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[インデックス 12510] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステムの中核をなす src/pkg/go/build/build.go ファイルに対する変更です。go/build パッケージは、Goのソースコードを解析し、パッケージの依存関係を解決し、ビルドに必要なファイルのリストを決定する役割を担っています。具体的には、Goのソースファイル、Cソースファイル、アセンブリファイル、そしてシステム固有のオブジェクトファイル(.syso)などを識別し、適切な処理を行うためのロジックが含まれています。このファイルは、go build コマンドが内部的に利用する重要なコンポーネントです。

コミット

このコミットは、Go言語のビルドシステムにおいて、.syso ファイル(システム固有のオブジェクトファイル)を解析対象から除外する変更を導入しています。これにより、ビルドプロセスが.sysoファイルを不必要に解析しようとすることを防ぎ、ビルドの効率性と正確性を向上させます。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/2b8a7adde89066f8e52228ee3a0242c5b7c33af8

元コミット内容

go/build: do not parse .syso files

R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5786049

変更の背景

この変更の背景には、Go言語のビルドシステムが.sysoファイルをどのように扱うべきかという設計上の考慮があります。.sysoファイルは、通常、特定のオペレーティングシステムやアーキテクチャ向けに事前にコンパイルされたオブジェクトファイル(アセンブリコードやC/C++コードから生成されたバイナリ)です。これらは、Goのソースコードとは異なり、テキストベースの解析を必要としません。

Goのビルドシステムは、ソースファイルを解析して依存関係を解決し、コンパイルの準備をします。しかし、.sysoファイルは既にコンパイル済みのバイナリ形式であるため、Goのパーサーがこれを解析しようとすることは無意味であり、場合によってはエラーを引き起こす可能性もあります。

このコミット以前は、go/buildパッケージが.sysoファイルを検出した際に、そのファイルをp.SysoFilesリストに追加する処理は正しかったものの、その後の処理フローで不必要に解析を試みる可能性がありました。この変更は、.sysoファイルが検出された直後にcontinueステートメントを追加することで、その後の一般的なファイル解析ロジックをスキップし、ビルドプロセスが.sysoファイルを適切に処理(つまり、解析せずにリンカに渡す準備をする)ように修正しています。これにより、ビルドの効率が向上し、不必要な処理による潜在的な問題が回避されます。

前提知識の解説

Go言語のビルドシステム

Go言語のビルドシステムは、go buildコマンドを中心に機能します。このシステムは、ソースコードをコンパイルして実行可能なバイナリを生成する一連のプロセスを自動化します。主なステップは以下の通りです。

  1. パッケージの発見と解決: go/buildパッケージが、指定されたパスや現在のディレクトリからGoパッケージを特定し、そのパッケージが依存する他のパッケージを解決します。
  2. ソースファイルの識別: 各パッケージ内で、Goソースファイル(.go)、Cソースファイル(.c)、アセンブリファイル(.s)、そしてシステム固有のオブジェクトファイル(.syso)など、ビルドに必要なファイルを識別します。
  3. コンパイル: GoソースファイルはGoコンパイラによってコンパイルされ、オブジェクトファイルが生成されます。Cやアセンブリファイルは、Cコンパイラ(通常はGCCやClang)やアセンブラによってコンパイルされます。
  4. リンク: 生成されたすべてのオブジェクトファイルと、必要なライブラリ(標準ライブラリや外部ライブラリ)がリンカによって結合され、最終的な実行可能バイナリが作成されます。

.sysoファイル

.sysoファイルは、Go言語のビルドプロセスにおいて、特定のシステムコールやアセンブリコードをGoプログラムにリンクするために使用される特殊なオブジェクトファイルです。特にWindows環境でよく見られますが、他のOSでも使用されることがあります。

  • 目的: Go言語自体では直接アクセスできない低レベルのOS機能(例: Windows APIの特定の関数)や、パフォーマンスが重要なアセンブリ最適化されたコードをGoプログラムに組み込むために利用されます。
  • 生成方法: 通常、C/C++のソースコードやアセンブリコードを、Cコンパイラ(例: gcc -c -o foo.syso foo.c)やアセンブラでコンパイルすることで生成されます。
  • ビルドプロセスでの扱い: go buildコマンドは、.sysoファイルを検出すると、それをGoのコンパイラで解析するのではなく、リンカに直接渡します。リンカは、これらの.sysoファイルに含まれるバイナリコードを、Goコンパイラが生成したオブジェクトファイルと結合して最終的な実行可能ファイルを生成します。

go/buildパッケージ

go/buildパッケージは、Goの標準ライブラリの一部であり、Goのビルドシステムの中核をなす機能を提供します。主な機能は以下の通りです。

  • パッケージの検索と解析: 指定されたディレクトリやGOPATHからGoパッケージを検索し、その構造(ソースファイル、依存関係など)を解析します。
  • ビルドタグの処理: // +buildディレクティブなどのビルドタグを解釈し、現在のビルド環境(OS、アーキテクチャなど)に基づいてどのファイルをビルドに含めるかを決定します。
  • ファイルタイプの識別: .go, .c, .s, .sysoなど、様々なファイルタイプを識別し、それぞれを適切に処理するための情報を提供します。
  • Context構造体: ビルド環境に関する情報(GOPATH、OS、アーキテクチャなど)をカプセル化し、ビルドプロセス全体で利用できるようにします。

このコミットで変更されたbuild.goファイルは、このgo/buildパッケージの一部であり、特にパッケージ内のファイルをスキャンし、そのタイプに基づいて分類するロジックを担当しています。

技術的詳細

変更が加えられたsrc/pkg/go/build/build.goファイル内の関連箇所は、Package.initメソッド(またはそれに相当するファイルスキャンロジック)の一部です。このセクションでは、ディレクトリ内の各ファイルをループ処理し、その拡張子に基づいてファイルタイプを識別しています。

元のコードでは、.sysoファイルが検出された場合、そのファイル名をp.SysoFilesリストに追加していました。これは正しい処理ですが、その後のswitch文のdefaultケースに到達し、continueによって次のファイルに進むという流れでした。しかし、このdefaultケースは他の未知のファイルタイプもスキップするため、.sysoファイルに対する明示的な処理フローとしてはやや曖昧でした。

今回の変更は、.sysoファイルがcase ".syso":で識別された直後にcontinueステートメントを明示的に追加することで、このファイルタイプに対する処理をより明確にしています。これにより、.sysoファイルはp.SysoFilesに追加された後、すぐに次のファイルの処理に移り、不必要な追加の解析ロジックが適用されることを確実に防ぎます。これは、コードの意図を明確にし、将来的な変更やデバッグの際に.sysoファイルの扱いを理解しやすくする効果もあります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/go/build/build.go
+++ b/src/pkg/go/build/build.go
@@ -483,6 +483,7 @@ Found:
 			// Likely of the form foo_windows.syso, but
 			// the name was vetted above with goodOSArchFile.
 			p.SysoFiles = append(p.SysoFiles, name)
+\t\t\tcontinue
 		default:
 			// skip
 			continue

コアとなるコードの解説

変更はsrc/pkg/go/build/build.goファイルの483行目付近にあります。

このコードスニペットは、Goのビルドシステムがパッケージ内のファイルをスキャンし、その種類を識別するswitch文の一部です。

  • case ".syso":
    • このケースは、現在処理しているファイルが.syso拡張子を持つ場合に実行されます。
    • p.SysoFiles = append(p.SysoFiles, name): 検出された.sysoファイルの名前(name)を、現在のパッケージ構造体pSysoFilesスライスに追加します。このスライスは、ビルド時にリンカに渡される.sysoファイルのリストを保持します。
    • continue: このコミットで追加された行です。 このcontinueステートメントは、現在のループの残りの処理をスキップし、すぐに次のファイルの処理に移ることを指示します。これにより、.sysoファイルがp.SysoFilesに追加された後、それ以上このファイルに対して解析やその他の処理を試みることなく、次のファイルのスキャンに進むことが保証されます。

この変更により、.sysoファイルは正しく識別され、必要なリストに追加される一方で、Goのパーサーによる不必要な解析が完全に回避されます。これは、.sysoファイルが既にコンパイル済みのバイナリであるという性質を考慮した、より堅牢で効率的なビルドロジックを実現します。

関連リンク

参考にした情報源リンク