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[インデックス 12707] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステムにおいて、runtimeパッケージのテスト実行時のタイムアウト時間を延長するものです。特に、過熱状態にあるLinux/ARMアーキテクチャのビルド環境でのビルド失敗を解消することを目的としています。

コミット

commit 2ceb653b8b2745879d3da6c9d0829ac942fb00da
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Wed Mar 21 16:19:37 2012 +0800

    build: lengthen timeout for the lengthy runtime test
            To fix build on (overheated) Linux/ARM builder.
    
    R=golang-dev, dave
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5865051

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/2ceb653b8b2745879d3da6c9d0829ac942fb00da

元コミット内容

build: lengthen timeout for the lengthy runtime test
        To fix build on (overheated) Linux/ARM builder.

変更の背景

Go言語のような大規模なプロジェクトでは、様々なアーキテクチャや環境でコードが正しく動作することを保証するために、継続的インテグレーション(CI)システムが不可欠です。CIシステムは、コードがコミットされるたびに自動的にビルドとテストを実行し、問題がないかを確認します。

このコミットの背景には、GoプロジェクトのCIシステムで使用されているLinux/ARMアーキテクチャのビルドマシンが「過熱状態(overheated)」になるという特定の問題がありました。過熱状態のハードウェアは、パフォーマンスが低下し、処理速度が遅くなる傾向があります。

runtimeパッケージのテストは、Go言語のランタイムのコア機能(スケジューラ、ガベージコレクタ、並行処理など)を検証するため、非常に計算負荷が高く、実行に時間がかかることが知られています。通常、これらのテストには一定のタイムアウトが設定されており、その時間内に完了しない場合はテストが失敗とみなされます。

過熱状態のLinux/ARMビルドマシンでは、パフォーマンスの低下により、runtimeパッケージのテストが通常の120秒のタイムアウト時間内に完了できず、CIビルドが失敗するという問題が発生していました。このコミットは、この特定の環境でのビルドの安定性を確保するために、テストのタイムアウト時間を延長することで、この問題を解決しようとするものです。

前提知識の解説

  • go test: Go言語の標準的なテストコマンドです。Goのテストフレームワークは、_test.goで終わるファイルに書かれたテスト関数を自動的に発見し、実行します。
  • -shortフラグ: go testコマンドのオプションで、テストの実行時間を短縮するために使用されます。通常、時間のかかるテストをスキップしたり、テストのイテレーション回数を減らしたりする際に利用されます。CI環境では、全体のビルド時間を短縮するために-shortがよく使われます。
  • -timeoutフラグ: go testコマンドのオプションで、テスト全体の実行時間に対するタイムアウトを設定します。指定された時間内にテストが完了しない場合、テストプロセスは強制終了され、失敗とみなされます。単位は秒(s)、分(m)、時間(h)などで指定できます。
  • GOMAXPROCS環境変数: Go言語のランタイムが同時に使用できるOSスレッドの最大数を制御する環境変数です。デフォルトでは、利用可能なCPUコア数に設定されます。この値が小さいほど、Goランタイムはより少ないOSスレッドで動作し、並行処理の挙動が変わる可能性があります。テストにおいて特定の並行処理シナリオをシミュレートするために設定されることがあります。
  • -cpuフラグ: go testコマンドのオプションで、テストを特定のGOMAXPROCS値で実行するように指定します。複数の値をカンマ区切りで指定すると、それぞれのGOMAXPROCS値でテストが実行されます。これは、異なる並行処理レベルでのテストの挙動を確認するのに役立ちます。
  • ビルド環境/CI (Continuous Integration): ソフトウェア開発において、開発者がコードの変更を共有リポジトリに頻繁に統合し、そのたびに自動的にビルドとテストを実行するプラクティスです。これにより、統合の問題を早期に発見し、品質を維持できます。ビルド環境は、特定のOSやハードウェア(例: Linux/ARM)で構成されます。

技術的詳細

このコミットの技術的な変更は非常にシンプルですが、その影響は重要です。変更はsrc/run.bashというシェルスクリプトファイルに対して行われています。このスクリプトは、Goプロジェクトのテストスイートの一部として、特定のテストコマンドを実行するために使用されていると考えられます。

具体的には、以下の行が変更されました。

変更前: GOMAXPROCS=2 go test runtime -short -timeout=120s -cpu=1,2,4

変更後: GOMAXPROCS=2 go test runtime -short -timeout=240s -cpu=1,2,4

この変更は、runtimeパッケージのテスト実行時に設定されるタイムアウト値を、従来の120秒から240秒へと倍増させています。

  • GOMAXPROCS=2: このテストは、Goランタイムが最大2つのOSスレッドを使用するように制限された環境で実行されます。これは、特定の並行処理シナリオやリソース制約下でのランタイムの挙動をテストするためです。
  • go test runtime: runtimeパッケージのテストを実行することを指定しています。
  • -short: テストの実行時間を短縮するオプションが引き続き適用されています。これは、テストがそれでもなお時間がかかることを示唆しています。
  • -timeout=240s: 最も重要な変更点です。テストが240秒(4分)以内に完了しない場合、強制的に終了されます。これにより、過熱状態のARMビルドマシンでテストが完了する可能性が高まります。
  • -cpu=1,2,4: このテストは、GOMAXPROCSが1、2、4のそれぞれの場合で実行されます。これは、異なるCPUコア数でのランタイムのスケジューリングや並行処理の挙動を検証するためです。

この変更は、テストのロジック自体には一切手を加えていません。単に、特定の環境でテストが完了するための「猶予時間」を増やしただけです。これは、テストが失敗する根本原因(過熱によるパフォーマンス低下)を直接解決するものではなく、その影響を緩和するための対症療法的なアプローチと言えます。しかし、CIの安定性を確保し、開発者がビルドの失敗に煩わされることなく作業を進めるためには、このような調整が必要となる場合があります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/run.bash
+++ b/src/run.bash
@@ -29,7 +29,7 @@ time go test std -short -timeout=120s
 echo
 
 echo '# GOMAXPROCS=2 runtime -cpu=1,2,4'
-GOMAXPROCS=2 go test runtime -short -timeout=120s -cpu=1,2,4
+GOMAXPROCS=2 go test runtime -short -timeout=240s -cpu=1,2,4
 echo
 
 echo '# sync -cpu=10'

コアとなるコードの解説

上記の差分は、src/run.bashファイル内の1行の変更を示しています。

  • -で始まる行 (-GOMAXPROCS=2 go test runtime -short -timeout=120s -cpu=1,2,4) は、削除された元の行です。
  • +で始まる行 (+GOMAXPROCS=2 go test runtime -short -timeout=240s -cpu=1,2,4) は、追加された新しい行です。

この変更により、runtimeパッケージのテストを実行する際のgo testコマンドに渡される-timeoutフラグの値が120s(120秒)から240s(240秒)に変更されました。他の引数(GOMAXPROCS=2, runtime, -short, -cpu=1,2,4)は変更されていません。

これは、特定のテスト(runtimeパッケージのテストで、GOMAXPROCS=2および-cpu=1,2,4の条件下で実行されるもの)が、以前は120秒のタイムアウトで実行されていたのに対し、この変更後は240秒のタイムアウトで実行されるようになったことを意味します。これにより、過熱状態のLinux/ARMビルドマシンなど、パフォーマンスが低下している環境でも、このテストがタイムアウトせずに完了する可能性が高まります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント(go testコマンドに関する情報)
  • 継続的インテグレーション (CI) に関する一般的な知識
  • Linux/ARMアーキテクチャおよびハードウェアの過熱に関する一般的な知識
  • Go言語のGOMAXPROCS環境変数に関する一般的な知識