[インデックス 13209] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のランタイムパッケージにおけるTestCrashHandle
というテストがFreeBSD上でビルドを失敗させる問題を修正するために、一時的にそのテストを無効化する変更です。
コミット
commit 994cdcea18402c8fa04fa5a039f711b886c89328
Author: Alex Brainman <alex.brainman@gmail.com>
Date: Wed May 30 16:41:15 2012 +1000
runtime: disable new TestCrashHandle on freebsd to fix build
R=golang-dev
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6256069
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/994cdcea18402c8fa04fa5a039f711b886c89328
元コミット内容
このコミットは、Go言語のruntime
パッケージ内のTestCrashHandle
という新しいテストがFreeBSD環境でビルドエラーを引き起こすため、そのテストをFreeBSD上でのみ無効化するというものです。これにより、FreeBSD環境でのGoのビルドが正常に完了するように修正されています。
変更の背景
Go言語はクロスプラットフォーム対応を重視しており、様々なオペレーティングシステム(OS)上で動作するように設計されています。しかし、特定のOS環境では、他のOSでは問題なく動作するコードやテストが、予期せぬ問題を引き起こすことがあります。
このコミットの背景には、Goのランタイムパッケージに追加された新しいテストであるTestCrashHandle
が、FreeBSD環境でビルドエラーを発生させていたという問題があります。テストがビルドプロセスの一部として実行される場合、そのテストが失敗すると全体のビルドも失敗してしまいます。開発者は、このビルドの失敗を解決し、FreeBSD上でもGoのビルドが正常に完了するようにする必要がありました。
一時的な解決策として、FreeBSD上でのみこのテストをスキップすることで、ビルドのブロックを解除し、他の開発者が作業を継続できるようにすることが目的でした。コメントにあるTODO(brainman): do not know why this test fails on freebsd
という記述から、この時点では根本原因が特定されておらず、一時的な回避策としてテストを無効化したことが伺えます。
前提知識の解説
Go言語のruntime
パッケージ
runtime
パッケージは、Goプログラムの実行環境(ランタイム)に関する機能を提供するパッケージです。ガベージコレクション、スケジューラ、スタック管理、システムコールなど、Goプログラムが動作するために必要な低レベルな機能が含まれています。クラッシュハンドリングもこのパッケージの重要な機能の一つです。
Go言語のテストフレームワーク
Go言語には標準でテストフレームワークが組み込まれており、testing
パッケージを使用します。
- テストファイルの命名規則: テストファイルは通常、テスト対象のファイル名に
_test.go
を付けた形式で命名されます(例:crash.go
に対するcrash_test.go
)。 - テスト関数の命名規則: テスト関数は
Test
で始まり、その後に続く名前の最初の文字が大文字である必要があります(例:func TestCrashHandle(t *testing.T)
)。 *testing.T
: テスト関数に渡される*testing.T
型の引数は、テストの実行状態を管理し、エラーの報告、ログの出力、テストのスキップなどを行うためのメソッドを提供します。t.Logf(...)
: フォーマットされた文字列をテストのログに出力します。テストが成功した場合でも出力されます。t.Skipf(...)
: テストをスキップし、その理由をフォーマットされた文字列で出力します。t.Fatal(...)
/t.Fatalf(...)
