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[インデックス 12505] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のcgoツールに関連するものです。src/cmd/cgo/out.goファイルは、cgoがGoコードからCコードを生成する際の出力処理を担当しています。具体的には、Goの関数定義をCの関数プロトタイプや呼び出し規約に変換するロジックが含まれています。このファイルは、GoとCの間の相互運用性を実現するための重要な部分です。

コミット

commit 43d71e7d7d1ace38e6518335ff39b7848700b9ca
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Wed Mar 7 22:40:32 2012 -0500

    cmd/cgo: silence const warnings
    
    Fixes #3152.
    
    R=golang-dev, dsymonds, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5786047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/43d71e7d7d1ace38e6518335ff39b7848700b9ca

元コミット内容

cmd/cgo: silence const warnings

このコミットは、cgoツールが生成するCコードにおいて発生するconst関連のコンパイラ警告を抑制することを目的としています。

変更の背景

Go言語とC言語は異なる型システムを持っています。特に、C言語にはconstvolatileといった型修飾子が存在しますが、Go言語にはこれらに直接対応する概念がありません。cgoはGoコードからC関数を呼び出すためのCコードを生成しますが、この変換プロセスにおいて、Goの型情報からCの型情報を生成する際に、元のC関数が期待するconstvolatile修飾子が欠落することがありました。

例えば、C言語でvoid func(const char* s)という関数がある場合、cgoが生成するCコードの関数プロトタイプでは、const修飾子が省略されてvoid func(char* s)のようになる可能性がありました。これにより、Cコンパイラは「const修飾子を持つポインタを、const修飾子を持たないポインタに変換している」といった警告を発することがあります。これらの警告は、必ずしも実行時の問題を引き起こすわけではありませんが、ビルドプロセスを煩雑にし、潜在的な問題を見逃す原因となる可能性があります。

このコミットは、このようなCコンパイラの警告を抑制し、cgoで生成されるコードのビルドをよりクリーンにすることを目的としています。

前提知識の解説

cgo

cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoツールチェーンの一部です。GoとCの間のブリッジとして機能し、Goのソースファイル内にCのコードを直接記述したり、既存のCライブラリをGoから利用したりすることを可能にします。cgoは、Goのソースコードを解析し、Cの関数呼び出しに対応するCコードと、そのCコードをGoから呼び出すためのGoコードを生成します。

C/C++におけるconstキーワード

C/C++におけるconstキーワードは、「定数」を意味し、変数の値が変更されないことをコンパイラに保証するために使用されます。ポインタ型に適用される場合、constは以下のいずれかを意味します。

  • ポインタが指す値が定数である: const int *p; (pが指すintは変更不可)
  • ポインタ自体が定数である: int *const p; (pは別のintを指すように変更不可)
  • 両方が定数である: const int *const p; (pが指すintも、p自体も変更不可)

constを使用することで、コンパイラはコードの安全性を高め、意図しない変更を防ぐことができます。また、最適化のヒントとしても利用されます。

C/C++におけるvolatileキーワード

volatileキーワードは、変数がプログラムの通常の制御フロー外で変更される可能性があることをコンパイラに伝えます。例えば、メモリマップドI/Oレジスタや、複数のスレッドによって共有される変数などに使用されます。volatileが指定された変数へのアクセスは、コンパイラによって最適化(例えば、レジスタへのキャッシュや読み込みの省略)されるべきではないことを意味します。

ポインタ型と型キャスト

C言語において、ポインタはメモリ上のアドレスを保持する変数です。型キャストは、あるデータ型を別のデータ型に明示的に変換する操作です。void*(voidポインタ)は、任意の型のデータを指すことができる汎用ポインタ型です。void*へのキャストは、型情報を一時的に「消去」する効果があり、異なるポインタ型間の代入や関数呼び出しにおける型不一致の警告を抑制するためによく使用されます。ただし、void*から元の型に戻す際には、適切な型へのキャストが必要です。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、cgoがGoの関数型をCの関数プロトタイプに変換する際の、ポインタ型引数の扱いに関するものです。

Go言語の関数は、C言語の関数を呼び出す際に、引数をCの適切な型に変換する必要があります。この変換において、Goの型システムにはCのconstvolatileといった型修飾子に直接対応する概念がないため、cgoが生成するCコードではこれらの修飾子が省略されることがありました。

具体的には、cgoはGoの関数型(n.FuncType)のパラメータ(n.FuncType.Params)をループ処理し、それぞれのパラメータに対応するCの型を生成します。問題は、Goの型がCのポインタ型に変換される際に、元のC関数がconstvolatileで修飾されたポインタを期待していたとしても、cgoが生成するCコードではその修飾子が失われる点にありました。

このコミットでは、この問題を解決するために、生成されるCコードにおいて、ポインタ型の引数に対して明示的に(void*)へのキャストを挿入する変更が加えられました。

