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[インデックス 12803] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールであるgodocの内部実装における重要なリファクタリングを目的としています。具体的には、HTMLページを生成してHTTPレスポンスとして提供する中心的な関数であるservePageの引数リストを、位置引数(positional arguments)の羅列から、新しく定義された構造体(Page struct)を単一の引数として受け取る形式へと変更しています。これにより、関数の呼び出しがより明確になり、将来的な機能拡張が容易になるなど、コードの可読性と保守性が向上しています。

コミット

commit 5b5b42ea841a9aa20848fab4407e486c8eecd0aa
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Fri Mar 30 10:42:56 2012 -0700

    godoc: replace servePage's positional argument list
    
    R=golang-dev, adg, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/5869050

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/5b5b42ea841a9aa20848fab4407e486c8eecd0aa

元コミット内容

godoc: replace servePage's positional argument list

変更の背景

この変更の背景には、ソフトウェア開発における一般的な課題、特に「関数の引数が多くなった場合の管理」があります。

Go言語のgodocツールは、Goのソースコードからドキュメンテーションを生成し、Webブラウザを通じて提供する役割を担っています。このツールの中核機能の一つに、様々な種類のコンテンツ(コードウォーク、ディレクトリリスト、検索結果など)を統一されたHTMLページとして表示するためのservePage関数がありました。

変更前のservePage関数は、以下のようなシグネチャを持っていました。

func servePage(w http.ResponseWriter, tabtitle, title, subtitle, query string, content []byte)

この関数は、タブのタイトル、ページのメインタイトル、サブタイトル、検索クエリ、そしてページの主要なコンテンツ(バイトスライス)といった複数の情報を位置引数として受け取っていました。このような多数の位置引数を持つ関数には、いくつかの問題点があります。

  1. 可読性の低下: 呼び出し側で引数の意味を理解するために、関数の定義を常に参照する必要がありました。特に、同じ型(例: string)の引数が複数並ぶ場合、どの引数がどの意味を持つのかが直感的に分かりにくくなります。
  2. 引数の順序依存性: 引数の順序が厳密に定められているため、誤った順序で引数を渡すと、コンパイルエラーにはならなくても意図しない動作を引き起こす可能性がありました。
  3. 拡張性の低さ: 将来的に新しい情報をページに含める必要が生じた場合、servePage関数のシグネチャに新しい引数を追加しなければなりません。これは、その関数を呼び出しているすべての箇所(このコミットでは多数存在します)を修正する必要があることを意味し、大規模なリファクタリング作業を伴います。また、引数の数が増え続けると、上記の問題がさらに悪化します。

これらの問題を解決し、godocのコードベースの保守性と拡張性を向上させるために、servePage関数の引数を構造体でラップするリファクタリングが実施されました。これにより、引数の意味が明確になり、順序依存性がなくなり、新しいフィールドの追加が容易になります。

前提知識の解説

このコミットの変更内容を理解するためには、以下のGo言語およびWeb開発に関する基本的な知識が必要です。

  1. Go言語の関数と引数:

    • Go言語では、関数は特定のタスクを実行するコードブロックです。関数はゼロ個以上の引数を受け取り、ゼロ個以上の戻り値を返すことができます。
    • 引数は、関数に渡される値であり、関数の処理に利用されます。通常、引数はその型と名前で定義されます。
    • 位置引数: Go言語の関数呼び出しでは、引数は定義された順序で渡される必要があります。これが「位置引数」と呼ばれるものです。
  2. Go言語の構造体(Struct):

    • 構造体は、異なる型のフィールド(プロパティ)をまとめることができるユーザー定義の型です。
    • 関連するデータを一つの論理的な単位として扱うために使用されます。
    • 例: type Person struct { Name string; Age int }
    • 構造体リテラル: 構造体のインスタンスを作成する際に、Person{Name: "Alice", Age: 30}のようにフィールド名と値を指定して初期化できます。この形式では、フィールドの順序は重要ではありません。
  3. net/httpパッケージ:

    • Go言語の標準ライブラリに含まれる、HTTPクライアントおよびサーバーの実装を提供するパッケージです。
    • http.ResponseWriter: HTTPレスポンスを書き込むためのインターフェースです。これを通じて、HTTPヘッダーの設定やレスポンスボディの書き込みが行われます。
    • http.Request: 受信したHTTPリクエストに関する情報(URL、ヘッダー、メソッド、フォームデータなど)をカプセル化した構造体です。
  4. html/templateパッケージ:

    • Go言語の標準ライブラリに含まれる、HTMLテンプレートを安全に生成するためのパッケージです。
    • Webアプリケーションで動的なHTMLコンテンツを生成する際に利用されます。
    • テンプレートはプレースホルダー(例: {{.Title}})を含み、実行時にGoのデータ構造(構造体、マップなど)から値が埋め込まれます。
    • Executeメソッド: テンプレートにデータを適用し、結果をio.Writer(通常はhttp.ResponseWriter)に書き出します。
  5. godocツール:

    • Go言語の公式ドキュメンテーションツールです。
    • Goのソースコードからコメントや宣言を解析し、HTML形式でドキュメンテーションを生成します。
    • ローカルでHTTPサーバーとして起動し、ブラウザからドキュメンテーションを閲覧できます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、godocツール内でHTMLページをレンダリングする主要な関数であるservePageのインターフェースを、より堅牢で拡張性の高いものに変更した点にあります。

変更の具体的な内容は以下の通りです。

  1. Page構造体の導入: src/cmd/godoc/godoc.goに、HTMLページを構成する様々な要素をカプセル化するための新しい構造体Pageが定義されました。

    type Page struct {
        Title    string
        Tabtitle string
        Subtitle string
        Query    string
        Body     []byte
    
        // filled in by servePage
        SearchBox bool
        Version   string
    }
    
    • Title: ページのメインタイトル。
    • Tabtitle: ブラウザのタブに表示されるタイトル。
    • Subtitle: ページのサブタイトル。
    • Query: 検索クエリ(検索結果ページなどで使用)。
    • Body: ページの主要なHTMLコンテンツ(バイトスライス)。
    • SearchBox: 検索ボックスを表示するかどうかを示すフラグ。
    • Version: Goのランタイムバージョン情報。

    SearchBoxVersionフィールドは、servePage関数内で自動的に設定されることがコメントで示されています。

  2. servePage関数のシグネチャ変更: servePage関数のシグネチャが、複数の位置引数を受け取る形式から、単一のPage構造体を受け取る形式に変更されました。

    変更前:

    func servePage(w http.ResponseWriter, tabtitle, title, subtitle, query string, content []byte)
    

    変更後:

    func servePage(w http.ResponseWriter, page Page)
    
  3. servePage内部ロジックの更新: servePage関数内部では、引数として受け取ったPage構造体のフィールドを使用して、HTMLテンプレートにデータを渡すように変更されました。

    // 変更前: 匿名構造体を作成し、位置引数をフィールドにマッピング
    d := struct {
        Tabtitle  string
        Title     string
        Subtitle  string
        SearchBox bool
        Query     string
        Version   string
        Menu      []byte
        Content   []byte
    }{
        tabtitle,
        title,
        subtitle,
        *indexEnabled,
        query,
        runtime.Version(),
        nil,
        content,
    }
    if err := godocHTML.Execute(w, &d); err != nil { ... }
    
    // 変更後: 受け取ったPage構造体を直接使用し、一部フィールドを内部で設定
    if page.Tabtitle == "" {
        page.Tabtitle = page.Title
    }
    page.SearchBox = *indexEnabled
    page.Version = runtime.Version()
    if err := godocHTML.Execute(w, page); err != nil { ... }
    

    変更後では、page引数自体がテンプレートに渡されるデータとして機能します。これにより、コードが簡潔になり、Page構造体のフィールドとテンプレートのプレースホルダーが直接対応付けられるため、理解しやすくなります。

  4. servePage呼び出し箇所の更新: godocコードベース全体でservePageを呼び出しているすべての箇所が、新しいPage構造体リテラルを引数として渡すように修正されました。これにより、引数の意味が明確になり、コードの可読性が大幅に向上しました。

    変更前(例: codewalk.go:

    b := applyTemplate(codewalkHTML, "codewalk", cw)
    servePage(w, cw.Title, "Codewalk: "+cw.Title, "", "", b)
    

    変更後(例: codewalk.go:

    servePage(w, Page{
        Title:    "Codewalk: " + cw.Title,
        Tabtitle: cw.Title,
        Body:     applyTemplate(codewalkHTML, "codewalk", cw),
    })
    

    この変更により、引数の意味がフィールド名によって自己記述的になり、引数の順序を気にする必要がなくなりました。

  5. テンプレートの変更: lib/godoc/godoc.htmlテンプレート内で、コンテンツを表示するためのプレースホルダーが.Contentから.Bodyに変更されました。これは、Page構造体内の対応するフィールド名がContentからBodyに変更されたことに合わせて行われたものです。

    <!-- 変更前 -->
    {{/* Content is HTML-escaped elsewhere */}}
    {{printf "%s" .Content}}
    
    <!-- 変更後 -->
    {{/* Body is HTML-escaped elsewhere */}}
    {{printf "%s" .Body}}
    

このリファクタリングは、Go言語における「多数の引数を持つ関数を構造体でラップする」という一般的な設計パターンを適用したものであり、コードの品質と保守性を高める上で非常に有効な手段です。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットにおける主要なコード変更は、以下のファイルに集中しています。

  1. src/cmd/godoc/godoc.go:

    • Page構造体の定義が追加されました。
    • servePage関数のシグネチャが変更され、内部ロジックがPage構造体を使用するように更新されました。
    • serveHTMLDoc, serveTextFile, serveDirectory, ServeHTTP (docServer), search関数内のservePage呼び出しが、新しいPage構造体リテラルを使用するように変更されました。
  2. src/cmd/godoc/codewalk.go:

    • codewalk関数とcodewalkDir関数内のservePage呼び出しが、Page構造体リテラルを使用するように変更されました。
  3. src/cmd/godoc/main.go:

    • serveError関数内のservePage呼び出しが、Page構造体リテラルを使用するように変更されました。
  4. lib/godoc/godoc.html:

    • HTMLテンプレート内で、コンテンツを表示するプレースホルダーが{{.Content}}から{{.Body}}に変更されました。

具体的な変更例:

  • src/cmd/godoc/godoc.go (Page struct定義):

    --- a/src/cmd/godoc/godoc.go
    +++ b/src/cmd/godoc/godoc.go
    @@ -538,31 +538,26 @@ func readTemplates() {
     // ----------------------------------------------------------------------------
     // Generic HTML wrapper
    
    -func servePage(w http.ResponseWriter, tabtitle, title, subtitle, query string, content []byte) {
    -	if tabtitle == "" {
    -		tabtitle = title
    -	}
    -	d := struct {
    -		Tabtitle  string
    -		Title     string
    -		Subtitle  string
    -		SearchBox bool
    -		Query     string
    -		Version   string
    -		Menu      []byte
    -		Content   []byte
    -	}{
    -		tabtitle,
    -		title,
    -		subtitle,
    -		*indexEnabled,
    -		query,
    -		runtime.Version(),
    -		nil,
    -		content,
    -	}
    -
    -	if err := godocHTML.Execute(w, &d); err != nil {
    +// Page describes the contents of the top-level godoc webpage.
    +type Page struct {
    +	Title    string
    +	Tabtitle string
    +	Subtitle string
    +	Query    string
    +	Body     []byte
    +
    +	// filled in by servePage
    +	SearchBox bool
    +	Version   string
    +}
    +
    +func servePage(w http.ResponseWriter, page Page) {
    +	if page.Tabtitle == "" {
    +		page.Tabtitle = page.Title
    +	}
    +	page.SearchBox = *indexEnabled
    +	page.Version = runtime.Version()
    +	if err := godocHTML.Execute(w, page); err != nil {
     		log.Printf("godocHTML.Execute: %s", err)
     	}
     }
    
  • src/cmd/godoc/codewalk.go (呼び出し箇所の変更例):

    --- a/src/cmd/godoc/codewalk.go
    +++ b/src/cmd/godoc/codewalk.go
    @@ -68,8 +68,11 @@ func codewalk(w http.ResponseWriter, r *http.Request) {
     		return
     	}
    
    -\tb := applyTemplate(codewalkHTML, "codewalk", cw)
    -\tservePage(w, cw.Title, "Codewalk: "+cw.Title, "", "", b)
    +\tservePage(w, Page{
    +\t\tTitle:    "Codewalk: " + cw.Title,
    +\t\tTabtitle: cw.Title,
    +\t\tBody:     applyTemplate(codewalkHTML, "codewalk", cw),
    +\t})
     }
    
     // A Codewalk represents a single codewalk read from an XML file.
    @@ -199,8 +202,10 @@ func codewalkDir(w http.ResponseWriter, r *http.Request, relpath, abspath string
     		}
     	}
    
    -\tb := applyTemplate(codewalkdirHTML, "codewalkdir", v)
    -\tservePage(w, "", "Codewalks", "", "", b)
    +\tservePage(w, Page{
    +\t\tTitle: "Codewalks",
    +\t\tBody:  applyTemplate(codewalkdirHTML, "codewalkdir", v),
    +\t})
     }
    
     // codewalkFileprint serves requests with ?fileprint=f&lo=lo&hi=hi.
    

コアとなるコードの解説

このコミットのコアとなる変更は、servePage関数の引数渡しメカニズムを根本的に変更した点にあります。

  1. Page構造体の定義: src/cmd/godoc/godoc.goで定義されたPage構造体は、HTMLページをレンダリングするために必要なすべての情報を一箇所に集約します。これにより、関連するデータが論理的にグループ化され、コードの意図がより明確になります。例えば、TitleTabtitleはページのタイトルに関連する情報であり、Bodyはページの主要コンテンツです。

  2. servePage関数のシグネチャ変更と内部処理: 変更前のservePageは、tabtitle, title, subtitle, query (すべてstring)、そしてcontent ([]byte) という5つの位置引数を受け取っていました。これらの引数は、呼び出し側で厳密な順序で渡される必要があり、特にstring型の引数が複数あるため、どの引数がどの意味を持つのかが分かりにくいという問題がありました。

    変更後、servePageは単一のPage構造体インスタンスを引数として受け取ります。

    func servePage(w http.ResponseWriter, page Page)
    

    この変更により、servePageの呼び出し側では、Page{Title: "...", Tabtitle: "...", Body: ...}のように、フィールド名を明示的に指定して構造体リテラルを渡すことができます。これにより、引数の意味がフィールド名によって自己記述的になり、引数の順序に依存しなくなります。

    servePage関数内部では、受け取ったpage構造体のフィールドを直接参照して、テンプレートにデータを渡します。また、page.Tabtitleが空の場合はpage.Titleをデフォルト値として設定したり、SearchBoxVersionといった一部のフィールドを内部で設定したりすることで、Page構造体はテンプレートレンダリングに必要な最終的なデータコンテナとして機能します。

  3. servePage呼び出し箇所の変更: godocの様々な部分(例: codewalk.go, godoc.go内の他のserve*関数、main.go)でservePageが呼び出されています。これらの呼び出し箇所はすべて、新しいPage構造体リテラルを構築して渡すように修正されました。

    例えば、codewalk関数では、以前はservePage(w, cw.Title, "Codewalk: "+cw.Title, "", "", b)のように、引数の順序を意識して値を渡していました。これが、servePage(w, Page{Title: "Codewalk: " + cw.Title, Tabtitle: cw.Title, Body: applyTemplate(...)})のように、フィールド名を指定して値を渡す形式に変わりました。

    この変更は、コードの可読性を劇的に向上させます。引数の意味がフィールド名によって明確になり、コードを読む人が関数の定義に戻って引数の意味を確認する必要がなくなります。また、将来的にPage構造体に新しいフィールドが追加された場合でも、既存のservePageの呼び出し箇所をすべて修正する必要はなく、新しいフィールドを使用したい箇所だけを修正すればよいため、拡張性も向上します。

  4. godoc.htmlテンプレートの変更: Page構造体のコンテンツフィールドがContentからBodyにリネームされたことに伴い、HTMLテンプレート内の対応するプレースホルダーも{{.Content}}から{{.Body}}に変更されました。これは、Goのhtml/templateパッケージが、テンプレートに渡されたデータ構造のフィールド名とプレースホルダーの名前を一致させることでデータを埋め込むためです。

このリファクタリングは、Go言語のベストプラクティスの一つである「多数の引数を持つ関数を構造体でラップする」を実践したものであり、コードベースの健全性を高める上で非常に価値のある変更です。

関連リンク

参考にした情報源リンク