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[インデックス 13215] ファイルの概要

このドキュメントは、Go言語のリンカ (cmd/ld) におけるELFセクション数の増加に関するコミット(インデックス 13215)について詳細に解説します。特に、NetBSD環境下でcgoを有効にしたバイナリが持つセクション数の増加に対応するための変更点に焦点を当てます。

コミット

このコミットは、Go言語のリンカが処理できるELF (Executable and Linkable Format) セクションの最大数を増やすことを目的としています。具体的には、NetBSD上でcgo(C言語との相互運用機能)を有効にしたGoバイナリが、デフォルトのセクション数制限を超えてしまう問題に対処しています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/586b6dfa465d83ea86d2f725b2c4416f9d32c917

元コミット内容

commit 586b6dfa465d83ea86d2f725b2c4416f9d32c917
Author: Joel Sing <jsing@google.com>
Date:   Thu May 31 03:06:38 2012 +1000

    cmd/ld: increase number of ELF sections
    
    On NetBSD a cgo enabled binary has more than 32 sections - bump NSECTS
    so that we can actually link them successfully.
    
    R=golang-dev, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6261052

変更の背景

Go言語のリンカ (cmd/ld) は、実行可能ファイルや共有ライブラリを生成する際に、ELF形式を使用します。ELFファイルは、コード、データ、シンボルテーブルなど、様々な情報を「セクション」と呼ばれる論理的なブロックに分割して格納します。リンカはこれらのセクションを適切に配置し、参照を解決することで最終的なバイナリを生成します。

このコミットが行われた当時、Goリンカが内部的に扱えるELFセクションの最大数 (NSECT) は32に設定されていました。しかし、NetBSDという特定のオペレーティングシステム環境において、cgo(GoプログラムからC言語のコードを呼び出すための機能)を有効にしてGoバイナリをビルドすると、生成されるELFファイルが32を超えるセクションを持つことが判明しました。

このセクション数の超過は、リンカがバイナリを正常にリンクできないという問題を引き起こしていました。リンカが扱えるセクション数を超えてしまうと、ビルドプロセスが失敗し、cgoを利用したGoプログラムをNetBSD上で実行可能な形式に変換することができませんでした。この問題を解決し、NetBSD上でのcgoの利用を可能にするために、リンカが扱えるELFセクションの最大数を増やす必要がありました。

前提知識の解説

ELF (Executable and Linkable Format)

ELFは、Unix系オペレーティングシステム(Linux, BSD, Solarisなど)で広く使用されている、実行可能ファイル、オブジェクトファイル、共有ライブラリ、コアダンプファイルの標準的なファイル形式です。ELFファイルは、プログラムのコード、データ、シンボル情報、デバッグ情報などを構造化して格納します。

ELFファイルの主要な構成要素は以下の通りです。

  • ELFヘッダ: ファイルの種類(実行可能ファイル、オブジェクトファイルなど)、ターゲットアーキテクチャ、エントリポイントアドレスなどの基本的な情報を含みます。
  • プログラムヘッダテーブル (Program Header Table): 実行可能ファイルや共有ライブラリにのみ存在し、プログラムのロード方法に関する情報(メモリセグメントの配置、パーミッションなど)を記述します。
  • セクションヘッダテーブル (Section Header Table): オブジェクトファイルや共有ライブラリに存在し、ファイル内の各セクションに関する情報(セクション名、サイズ、オフセット、タイプ、フラグなど)を記述します。
  • セクション (Sections): 実際のコードやデータが格納される領域です。一般的なセクションには以下のようなものがあります。
    • .text: 実行可能な機械語コード。
    • .data: 初期化されたグローバル変数や静的変数。
    • .rodata: 読み取り専用データ(文字列リテラルなど)。
    • .bss: 初期化されていないグローバル変数や静的変数。
    • .symtab: シンボルテーブル(関数名、変数名など)。
    • .strtab: 文字列テーブル(シンボル名やセクション名などの文字列)。
    • .debug_info: デバッグ情報。

Goリンカ (cmd/ld)

Go言語のツールチェインの一部であるリンカ (cmd/ld) は、Goコンパイラによって生成されたオブジェクトファイル(.oファイル)や、Cコンパイラによって生成されたオブジェクトファイル(cgoを使用する場合)、およびGo標準ライブラリやサードパーティライブラリを結合して、最終的な実行可能バイナリや共有ライブラリを生成する役割を担います。リンカは、シンボル解決、アドレスの再配置、セクションの結合と配置などを行います。

cgo

cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出したり、C言語のプログラムからGoの関数を呼び出したりするためのGoの機能です。cgoを使用すると、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、Goでは実装が難しい低レベルの操作を行ったりすることができます。

cgoが有効なGoバイナリをビルドする際、GoコンパイラとCコンパイラ(通常はGCCやClang)が連携して動作します。CコードはCコンパイラによってコンパイルされ、GoコードはGoコンパイラによってコンパイルされます。その後、Goリンカがこれら両方の言語のオブジェクトファイルを結合して最終的なバイナリを生成します。このプロセスにおいて、C言語のランタイムライブラリや、Cコードが使用する追加のセクション(例: デバッグ情報、特定のデータセクションなど)がELFファイルに追加されるため、結果としてセクションの総数が増加する傾向があります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goリンカの内部定数 NSECT の値を変更することにあります。NSECT は "Number of Sections" の略であり、リンカがELFファイルを処理する際に、内部的に管理できるセクションの最大数を定義しています。

元のコードでは、NSECT は32に設定されていました。これは、多くの一般的なELFバイナリにとっては十分な数でしたが、NetBSD環境でcgoを有効にしたGoバイナリの場合、この制限を超えてしまうことが問題でした。cgoを使用すると、GoランタイムとCランタイムの両方が含まれるため、通常よりも多くのセクション(例えば、Goの特定のセクション、Cライブラリのセクション、デバッグ情報セクションなど)が生成される可能性があります。

コミットでは、この NSECT の値を32から48に増加させています。この変更により、リンカはより多くのELFセクションを持つバイナリを正常に処理できるようになり、NetBSD上でのcgo有効バイナリのリンクエラーが解消されます。

この変更は、src/cmd/ld/elf.c というファイルで行われています。このファイルは、GoリンカのELFファイル生成に関するロジックを実装している部分です。具体的には、ELFヘッダやセクションヘッダテーブルの構築、セクションの配置など、ELF形式に準拠したバイナリを生成するための低レベルな処理が含まれています。NSECT のような定数は、リンカが内部データ構造(例えば、セクション情報を格納する配列のサイズなど)を割り当てる際に使用されます。この値を増やすことで、リンカはより大きなセクションヘッダテーブルを扱うことができるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/ld/elf.c ファイルの1箇所のみです。

--- a/src/cmd/ld/elf.c
+++ b/src/cmd/ld/elf.c
@@ -11,7 +11,7 @@
  * in order to write the code just once.  The 64-bit data structure is
  * written in the 32-bit format on the 32-bit machines.\n  */
-#define\tNSECT\t32
+#define\tNSECT\t48
 
  int
 iself;

コアとなるコードの解説

この変更は非常にシンプルで、#define プリプロセッサディレクティブによって定義されている NSECT の値を変更しています。

  • - #define\tNSECT\t32: 変更前の行で、NSECT は32として定義されていました。これは、リンカが最大32個のELFセクションを処理できることを意味します。
  • + #define\tNSECT\t48: 変更後の行で、NSECT は48に増加されました。これにより、リンカは最大48個のELFセクションを処理できるようになります。

この変更は、Goリンカの内部的な制限を緩和するものであり、特定の環境(NetBSD)と特定の機能(cgo)の組み合わせで発生していたビルドエラーを直接的に解決します。この定数の増加は、リンカがより多くのセクションを管理するためのメモリ割り当てやデータ構造のサイズに影響を与えますが、通常、現代のシステムではこの程度の増加はパフォーマンスに大きな影響を与えません。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
  • Go言語のコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている https://golang.org/cl/6261052 は、Gerritの変更リストへのリンクです。)
  • ELFファイル形式に関する一般的な技術文書や仕様書。
  • cgoの動作原理に関する技術記事やブログポスト。
  • NetBSDのシステムプログラミングに関するドキュメント。

[インデックス 13215] ファイルの概要

このドキュメントは、Go言語のリンカ (cmd/ld) におけるELFセクション数の増加に関するコミット(インデックス 13215)について詳細に解説します。特に、NetBSD環境下でcgoを有効にしたバイナリが持つセクション数の増加に対応するための変更点に焦点を当てます。

コミット

このコミットは、Go言語のリンカが処理できるELF (Executable and Linkable Format) セクションの最大数を増やすことを目的としています。具体的には、NetBSD上でcgo(C言語との相互運用機能)を有効にしたGoバイナリが、デフォルトのセクション数制限を超えてしまう問題に対処しています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/586b6dfa465d83ea86d2f725b2c4416f9d32c917

元コミット内容

commit 586b6dfa465d83ea86d2f725b2c4416f9d32c917
Author: Joel Sing <jsing@google.com>
Date:   Thu May 31 03:06:38 2012 +1000

    cmd/ld: increase number of ELF sections
    
    On NetBSD a cgo enabled binary has more than 32 sections - bump NSECTS
    so that we can actually link them successfully.
    
    R=golang-dev, rsc
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6261052

変更の背景

Go言語のリンカ (cmd/ld) は、実行可能ファイルや共有ライブラリを生成する際に、ELF形式を使用します。ELFファイルは、コード、データ、シンボルテーブルなど、様々な情報を「セクション」と呼ばれる論理的なブロックに分割して格納します。リンカはこれらのセクションを適切に配置し、参照を解決することで最終的なバイナリを生成します。

このコミットが行われた当時、Goリンカが内部的に扱えるELFセクションの最大数 (NSECT) は32に設定されていました。しかし、NetBSDという特定のオペレーティングシステム環境において、cgo(GoプログラムからC言語のコードを呼び出すための機能)を有効にしてGoバイナリをビルドすると、生成されるELFファイルが32を超えるセクションを持つことが判明しました。

このセクション数の超過は、リンカがバイナリを正常にリンクできないという問題を引き起こしていました。リンカが扱えるセクション数を超えてしまうと、ビルドプロセスが失敗し、cgoを利用したGoプログラムをNetBSD上で実行可能な形式に変換することができませんでした。この問題を解決し、NetBSD上でのcgoの利用を可能にするために、リンカが扱えるELFセクションの最大数を増やす必要がありました。

前提知識の解説

ELF (Executable and Linkable Format)

ELFは、Unix系オペレーティングシステム(Linux, BSD, Solarisなど)で広く使用されている、実行可能ファイル、オブジェクトファイル、共有ライブラリ、コアダンプファイルの標準的なファイル形式です。ELFファイルは、プログラムのコード、データ、シンボル情報、デバッグ情報などを構造化して格納します。

ELFファイルの主要な構成要素は以下の通りです。

  • ELFヘッダ: ファイルの種類(実行可能ファイル、オブジェクトファイルなど)、ターゲットアーキテクチャ、エントリポイントアドレスなどの基本的な情報を含みます。
  • プログラムヘッダテーブル (Program Header Table): 実行可能ファイルや共有ライブラリにのみ存在し、プログラムのロード方法に関する情報(メモリセグメントの配置、パーミッションなど)を記述します。
  • セクションヘッダテーブル (Section Header Table): オブジェクトファイルや共有ライブラリに存在し、ファイル内の各セクションに関する情報(セクション名、サイズ、オフセット、タイプ、フラグなど)を記述します。
  • セクション (Sections): 実際のコードやデータが格納される領域です。一般的なセクションには以下のようなものがあります。
    • .text: 実行可能な機械語コード。
    • .data: 初期化されたグローバル変数や静的変数。
    • .rodata: 読み取り専用データ(文字列リテラルなど)。
    • .bss: 初期化されていないグローバル変数や静的変数。
    • .symtab: シンボルテーブル(関数名、変数名など)。
    • .strtab: 文字列テーブル(シンボル名やセクション名などの文字列)。
    • .debug_info: デバッグ情報。

Goリンカ (cmd/ld)

