Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 13037] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のテストスイートにbug438.goという新しいテストケースを追加するものです。このテストケースは、gccgoコンパイラが以前誤ってコンパイルエラーを出していた、しかしGo言語の仕様上は有効なコードパターンを検証するために導入されました。

コミット

commit 6c8447d429811b5b6659836739272f4e7366cf60
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Fri May 4 13:14:09 2012 -0700

    test: add bug438, a valid test case that gccgo used to fail to compile
    
    R=golang-dev, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6196047

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/6c8447d429811b5b6659836739272f4e7366cf60

元コミット内容

test: add bug438, a valid test case that gccgo used to fail to compile

このコミットメッセージは、bug438というテストケースを追加したことを示しています。このテストケースは、gccgoコンパイラが以前コンパイルに失敗していたが、実際には有効なコードであるパターンを対象としています。

変更の背景

Go言語のコンパイラには、公式のgc(Go Compiler)の他に、GCC(GNU Compiler Collection)をバックエンドとして利用するgccgoが存在します。gccgoは、Go言語のコードをGCCの最適化パイプラインを通じてコンパイルし、ネイティブバイナリを生成します。しかし、Go言語の仕様とgccgoの実装の間には、時として解釈の不一致やバグが存在することがあります。

このコミットの背景には、gccgoが特定の有効なGoコードパターンに対して誤ってコンパイルエラーを報告するというバグが存在していました。このバグは、Go言語の仕様に準拠しているにもかかわらず、gccgoがそのコードを正しく処理できないという問題を示していました。このコミットは、その問題を特定し、将来的な回帰を防ぐために、問題のコードパターンをテストケースとして追加することを目的としています。

前提知識の解説

Go言語のforループ

Go言語のforループは非常に柔軟で、C言語のような3つの要素(初期化、条件、後処理)を持つ形式、条件のみの形式、そして無限ループの形式があります。

一般的なforループの形式は以下の通りです。

for initialization; condition; post_statement {
    // body
}
  • initialization: ループが開始される前に一度だけ実行されます。ここで宣言された変数は、ループのスコープ内でのみ有効です。
  • condition: 各イテレーションの前に評価されます。trueの場合、ループ本体が実行されます。falseの場合、ループは終了します。
  • post_statement: 各イテレーションの後に実行されます。

このコミットで問題となっているコードは、for first := true; first; first = falseという形式のループです。これは、initializationfirst変数をtrueで初期化し、conditionfirsttrueの間ループを続け、post_statementfirstfalseに設定するというものです。結果として、このループは1回だけ実行されます。

gccgo

gccgoは、Go言語のフロントエンドとGCCのバックエンドを組み合わせたGoコンパイラです。Go言語のコードをGCCの中間表現に変換し、GCCの強力な最適化機能を利用して実行可能なバイナリを生成します。gccgoは、特に既存のGCCベースのビルドシステムやツールチェーンとの統合が必要な場合に利用されることがあります。しかし、Go言語の進化や仕様変更に追従する上で、公式のgcコンパイラとは異なる実装上の課題を抱えることがあります。

テスト駆動開発と回帰テスト

ソフトウェア開発において、バグが修正された際には、そのバグが将来的に再発しないことを保証するために、回帰テスト(regression test)を追加することが一般的です。このコミットで追加されたbug438.goは、まさにこのような回帰テストの役割を果たします。特定のバグを再現する最小限のコードをテストケースとして追加することで、将来のコンパイラの変更がこのバグを再導入しないことを自動的に検証できるようになります。

技術的詳細

このコミットが修正しようとしているgccgoのバグは、Go言語のforループの特定のパターン、特に初期化ステートメントで変数を宣言し、その変数を条件式と後処理ステートメントで使用するケースに関連していました。

問題のコードパターンは以下の通りです。

for first := true; first; first = false {
    // ...
}

このループは、firstというブール変数をループの初期化部分で宣言し、trueに設定します。ループの条件はfirsttrueであること、そしてループの各イテレーションの後にfirstfalseに設定します。これにより、このループは正確に1回だけ実行されることが保証されます。

gccgoがこのパターンでコンパイルエラーを出していた具体的な理由は、コミットメッセージからは直接読み取れませんが、一般的にコンパイラのバグは以下のような原因で発生します。

  1. スコープ解決の誤り: ループの初期化部分で宣言された変数のスコープが正しく認識されず、条件式や後処理ステートメントからその変数にアクセスしようとした際に「未定義の変数」として扱われる。
  2. 型推論の誤り: 変数の型推論に問題があり、特にブール型のような単純な型であっても、特定のコンテキストで誤った型として扱われる。
  3. 中間表現の生成の誤り: GoのAST(抽象構文木)からGCCの中間表現(GIMPLEなど)への変換時に、この特定のループ構造が正しくマッピングされない。
  4. 最適化パスのバグ: GCCの最適化パスのいずれかで、このループ構造が誤って変換または削除され、結果として不正なコードが生成されるか、コンパイルエラーが発生する。

このケースでは、gccgoが「誤ってエラーを出していた」と明記されていることから、Go言語の仕様に準拠した有効なコードであるにもかかわらず、コンパイラがその正当性を認識できなかったことが示唆されます。これは、コンパイラのフロントエンド(Goコードの解析部分)または中間コード生成部分のバグであった可能性が高いです。

bug438.goの追加は、この特定のコードパターンがGo言語の仕様に準拠しており、すべてのGoコンパイラ(gcgccgoの両方)で正しくコンパイルされるべきであることを明確にするためのものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによって追加されたファイルは以下の通りです。

test/fixedbugs/bug438.go

// compile

// Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved.
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.

// Gccgo used to incorrectly give an error when compiling this.

package p

func F() (i int) {
	for first := true; first; first = false {
		i++
	}
	return
}

コアとなるコードの解説

追加されたbug438.goファイルは、Go言語のテストスイートの一部として、test/fixedbugsディレクトリに配置されています。このディレクトリは、過去に発見され修正されたバグの回帰テストを格納するために使用されます。

  • // compile: このコメントは、Goのテストシステムに対して、このファイルがコンパイル可能であるべきことを示します。コンパイルエラーが発生した場合、テストは失敗します。
  • // Copyright 2012 The Go Authors. All rights reserved. ...: 標準的なGoの著作権表示とライセンス情報です。
  • // Gccgo used to incorrectly give an error when compiling this.: このコメントは、このテストケースが追加された具体的な理由を説明しています。gccgoが以前、このコードをコンパイルする際に誤ったエラーを出していたことを明記しています。
  • package p: テストファイルは通常、独立したパッケージとして定義されます。ここではpというパッケージ名が使われています。
  • func F() (i int) { ... }: Fという名前の関数が定義されています。戻り値としてint型のiが名前付きで宣言されており、関数内でiをインクリメントし、最後にreturnステートメントで暗黙的にiの現在の値が返されます。
  • for first := true; first; first = false { i++ }: これがこのテストケースの核心となる部分です。
    • first := true: ループの初期化部分で、firstという新しいブール変数を宣言し、trueで初期化します。
    • first: ループの条件式です。firsttrueの間、ループが続行されます。
    • first = false: 各イテレーションの後に実行される後処理ステートメントです。firstfalseに設定します。
    • i++: ループ本体では、戻り値となるiをインクリメントしています。

このループは、firsttrueで初期化され、条件がtrueであるため、最初のイテレーションが実行されます。最初のイテレーションの後にfirstfalseに設定されるため、次のイテレーションの前に条件がfalseとなり、ループは終了します。したがって、このループは正確に1回だけ実行され、iの値は1になります。

このコードはGo言語の仕様に完全に準拠しており、有効なコードです。gccgoが以前このコードでエラーを出していたということは、gccgoのコンパイラにバグがあったことを意味します。このテストケースの追加により、将来的に同様のバグが再発した場合に、自動的に検出できるようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク