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[インデックス 13111] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のツールチェインにおいて、x86アーキテクチャ(Goの命名規則では8がx86を指す)向けのアセンブラ(cmd/8a)とリンカ(cmd/8l)にBSWAPL命令のサポートを追加するものです。これにより、Goプログラム内でバイトオーダーの変換を効率的に行うための低レベルな機能が提供されます。

コミット

commit c4ea1c955e4ed1c43afb145bd95a190864868970
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue May 22 00:29:07 2012 -0400

    cmd/8a, cmd/8l: add BSWAPL
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6208093

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/c4ea1c955e4ed1c43afb145bd95a190864868970

元コミット内容

cmd/8a, cmd/8l: add BSWAPL

このコミットは、Go言語のx86(8aはアセンブラ、8lはリンカ)ツールチェインにBSWAPL命令を追加します。

変更の背景

BSWAPL命令は、Intel x86アーキテクチャにおいて、32ビットレジスタ内のバイト順序を逆転させる(バイトスワップする)ための命令です。この命令の追加は、主に以下の目的が考えられます。

  1. エンディアンネス変換の効率化: ネットワーク通信やファイルI/Oなど、異なるエンディアンネス(バイト順序)を持つシステム間でデータをやり取りする際に、バイト順序の変換が必要になります。BSWAPL命令は、ソフトウェアでバイトスワップロジックを実装するよりもはるかに高速にこの処理を実行できます。特に、Go言語がシステムプログラミングやネットワークプログラミングで利用されることを考えると、このような低レベルな最適化は重要です。
  2. Goランタイムや標準ライブラリの最適化: Goのランタイムや標準ライブラリの内部で、特定のデータ構造やプロトコルにおいてバイトスワップが必要な場面があるかもしれません。アセンブラレベルでBSWAPL命令が利用可能になることで、これらの処理のパフォーマンスが向上します。
  3. アセンブラコードの記述性向上: Go言語は、パフォーマンスが重要な部分でGoアセンブラ(Plan 9アセンブラの派生)を使用して低レベルなコードを記述する機能を提供しています。BSWAPL命令がアセンブラで直接利用できるようになることで、開発者はより効率的で簡潔なバイトスワップコードを記述できるようになります。

この変更は、Go言語が提供する低レベルな制御とパフォーマンス最適化の哲学に沿ったものです。

前提知識の解説

1. エンディアンネス (Endianness)

エンディアンネスとは、コンピュータのメモリ上で複数バイトのデータを格納する際のバイト順序の規則のことです。主に以下の2種類があります。

  • リトルエンディアン (Little-endian): 最下位バイト(Least Significant Byte, LSB)が最も小さいアドレスに格納されます。Intel x86アーキテクチャはリトルエンディアンを採用しています。
  • ビッグエンディアン (Big-endian): 最上位バイト(Most Significant Byte, MSB)が最も小さいアドレスに格納されます。ネットワークプロトコル(TCP/IPなど)の多くはビッグエンディアンを採用しています。

異なるエンディアンネスを持つシステム間でデータをやり取りする際には、バイト順序の変換(バイトスワップ)が必要になります。

2. x86アーキテクチャと命令セット

x86は、Intelが開発したマイクロプロセッサの命令セットアーキテクチャです。PCやサーバーで広く利用されています。x86プロセッサは、様々な命令を提供しており、その中にはデータ操作、算術演算、論理演算、制御フロー、そしてバイト操作のための命令が含まれます。

3. BSWAP命令

BSWAP(Byte Swap)命令は、x86アーキテクチャのプロセッサが提供する命令の一つで、レジスタ内のバイト順序を逆転させます。例えば、32ビットレジスタの場合、バイト0、1、2、3の順で格納されているデータを、バイト3、2、1、0の順に並べ替えます。

  • BSWAP reg32: 32ビットレジスタのバイト順序を逆転させます。
  • BSWAP reg64: 64ビットレジスタのバイト順序を逆転させます。

このコミットで追加されるBSWAPLは、Goのアセンブラにおける32ビット版のBSWAP命令を指します。

4. Go言語のツールチェイン

Go言語は、独自のコンパイラ、アセンブラ、リンカ、デバッガなどのツールチェインを持っています。

  • cmd/8a (Goアセンブラ): Go言語のソースコードから生成されるアセンブリコード(または手書きのアセンブリコード)を機械語に変換する役割を担います。Goのアセンブラは、Plan 9アセンブラの文法をベースにしています。8a8はx86アーキテクチャを指し、aはアセンブラを指します。
  • cmd/8l (Goリンカ): アセンブラによって生成されたオブジェクトファイルや、他のライブラリのオブジェクトファイルを結合し、実行可能なバイナリファイルを生成する役割を担います。8l8はx86アーキテクチャを指し、lはリンカを指します。
  • src/cmd/8a/lex.c: アセンブラの字句解析(lexical analysis)を担当するC言語のソースファイルです。アセンブリ命令のキーワードを認識し、トークンに変換します。
  • src/cmd/8l/8.out.h: リンカが使用するヘッダファイルで、アセンブリ命令の内部表現(オペコード)の列挙型などが定義されています。
  • src/cmd/8l/optab.c: リンカのオペコードテーブルを定義するC言語のソースファイルです。各アセンブリ命令に対応する機械語のエンコーディングや、オペランドの型などが記述されています。

技術的詳細

このコミットは、Go言語のx86向けアセンブラとリンカにBSWAPL命令のサポートを追加することで、GoプログラムがこのCPU命令を直接利用できるようにします。

具体的な変更点は以下の通りです。

  1. アセンブラの字句解析器への追加 (src/cmd/8a/lex.c):

    • lex.cは、アセンブリコードを読み込み、命令やオペランドを識別する部分です。
    • このファイルに"BSWAPL"という文字列と、それに対応する内部的な命令タイプABSWAPLが追加されます。これにより、アセンブラはBSWAPLという命令を認識できるようになります。
    • LTYPE1は、オペランドが1つであることを示すタイプです(BSWAPLは通常、1つのレジスタをオペランドとして取ります)。
  2. 命令の内部表現の定義 (src/cmd/8l/8.out.h):

    • 8.out.hは、Goのツールチェイン内でアセンブリ命令を識別するための定数(オペコード)を定義するヘッダファイルです。
    • enum as(assembler opcodes)にABSWAPLという新しいエントリが追加されます。これは、BSWAPL命令の内部的な識別子として機能します。
  3. リンカのオペコードテーブルへの追加 (src/cmd/8l/optab.c):

    • optab.cは、各アセンブリ命令がどのように機械語に変換されるか(オペコード、オペランドのエンコーディングなど)を定義するテーブルです。
    • ybswapという新しいオペランドタイプ定義が追加されます。これは、BSWAPL命令がレジスタオペランドを取ることを示します。Yrlはレジスタオペランドを意味します。
    • Optab optab[]配列に、ABSWAPLに対応するエントリが追加されます。
      • ABSWAPL: 命令の内部識別子。
      • ybswap: オペランドの型定義。
      • Pm: プレフィックスや命令の形式に関する情報(この場合は、ModR/Mバイトを使用しない形式を示唆している可能性がありますが、詳細なエンコーディングはx86命令セットリファレンスに依存します)。
      • 0xc8: BSWAP命令のオペコード(機械語表現)。x86のBSWAP命令は、0x0F 0xC8 +rdのような形式でエンコードされますが、0xC8は命令の主要なバイトコードの一部です。

これらの変更により、GoのアセンブラはBSWAPLという命令を解釈し、リンカはそれを対応するx86機械語命令に正確に変換できるようになります。これにより、Goプログラム内で必要に応じてバイトスワップ操作をCPUレベルで効率的に実行することが可能になります。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/8a/lex.c

--- a/src/cmd/8a/lex.c
+++ b/src/cmd/8a/lex.c
@@ -271,6 +271,7 @@ struct
 	"BSFW",		LTYPE3,	ABSFW,
 	"BSRL",		LTYPE3,	ABSRL,
 	"BSRW",		LTYPE3,	ABSRW,
+	"BSWAPL",	LTYPE1,	ABSWAPL,
 	"BTCL",		LTYPE3,	ABTCL,
 	"BTCW",		LTYPE3,	ABTCW,
 	"BTL",		LTYPE3,	ABTL,

src/cmd/8l/8.out.h

--- a/src/cmd/8l/8.out.h
+++ b/src/cmd/8l/8.out.h
@@ -456,6 +456,8 @@ enum	as
 	APREFETCHT1,
 	APREFETCHT2,
 	APREFETCHNTA,
+
+	ABSWAPL,
 
