[インデックス 13191] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の実験的な型システムパッケージ exp/types
内の gcimporter_test.go
ファイルに対する変更です。具体的には、gcimporter_test.go
内の特定のテストが一時的に無効化されています。
コミット
このコミットは、exp/types
パッケージの gcimporter_test.go
ファイルにおいて、既存のテストを一時的に無効化するものです。これは、テストが exp/types
のバグによって失敗しており、特に crypto/md5
パッケージのインポート時に定数 init1
を誤って関数として解釈してしまう問題が原因です。この変更は、golang.org/issue/3682
で報告された問題に対応するための暫定的な措置として行われました。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/95ae5c180efbeb7c086da2f62a6bccc49d7a8b76
元コミット内容
commit 95ae5c180efbeb7c086da2f62a6bccc49d7a8b76
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Tue May 29 13:33:37 2012 -0400
exp/types: disable test
It's broken and seems to be exp/types's fault.
Update #3682.
R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6243068
---
src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go | 7 +++++++
1 file changed, 7 insertions(+)
diff --git a/src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go b/src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
index 20247b0dc4..c39b47b062 100644
--- a/src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
+++ b/src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
@@ -92,6 +92,13 @@ func testDir(t *testing.T, dir string, endTime time.Time) (nimports int) {
}
func TestGcImport(t *testing.T) {
+\t// Dies trying to read crypto/md5, which contains
+\t//\tconst init1 = 0x...\n+\t// The importer believes init1 should be a function for some reason.\n+\t// golang.org/issue/3682.\n+\tt.Logf(\"broken; skipping\")\n+\treturn\n+\n \t// On cross-compile builds, the path will not exist.\n \t// Need to use GOHOSTOS, which is not available.\n \tif _, err := os.Stat(gcPath); err != nil {\n```
## 変更の背景
このコミットの主な背景は、Go言語の実験的な型システムパッケージ `exp/types` に存在するバグです。具体的には、`gcimporter_test.go` 内の `TestGcImport` テストが、`crypto/md5` パッケージをインポートしようとした際にクラッシュしていました。
クラッシュの原因は、`exp/types` のインポーターが `crypto/md5` パッケージ内の `const init1 = 0x...` という定数を誤って関数として解釈してしまったことにあります。この誤った解釈により、インポート処理が正常に完了せず、テストが失敗していました。
この問題は `golang.org/issue/3682` として報告されており、このコミットは、その問題が修正されるまでの間、テストの実行を一時的にスキップすることで、CI/CDパイプラインや開発者のローカル環境でのテスト失敗を防ぐための暫定的な措置として導入されました。
## 前提知識の解説
### Go言語の型システムと`exp/types`パッケージ
Go言語は静的型付け言語であり、プログラムのコンパイル時に厳密な型チェックが行われます。`exp/types`パッケージは、Go言語の型システムをプログラム的に操作・解析するための実験的なライブラリです。これは、コンパイラ、リンター、IDEなどのツールがGoのコードを理解し、型情報を利用するために使用されます。
* **型チェック**: プログラム内の変数や式の型が、言語の規則に従って正しく使用されているかを確認するプロセスです。
* **`exp/types`**: Goの型システムを表現するデータ構造と、それらを操作するためのAPIを提供します。例えば、型の定義、型の比較、式の型推論などを行うことができます。これは、Goのコンパイラ(`gc`)の型チェッカー部分を独立させたものと考えることができます。
### `gcimporter`
`gcimporter`は、Goコンパイラ(`gc`)によって生成されたコンパイル済みパッケージのバイナリ形式(`.a`ファイルや`.o`ファイル内に埋め込まれたGoの型情報)を読み込み、`exp/types`パッケージの内部表現に変換する役割を担います。これにより、他のGoパッケージがコンパイル済みのパッケージの型情報を利用できるようになります。
### `crypto/md5`パッケージ
`crypto/md5`は、Go言語の標準ライブラリに含まれるパッケージで、MD5ハッシュ関数を実装しています。MD5は、任意の長さのデータから128ビット(16バイト)のハッシュ値を生成する暗号学的ハッシュ関数です。このパッケージには、ハッシュ計算に必要な定数や関数が含まれています。
### Go言語における`const`と`init`
* **`const` (定数)**: Go言語における定数は、コンパイル時に値が決定され、実行中に変更できない不変の値を定義するために使用されます。数値、真偽値、文字列などの基本的な型で定義できます。
例: `const Pi = 3.14159`
* **`init`関数**: Go言語には、パッケージが初期化される際に自動的に実行される特別な関数 `init` があります。`init`関数は引数を取らず、戻り値もありません。各パッケージは複数の `init` 関数を持つことができ、それらは宣言された順序で実行されます。`init`関数は、パッケージレベルの変数の初期化、外部リソースのセットアップ、登録処理など、プログラムの実行開始前に一度だけ行われるべき処理に使用されます。
例:
```go
package mypackage
var myVar int
func init() {
myVar = 100
// その他の初期化処理
}
```
このコミットで言及されている `init1` は、`crypto/md5` パッケージ内の定数であり、`init` 関数とは直接関係ありません。しかし、`exp/types` のインポーターがこの定数を誤って `init` 関数のようなものと解釈してしまったことが問題の本質です。
## 技術的詳細
このコミットが対処している問題は、`exp/types` パッケージの `gcimporter` が、Goのコンパイル済みバイナリから型情報を読み込む際に発生するパースエラーに起因します。
具体的には、`crypto/md5` パッケージには以下のような定数宣言が含まれていました(またはそれに類する形式の定数)。
```go
const init1 = 0x67452301
ここで、0x67452301
は16進数表記の数値リテラルです。gcimporter
