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[インデックス 1280] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のツールチェーンにおけるarコマンドの挙動に関する変更です。具体的には、C言語およびアセンブリ言語のオブジェクトファイルにおいて、パッケージインポートセクションが存在しないことに対する警告を抑制するものです。

コミット

このコミットは、Go言語のar(アーカイバ)ツールが、C言語およびアセンブリ言語で書かれたオブジェクトファイル内に「パッケージインポートセクション」が見つからない場合に表示していた警告メッセージを削除します。これは、これらの種類のオブジェクトファイルでは、パッケージインポートセクションが合法的に存在しない場合があるため、不必要な警告を避けるための変更です。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/afa64240780505451cc1265948f048c231725bf3

元コミット内容

commit afa64240780505451cc1265948f048c231725bf3
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Thu Dec 4 14:59:38 2008 -0800

    don't warn anymore about missing imports
    (happens legitimately in c and assembly objects).
    
    R=r
    DELTA=1  (0 added, 0 deleted, 1 changed)
    OCL=20497
    CL=20499
---
 src/cmd/ar/ar.c | 2 +--
 1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)

diff --git a/src/cmd/ar/ar.c b/src/cmd/ar/ar.c
index 7c4b7fc504..05f4b6d652 100644
--- a/src/cmd/ar/ar.c
+++ b/src/cmd/ar/ar.c
@@ -670,7 +670,7 @@ scanpkg(Biobuf *b, long size)\n 			continue;\n 		goto foundstart;\n 	}\n-	fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);\n+	// fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);\n 	return;\n 
 foundstart:\n```

## 変更の背景

この変更の背景には、Go言語のビルドシステムがC言語やアセンブリ言語で書かれたコード(通常はCgoを通じてGoコードと連携する)を扱う際の特定の挙動があります。

Goのパッケージシステムは、コンパイルされたGoパッケージが他のパッケージをインポートする際に、その依存関係を追跡するために「パッケージインポートセクション」というメタデータを利用します。これは、Goのリンカが正しく依存関係を解決し、最終的なバイナリを生成するために不可欠な情報です。

しかし、C言語やアセンブリ言語で書かれたオブジェクトファイルは、Goのパッケージシステムとは異なるコンパイル・リンクプロセスを経ます。これらのファイルはGoのパッケージインポートセクションを持つことを想定されておらず、また必要としません。それにもかかわらず、Goの`ar`ツールがこれらのオブジェクトファイルを処理する際に、Goパッケージのオブジェクトファイルと同様にパッケージインポートセクションの存在をチェックし、見つからない場合に警告を発していました。

この警告は、C言語やアセンブリ言語のオブジェクトファイルにとっては「合法的な」状態であり、実際のビルドエラーや問題を示すものではありませんでした。そのため、開発者にとってノイズとなり、真に問題のある警告を見落とす原因となる可能性がありました。このコミットは、このような誤解を招く不必要な警告を抑制し、ビルドプロセスの出力をよりクリーンにすることを目的としています。

## 前提知識の解説

### `ar`コマンド

`ar`は「archiver」の略で、複数のファイルを単一のアーカイブファイル(ライブラリファイルとも呼ばれる)にまとめるために使用されるUnix系のコマンドラインユーティリティです。主に静的ライブラリ(`.a`ファイルなど)を作成する際に利用されます。静的ライブラリは、プログラムがコンパイルされる際に直接実行可能ファイルにリンクされるオブジェクトファイルの集合体です。Go言語のビルドシステムにおいても、コンパイルされたGoパッケージのオブジェクトファイルをまとめて静的ライブラリとして扱うために内部的に`ar`ツールが使用されることがあります。

### パッケージインポートセクション

Go言語のコンパイル済みパッケージ(`.a`ファイルや`.o`ファイル)には、そのパッケージがインポートしている他のGoパッケージに関するメタデータが含まれています。このメタデータは、Goのリンカが依存関係を解決し、必要なコードをリンクするために使用されます。この情報は、特定のセクション(例えば、ELF形式のオブジェクトファイルにおけるカスタムセクションなど)としてオブジェクトファイル内に埋め込まれています。このコミットで言及されている「パッケージインポートセクション」は、このメタデータが格納されている部分を指します。

### C言語およびアセンブリ言語のオブジェクトファイル

Go言語は、Cgoというメカニズムを通じてC言語のコードと連携することができます。また、パフォーマンスが重要な部分や特定のハードウェア機能にアクセスするために、アセンブリ言語で書かれたコードをGoプログラムに組み込むことも可能です。
これらのC言語やアセンブリ言語のソースコードは、それぞれのコンパイラ(例: GCC、Clang)やアセンブラによってコンパイルされ、Goのオブジェクトファイルとは異なる形式のオブジェクトファイル(通常は`.o`拡張子を持つ)が生成されます。これらのオブジェクトファイルは、Goのパッケージシステムとは独立してコンパイルされるため、Go特有の「パッケージインポートセクション」は含まれていません。

### ビルドシステムにおける警告

ソフトウェアのビルドプロセスでは、コンパイラやリンカ、その他のツールが、潜在的な問題や非推奨の機能使用などについて警告を発することがあります。警告は通常、ビルドを停止させるエラーとは異なり、ビルドは続行されますが、開発者に対して注意を促すものです。しかし、警告が頻繁に発生し、その多くが無視できるものである場合(「ノイズ」と呼ばれる)、本当に重要な警告が見過ごされるリスクが高まります。

## 技術的詳細

このコミットは、`src/cmd/ar/ar.c`ファイル内の`scanpkg`関数における警告メッセージの出力をコメントアウトすることで実装されています。

`scanpkg`関数は、`ar`ツールがアーカイブ内のオブジェクトファイルをスキャンする際に、Goパッケージのインポートセクションを探す役割を担っています。Goのオブジェクトファイルであれば、このセクションが存在することを期待します。しかし、C言語やアセンブリ言語のオブジェクトファイルの場合、このセクションは存在しません。

変更前のコードでは、`scanpkg`関数がパッケージインポートセクションを見つけられなかった場合に、以下の警告メッセージを標準エラー出力(`fprint(2, ...)`)に出力していました。

```c
fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);

この警告は、Goのパッケージシステムに準拠していないオブジェクトファイル(Cやアセンブリのオブジェクトファイルなど)をarが処理する際に、常に発生していました。これは、これらのファイルがGoのパッケージインポートセクションを持つことを意図していないため、誤った警告でした。

コミットによって、この行がコメントアウトされました。

// fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);

これにより、arツールは引き続きパッケージインポートセクションの有無をチェックしますが、見つからなかった場合でも警告メッセージを出力しなくなります。この変更は、arツールの機能性には影響を与えず、単に不必要な警告メッセージを抑制するものです。

この変更は、GoのビルドシステムがCgoやアセンブリコードをよりスムーズに統合できるようにするための、初期段階の改善の一つと見なすことができます。開発者は、Goのビルドプロセスにおいて、Go固有のメタデータを持たない外部のオブジェクトファイルが関与する場合でも、クリーンなビルド出力を得られるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/ar/ar.c
+++ b/src/cmd/ar/ar.c
@@ -670,7 +670,7 @@ scanpkg(Biobuf *b, long size)\n 			continue;\n 		goto foundstart;\n 	}\n-	fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);\n+	// fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);\n 	return;\n 
 foundstart:\n```

## コアとなるコードの解説

変更された行は、`src/cmd/ar/ar.c`ファイルの`scanpkg`関数内にあります。

元のコード:
```c
fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);

この行は、fprint関数を使用して、標準エラー出力(ファイルディスクリプタ2)に警告メッセージを出力していました。メッセージの内容は、「ar: warning: no package import section in [ファイル名]」という形式で、指定されたファイルにGoのパッケージインポートセクションが見つからなかったことを示していました。

変更後のコード:

// fprint(2, "ar: warning: no package import section in %s\\n", file);

この変更では、元の行の先頭に//を追加することで、C言語のコメントとしてこの行を無効化しています。これにより、scanpkg関数がパッケージインポートセクションを見つけられなかった場合でも、警告メッセージは出力されなくなります。コードのロジック自体(セクションの検索と、見つからなかった場合のreturn)は変更されていません。単に、その結果として表示されていた警告が抑制されただけです。

このシンプルな変更は、GoのビルドシステムがC言語やアセンブリ言語のオブジェクトファイルを扱う際の「ノイズ」を減らし、開発者の体験を向上させることを目的としています。

関連リンク

参考にした情報源リンク