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[インデックス 13247] ファイルの概要

コミット

このコミットは、Go言語のAPI定義にFreeBSDプラットフォームのサポートを追加するものです。具体的には、api/go1.txtファイルにFreeBSD固有のAPI定義が大量に追加され、src/cmd/api/goapi.goファイルがFreeBSDをGo 1 APIのチェック対象プラットフォームに含めるように変更されています。これにより、将来的にFreeBSD環境でのGoの互換性が誤って損なわれることを防ぐ目的があります。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b7c2ade6964139b99d35f8f4d10d061e4443985f

元コミット内容

api: add FreeBSD to go1 API

Now that gri has made go/parser 15% faster, I offer this
change to slow back down cmd/api ~proportionately, adding
FreeBSD to the go1-checked set of platforms.

Really we should have done this earlier. This will prevent us
from breaking FreeBSD compatibility accidentally in the
future.

R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6279044

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語の安定したAPI互換性を維持するという強い意図があります。Go 1は、そのリリース時に「Go 1互換性保証」を掲げ、将来のバージョンアップにおいても既存のGo 1プログラムが動作し続けることを約束しました。この互換性保証を維持するためには、Go言語の標準ライブラリが提供するAPIが、サポート対象の各プラットフォームで一貫して利用可能であることを継続的に検証する必要があります。

コミットメッセージにある「Now that gri has made go/parser 15% faster, I offer this change to slow back down cmd/api ~proportionately」という記述は、ユーモアを交えつつも、cmd/apiツールがAPIの互換性チェックを行う際に、FreeBSDプラットフォームのAPI定義を追加することで処理時間が増加する可能性を示唆しています。しかし、それ以上に「Really we should have done this earlier. This will prevent us from breaking FreeBSD compatibility accidentally in the future.」という部分が重要です。これは、FreeBSDがGoの重要なターゲットプラットフォームの一つでありながら、これまでAPI互換性チェックの対象に明示的に含まれていなかったという認識と、それによって将来的に意図せずFreeBSD環境での互換性を損なうリスクがあったことへの懸念を表明しています。

この変更は、Go 1の互換性保証をFreeBSDプラットフォームにも確実に適用し、Go言語が多様なOS環境で安定して動作するための基盤を強化するものです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の概念を把握しておく必要があります。

  • Go 1互換性保証 (Go 1 Compatibility Promise): Go言語のバージョン1は、そのリリース時に「Go 1互換性保証」という非常に重要な原則を導入しました。これは、Go 1で書かれたプログラムは、Goの将来のバージョンでも変更なしにコンパイル・実行できることを保証するものです。この保証は、Go言語が広く採用される上で極めて重要な要素であり、開発者が安心してGoを使用できる基盤となっています。この保証を維持するため、Goの標準ライブラリのAPIは厳密に管理されています。

  • Go API (Application Programming Interface): Go言語のAPIは、標準ライブラリが提供する関数、型、変数などの公開されたインターフェースの集合を指します。開発者はこれらのAPIを利用してGoプログラムを記述します。Go 1互換性保証は、これらのAPIが将来のバージョンで破壊的に変更されないことを約束します。

  • cmd/apiツール: cmd/apiは、Go言語のツールチェインの一部として提供されるコマンドラインツールです。このツールの主な目的は、Goの標準ライブラリのAPIがGo 1互換性保証に準拠しているかを検証することです。具体的には、GoのソースコードからAPIの定義を抽出し、既知のAPIセット(go1.txtに記述されているもの)と比較することで、意図しないAPIの変更や削除がないかをチェックします。これにより、Goのリリースプロセスにおいて、APIの互換性が維持されていることを自動的に確認できます。

  • go1.txt: go1.txtは、Go 1互換性保証の対象となるGo標準ライブラリの公開APIのリストを記述したテキストファイルです。このファイルには、各パッケージの関数、型、メソッド、定数などが、それらが利用可能なプラットフォーム(例: darwin-amd64-cgo, linux-386など)と共に列挙されています。cmd/apiツールはこのファイルを「期待されるAPI」の基準として使用し、実際のAPI定義との差異を検出します。このファイルに新しいAPIが追加されることはありますが、既存のAPIが削除されたり、シグネチャが変更されたりすることは、互換性保証に違反するため原則として許されません。

  • go/parser: go/parserは、Go言語のソースコードを解析し、抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)を生成するためのGo標準ライブラリのパッケージです。cmd/apiツールは、このgo/parserを利用してGoのソースコードからAPI定義を抽出しています。コミットメッセージにある「gri has made go/parser 15% faster」という記述は、go/parserの性能改善が、cmd/apiのようなツール全体のパフォーマンス向上に寄与することを示しています。

  • FreeBSD: FreeBSDは、UNIXライクなオープンソースのオペレーティングシステムです。サーバー、デスクトップ、組み込みシステムなど、幅広い用途で利用されています。Go言語は、Linux、macOS、Windowsなどと同様に、FreeBSDも公式にサポートしている主要なターゲットプラットフォームの一つです。GoプログラムがFreeBSD環境で正しく動作し、そのAPIが期待通りに機能することは、Goエコシステムにとって重要です。

  • プラットフォーム固有のAPI: オペレーティングシステムによっては、特定の機能やシステムコールがそのOSに固有のものである場合があります。Goの標準ライブラリ、特にsyscallパッケージなどは、これらのプラットフォーム固有の機能にアクセスするためのAPIを提供します。go1.txtには、これらのプラットフォーム固有のAPIも、それぞれのプラットフォーム(例: freebsd-386, freebsd-amd64)と関連付けて記述されています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Go言語のAPI互換性チェックシステムにFreeBSDプラットフォームを完全に統合することにあります。

GoのAPI互換性保証は、Go言語の長期的な安定性と採用を支える重要な柱です。この保証は、Goの標準ライブラリが提供する公開APIが、Go 1リリース以降、破壊的に変更されないことを意味します。この保証を技術的に強制するために、Goプロジェクトではcmd/apiというツールとgo1.txtというAPI定義ファイルを使用しています。

go1.txtファイルは、Goの標準ライブラリが提供するすべての公開APIの「スナップショット」のようなものです。このファイルには、各API要素(関数、型、メソッド、定数など)が、それが利用可能なプラットフォーム(例: pkg log/syslog (darwin-amd64-cgo))と共に列挙されています。cmd/apiツールは、Goのソースコードを解析し、現在のAPI定義を抽出し、それをgo1.txtの内容と比較します。

  • APIの追加: 新しいAPIが標準ライブラリに追加される場合、そのAPIはgo1.txtにも追加されます。これは互換性保証に違反しません。
  • APIの変更/削除: 既存のAPIのシグネチャが変更されたり、APIが削除されたりした場合、cmd/apiツールはそれを検出し、エラーとして報告します。これはGo 1互換性保証に違反するため、通常は許されません(非常に特殊なケースを除く)。

このコミット以前は、FreeBSDプラットフォームのAPIはgo1.txtに完全に含まれていなかったと考えられます。これは、FreeBSD環境でGoの標準ライブラリが提供するAPIが、Goのリリースプロセス中に自動的に検証されていなかったことを意味します。その結果、FreeBSD固有のAPIが意図せず変更されたり、削除されたりするリスクがありました。

このコミットでは、api/go1.txtにFreeBSD (386およびAMD64アーキテクチャ) 向けの大量のAPI定義が追加されています。これには、log/syslogパッケージやsyscallパッケージなど、システムレベルの機能を提供するパッケージのAPIが含まれます。特にsyscallパッケージは、OSのシステムコールに直接アクセスするための低レベルなAPIを提供するため、OSごとにその内容が大きく異なります。FreeBSD固有のシステムコールや定数、構造体などがgo1.txtに追加されたことで、cmd/apiツールはこれらのFreeBSD固有のAPIも監視対象とすることができるようになりました。

また、src/cmd/api/goapi.goの変更は、cmd/apiツールがAPIチェックを実行する際に、FreeBSDをチェック対象のプラットフォームリストに明示的に含めるようにするためのものです。これにより、Goのビルドおよびテストプロセスにおいて、FreeBSD環境でのAPI互換性が自動的に検証されるようになります。

この変更は、Go言語がクロスプラットフォーム開発を強力にサポートする上で不可欠なステップであり、FreeBSDユーザーがGo言語を安心して利用できる環境を保証するためのものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットにおける主要なコードの変更は以下の2つのファイルに集中しています。

  1. api/go1.txt:

    • このファイルには、FreeBSD (386およびamd64アーキテクチャ) 向けの大量のAPI定義が追加されています。
    • 追加されたAPIには、log/syslogパッケージの定数、関数、型、およびsyscallパッケージの非常に多くの定数(AF_, BIOC, BPF, DLT, DT, E, EVFILT, EV, F_, IFF, IFT, IN_, IPPROTO, IPV6, IP, LOCK, MSG, NET_RT, NOTE, O_, PTRACE, RLIMIT, RTAX, RTA, RTF, RTM, RTV, RUSAGE, SCM, SIG, SIOC, SOCK, SO, SYS_, TCP_など)、関数、および構造体(BpfHdr, BpfInsn, BpfProgram, BpfStat, BpfVersion, BpfZbuf, BpfZbufHeader, Cmsghdr, Credential, Dirent, FdSet, Flock_t, Fsid, IPMreqn, IfData, IfMsghdr, IfaMsghdr, IfmaMsghdr, Inet6Pktinfoなど)が含まれます。
    • これらの追加は、FreeBSD環境で利用可能なGo標準ライブラリの公開APIを網羅するためのものです。
  2. src/cmd/api/goapi.go:

    • このファイルには、FreeBSDをAPIチェックの対象プラットフォームとして追加するための変更が加えられています。
    • 具体的には、goapi.go内のプラットフォームリストにfreebsd-386freebsd-amd64が追加されたと推測されます(コミットログの差分からは具体的な行は読み取れませんが、コミットメッセージとファイル変更の概要から判断できます)。これにより、cmd/apiツールがFreeBSD環境のAPIも自動的に検証するようになります。

コアとなるコードの解説

api/go1.txtへの変更は、GoのAPI互換性保証のメカニズムにおいて、FreeBSDプラットフォームを正式な監視対象に含めることを意味します。このファイルは、Goの標準ライブラリが提供する公開APIの「ホワイトリスト」として機能します。各エントリは、pkg <パッケージ名> (<プラットフォーム>), <APIの種類> <API名> <型/シグネチャ>のような形式で記述されます。

例えば、pkg log/syslog (freebsd-386), const LOG_ALERT Priorityという行は、log/syslogパッケージのLOG_ALERT定数が、FreeBSDの32ビット環境でPriority型として利用可能であることを示しています。同様に、pkg syscall (freebsd-amd64), func Accept(int) (int, Sockaddr, error)は、syscallパッケージのAccept関数が、FreeBSDの64ビット環境で特定のシグネチャを持つことを示します。

これらのエントリがgo1.txtに追加されることで、cmd/apiツールは、Goのソースコードを解析した結果とこのファイルの内容を比較し、FreeBSD環境でのAPIの変更が互換性保証に違反していないかを自動的にチェックできるようになります。もし、FreeBSD向けのAPIがgo1.txtに存在しないにもかかわらずソースコードから削除されたり、シグネチャが変更されたりした場合、それは検出されません。このコミットにより、FreeBSD環境でのGoの安定性が大幅に向上します。

src/cmd/api/goapi.goの変更は、cmd/apiツールがどのプラットフォームのAPIをチェックするかを決定するロジックに影響を与えます。このファイルは、go1.txtを読み込み、Goのソースコードを解析し、両者を比較する主要なロジックを含んでいます。FreeBSDがチェック対象のプラットフォームリストに追加されることで、cmd/apiはFreeBSD固有のビルドタグ(例: //go:build freebsd)を持つコードパスも考慮に入れ、そのAPIがgo1.txtに記述されたFreeBSDのAPI定義と一致するかを確認するようになります。

この二つの変更が組み合わさることで、GoのビルドシステムはFreeBSD環境におけるAPIの安定性を継続的に監視し、意図しない破壊的変更を未然に防ぐことが可能になります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go 1 and the Future of Go Programs (Go公式ブログ): Go 1互換性保証の背景と重要性について理解を深めるために参照しました。
  • Go言語のGitHubリポジトリ: cmd/apiツールとgo1.txtファイルの実際のコードと内容を確認するために参照しました。
  • FreeBSD公式ドキュメント: FreeBSDの一般的な情報と、Go言語がサポートするプラットフォームとしての位置付けを理解するために参照しました。
  • Go言語のsyscallパッケージに関するドキュメント: syscallパッケージがOS固有のAPIをどのように扱うかについて理解を深めるために参照しました。
  • Go言語のビルドタグに関するドキュメント: プラットフォーム固有のコードをGoがどのように扱うかについて理解を深めるために参照しました。

[インデックス 13247] ファイルの概要

コミット

このコミットは、Go言語のAPI定義にFreeBSDプラットフォームのサポートを追加するものです。具体的には、api/go1.txtファイルにFreeBSD固有のAPI定義が大量に追加され、src/cmd/api/goapi.goファイルがFreeBSDをGo 1 APIのチェック対象プラットフォームに含めるように変更されています。これにより、将来的にFreeBSD環境でのGoの互換性が誤って損なわれることを防ぐ目的があります。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/b7c2ade6964139b99d35f8f4d10d061e4443985f

元コミット内容

api: add FreeBSD to go1 API

Now that gri has made go/parser 15% faster, I offer this
change to slow back down cmd/api ~proportionately, adding
FreeBSD to the go1-checked set of platforms.

Really we should have done this earlier. This will prevent us
from breaking FreeBSD compatibility accidentally in the
future.

R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6279044

変更の背景

このコミットの背景には、Go言語の安定したAPI互換性を維持するという強い意図があります。Go 1は、そのリリース時に「Go 1互換性保証」を掲げ、将来のバージョンアップにおいても既存のGo 1プログラムが動作し続けることを約束しました。この互換性保証を維持するためには、Go言語の標準ライブラリが提供するAPIが、サポート対象の各プラットフォームで一貫して利用可能であることを継続的に検証する必要があります。

コミットメッセージにある「Now that gri has made go/parser 15% faster, I offer this change to slow back down cmd/api ~proportionately, adding FreeBSD to the go1-checked set of platforms.」という記述は、ユーモアを交えつつも、cmd/apiツールがAPIの互換性チェックを行う際に、FreeBSDプラットフォームのAPI定義を追加することで処理時間が増加する可能性を示唆しています。しかし、それ以上に「Really we should have done this earlier. This will prevent us from breaking FreeBSD compatibility accidentally in the future.」という部分が重要です。これは、FreeBSDがGoの重要なターゲットプラットフォームの一つでありながら、これまでAPI互換性チェックの対象に明示的に含まれていなかったという認識と、それによって将来的に意図せずFreeBSD環境での互換性を損なうリスクがあったことへの懸念を表明しています。

この変更は、Go 1の互換性保証をFreeBSDプラットフォームにも確実に適用し、Go言語が多様なOS環境で安定して動作するための基盤を強化するものです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の概念を把握しておく必要があります。

  • Go 1互換性保証 (Go 1 Compatibility Promise): Go言語のバージョン1は、そのリリース時に「Go 1互換性保証」という非常に重要な原則を導入しました。これは、Go 1で書かれたプログラムは、Goの将来のバージョンでも変更なしにコンパイル・実行できることを保証するものです。この保証は、Go言語が広く採用される上で極めて重要な要素であり、開発者が安心してGoを使用できる基盤となっています。この保証を維持するため、Goの標準ライブラリのAPIは厳密に管理されています。

  • Go API (Application Programming Interface): Go言語のAPIは、標準ライブラリが提供する関数、型、変数などの公開されたインターフェースの集合を指します。開発者はこれらのAPIを利用してGoプログラムを記述します。Go 1互換性保証は、これらのAPIが将来のバージョンで破壊的に変更されないことを約束します。

  • cmd/apiツール: cmd/apiは、Go言語のツールチェインの一部として提供されるコマンドラインツールです。このツールの主な目的は、Goの標準ライブラリのAPIがGo 1互換性保証に準拠しているかを検証することです。具体的には、GoのソースコードからAPIの定義を抽出し、既知のAPIセット(go1.txtに記述されているもの)と比較することで、意図しないAPIの変更や削除がないかをチェックします。これにより、Goのリリースプロセスにおいて、APIの互換性が維持されていることを自動的に確認できます。

  • go1.txt: go1.txtは、Go 1互換性保証の対象となるGo標準ライブラリの公開APIのリストを記述したテキストファイルです。このファイルには、各パッケージの関数、型、メソッド、定数などが、それらが利用可能なプラットフォーム(例: darwin-amd64-cgo, linux-386など)と共に列挙されています。cmd/apiツールはこのファイルを「期待されるAPI」の基準として使用し、実際のAPI定義との差異を検出します。このファイルに新しいAPIが追加されることはありますが、既存のAPIが削除されたり、シグネチャが変更されたりすることは、互換性保証に違反するため原則として許されません。

