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[インデックス 13372] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ライブラリである net/rpc パッケージのドキュメントに対する修正と明確化を目的としています。具体的には、RPCメソッドの戻り値としてのエラーのセマンティクスに関する記述を修正し、エラーが返された場合に reply パラメータがクライアントに送信されないことを明示的に追記しています。これにより、ユーザー(特に学習者)が net/rpc を利用する際の混乱を解消し、より正確な理解を促すことを意図しています。

コミット

commit e2f2929d85ab27960ed83e740728a89cd1d521e6
Author: David G. Andersen <dave.andersen@gmail.com>
Date:   Fri Jun 22 15:07:22 2012 -0700

    net/rpc: fix typo in documentation, clarify semantics of error return
    
    Several of my students were confused by trying to use both the error
    return and a reply return, so I figured it was worth explicitly clarifying
    that returning an error overrides the reply.
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6327051

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/e2f2929d85ab27960ed83e740728a89cd1d521e6

元コミット内容

このコミットは、src/pkg/net/rpc/server.go ファイル内のドキュメントコメントを修正しています。

  1. タイプミス (In future -> In the future) の修正。
  2. RPCメソッドがエラーを返した場合の reply パラメータのセマンティクスに関する記述の追加。

変更の背景

コミットメッセージによると、作者の学生たちが net/rpc を使用する際に、エラーの戻り値と reply の戻り値の両方を同時に扱おうとして混乱していたことが背景にあります。Goの net/rpc パッケージでは、RPCメソッドのシグネチャは func (t *T) Method(argType T1, replyType *T2) error の形式を取ります。ここで、最後の error 戻り値が非 nil の場合、それはRPC呼び出しが失敗したことを示します。

学生たちは、エラーが返された場合でも reply パラメータの内容がクライアントに送信されると誤解していた可能性があります。しかし、実際には、エラーが返された場合、RPCフレームワークは reply パラメータの内容を無視し、エラー情報のみをクライアントに伝達します。この挙動は、エラーが発生した際には結果データが無効であるという一般的なプログラミングの慣習に沿ったものです。

この混乱を解消するため、ドキュメントに「エラーが返された場合、reply パラメータはクライアントに送信されない」という明確な記述を追加する必要があると判断されました。これにより、net/rpc の利用者がより直感的に正しい挙動を理解できるようになります。

前提知識の解説

Go言語の net/rpc パッケージ

net/rpc は、Go言語でリモートプロシージャコール (RPC) を実装するための標準パッケージです。これにより、異なるプロセスやネットワーク上のマシン間で関数呼び出しを行うことができます。クライアントはサーバー上のメソッドをローカル関数のように呼び出すことができ、net/rpc がその通信の詳細(データのシリアライズ/デシリアライズ、ネットワーク転送など)を抽象化します。

RPCメソッドのシグネチャ

net/rpc で公開されるメソッドは、特定のシグネチャに従う必要があります。 func (t *T) Method(argType T1, replyType *T2) error

  • t *T: レシーバー。メソッドが属する型(通常は構造体)。
  • argType T1: クライアントから渡される引数。
  • replyType *T2: サーバーがクライアントに返す結果。ポインタである必要があります。
  • error: メソッドの実行中に発生したエラーを示す戻り値。非 nil の場合、エラーが発生したことを示します。

エラーハンドリングのセマンティクス

Go言語におけるエラーハンドリングの一般的な慣習として、関数がエラーを返す場合、その関数の他の戻り値(この場合は reply パラメータ)は通常、有効な状態ではないと見なされます。net/rpc もこの慣習に従います。

RPCメソッドが error を非 nil で返した場合、それはRPC呼び出しが失敗したことを意味します。このとき、net/rpc フレームワークは replyType パラメータに設定された値をクライアントに送信しません。代わりに、エラー情報のみがクライアントに伝達され、クライアント側では Call メソッドなどがエラーを返します。

この挙動は、エラーが発生した状況では部分的な結果や不完全な結果をクライアントに返すべきではないという設計思想に基づいています。クライアントはエラーを受け取った場合、reply パラメータの内容を信頼せず、エラー処理ロジックを実行する必要があります。

encoding/gob

net/rpc パッケージは、デフォルトで encoding/gob パッケージを使用してデータのシリアライズとデシリアライズを行います。gob はGoのデータ構造を効率的にエンコード/デコードするためのGo固有のバイナリ形式です。RPCメソッドの引数と戻り値は gob でマーシャリング可能である必要があります。

技術的詳細

このコミットの技術的詳細は、net/rpc のドキュメントが、RPCメソッドの戻り値のセマンティクスをより正確に反映するように更新された点に集約されます。

変更前は、ドキュメントには以下のように記述されていました。 The method's return value, if non-nil, is passed back as a string that the client sees as if created by errors.New. これは、エラーがクライアントにどのように伝達されるかを説明していますが、エラーが返された場合の reply パラメータの運命については明示していませんでした。

変更後、以下の文が追加されました。 If an error is returned, the reply parameter will not be sent back to the client. この一文が、エラーが返された場合に reply パラメータが無視されるという重要なセマンティクスを明確にしています。これにより、開発者はRPCメソッドの実装において、エラーを返す際には reply パラメータに値を設定する必要がない(または設定しても無意味である)ことを理解できます。また、クライアント側では、RPC呼び出しがエラーを返した場合、reply パラメータの内容を読み取ろうとすべきではないことが明確になります。

この修正は、コードの動作自体を変更するものではなく、その動作に関するドキュメントの正確性と明確性を向上させるものです。特に、Goのエラーハンドリングの慣習に不慣れな開発者や、他の言語のRPCフレームワークの経験がある開発者にとっては、このような明示的な記述が混乱を避ける上で非常に役立ちます。

コアとなるコードの変更箇所

src/pkg/net/rpc/server.go ファイルのドキュメントコメントが変更されています。

--- a/src/pkg/net/rpc/server.go
+++ b/src/pkg/net/rpc/server.go
@@ -24,12 +24,13 @@
 
 	where T, T1 and T2 can be marshaled by encoding/gob.
 	These requirements apply even if a different codec is used.
-	(In future, these requirements may soften for custom codecs.)
+	(In the future, these requirements may soften for custom codecs.)
 
 	The method's first argument represents the arguments provided by the caller; the
 	second argument represents the result parameters to be returned to the caller.
 	The method's return value, if non-nil, is passed back as a string that the client
-	sees as if created by errors.New.
+	sees as if created by errors.New.  If an error is returned, the reply parameter
+	will not be sent back to the client.
 
 	The server may handle requests on a single connection by calling ServeConn.  More
 	typically it will create a network listener and call Accept or, for an HTTP

コアとなるコードの解説

変更されたのは、net/rpc パッケージの server.go ファイル内の、RPCメソッドのシグネチャと戻り値に関するドキュメントコメントです。

  1. タイプミス修正: (In future, these requirements may soften for custom codecs.) (In the future, these requirements may soften for custom codecs.) に修正されました。これは単純な文法的な修正であり、機能的な意味合いはありません。

  2. エラーとリプライのセマンティクスに関する明確化: 元の記述: The method's return value, if non-nil, is passed back as a string that the client sees as if created by errors.New. この行の後に、以下の重要な文が追加されました。 If an error is returned, the reply parameter will not be sent back to the client.

    この追加された文が、このコミットの主要な目的です。これにより、RPCメソッドがエラーを返した場合、reply パラメータ(クライアントに返されるべき結果)は無視され、クライアントには送信されないことが明確に示されます。これは、net/rpc の内部的な挙動を正確に反映しており、開発者がRPCサービスを実装する際に、エラー発生時には reply に値を設定しても無意味であることを理解するのに役立ちます。また、クライアント側も、エラーを受け取った際には reply の内容を信頼すべきではないという指針を得られます。

この変更は、コードの動作そのものには影響を与えませんが、net/rpc の利用者がその挙動を正しく理解するためのドキュメントの品質を大幅に向上させます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント (net/rpc および encoding/gob パッケージ)
  • コミットメッセージ自体
  • Go言語におけるエラーハンドリングの一般的な慣習に関する知識
  • (Web検索結果は直接引用していませんが、golang net/rpc error handling などのキーワードで検索し、一般的な理解を深めました。)