変更前のコードでは、Goのパラメータa->p%dがそのままCの関数に渡されていました。変更後では、もしパラメータがポインタ型(Cの型文字列の末尾が*であることで判断)であれば、fmt.Fprintf(fgcc, "(void*)")によって(void*)というキャストが追加されます。これにより、例えばchar*が期待される引数に対してconst char*が渡された場合でも、間にvoid*を挟むことで型不一致の警告を抑制します。

このアプローチは、Cコンパイラが型修飾子の不一致による警告を発するのを防ぎます。void*は任意のポインタ型を受け入れるため、constvolatileの有無に関わらず、ポインタを渡すことが可能になります。ただし、コメントにもあるように「Eventually that will produce other warnings.」とあり、これはvoid*へのキャストが、本来の型安全性を損なう可能性や、将来的に別の型の警告を引き起こす可能性を示唆しています。これは、あくまでコンパイラ警告を抑制するための暫定的な解決策であり、根本的な型システムの違いを吸収するものではないことを示唆しています。

コアとなるコードの変更箇所

変更はsrc/cmd/cgo/out.goファイルにあります。

--- a/src/cmd/cgo/out.go
+++ b/src/cmd/cgo/out.go
@@ -411,10 +411,20 @@ func (p *Package) writeOutputFunc(fgcc *os.File, n *Name) {
 		}
 	}
 	fmt.Fprintf(fgcc, "%s(", n.C)
-	for i := range n.FuncType.Params {
+	for i, t := range n.FuncType.Params {
 		if i > 0 {
 			fmt.Fprintf(fgcc, ", ")
 		}
+		// We know the type params are correct, because
+		// the Go equivalents had good type params.
+		// However, our version of the type omits the magic
+		// words const and volatile, which can provoke
+		// C compiler warnings.  Silence them by casting
+		// all pointers to void*.  (Eventually that will produce
+		// other warnings.)
+		if c := t.C.String(); c[len(c)-1] == '*' {
+			fmt.Fprintf(fgcc, "(void*)")
+		}
 		fmt.Fprintf(fgcc, "a->p%d", i)
 	}
 	fmt.Fprintf(fgcc, ");\n")

コアとなるコードの解説

変更の中心は、writeOutputFunc関数内のGoの関数パラメータをCの関数呼び出しに変換するループ部分です。

	for i, t := range n.FuncType.Params {
		if i > 0 {
			fmt.Fprintf(fgcc, ", ")
		}
		// We know the type params are correct, because
		// the Go equivalents had good type params.
		// However, our version of the type omits the magic
		// words const and volatile, which can provoke
		// C compiler warnings.  Silence them by casting
		// all pointers to void*.  (Eventually that will produce
		// other warnings.)
		if c := t.C.String(); c[len(c)-1] == '*' {
			fmt.Fprintf(fgcc, "(void*)")
		}
		fmt.Fprintf(fgcc, "a->p%d", i)
	}
  1. for i, t := range n.FuncType.Params: このループは、Goの関数型n.FuncTypeの各パラメータを反復処理します。iはパラメータのインデックス、tはパラメータの型情報を含みます。
  2. if i > 0 { fmt.Fprintf(fgcc, ", ") }: 最初のパラメータ以外の場合、Cの関数呼び出しの引数間にカンマとスペースを挿入します。
  3. if c := t.C.String(); c[len(c)-1] == '*': ここが変更の核心部分です。
    • t.C.String(): パラメータtに対応するCの型表現を文字列として取得します。
    • c[len(c)-1] == '*': 取得したCの型文字列の最後の文字が*であるかどうかをチェックします。これは、その型がポインタ型であることの簡易的な判定方法です。
  4. fmt.Fprintf(fgcc, "(void*)"): もし型がポインタ型であると判定された場合、生成されるCコードに明示的な(void*)キャストを挿入します。これにより、後続の引数a->p%dがCの関数に渡される際に、型修飾子(const, volatileなど)の不一致による警告が抑制されます。
  5. fmt.Fprintf(fgcc, "a->p%d", i): 最後に、Goの引数a->p%dp%dcgoが生成するGoの引数に対応するCの変数名)をCの関数呼び出しに挿入します。

この変更により、cgoが生成するCコードは、ポインタ引数に対してより寛容になり、Cコンパイラからの不必要な警告を減らすことができます。

関連リンク

  • Go CL 5786047: https://golang.org/cl/5786047
  • コミットメッセージに記載されている Fixes #3152 については、現在のGoプロジェクトのIssueトラッカーではこのコミットに関連する明確な情報を見つけることができませんでした。これは、古いIssueトラッキングシステムを参照しているか、またはIssueが移動・クローズされた可能性があります。

参考にした情報源リンク

  • Go言語公式ドキュメント: cgo (GoとCの相互運用性に関する一般的な情報)
  • C言語のconstおよびvolatileキーワードに関する一般的な情報源 (例: C標準、Cプログラミングに関する書籍やオンラインリソース)
  • C言語のポインタと型キャストに関する一般的な情報源 (例: Cプログラミングに関する書籍やオンラインリソース)