は、この const
宣言を解析する際に、何らかの理由で init1
を定数ではなく、関数(特に init
関数のような特殊な関数)として誤って認識してしまいました。
Goのコンパイラ(gc
)は、コンパイル済みのパッケージの型情報を独自のバイナリ形式で出力します。gcimporter
はこのバイナリ形式を読み取り、exp/types
が理解できる内部データ構造に変換します。この変換プロセスにおいて、定数と関数の区別が正しく行われなかったことが、このバグの核心です。
考えられる原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- バイナリ形式の解析ロジックの欠陥:
gcimporter
がGoコンパイラの出力するバイナリ形式を解析する際に、特定のパターン(例えば、init
という文字列を含む識別子や、特定の数値リテラル形式)を誤って関数のシグネチャと解釈してしまうバグがあった可能性があります。 - 型情報のエンコーディング/デコーディングの不一致: Goコンパイラが型情報をエンコードする方法と、
gcimporter
がそれをデコードする方法との間に、微妙な不一致があった可能性があります。 - 実験的パッケージの未成熟さ:
exp/types
は実験的なパッケージであり、Goの型システム全体を正確にモデル化し、すべてのエッジケースを処理するにはまだ開発途上であったため、このようなバグが発生したと考えられます。
この問題により、TestGcImport
テストは crypto/md5
をインポートしようとするとクラッシュし、テストスイート全体の実行を妨げていました。そのため、問題が根本的に解決されるまでの間、このテストをスキップするという暫定的な対応が取られました。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
ファイルに対して行われました。
--- a/src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
+++ b/src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
@@ -92,6 +92,13 @@ func testDir(t *testing.T, dir string, endTime time.Time) (nimports int) {
}
func TestGcImport(t *testing.T) {
+\t// Dies trying to read crypto/md5, which contains
+\t//\tconst init1 = 0x...\n+\t// The importer believes init1 should be a function for some reason.\n+\t// golang.org/issue/3682.\n+\tt.Logf(\"broken; skipping\")\n+\treturn\n+\n \t// On cross-compile builds, the path will not exist.\n \t// Need to use GOHOSTOS, which is not available.\n \tif _, err := os.Stat(gcPath); err != nil {\n```
具体的には、`TestGcImport` 関数の冒頭に以下の7行が追加されました。
1. `// Dies trying to read crypto/md5, which contains`
2. `//\tconst init1 = 0x...`
3. `// The importer believes init1 should be a function for some reason.`
4. `// golang.org/issue/3682.`
5. `t.Logf("broken; skipping")`
6. `return`
## コアとなるコードの解説
追加されたコードは、`TestGcImport` テストの実行を条件なしにスキップするためのものです。
* `// Dies trying to read crypto/md5, which contains`
* `//\tconst init1 = 0x...`
* `// The importer believes init1 should be a function for some reason.`
* `// golang.org/issue/3682.`
これらの行はコメントであり、このテストをスキップする理由を説明しています。
* `Dies trying to read crypto/md5`: `crypto/md5` パッケージを読み込もうとするとクラッシュすることを示しています。
* `const init1 = 0x...`: `crypto/md5` 内に問題の原因となる `init1` という定数があることを示唆しています。
* `The importer believes init1 should be a function for some reason.`: `exp/types` のインポーターが、この定数を誤って関数として解釈しているという具体的なバグの内容を説明しています。
* `golang.org/issue/3682.`: この問題がGoのIssueトラッカーで `Issue 3682` として追跡されていることを示しています。
* `t.Logf("broken; skipping")`
これはGoのテストフレームワーク(`testing`パッケージ)の機能です。`t.Logf` は、テストの実行中にログメッセージを出力するために使用されます。ここでは、「broken; skipping」(壊れているためスキップします)というメッセージを出力し、テストが意図的にスキップされたことを示します。
* `return`
この `return` ステートメントは、`TestGcImport` 関数の残りの部分が実行されるのを防ぎます。`t.Logf` の直後に `return` があるため、テストはメッセージをログに出力した直後に終了し、実際のインポート処理やテストロジックは実行されません。これにより、バグのあるコードパスが回避され、テストのクラッシュが防がれます。
この変更は、バグの根本的な修正ではなく、バグが修正されるまでの間、テストスイートが正常に動作するようにするための暫定的な回避策です。
## 関連リンク
* GitHubコミットページ: [https://github.com/golang/go/commit/95ae5c180efbeb7c086da2f62a6bccc49d7a8b76](https://github.com/golang/go/commit/95ae5c180efbeb7c086da2f62a6bccc49d7a8b76)
* Go Issue 3682: [https://golang.org/issue/3682](https://golang.org/issue/3682)
* Gerrit Change-ID (CL): [https://golang.org/cl/6243068](https://golang.org/cl/6243068)
## 参考にした情報源リンク
* Go Issue 3682: `https://golang.org/issue/3682` (このコミットの直接の参照元)
* Go言語の公式ドキュメント (Goの型システム、`const`、`init`関数、`testing`パッケージに関する一般的な情報): `https://golang.org/doc/`
* Go言語の`exp/types`パッケージのドキュメント (当時の情報): `https://pkg.go.dev/golang.org/x/tools/go/types` (現在の`go/types`パッケージに相当)
* Go言語の`crypto/md5`パッケージのドキュメント: `https://pkg.go.dev/crypto/md5`
* Go言語の`gcimporter`に関する情報 (Goのコンパイラとツールに関する一般的な情報源): `https://go.dev/blog/go1.18-type-parameters` (型パラメータに関する記事だが、型システム全般の理解に役立つ)
* Go言語のテストに関する情報: `https://go.dev/blog/testing`