 	ALAST
 };

src/cmd/8l/optab.c

--- a/src/cmd/8l/optab.c
+++ b/src/cmd/8l/optab.c
@@ -242,6 +242,11 @@ uchar	ypopl[] =
 	Ynone,	Ym,	Zo_m,	2,
 	0
 };
+uchar	ybswap[] =
+{
+	Ynone,	Yrl,	Z_rp,	1,
+	0,
+};
 uchar	yscond[] =
 {
 	Ynone,	Ymb,	Zo_m,	2,
@@ -771,5 +776,7 @@ Optab optab[] =
 	{ APREFETCHT2,	yprefetch,	Pm,	0x18,(03) },
 	{ APREFETCHNTA,	yprefetch,	Pm,	0x18,(00) },
 
+	{ ABSWAPL,	ybswap,	Pm,	0xc8 },
+
 	0
 };

コアとなるコードの解説

src/cmd/8a/lex.c の変更

この変更は、GoアセンブラがBSWAPLという文字列を認識し、それを内部的な命令コードABSWAPLにマッピングするためのものです。

  • "BSWAPL": アセンブリコードで記述される命令のニーモニック(文字列)。
  • LTYPE1: この命令が1つのオペランドを取ることを示すタイプ。BSWAPLは通常、バイトスワップを行うレジスタを1つ指定します。
  • ABSWAPL: この命令に対応する内部的なオペコード(8.out.hで定義される列挙型)。

これにより、GoアセンブラはBSWAPL命令を含むアセンブリソースファイルを正しく解析できるようになります。

src/cmd/8l/8.out.h の変更

この変更は、ABSWAPLという新しい定数をenum as(アセンブラ命令の列挙型)に追加するものです。

  • ABSWAPL: BSWAPL命令の内部的な識別子として機能します。アセンブラがBSWAPLを解析すると、このABSWAPLという値が生成され、リンカに渡されます。リンカはこの値を見て、対応する機械語を生成します。

これは、Goツールチェイン全体でBSWAPL命令を一意に識別するための「名前」を定義するものです。

src/cmd/8l/optab.c の変更

このファイルは、Goリンカがアセンブリ命令を実際の機械語に変換するための「レシピ」を定義しています。

  1. uchar ybswap[] の追加:

    • これは、BSWAPL命令のオペランドの型を定義する配列です。
    • Ynone: オペランドがないことを示す(この場合は命令自体がオペランドの型を定義するため)。
    • Yrl: オペランドがレジスタ(rはレジスタ、lはロングワード、つまり32ビットレジスタ)であることを示します。BSWAPLは通常、32ビットレジスタをオペランドとして取ります。
    • Z_rp: オペランドのエンコーディングに関する詳細な情報。_rpは、レジスタがModR/Mバイトのregフィールドにエンコードされることを示唆しています。
    • 1: オペランドの数。
  2. Optab optab[] へのエントリ追加:

    • Optab構造体は、各アセンブリ命令の変換ルールを定義します。
    • { ABSWAPL, ybswap, Pm, 0xc8 }:
      • ABSWAPL: 変換対象の命令の内部識別子。
      • ybswap: この命令が取るオペランドの型定義(上記で定義したもの)。
      • Pm: 命令のプレフィックスや形式に関するフラグ。Pmは、命令がModR/Mバイトを使用し、かつ特定のプレフィックス(例えば0x0F)を必要とすることを示唆している可能性があります。BSWAP命令は通常、0x0Fプレフィックスを伴います。
      • 0xc8: BSWAP命令の主要なオペコードバイト。x86のBSWAP命令は、0x0F(2バイト命令のプレフィックス)に続いて0xC8から0xCFまでのバイト(レジスタによって異なる)でエンコードされます。0xC8は、特定のレジスタ(例えばEAX)に対するBSWAP命令の開始バイト、または命令のベースオペコードを示します。

これらの変更により、Goのアセンブラとリンカは、BSWAPL命令をGoのアセンブリコードで記述し、それをx86プロセッサが理解できる機械語に正確に変換できるようになります。これにより、Goプログラムはバイトスワップ操作をCPUのネイティブ命令レベルで実行し、パフォーマンスを向上させることが可能になります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