Go言語のツールチェインの一部であるリンカ (cmd/ld) は、Goコンパイラによって生成されたオブジェクトファイル(.oファイル)や、Cコンパイラによって生成されたオブジェクトファイル(cgoを使用する場合)、およびGo標準ライブラリやサードパーティライブラリを結合して、最終的な実行可能バイナリや共有ライブラリを生成する役割を担います。リンカは、シンボル解決、アドレスの再配置、セクションの結合と配置などを行います。

cgo

cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出したり、C言語のプログラムからGoの関数を呼び出したりするためのGoの機能です。cgoを使用すると、既存のCライブラリをGoプロジェクトに統合したり、Goでは実装が難しい低レベルの操作を行ったりすることができます。

cgoが有効なGoバイナリをビルドする際、GoコンパイラとCコンパイラ(通常はGCCやClang)が連携して動作します。CコードはCコンパイラによってコンパイルされ、GoコードはGoコンパイラによってコンパイルされます。その後、Goリンカがこれら両方の言語のオブジェクトファイルを結合して最終的なバイナリを生成します。このプロセスにおいて、C言語のランタイムライブラリや、Cコードが使用する追加のセクション(例: デバッグ情報、特定のデータセクションなど)がELFファイルに追加されるため、結果としてセクションの総数が増加する傾向があります。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goリンカの内部定数 NSECT の値を変更することにあります。NSECT は "Number of Sections" の略であり、リンカがELFファイルを処理する際に、内部的に管理できるセクションの最大数を定義しています。

元のコードでは、NSECT は32に設定されていました。これは、多くの一般的なELFバイナリにとっては十分な数でしたが、NetBSD環境でcgoを有効にしたGoバイナリの場合、この制限を超えてしまうことが問題でした。cgoを使用すると、GoランタイムとCランタイムの両方が含まれるため、通常よりも多くのセクション(例えば、Goの特定のセクション、Cライブラリのセクション、デバッグ情報セクションなど)が生成される可能性があります。

コミットでは、この NSECT の値を32から48に増加させています。この変更により、リンカはより多くのELFセクションを持つバイナリを正常に処理できるようになり、NetBSD上でのcgo有効バイナリのリンクエラーが解消されます。

この変更は、src/cmd/ld/elf.c というファイルで行われています。このファイルは、GoリンカのELFファイル生成に関するロジックを実装している部分です。具体的には、ELFヘッダやセクションヘッダテーブルの構築、セクションの配置など、ELF形式に準拠したバイナリを生成するための低レベルな処理が含まれています。NSECT のような定数は、リンカが内部データ構造(例えば、セクション情報を格納する配列のサイズなど)を割り当てる際に使用されます。この値を増やすことで、リンカはより大きなセクションヘッダテーブルを扱うことができるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/ld/elf.c ファイルの1箇所のみです。

--- a/src/cmd/ld/elf.c
+++ b/src/cmd/ld/elf.c
@@ -11,7 +11,7 @@
  * in order to write the code just once.  The 64-bit data structure is
  * written in the 32-bit format on the 32-bit machines.\n  */
-#define\tNSECT\t32
+#define\tNSECT\t48
 
  int
 iself;

コアとなるコードの解説

この変更は非常にシンプルで、#define プリプロセッサディレクティブによって定義されている NSECT の値を変更しています。

  • - #define\tNSECT\t32: 変更前の行で、NSECT は32として定義されていました。これは、リンカが最大32個のELFセクションを処理できることを意味します。
  • + #define\tNSECT\t48: 変更後の行で、NSECT は48に増加されました。これにより、リンカは最大48個のELFセクションを処理できるようになります。

この変更は、Goリンカの内部的な制限を緩和するものであり、特定の環境(NetBSD)と特定の機能(cgo)の組み合わせで発生していたビルドエラーを直接的に解決します。この定数の増加は、リンカがより多くのセクションを管理するためのメモリ割り当てやデータ構造のサイズに影響を与えますが、通常、現代のシステムではこの程度の増加はパフォーマンスに大きな影響を与えません。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
  • Go言語のコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/ (コミットメッセージに記載されている https://golang.org/cl/6261052 は、Gerritの変更リストへのリンクです。)
  • ELFファイル形式に関する一般的な技術文書や仕様書。
  • cgoの動作原理に関する技術記事やブログポスト。
  • NetBSDのシステムプログラミングに関するドキュメント。