: テストを失敗としてマークし、実行を停止します。
runtime.GOOS
runtime
パッケージには、Goプログラムが実行されているオペレーティングシステムを示す定数GOOS
が定義されています。これは文字列型で、例えばLinuxでは"linux"
、Windowsでは"windows"
、macOSでは"darwin"
、そしてFreeBSDでは"freebsd"
という値を取ります。この定数を使用することで、特定のOSに依存する処理を条件分岐させることができます。
クロスプラットフォーム開発
Go言語は、単一のソースコードから複数のOSやアーキテクチャ向けのバイナリを生成できるクロスプラットフォーム開発を強力にサポートしています。しかし、OS固有のシステムコールやAPI、あるいはOSの挙動の違いによって、特定のプラットフォームでのみ問題が発生することがあります。このような場合、runtime.GOOS
のようなビルドタグや実行時チェックを用いて、プラットフォーム固有のコードを記述したり、特定のプラットフォームでテストや機能を無効化したりする対応が必要になります。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Goのテスト実行におけるプラットフォーム依存性の問題と、その一時的な回避策にあります。
TestCrashHandle
は、Goのランタイムがクラッシュをどのように処理するかをテストするものです。クラッシュハンドリングはOSのシグナル処理やメモリ管理など、低レベルなOS機能に深く依存しています。FreeBSDと他のOS(例えばLinuxやWindows)では、これらの低レベルな挙動に違いがあるため、あるOSで正常に動作するクラッシュテストが、別のOSでは予期せぬ結果(例えば、テストがハングアップする、期待されるシグナルが届かない、メモリ保護違反の挙動が異なるなど)を引き起こす可能性があります。
コミットメッセージのdisable new TestCrashHandle on freebsd to fix build
という記述と、コード内の// TODO(brainman): do not know why this test fails on freebsd
というコメントから、このテストがFreeBSD上で「失敗する」だけでなく、「ビルドを壊す」という深刻な問題を引き起こしていたことがわかります。これは、テストが実行時にパニックを起こしてプロセスが異常終了したり、テストスイート全体がハングアップしたりすることで、CI/CDパイプラインや開発者のローカルビルドが完了しなくなる状況を示唆しています。
この問題に対する解決策として、開発者はruntime.GOOS == "freebsd"
という条件分岐を追加し、FreeBSD上でテストが実行される場合にt.Logf
でスキップメッセージを出力し、return
でテスト関数を早期終了させるようにしました。これは、テストが失敗してビルドをブロックするのを防ぐための実用的なアプローチです。しかし、TODO
コメントが示すように、これは根本的な解決ではなく、FreeBSD上でのクラッシュハンドリングのテストカバレッジが一時的に失われることを意味します。将来的に、FreeBSDにおけるTestCrashHandle
の根本原因を特定し、修正する必要があることを示唆しています。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/crash_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/crash_test.go
@@ -9,6 +9,7 @@ import (
"os"
"os/exec"
"path/filepath"
+ "runtime"
"testing"
"text/template"
)
@@ -21,6 +22,12 @@ type crashTest struct {
// both main (m0) and non-main threads (m).
func testCrashHandler(t *testing.T, ct *crashTest) {
+\tif runtime.GOOS == "freebsd" {
+\t\t// TODO(brainman): do not know why this test fails on freebsd
+\t\tt.Logf("skipping test on %q", runtime.GOOS)
+\t\treturn
+\t}\n+\n st := template.Must(template.New("crashSource").Parse(crashSource))\n
dir, err := ioutil.TempDir("", "go-build")
コアとなるコードの解説
このコミットによるコードの変更は、src/pkg/runtime/crash_test.go
ファイル内のtestCrashHandler
関数に対して行われています。
-
import "runtime"
の追加:+ "runtime"
runtime.GOOS
を使用するために、runtime
パッケージがインポートリストに追加されました。 -
FreeBSD上でのテストスキップロジックの追加:
func testCrashHandler(t *testing.T, ct *crashTest) { if runtime.GOOS == "freebsd" { // TODO(brainman): do not know why this test fails on freebsd t.Logf("skipping test on %q", runtime.GOOS) return } // ... 既存のテストロジック ... }
if runtime.GOOS == "freebsd" { ... }
: この条件文は、現在のGoプログラムがFreeBSDオペレーティングシステム上で実行されているかどうかをチェックします。// TODO(brainman): do not know why this test fails on freebsd
: これは開発者向けのコメントで、このテストがFreeBSDで失敗する根本原因がまだ不明であることを示しています。将来的にこの問題が解決された際に、このスキップロジックを削除する必要があることを示唆する一般的なプラクティスです。t.Logf("skipping test on %q", runtime.GOOS)
:t.Logf
は、テストの実行ログにメッセージを出力します。ここでは、「FreeBSD上でテストをスキップしている」という情報がログに記録されます。%q
は文字列を引用符で囲んで出力するためのフォーマット指定子です。return
: このreturn
文により、testCrashHandler
関数の残りの部分(実際のクラッシュテストロジック)が実行されずに、関数が終了します。これにより、FreeBSD上ではこのテストが実質的に無効化され、ビルドの失敗を防ぎます。
この変更により、FreeBSD環境でのGoのビルドが正常に完了するようになりますが、同時にFreeBSD上でのクラッシュハンドリングのテストカバレッジが一時的に失われることになります。
関連リンク
このコミットメッセージにはhttps://golang.org/cl/6256069
というGo CL(Change List)へのリンクが記載されていますが、現在の検索ではこのCL番号に対応する情報を見つけることができませんでした。これは、CL番号が古すぎる、リンクが変更された、あるいはCLが公開リポジトリから削除されたなどの理由が考えられます。
参考にした情報源リンク
このコミットの具体的なCL情報が見つからなかったため、直接的な情報源リンクは提供できません。一般的なGo言語のテスト、ランタイム、クロスプラットフォーム開発に関する情報は、Goの公式ドキュメントやGoのソースコードリポジトリで確認できます。