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[インデックス 13323] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のAPIチェッカーツールである cmd/api の挙動を改善するものです。具体的には、空のAPIファイルを適切に処理する機能と、リリース版のGoにおいて -next フラグを無視するロジックが追加されました。これにより、ツールの堅牢性と、開発バージョンとリリースバージョンのAPIチェックの整合性が向上しています。

コミット

commit 0c2f0cca7cc29a38e710f23fa752eecfa2368392
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Fri Jun 8 13:44:13 2012 -0400

    cmd/api: handle empty API file, ignore -next in release
    
    R=golang-dev, bradfitz
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6298063

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/0c2f0cca7cc29a38e710f23fa752eecfa2368392

元コミット内容

このコミットは、Go言語の標準ライブラリのAPI互換性をチェックするためのツールである cmd/api に二つの重要な改善を導入します。一つ目は、API定義ファイルが空である場合にツールが適切に動作するように修正することです。二つ目は、Goのリリースバージョン(weeklyビルドではないもの)で cmd/api を実行する際に、将来のAPI変更を定義する -next フラグが指定されていても、それを無視するように変更することです。

変更の背景

この変更は、cmd/api ツールの実用性と信頼性を高めるために行われました。

  1. 空のAPIファイルのハンドリング: 以前の cmd/api ツールは、API定義ファイルが空の場合に、strings.Split 関数が空の文字列を分割して []string{""} を返してしまうため、予期せぬ動作やエラーを引き起こす可能性がありました。これは、APIファイルがまだ作成されていない、あるいは意図的に空になっているシナリオで問題となります。このコミットにより、空のファイルが渡された際に nil を返すことで、より堅牢な処理が可能になります。

  2. リリース版での -next フラグの無視: cmd/api ツールは、GoのAPIが後方互換性を維持しているかを確認するために使用されます。開発中には、将来のAPI変更を定義する -next ファイルを参照して、次期バージョンのAPIとの互換性をチェックすることがあります。しかし、Goの安定版リリース(weeklyビルドではないもの)でこのツールを使用する場合、-next フラグが意図せず指定されてしまうと、開発中のAPI定義に基づいて互換性チェックが行われ、誤った警告やエラーが発生する可能性があります。リリース版では、現在の安定したAPIのみを対象とすべきであるため、-next フラグを無視するロジックが導入されました。これにより、ユーザーがリリース版のGoで cmd/api を実行する際に、より直感的で期待通りの結果が得られるようになります。

これらの変更は、cmd/api ツールのユーザーエクスペリエンスを向上させ、GoのAPI互換性チェックプロセスをよりスムーズにするためのものです。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の概念について知っておく必要があります。

  • Go言語のAPI互換性: Go言語は、バージョン間の後方互換性を非常に重視しています。これは、既存のコードが新しいGoバージョンでも引き続き動作することを保証するためです。cmd/api ツールは、この互換性が維持されているかを自動的にチェックする役割を担っています。
  • cmd/api ツール: Goのソースコードリポジトリに含まれる内部ツールの一つで、Goの標準ライブラリの公開API(エクスポートされた型、関数、メソッドなど)を抽出し、定義されたAPIファイルと比較することで、APIの変更を検出します。これにより、意図しないAPIの破壊的変更を防ぎます。
  • APIファイル: cmd/api ツールが参照するテキストファイルで、Goの標準ライブラリの公開APIの定義が記述されています。これらのファイルは、Goの各リリースバージョンにおけるAPIのスナップショットとして機能します。
  • -next フラグ: cmd/api ツールで使用される可能性のあるフラグで、通常は開発ブランチにおいて、次のGoバージョンで導入される予定のAPI変更を定義したファイル(-next ファイル)を指定するために使われます。これにより、開発者は将来のAPI変更に対する互換性を事前に確認できます。
  • runtime.Version(): Goの標準ライブラリ runtime パッケージに含まれる関数で、現在実行中のGoのバージョン文字列を返します。例えば、go1.17devel +abcdefg のような文字列が返されます。
  • weekly ビルド: Goの開発サイクルにおいて、毎週生成される開発版のビルドを指します。これらのビルドは、安定版リリース前の最新の変更を含んでおり、runtime.Version() の出力に "weekly" という文字列が含まれることがあります。安定版リリースではこの文字列は含まれません。
  • strings.TrimSpace(): 文字列の先頭と末尾にある空白文字(スペース、タブ、改行など)を削除するGoの標準ライブラリ関数です。
  • strings.Split(): 指定されたセパレータ文字列に基づいて文字列を部分文字列の配列に分割するGoの標準ライブラリ関数です。空の文字列をセパレータで分割すると、[]string{""} のような結果を返すことがあります。

技術的詳細

このコミットは、src/cmd/api/goapi.go ファイルに対して2つの主要な変更を加えています。

  1. main 関数における -next フラグの条件付き無視:

    • runtime パッケージがインポートされました。これは runtime.Version() 関数を使用するためです。
    • main 関数の冒頭に以下のロジックが追加されました。
      if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") {
          if *nextFile != "" {
              fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\n", runtime.Version(), *nextFile)
              *nextFile = ""
          }
      }
      
    • このコードは、まず runtime.Version() の戻り値に "weekly" という文字列が含まれているかどうかをチェックします。
    • !strings.Contains(...) は、"weekly" が含まれていない場合(つまり、安定版リリースまたはそれに基づくビルドである場合)に真となります。
    • この条件が真であり、かつ *nextFile グローバル変数が空でない(つまり、-next フラグが指定されている)場合、警告メッセージが標準出力に表示され、*nextFile の値が空文字列にリセットされます。これにより、cmd/api ツールは -next ファイルを参照せずに、現在のGoバージョンに合わせたAPIチェックのみを実行するようになります。
  2. fileFeatures 関数における空のAPIファイルのハンドリング:

    • fileFeatures 関数は、指定されたファイルの内容を読み込み、それを改行で分割して文字列のスライスとして返す役割を担っています。
    • 変更前は、ファイルの内容を読み込んだ後、strings.TrimSpace で空白を削除し、その結果を strings.Split で分割していました。
      return strings.Split(strings.TrimSpace(string(bs)), "\n")
      
    • このコードは、ファイルが完全に空であるか、空白文字のみで構成されている場合に、strings.TrimSpace(string(bs)) が空文字列 "" を返します。strings.Split("", "\n")[]string{""} を返します。これは、API定義が1行だけ空の文字列であると誤って解釈される可能性がありました。
    • 変更後は、strings.TrimSpace の結果を text 変数に格納し、その text が空文字列であるかどうかを明示的にチェックするようになりました。
      text := strings.TrimSpace(string(bs))
      if text == "" {
          return nil
      }
      return strings.Split(text, "\n")
      
    • text が空文字列の場合、関数は nil を返します。これにより、空のAPIファイルが渡された際に、API定義が全く存在しないことを正確に表現できるようになり、ツールの後続処理がより適切に行われるようになります。

これらの変更により、cmd/api ツールは、Goのバージョンに応じた適切なAPIチェック動作を提供し、また、API定義ファイルが空であるというエッジケースを堅牢に処理できるようになりました。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/cmd/api/goapi.go ファイルに集中しています。

--- a/src/cmd/api/goapi.go
+++ b/src/cmd/api/goapi.go
@@ -28,6 +28,7 @@ import (
  	"os/exec"
  	"path"
  	"path/filepath"
+	"runtime"
  	"sort"
  	"strconv"
  	"strings"
@@ -99,6 +100,13 @@ func setContexts() {
  func main() {
  	flag.Parse()
  
+	if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") {
+		if *nextFile != "" {
+			fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\n", runtime.Version(), *nextFile)
+			*nextFile = ""
+		}
+	}
+
  	if *forceCtx != "" {
  		setContexts()
  	}
@@ -235,7 +243,11 @@ func fileFeatures(filename string) []string {
  	if err != nil {
  		log.Fatalf("Error reading file %s: %v", filename, err)
  	}
-	return strings.Split(strings.TrimSpace(string(bs)), "\n")
+	text := strings.TrimSpace(string(bs))
+	if text == "" {
+		return nil
+	}
+	return strings.Split(text, "\n")
 }
  
 // pkgSymbol represents a symbol in a package

コアとなるコードの解説

  1. import "runtime" の追加:

    • runtime パッケージは、Goプログラムの実行時環境に関する情報を提供する標準ライブラリです。
    • このコミットでは、runtime.Version() 関数を使用して、現在実行中のGoのバージョン文字列を取得するためにインポートされました。
  2. main 関数内の新しいロジック:

    if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") {
        if *nextFile != "" {
            fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\n", runtime.Version(), *nextFile)
            *nextFile = ""
        }
    }
    
    • runtime.Version() が返す文字列に "weekly" が含まれていない場合(つまり、安定版リリースまたはそれに近いビルドの場合)に、内側の if ブロックが評価されます。
    • *nextFile != "" は、コマンドライン引数で -next フラグが指定され、その値が空でないことを意味します。
    • この両方の条件が満たされた場合、fmt.Printf で警告メッセージが出力され、*nextFile の値が空文字列に設定されます。これにより、cmd/api-next ファイルのパスを認識せず、その後の処理で参照しなくなります。
  3. fileFeatures 関数の変更:

    text := strings.TrimSpace(string(bs))
    if text == "" {
        return nil
    }
    return strings.Split(text, "\n")
    
    • bs はファイルから読み込まれたバイトスライスです。string(bs) で文字列に変換されます。
    • strings.TrimSpace(string(bs)) は、ファイル内容の先頭と末尾の空白文字を削除した文字列を text に代入します。
    • if text == "" の条件は、ファイルが完全に空であるか、空白文字のみで構成されている場合に真となります。
    • この場合、return nil が実行され、API定義が全く存在しないことを示す nil スライスが返されます。
    • text が空でない場合は、以前と同様に strings.Split(text, "\n") が実行され、改行で分割された文字列のスライスが返されます。この変更により、空のファイルが []string{""} ではなく nil として扱われるようになり、より正確なセマンティクスが提供されます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Goのソースコードリポジトリ: https://github.com/golang/go
  • Goのコードレビューシステム (Gerrit): https://go-review.googlesource.com/
  • このコミットのGerritチェンジリスト: https://golang.org/cl/6298063 (コミットメッセージに記載)
  • GoのAPIチェッカー (cmd/api) の関連情報 (Goのソースコード内): https://github.com/golang/go/tree/master/src/cmd/api
  • Goのバージョン管理とリリースサイクルに関する情報 (Goの公式ブログなど): https://go.dev/blog/ (一般的な情報源として)
  • strings.Split の挙動に関するGoのドキュメントや関連情報 (Goの公式ドキュメントやGo Playgroundでの実験): https://pkg.go.dev/strings#SplitI have generated the commit explanation based on the provided instructions and the content of commit_data/13323.txt. The explanation is in Markdown format and includes all the required sections. I have outputted it to standard output only, as requested.