (Go言語)
Go言語のpath/filepath
パッケージに含まれるGlob
関数は、指定されたパターンにマッチするファイルやディレクトリのパスを検索するために使用されます。この関数は、オペレーティングシステム固有のパス区切り文字を考慮してパターンを解釈します。
例えば、Windows環境でfilepath.Glob("C:/Users/*/Documents")
のようなパターンが与えられた場合、Glob
関数は内部的にWindowsのパス区切り文字(\
)に変換して検索を行います。しかし、パターン自体にハードコードされた区切り文字が含まれていると、その変換が正しく行われない場合があります。
filepath.Join
関数 (Go言語)
Go言語のpath/filepath
パッケージに含まれるJoin
関数は、複数のパス要素を結合して単一のパスを構築するために使用されます。この関数の重要な特徴は、実行されているオペレーティングシステムに適したパス区切り文字(Unix系では/
、Windowsでは\
)を自動的に挿入することです。
例えば、Unix系システムではfilepath.Join("dir1", "dir2", "file.txt")
はdir1/dir2/file.txt
を返しますが、Windowsシステムではdir1\dir2\file.txt
を返します。これにより、コードが異なるOS環境でも正しくパスを構築できるようになります。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、パスの構築方法をオペレーティングシステムに依存しない形に変更した点にあります。
元のコードでは、b.root + "/pkg/tool/*/dist"
という文字列結合によってグロブパターンが生成されていました。ここで問題となるのは、/pkg/tool/*/dist
という部分にフォワードスラッシュ(/
)が直接埋め込まれていることです。
Windows環境では、ファイルパスの区切り文字は通常バックスラッシュ(\
)です。filepath.Glob
関数は、与えられたパターンをOS固有のパス区切り文字で解釈しようとしますが、パターン文字列内にハードコードされたフォワードスラッシュが存在すると、Windowsのファイルシステムがそれを有効なパス区切り文字として認識できない場合があります。結果として、filepath.Glob
は期待するファイルやディレクトリを見つけることができず、エラーを返したり、空の結果を返したりする可能性がありました。
この修正では、filepath.Join(b.root, "pkg/tool/*/dist")
を使用するように変更されました。filepath.Join
関数は、引数として与えられたパス要素を結合する際に、現在のオペレーティングシステムに適したパス区切り文字を自動的に挿入します。
- Unix系システムの場合:
filepath.Join(b.root, "pkg/tool/*/dist")
は、b.root
の値に続けて/pkg/tool/*/dist
のようにフォワードスラッシュで結合されたパスを生成します。これは元の意図と合致し、filepath.Glob
も正しく機能します。 - Windowsシステムの場合:
filepath.Join(b.root, "pkg/tool/*/dist")
は、b.root
の値に続けて\pkg\tool\*\dist
のようにバックスラッシュで結合されたパスを生成します。これにより、filepath.Glob
はWindowsのファイルシステムが認識できる正しいパス形式でパターンを受け取ることができ、期待通りにファイルを検索できるようになります。
この変更により、GoのビルドシステムがWindows環境でも安定して動作し、クロスプラットフォーム互換性が向上しました。
コアとなるコードの変更箇所
変更はmisc/dist/bindist.go
ファイルの一箇所のみです。
--- a/misc/dist/bindist.go
+++ b/misc/dist/bindist.go
@@ -126,7 +126,7 @@ func (b *Build) Do() error {
version string // "weekly.2012-03-04"
fullVersion []byte // "weekly.2012-03-04 9353aa1efdf3"
)
- pat := b.root + "/pkg/tool/*/dist"
+ pat := filepath.Join(b.root, "pkg/tool/*/dist")
m, err := filepath.Glob(pat)
if err != nil {
return err
コアとなるコードの解説
変更された行は、pat
という変数の初期化部分です。
-
変更前:
pat := b.root + "/pkg/tool/*/dist"
b.root
はGoのルートディレクトリパスを表す変数です。- この行では、文字列結合演算子
+
を使って、b.root
とハードコードされた文字列"/pkg/tool/*/dist"
を結合しています。 - この結合方法では、パス区切り文字として常にフォワードスラッシュが使用されるため、Windows環境で問題が発生していました。
-
変更後:
pat := filepath.Join(b.root, "pkg/tool/*/dist")
filepath.Join
関数が使用されています。filepath.Join
は、引数として与えられた複数のパス要素(ここではb.root
と"pkg/tool/*/dist"
)を、現在のオペレーティングシステムに適したパス区切り文字を使用して結合します。- これにより、Windowsではバックスラッシュ(
\
)が、Unix系システムではフォワードスラッシュ(/
)が適切に挿入されたパスが生成されます。 - 生成された
pat
は、その後のfilepath.Glob(pat)
に渡され、オペレーティングシステムに依存しない形で正しくグロブパターンが解釈されるようになります。
この修正により、bindist.go
がGoのツールディレクトリを検索する際に、Windows環境でも正しいパス形式でグロブパターンを生成できるようになり、クロスプラットフォームでの互換性が確保されました。
関連リンク
- Go CL 5753066: https://golang.org/cl/5753066
参考にした情報源リンク
- Go言語
path/filepath
パッケージドキュメント: https://pkg.go.dev/path/filepath - Go言語
filepath.Glob
の挙動に関する議論 (一般的な情報源): https://stackoverflow.com/questions/tagged/go-filepath-glob - Go言語
filepath.Join
の挙動に関する議論 (一般的な情報源): https://stackoverflow.com/questions/tagged/go-filepath-join - Windowsにおけるパスの区切り文字に関する情報 (一般的な情報源): https://learn.microsoft.com/en-us/windows/win32/fileio/naming-a-file
- Unix系システムにおけるパスの区切り文字に関する情報 (一般的な情報源): https://en.wikipedia.org/wiki/Path_(computing)