このコミットは、Go言語のツールチェインにおいて、x86アーキテクチャ(Goの命名規則では8がx86を指す)向けのアセンブラ(cmd/8a)とリンカ(cmd/8l)にBSWAPL命令のサポートを追加するものです。これにより、Goプログラム内でバイトオーダーの変換を効率的に行うための低レベルな機能が提供されます。

コミット

commit c4ea1c955e4ed1c43afb145bd95a190864868970
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue May 22 00:29:07 2012 -0400

    cmd/8a, cmd/8l: add BSWAPL
    
    R=ken2
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6208093

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/c4ea1c955e4ed1c43afb145bd95a190864868970

元コミット内容

cmd/8a, cmd/8l: add BSWAPL

このコミットは、Go言語のx86(8aはアセンブラ、8lはリンカ)ツールチェインにBSWAPL命令を追加します。

変更の背景

BSWAPL命令は、Intel x86アーキテクチャにおいて、32ビットレジスタ内のバイト順序を逆転させる(バイトスワップする)ための命令です。この命令の追加は、主に以下の目的が考えられます。

  1. エンディアンネス変換の効率化: ネットワーク通信やファイルI/Oなど、異なるエンディアンネス(バイト順序)を持つシステム間でデータをやり取りする際に、バイト順序の変換が必要になります。BSWAPL命令は、ソフトウェアでバイトスワップロジックを実装するよりもはるかに高速にこの処理を実行できます。特に、Go言語がシステムプログラミングやネットワークプログラミングで利用されることを考えると、このような低レベルな最適化は重要です。
  2. Goランタイムや標準ライブラリの最適化: Goのランタイムや標準ライブラリの内部で、特定のデータ構造やプロトコルにおいてバイトスワップが必要な場面があるかもしれません。アセンブラレベルでBSWAPL命令が利用可能になることで、これらの処理のパフォーマンスが向上します。
  3. アセンブラコードの記述性向上: Go言語は、パフォーマンスが重要な部分でGoアセンブラ(Plan 9アセンブラの派生)を使用して低レベルなコードを記述する機能を提供しています。BSWAPL命令がアセンブラで直接利用できるようになることで、開発者はより効率的で簡潔なバイトスワップコードを記述できるようになります。

この変更は、Go言語が提供する低レベルな制御とパフォーマンス最適化の哲学に沿ったものです。

前提知識の解説

1. エンディアンネス (Endianness)

エンディアンネスとは、コンピュータのメモリ上で複数バイトのデータを格納する際のバイト順序の規則のことです。主に以下の2種類があります。

  • リトルエンディアン (Little-endian): 最下位バイト(Least Significant Byte, LSB)が最も小さいアドレスに格納されます。Intel x86アーキテクチャはリトルエンディアンを採用しています。
  • ビッグエンディアン (Big-endian): 最上位バイト(Most Significant Byte, MSB)が最も小さいアドレスに格納されます。ネットワークプロトコル(TCP/IPなど)の多くはビッグエンディアンを採用しています。

異なるエンディアンネスを持つシステム間でデータをやり取りする際には、バイト順序の変換(バイトスワップ)が必要になります。

2. x86アーキテクチャと命令セット

x86は、Intelが開発したマイクロプロセッサの命令セットアーキテクチャです。PCやサーバーで広く利用されています。x86プロセッサは、様々な命令を提供しており、その中にはデータ操作、算術演算、論理演算、制御フロー、そしてバイト操作のための命令が含まれます。

3. BSWAP命令

BSWAP(Byte Swap)命令は、x86アーキテクチャのプロセッサが提供する命令の一つで、レジスタ内のバイト順序を逆転させます。例えば、32ビットレジスタの場合、バイト0、1、2、3の順で格納されているデータを、バイト3、2、1、0の順に並べ替えます。

  • BSWAP reg32: 32ビットレジスタのバイト順序を逆転させます。
  • BSWAP reg64: 64ビットレジスタのバイト順序を逆転させます。

このコミットで追加されるBSWAPLは、Goのアセンブラにおける32ビット版のBSWAP命令を指します。

4. Go言語のツールチェイン

Go言語は、独自のコンパイラ、アセンブラ、リンカ、デバッガなどのツールチェインを持っています。

  • cmd/8a (Goアセンブラ): Go言語のソースコードから生成されるアセンブリコード(または手書きのアセンブリコード)を機械語に変換する役割を担います。Goのアセンブラは、Plan 9アセンブラの文法をベースにしています。8a8はx86アーキテクチャを指し、aはアセンブラを指します。
  • cmd/8l (Goリンカ): アセンブラによって生成されたオブジェクトファイルや、他のライブラリのオブジェクトファイルを結合し、実行可能なバイナリファイルを生成する役割を担います。8l8はx86アーキテクチャを指し、lはリンカを指します。
  • src/cmd/8a/lex.c: アセンブラの字句解析(lexical analysis)を担当するC言語のソースファイルです。アセンブリ命令のキーワードを認識し、トークンに変換します。
  • src/cmd/8l/8.out.h: リンカが使用するヘッダファイルで、アセンブリ命令の内部表現(オペコード)の列挙型などが定義されています。
  • src/cmd/8l/optab.c: リンカのオペコードテーブルを定義するC言語のソースファイルです。各アセンブリ命令に対応する機械語のエンコーディングや、オペランドの型などが記述されています。

技術的詳細

このコミットは、Go言語のx86向けアセンブラとリンカにBSWAPL命令のサポートを追加することで、GoプログラムがこのCPU命令を直接利用できるようにします。

具体的な変更点は以下の通りです。

  1. アセンブラの字句解析器への追加 (src/cmd/8a/lex.c):

    • lex.cは、アセンブリコードを読み込み、命令やオペランドを識別する部分です。
    • このファイルに"BSWAPL"という文字列と、それに対応する内部的な命令タイプABSWAPLが追加されます。これにより、アセンブラはBSWAPLという命令を認識できるようになります。
    • LTYPE1は、オペランドが1つであることを示すタイプです(BSWAPLは通常、1つのレジスタをオペランドとして取ります)。
  2. 命令の内部表現の定義 (src/cmd/8l/8.out.h):

    • 8.out.hは、Goのツールチェイン内でアセンブリ命令を識別するための定数(オペコード)を定義するヘッダファイルです。
    • enum as(assembler opcodes)にABSWAPLという新しいエントリが追加されます。これは、BSWAPL命令の内部的な識別子として機能します。
  3. リンカのオペコードテーブルへの追加 (src/cmd/8l/optab.c):

    • optab.cは、各アセンブリ命令がどのように機械語に変換されるか(オペコード、オペランドのエンコーディングなど)を定義するテーブルです。
    • ybswapという新しいオペランドタイプ定義が追加されます。これは、BSWAPL命令がレジスタオペランドを取ることを示します。Yrlはレジスタオペランドを意味します。
    • Optab optab[]配列に、ABSWAPLに対応するエントリが追加されます。
      • ABSWAPL: 命令の内部識別子。
      • ybswap: オペランドの型定義。
      • Pm: プレフィックスや命令の形式に関する情報(この場合は、ModR/Mバイトを使用しない形式を示唆している可能性がありますが、詳細なエンコーディングはx86命令セットリファレンスに依存します)。
      • 0xc8: BSWAP命令のオペコード(機械語表現)。x86のBSWAP命令は、0x0F 0xC8 +rdのような形式でエンコードされますが、0xC8は命令の主要なバイトコードの一部です。

これらの変更により、GoのアセンブラはBSWAPLという命令を解釈し、リンカはそれを対応するx86機械語命令に正確に変換できるようになります。これにより、Goプログラム内で必要に応じてバイトスワップ操作をCPUレベルで効率的に実行することが可能になります。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/8a/lex.c

--- a/src/cmd/8a/lex.c
+++ b/src/cmd/8a/lex.c
@@ -271,6 +271,7 @@ struct
 	"BSFW",		LTYPE3,	ABSFW,
 	"BSRL",		LTYPE3,	ABSRL,
 	"BSRW",		LTYPE3,	ABSRW,
+	"BSWAPL",	LTYPE1,	ABSWAPL,
 	"BTCL",		LTYPE3,	ABTCL,
 	"BTCW",		LTYPE3,	ABTCW,
 	"BTL",		LTYPE3,	ABTL,

src/cmd/8l/8.out.h

--- a/src/cmd/8l/8.out.h
+++ b/src/cmd/8l/8.out.h
@@ -456,6 +456,8 @@ enum	as
 	APREFETCHT1,
 	APREFETCHT2,
 	APREFETCHNTA,
+
+	ABSWAPL,
 
