Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 12485] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートの一部である test/ddd.go ファイルにおいて、以前コメントアウトされていたメソッド式に関するテストを再度有効にするものです。これは、Go言語のコンパイラまたはランタイムが、ネストされたメソッド式を正しく処理できるようになったことを示唆しています。

コミット

  • コミットハッシュ: b514f0b9069d43e2a92def87201ae4b7cb2acca6
  • Author: Ian Lance Taylor iant@golang.org
  • Date: Wed Mar 7 11:17:26 2012 -0800

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b514f0b9069d43e2a92def87201ae4b7cb2acca6

元コミット内容

test: enable method expression tests in ddd.go

R=golang-dev, gri, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5769044

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語のコンパイラまたは言語仕様の進化があります。test/ddd.go 内のテストコードは、以前「TODO(rsc): Enable once nested method expressions work.」(ネストされたメソッド式が機能するようになったら有効にする)というコメントと共にコメントアウトされていました。これは、コミットが作成された時点よりも前の段階で、Go言語がネストされたメソッド式を完全にサポートしていなかったか、あるいはその実装にバグがあったことを示しています。

このコミットは、その問題が解決され、ネストされたメソッド式が期待通りに動作するようになったため、関連するテストケースを再度有効にすることを目的としています。これにより、Go言語の機能が正しく動作することを保証し、将来のリグレッションを防ぐためのテストカバレッジが向上します。

前提知識の解説

Go言語のメソッド式 (Method Expressions)

Go言語におけるメソッド式は、レシーバを最初の引数として取る通常の関数のようにメソッドを参照する構文です。通常、メソッドは特定の型の値(レシーバ)に対して呼び出されますが、メソッド式を使用すると、そのメソッドを「関数値」として扱うことができます。

例えば、以下のような構造体とメソッドがあるとします。

type MyInt int

func (m MyInt) Add(n int) int {
    return int(m) + n
}

通常、MyInt型の変数 x に対してメソッドを呼び出す場合、x.Add(5) のように記述します。 一方、メソッド式を使用すると、MyInt.Add のように型名とメソッド名を組み合わせることで、Add メソッドを関数として取得できます。この関数は、MyInt 型のレシーバを最初の引数として受け取ります。

var f func(MyInt, int) int = MyInt.Add
result := f(MyInt(10), 5) // result は 15

ポインタレシーバを持つメソッドの場合も同様です。

type MyStruct struct {
    value int
}

func (s *MyStruct) Set(v int) {
    s.value = v
}

この場合、(*MyStruct).Set のようにメソッド式を使用できます。

var setFunc func(*MyStruct, int) = (*MyStruct).Set
s := &MyStruct{}
setFunc(s, 100) // s.value は 100 になる

ネストされたメソッド式 (Nested Method Expressions)

「ネストされたメソッド式」という表現は、Go言語の文脈では、メソッド式がより複雑な式の一部として使用される場合や、型がインターフェースやポインタを介して間接的に参照される場合に、その動作が複雑になることを指す可能性があります。

このコミットで言及されている (*U).SumU.Sum のようなテストケースは、おそらくポインタ型 *U や値型 U のメソッド Sum をメソッド式として呼び出す際に、そのレシーバの型がどのように扱われるか、あるいは可変長引数(...)を持つメソッドがメソッド式として正しく機能するかどうかを検証していたと考えられます。

特に、Go言語の初期の段階では、型システムやコンパイラの成熟度が現在ほど高くなかったため、このような複雑な型とメソッドの組み合わせが予期せぬ挙動を引き起こすことがありました。この TODO コメントは、そのような既知の制限またはバグが存在したことを示しています。

技術的詳細

test/ddd.go は、Go言語のコンパイラやランタイムの特定の挙動をテストするためのファイル群の一部です。このファイルは、特に可変長引数(variadic arguments)の処理や、構造体、ポインタ、インターフェースなど、様々な型の組み合わせにおけるメソッドの挙動を検証しているようです。

コメントアウトされていたコードブロックは、以下の2つのテストケースを含んでいました。

  1. if x := (*U).Sum(&U{}, 1, 3, 5, 2); x != 11 { ... }

    • これは、ポインタ型 *U のメソッド Sum をメソッド式として呼び出すテストです。&U{}U 型のゼロ値のポインタを作成し、それをレシーバとして渡しています。引数 1, 3, 5, 2 は可変長引数として Sum メソッドに渡されます。期待される結果は 11 です。
  2. if x := U.Sum(U{}, 1, 3, 5, 2); x != 11 { ... }

    • これは、値型 U のメソッド Sum をメソッド式として呼び出すテストです。U{}U 型のゼロ値を作成し、それをレシーバとして渡しています。引数 1, 3, 5, 2 は可変長引数として Sum メソッドに渡されます。期待される結果は 11 です。

これらのテストがコメントアウトされていたのは、TODO(rsc): Enable once nested method expressions work. というコメントが示す通り、当時のGoコンパイラが「ネストされたメソッド式」を正しく処理できなかったためです。この「ネストされた」という表現は、単にメソッド式が呼び出されるだけでなく、そのレシーバが複雑な式(例: &U{}U{} のようなリテラル)である場合や、メソッド式自体がより大きな式の一部として評価される場合に問題があったことを示唆しています。

このコミットによってこれらのテストが有効にされたということは、Go言語のコンパイラがこれらのケースを正しく処理できるようになり、メソッド式の機能がより堅牢になったことを意味します。これは、Go言語の言語仕様の実装が成熟し、より複雑なコードパターンをサポートできるようになった証拠と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/test/ddd.go
+++ b/test/ddd.go
@@ -219,7 +219,6 @@ func main() {
 		println("s{&u}.Sum", x)
 		panic("fail")
 	}
-	/* TODO(rsc): Enable once nested method expressions work.
 	if x := (*U).Sum(&U{}, 1, 3, 5, 2); x != 11 {
 		println("(*U).Sum", x)
 		panic("fail")
@@ -228,5 +227,4 @@ func main() {
 		println("U.Sum", x)
 		panic("fail")
 	}
-	*/
 }

コアとなるコードの解説

変更は test/ddd.go ファイルの main 関数内にあります。具体的には、以下の2行が削除されています。

  1. - /* TODO(rsc): Enable once nested method expressions work.

    • これは、コメントブロックの開始を示す行であり、このテストが一時的に無効化されていた理由を説明する TODO コメントを含んでいます。この行の削除は、もはやこの TODO が不要になったことを意味します。
  2. - */

    • これは、コメントブロックの終了を示す行です。この行の削除により、以前コメントアウトされていた (*U).SumU.Sum のテストケースが有効になります。

これらの変更は、コードの機能的な変更ではなく、以前に無効化されていたテストケースを再度有効にするためのものです。これにより、Go言語のコンパイラがネストされたメソッド式を正しく処理できるようになったことが、テストスイートによって検証されるようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク