[インデックス 12733] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の公式ドキュメントの一部である doc/articles/defer_panic_recover.html ファイルに対する修正です。このHTMLファイルは、Go言語における defer、panic、recover という重要な制御フローメカニズムについて解説しています。このドキュメントは、これらの機能がどのように動作し、Goプログラムでエラーハンドリングやリソース管理にどのように利用されるかを説明することを目的としています。
コミット
- コミットハッシュ:
76cf6bac07a8188d99788d76a12774d0f9f5e3ec - Author: Rob Pike r@golang.org
- Date: Fri Mar 23 17:40:27 2012 +1100
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/76cf6bac07a8188d99788d76a12774d0f9f5e3ec
元コミット内容
doc/articles/defer_panic_recover.html: minor tweaks
Delete () from function names and change the reference to some
functions to the correct term, methods.
R=golang-dev, dsymonds
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/5874063
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語の公式ドキュメントの正確性と一貫性を向上させるという目的があります。具体的には、以下の2つの主要な点が挙げられます。
- 関数名の表記の統一: Go言語のドキュメントやコード例では、関数名を記述する際に通常、括弧
()を付けません。例えば、fmt.Println()ではなくfmt.Printlnと記述するのが一般的です。このコミットは、ドキュメント内でsrc.Close()のように括弧が付いていた箇所から括弧を削除し、表記の統一を図っています。これにより、読者がGoの慣習に沿った正しい表記を学ぶことができます。 - 「関数」と「メソッド」の区別の明確化: Go言語には「関数 (function)」と「メソッド (method)」という2つの異なる種類のサブルーチンがあります。メソッドは特定の型に関連付けられた関数であり、レシーバ引数を持ちます。コミットメッセージにあるように、ドキュメント内で「関数」と記述されていた箇所が、実際には型に紐づく「メソッド」を指していたため、これを「メソッド」というより正確な用語に修正しています。これにより、Goの型システムとオブジェクト指向的な側面に関する読者の理解を深めることを意図しています。特に
encoding/jsonパッケージのdecodeState型のerrorおよびunmarshalはメソッドであるため、そのように修正されています。
これらの変更は、ドキュメントの品質を向上させ、Go言語の概念をより正確に伝えるための「マイナーな調整 (minor tweaks)」として行われました。
前提知識の解説
このコミットの変更内容を理解するためには、以下のGo言語の概念について理解しておく必要があります。
1. defer ステートメント
defer ステートメントは、そのステートメントを含む関数がリターンする直前に、指定された関数呼び出し(またはメソッド呼び出し)を実行することを保証します。これは、リソースの解放(ファイルのクローズ、ミューテックスのアンロック、データベース接続のクローズなど)を確実に行うために非常に便利です。
- 実行タイミング:
deferされた関数は、周囲の関数がreturnステートメントによって正常に終了するか、panicによって異常終了するかにかかわらず、常に実行されます。 - 引数の評価:
deferステートメントの引数(関数呼び出しの引数)は、deferステートメントが実行された時点で評価されます。 - スタック: 複数の
deferステートメントがある場合、それらはLIFO (Last-In, First-Out) の順序で実行されます。つまり、最後にdeferされたものが最初に実行されます。
2. panic と recover
panic と recover は、Go言語における例外処理に似たメカニズムを提供しますが、一般的な例外処理とは異なる哲学を持っています。Goでは、通常のエラーは多値リターン(value, err)で処理することが推奨されており、panic はプログラムの回復不可能なエラー(例: 配列の範囲外アクセス、nilポインタ参照)や、プログラムが続行できないような予期せぬ状況で使用されます。
panic:panicは、現在の関数の実行を停止し、その関数のdeferされた関数をすべて実行した後、呼び出し元の関数に制御を移します。このプロセスは、recoverが呼び出されるか、プログラムがクラッシュするまで、コールスタックを遡って続行されます。recover:recoverは、deferされた関数内でのみ有効です。recoverが呼び出されると、panicのシーケンスが停止し、recoverを呼び出した関数が通常の実行を再開します。recoverはpanicの引数(panicに渡された値)を返します。panic状態でないときにrecoverを呼び出すと、nilが返されます。
panic と recover は、主に以下のシナリオで使用されます。
* 回復不可能なエラー: プログラムが続行できないような致命的なエラー。
* ライブラリの内部エラー: ライブラリが内部で panic を発生させ、その panic をトップレベルで recover して、よりユーザーフレンドリーなエラー(error 型)に変換する場合。encoding/json パッケージのデコーダがその典型的な例です。
3. Goにおける関数とメソッド
Go言語では、「関数」と「メソッド」は異なる概念です。
-
関数 (Function):
- 独立したコードブロックであり、特定の型に関連付けられていません。
func 関数名(引数リスト) 戻り値リスト { ... }の形式で定義されます。- 例:
func add(a, b int) int { return a + b }
-
メソッド (Method):
- 特定の「レシーバ」型に関連付けられた関数です。レシーバは、メソッドが操作するインスタンスを指します。
func (レシーバ変数 レシーバ型) メソッド名(引数リスト) 戻り値リスト { ... }の形式で定義されます。- レシーバは値レシーバ (
(t MyType)) またはポインタレシーバ ((t *MyType)) のいずれかです。 - 例:
type MyInt int; func (m MyInt) double() MyInt { return m * 2 } - メソッドは、オブジェクト指向プログラミングにおけるクラスのメソッドに似た機能を提供します。
このコミットでは、encoding/json パッケージの decodeState 型の error および unmarshal が、実際には decodeState 型に紐づくメソッドであるにもかかわらず、「関数」と誤って記述されていた箇所を「メソッド」に修正しています。
技術的詳細
このコミットは、doc/articles/defer_panic_recover.html ファイル内のテキストコンテンツに対して、以下の2種類の修正を行っています。
-
関数呼び出しの括弧の削除:
src.Close()という記述から括弧()が削除され、src.Closeとなりました。これは、Go言語のドキュメントや一般的な慣習において、関数やメソッドの名前を単に参照する際には括弧を付けないというスタイルに合わせたものです。括弧は実際にその関数やメソッドを呼び出すときにのみ使用されます。- 同様に、
file.Close()の例もfile.Closeに修正されています。
-
「関数」から「メソッド」への用語の修正:
encoding/jsonパッケージのdecode.goファイル内で定義されているerrorおよびunmarshalについて言及している箇所で、「errorおよびunmarshal関数」という記述が「errorおよびunmarshalメソッド」に修正されました。- これは、
encoding/jsonパッケージの内部実装において、これらのerrorおよびunmarshalはdecodeStateという構造体型に紐づくメソッドとして定義されているためです。Go言語では、特定の型に紐づくサブルーチンは「メソッド」と呼ばれ、独立したサブルーチンは「関数」と呼ばれます。この修正により、Go言語の型システムとメソッドの概念に関する記述の正確性が向上しました。
これらの変更は、HTMLドキュメントの可読性と技術的な正確性を高めることを目的としています。特に、Go言語の初心者にとっては、正しい用語と表記法を学ぶ上で重要な修正となります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/doc/articles/defer_panic_recover.html
+++ b/doc/articles/defer_panic_recover.html
@@ -25,7 +25,7 @@ contents of one file to the other:
<p>
This works, but there is a bug. If the call to os.Create fails, the
function will return without closing the source file. This can be easily
-remedied by putting a call to src.Close() before the second return statement,
+remedied by putting a call to src.Close before the second return statement,
but if the function were more complex the problem might not be so easily
noticed and resolved. By introducing defer statements we can ensure that the
files are always closed:
@@ -160,7 +160,8 @@ For a real-world example of <b>panic</b> and <b>recover</b>, see the
It decodes JSON-encoded data with a set of recursive functions.
When malformed JSON is encountered, the parser calls panic to unwind the
stack to the top-level function call, which recovers from the panic and returns
-an appropriate error value (see the 'error' and 'unmarshal' functions in
+an appropriate error value (see the 'error' and 'unmarshal' methods of
+the decodeState type in
<a href="/src/pkg/encoding/json/decode.go">decode.go</a>).
</p>
@@ -170,7 +171,7 @@ internally, its external API still presents explicit error return values.
</p>
<p>
-Other uses of <b>defer</b> (beyond the file.Close() example given earlier)\n+Other uses of <b>defer</b> (beyond the file.Close example given earlier)\n include releasing a mutex:\n </p>
コアとなるコードの解説
上記のdiffは、doc/articles/defer_panic_recover.html ファイルに対する具体的な変更を示しています。
-
src.Close()からsrc.Closeへの変更:-remedied by putting a call to src.Close() before the second return statement,+remedied by putting a call to src.Close before the second return statement,- この変更は、
deferステートメントの例でsrc.Close()という関数呼び出しの表記から括弧()を削除しています。これは、Go言語のドキュメントにおける関数名の参照方法の慣習に合わせたものです。ここではsrc.Closeという関数(またはメソッド)自体を参照しており、実際に呼び出しているわけではないため、括弧は不要です。
-
'error' and 'unmarshal' functionsから'error' and 'unmarshal' methods of the decodeState typeへの変更:-an appropriate error value (see the 'error' and 'unmarshal' functions in+an appropriate error value (see the 'error' and 'unmarshal' methods of+the decodeState type in- この変更は、
encoding/jsonパッケージのdecode.go内のerrorとunmarshalが、実際にはdecodeState型の「メソッド」であることを明確にしています。元の記述では「関数」とされていましたが、Goの文脈では型に紐づくものは「メソッド」と呼ぶのが正確です。この修正により、Goの型システムとメソッドの概念に関する記述の正確性が向上し、読者がGoのオブジェクト指向的な側面をより正確に理解できるようになります。
-
file.Close()からfile.Closeへの変更:-Other uses of <b>defer</b> (beyond the file.Close() example given earlier)+Other uses of <b>defer</b> (beyond the file.Close example given earlier)- これも
src.Close()の変更と同様に、file.Close()という関数呼び出しの表記から括弧()を削除しています。deferの他の使用例を説明する際に、file.Closeという関数(またはメソッド)自体を参照しているため、括弧は不要です。
これらの変更はすべて、Go言語のドキュメントの正確性、一貫性、および読者の理解を深めることを目的とした、細部の調整です。
関連リンク
- Go言語公式ドキュメント: https://go.dev/doc/
- A Tour of Go (Defer, Panic, and Recover): https://go.dev/tour/flowcontrol/12
- Effective Go (Defer): https://go.dev/doc/effective_go#defer
- Effective Go (Errors): https://go.dev/doc/effective_go#errors
- Go by Example (Defer): https://gobyexample.com/defer
- Go by Example (Panic): https://gobyexample.com/panic
- Go by Example (Recover): https://gobyexample.com/recover
- Go言語における関数とメソッドの違い: https://go.dev/doc/effective_go#methods
encoding/jsonパッケージのソースコード (decode.go): https://go.dev/src/encoding/json/decode.go
参考にした情報源リンク
- GitHub上のコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/76cf6bac07a8188d99788d76a12774d0f9f5e3ec
- Go言語の公式ドキュメント (
defer_panic_recover.htmlの現在のバージョン): https://go.dev/doc/articles/defer_panic_recover.html - Go言語の公式ドキュメント (
encoding/jsonパッケージ): https://go.dev/pkg/encoding/json/ - Go言語の関数とメソッドに関する一般的な情報源 (例: Go by Example, Effective Goなど)