 	ALAST
 };

src/cmd/8l/optab.c

--- a/src/cmd/8l/optab.c
+++ b/src/cmd/8l/optab.c
@@ -242,6 +242,11 @@ uchar	ypopl[] =
 	Ynone,	Ym,	Zo_m,	2,
 	0
 };
+uchar	ybswap[] =
+{
+	Ynone,	Yrl,	Z_rp,	1,
+	0,
+};
 uchar	yscond[] =
 {
 	Ynone,	Ymb,	Zo_m,	2,
@@ -771,5 +776,7 @@ Optab optab[] =
 	{ APREFETCHT2,	yprefetch,	Pm,	0x18,(03) },
 	{ APREFETCHNTA,	yprefetch,	Pm,	0x18,(00) },
 
+	{ ABSWAPL,	ybswap,	Pm,	0xc8 },
+
 	0
 };

コアとなるコードの解説

src/cmd/8a/lex.c の変更

この変更は、GoアセンブラがBSWAPLという文字列を認識し、それを内部的な命令コードABSWAPLにマッピングするためのものです。

  • "BSWAPL": アセンブリコードで記述される命令のニーモニック(文字列)。
  • LTYPE1: この命令が1つのオペランドを取ることを示すタイプ。BSWAPLは通常、バイトスワップを行うレジスタを1つ指定します。
  • ABSWAPL: この命令に対応する内部的なオペコード(8.out.hで定義される列挙型)。

これにより、GoアセンブラはBSWAPL命令を含むアセンブリソースファイルを正しく解析できるようになります。

src/cmd/8l/8.out.h の変更

この変更は、ABSWAPLという新しい定数をenum as(アセンブラ命令の列挙型)に追加するものです。

  • ABSWAPL: BSWAPL命令の内部的な識別子として機能します。アセンブラがBSWAPLを解析すると、このABSWAPLという値が生成され、リンカに渡されます。リンカはこの値を見て、対応する機械語を生成します。

これは、Goツールチェイン全体でBSWAPL命令を一意に識別するための「名前」を定義するものです。

src/cmd/8l/optab.c の変更

このファイルは、Goリンカがアセンブリ命令を実際の機械語に変換するための「レシピ」を定義しています。

  1. uchar ybswap[] の追加:

    • これは、BSWAPL命令のオペランドの型を定義する配列です。
    • Ynone: オペランドがないことを示す(この場合は命令自体がオペランドの型を定義するため)。
    • Yrl: オペランドがレジスタ(rはレジスタ、lはロングワード、つまり32ビットレジスタ)であることを示します。BSWAPLは通常、32ビットレジスタをオペランドとして取ります。
    • Z_rp: オペランドのエンコーディングに関する詳細な情報。_rpは、レジスタがModR/Mバイトのregフィールドにエンコードされることを示唆しています。
    • 1: オペランドの数。
  2. Optab optab[] へのエントリ追加:

    • Optab構造体は、各アセンブリ命令の変換ルールを定義します。
    • { ABSWAPL, ybswap, Pm, 0xc8 }:
      • ABSWAPL: 変換対象の命令の内部識別子。
      • ybswap: この命令が取るオペランドの型定義(上記で定義したもの)。
      • Pm: 命令のプレフィックスや形式に関するフラグ。Pmは、命令がModR/Mバイトを使用し、かつ特定のプレフィックス(例えば0x0F)を必要とすることを示唆している可能性があります。BSWAP命令は通常、0x0Fプレフィックスを伴います。
      • 0xc8: BSWAP命令の主要なオペコードバイト。x86のBSWAP命令は、0x0F(2バイト命令のプレフィックス)に続いて0xC8から0xCFまでのバイト(レジスタによって異なる)でエンコードされます。0xC8は、特定のレジスタ(例えばEAX)に対するBSWAP命令の開始バイト、または命令のベースオペコードを示します。

これらの変更により、Goのアセンブラとリンカは、BSWAPL命令をGoのアセンブリコードで記述し、それをx86プロセッサが理解できる機械語に正確に変換できるようになります。これにより、Goプログラムはバイトスワップ操作をCPUのネイティブ命令レベルで実行し、パフォーマンスを向上させることが可能になります。

関連リンク

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