  • go/parser: go/parserは、Go言語のソースコードを解析し、抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)を生成するためのGo標準ライブラリのパッケージです。cmd/apiツールは、このgo/parserを利用してGoのソースコードからAPI定義を抽出しています。コミットメッセージにある「gri has made go/parser 15% faster」という記述は、go/parserの性能改善が、cmd/apiのようなツール全体のパフォーマンス向上に寄与することを示しています。

  • FreeBSD: FreeBSDは、UNIXライクなオープンソースのオペレーティングシステムです。サーバー、デスクトップ、組み込みシステムなど、幅広い用途で利用されています。Go言語は、Linux、macOS、Windowsなどと同様に、FreeBSDも公式にサポートしている主要なターゲットプラットフォームの一つです。GoプログラムがFreeBSD環境で正しく動作し、そのAPIが期待通りに機能することは、Goエコシステムにとって重要です。

  • プラットフォーム固有のAPI: オペレーティングシステムによっては、特定の機能やシステムコールがそのOSに固有のものである場合があります。Goの標準ライブラリ、特にsyscallパッケージなどは、これらのプラットフォーム固有の機能にアクセスするためのAPIを提供します。go1.txtには、これらのプラットフォーム固有のAPIも、それぞれのプラットフォーム(例: freebsd-386, freebsd-amd64)と関連付けて記述されています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Go言語のAPI互換性チェックシステムにFreeBSDプラットフォームを完全に統合することにあります。

GoのAPI互換性保証は、Go言語の長期的な安定性と採用を支える重要な柱です。この保証は、Goの標準ライブラリが提供する公開APIが、Go 1リリース以降、破壊的に変更されないことを意味します。この保証を技術的に強制するために、Goプロジェクトではcmd/apiというツールとgo1.txtというAPI定義ファイルを使用しています。

go1.txtファイルは、Goの標準ライブラリが提供するすべての公開APIの「スナップショット」のようなものです。このファイルには、各API要素(関数、型、メソッド、定数など)が、それが利用可能なプラットフォーム(例: pkg log/syslog (darwin-amd64-cgo))と共に列挙されています。cmd/apiツールは、Goのソースコードを解析し、現在のAPI定義を抽出し、それをgo1.txtの内容と比較します。

  • APIの追加: 新しいAPIが標準ライブラリに追加される場合、そのAPIはgo1.txtにも追加されます。これは互換性保証に違反しません。
  • APIの変更/削除: 既存のAPIのシグネチャが変更されたり、APIが削除されたりした場合、cmd/apiツールはそれを検出し、エラーとして報告します。これはGo 1互換性保証に違反するため、原則として許されません(非常に特殊なケースを除く)。

このコミット以前は、FreeBSDプラットフォームのAPIはgo1.txtに完全に含まれていなかったと考えられます。これは、FreeBSD環境でGoの標準ライブラリが提供するAPIが、Goのリリースプロセス中に自動的に検証されていなかったことを意味します。その結果、FreeBSD固有のAPIが意図せず変更されたり、削除されたりするリスクがありました。

このコミットでは、api/go1.txtにFreeBSD (386およびAMD64アーキテクチャ) 向けの大量のAPI定義が追加されています。これには、log/syslogパッケージやsyscallパッケージなど、システムレベルの機能を提供するパッケージのAPIが含まれます。特にsyscallパッケージは、OSのシステムコールに直接アクセスするための低レベルなAPIを提供するため、OSごとにその内容が大きく異なります。FreeBSD固有のシステムコールや定数、構造体などがgo1.txtに追加されたことで、cmd/apiツールはこれらのFreeBSD固有のAPIも監視対象とすることができるようになりました。

また、src/cmd/api/goapi.goの変更は、cmd/apiツールがAPIチェックを実行する際に、FreeBSDをチェック対象のプラットフォームリストに明示的に含めるようにするためのものです。これにより、Goのビルドおよびテストプロセスにおいて、FreeBSD環境でのAPI互換性が自動的に検証されるようになります。

この変更は、Go言語がクロスプラットフォーム開発を強力にサポートする上で不可欠なステップであり、FreeBSDユーザーがGo言語を安心して利用できる環境を保証するためのものです。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットにおける主要なコードの変更は以下の2つのファイルに集中しています。

  1. api/go1.txt:

    • このファイルには、FreeBSD (386およびamd64アーキテクチャ) 向けの大量のAPI定義が追加されています。
    • 追加されたAPIには、log/syslogパッケージの定数、関数、型、およびsyscallパッケージの非常に多くの定数(AF_, BIOC, BPF, DLT, DT, E, EVFILT, EV, F_, IFF, IFT, IN_, IPPROTO, IPV6, IP, LOCK, MSG, NET_RT, NOTE, O_, PTRACE, RLIMIT, RTAX, RTA, RTF, RTM, RTV, RUSAGE, SCM, SIG, SIOC, SOCK, SO, SYS_, TCP_など)、関数、および構造体(BpfHdr, BpfInsn, BpfProgram, BpfStat, BpfVersion, BpfZbuf, BpfZbufHeader, Cmsghdr, Credential, Dirent, FdSet, Flock_t, Fsid, IPMreqn, IfData, IfMsghdr, IfaMsghdr, IfmaMsghdr, Inet6Pktinfoなど)が含まれます。
    • これらの追加は、FreeBSD環境で利用可能なGo標準ライブラリの公開APIを網羅するためのものです。
  2. src/cmd/api/goapi.go:

    • このファイルには、FreeBSDをAPIチェックの対象プラットフォームとして追加するための変更が加えられています。
    • 具体的には、goapi.go内のプラットフォームリストにfreebsd-386freebsd-amd64が追加されたと推測されます(コミットログの差分からは具体的な行は読み取れませんが、コミットメッセージとファイル変更の概要から判断できます)。これにより、cmd/apiツールがFreeBSD環境のAPIも自動的に検証するようになります。

コアとなるコードの解説

api/go1.txtへの変更は、GoのAPI互換性保証のメカニズムにおいて、FreeBSDプラットフォームを正式な監視対象に含めることを意味します。このファイルは、Goの標準ライブラリが提供する公開APIの「ホワイトリスト」として機能します。各エントリは、pkg <パッケージ名> (<プラットフォーム>), <APIの種類> <API名> <型/シグネチャ>のような形式で記述されます。

例えば、pkg log/syslog (freebsd-386), const LOG_ALERT Priorityという行は、log/syslogパッケージのLOG_ALERT定数が、FreeBSDの32ビット環境でPriority型として利用可能であることを示しています。同様に、pkg syscall (freebsd-amd64), func Accept(int) (int, Sockaddr, error)は、syscallパッケージのAccept関数が、FreeBSDの64ビット環境で特定のシグネチャを持つことを示します。

これらのエントリがgo1.txtに追加されることで、cmd/apiツールは、Goのソースコードを解析した結果とこのファイルの内容を比較し、FreeBSD環境でのAPIの変更が互換性保証に違反していないかを自動的にチェックできるようになります。もし、FreeBSD向けのAPIがgo1.txtに存在しないにもかかわらずソースコードから削除されたり、シグネチャが変更されたりした場合、それは検出されません。このコミットにより、FreeBSD環境でのGoの安定性が大幅に向上します。

src/cmd/api/goapi.goの変更は、cmd/apiツールがどのプラットフォームのAPIをチェックするかを決定するロジックに影響を与えます。このファイルは、go1.txtを読み込み、Goのソースコードを解析し、両者を比較する主要なロジックを含んでいます。FreeBSDがチェック対象のプラットフォームリストに追加されることで、cmd/apiはFreeBSD固有のビルドタグ(例: //go:build freebsd)を持つコードパスも考慮に入れ、そのAPIがgo1.txtに記述されたFreeBSDのAPI定義と一致するかを確認するようになります。

この二つの変更が組み合わさることで、GoのビルドシステムはFreeBSD環境におけるAPIの安定性を継続的に監視し、意図しない破壊的変更を未然に防ぐことが可能になります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go 1 and the Future of Go Programs (Go公式ブログ): Go 1互換性保証の背景と重要性について理解を深めるために参照しました。
  • Go言語のGitHubリポジトリ: cmd/apiツールとgo1.txtファイルの実際のコードと内容を確認するために参照しました。
  • FreeBSD公式ドキュメント: FreeBSDの一般的な情報と、Go言語がサポートするプラットフォームとしての位置付けを理解するために参照しました。
  • Go言語のsyscallパッケージに関するドキュメント: syscallパッケージがOS固有のAPIをどのように扱うかについて理解を深めるために参照しました。
  • Go言語のビルドタグに関するドキュメント: プラットフォーム固有のコードをGoがどのように扱うかについて理解を深めるために参照しました。