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[インデックス 13389] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の仕様書(doc/go_spec.html)におけるチャネルの受信操作に関する記述を明確化することを目的としています。具体的には、クローズされたチャネルからの受信動作と、多値返却形式(value, ok := <-ch)におけるok変数の型について、より厳密な定義を追加しています。

コミット

commit 689931c5b02f7509a125f06480d3673ac85f21d5
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Mon Jun 25 11:28:24 2012 -0700

    spec: clarify receive operator
    
    - receiving from a closed channel returns immediately
    - in the ,ok form, the 2nd result is of type bool, not
      just boolean (gc and ggcgo agree).
    
    Per dsymonds' suggestion.
    
    R=r, rsc, ken, iant, dsymonds
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6333057

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/689931c5b02f7509a125f06480d3673ac85f21d5

元コミット内容

spec: clarify receive operator
    
- receiving from a closed channel returns immediately
- in the ,ok form, the 2nd result is of type bool, not
  just boolean (gc and ggcgo agree).
    
Per dsymonds' suggestion.

変更の背景

Go言語の仕様書は、言語の挙動を正確かつ曖昧さなく定義するための重要なドキュメントです。このコミットが行われた2012年当時、Go言語はまだ比較的新しく、その仕様は継続的に洗練されていました。チャネルはGoの並行処理モデルの根幹をなす要素であり、その挙動、特にチャネルがクローズされた際の受信操作のセマンティクスは、プログラマが正確な並行プログラムを書く上で極めて重要です。

以前の仕様では、クローズされたチャネルからの受信や、value, ok形式でのok変数の型に関する記述が、一部曖昧であったり、実装(gcコンパイラやggcgo)との整合性が明示されていなかった可能性があります。この曖昧さは、異なるコンパイラ実装間での挙動の不一致や、プログラマの誤解を招く原因となり得ます。

このコミットは、dsymonds氏(おそらくGoコミュニティのメンバー)からの提案を受けて、これらの曖昧さを解消し、仕様をより堅牢で明確なものにすることを目的としています。これにより、Go言語のチャネル操作に関する理解が深まり、より信頼性の高い並行プログラムの開発が促進されます。

前提知識の解説

Go言語のチャネル (Channels)

Go言語のチャネルは、ゴルーチン(軽量スレッド)間で値を安全に送受信するための通信メカニズムです。チャネルは型付けされており、特定の型の値のみを送受信できます。

  • チャネルの宣言: ch := make(chan int) (int型のチャネルを作成)
  • 送信: ch <- value (チャネルに値を送信)
  • 受信: value := <-ch (チャネルから値を受信)

チャネルからの受信操作は、値が利用可能になるまでゴルーチンをブロックします。

クローズされたチャネル (Closed Channels)

チャネルはclose(ch)関数を使ってクローズすることができます。チャネルをクローズすると、それ以上そのチャネルに値を送信することはできません。しかし、クローズされたチャネルから受信することは可能です。

多値返却形式での受信 (value, ok := <-ch)

Go言語では、チャネルからの受信操作は単に値を受け取るだけでなく、その操作が成功したかどうかを示す2番目のブール値を返すことができます。この形式は「カンマokイディオム」として知られています。

value, ok := <-ch
  • value: チャネルから受信した値。
  • ok: 受信操作が成功したかどうかを示すブール値。
    • true: 値がチャネルから正常に送信された場合。
    • false: チャネルがクローズされており、かつ、チャネル内に残っていたすべての値が既に受信され、それ以上送信される値がない場合。この場合、valueにはチャネルの要素型のゼロ値が返されます。

ゼロ値 (Zero Value)

Go言語のすべての型には「ゼロ値」があります。これは、変数が宣言されたが明示的に初期化されていない場合に割り当てられるデフォルト値です。

  • 数値型(int, float64など): 0
  • ブール型(bool): false
  • 文字列型(string): "" (空文字列)
  • ポインタ、スライス、マップ、チャネル、関数、インターフェース: nil
  • 構造体: すべてのフィールドがそれぞれのゼロ値に初期化されたもの

技術的詳細

このコミットは、Go言語の仕様書におけるチャネルの受信操作に関する2つの重要な点を明確にしています。

  1. クローズされたチャネルからの受信の挙動: 以前の仕様では、クローズされたチャネルからの受信がどのように振る舞うかについて、その即時性や返される値に関する詳細が不足していました。この変更により、以下の点が明確化されました。

    • 「クローズされたチャネルからの受信は常に成功する」: これは、チャネルがクローズされた後でも、受信操作がエラーになることはなく、常に何らかの値を返すことを意味します。
    • 「直ちに要素型のゼロ値を返す」: クローズされたチャネルから受信しようとした際に、チャネル内に未読のデータが残っていない場合、受信操作はブロックすることなく、即座にチャネルの要素型のゼロ値を返します。これは、チャネルがクローズされたことを受信側が検知し、それ以上のデータが来ないことを認識するための重要なメカニズムです。
  2. 多値返却形式におけるok変数の型: value, ok := <-chという形式で受信する場合、ok変数は受信が成功したかどうかを示すブール値です。このコミット以前の仕様では、okが「ブール変数」であると記述されていましたが、その具体的な型名(bool)が明示されていませんでした。この変更により、okが「bool型」であることを明確に記述することで、仕様の厳密性を高めています。これは、Goの型システムにおけるbool型と、一般的な「ブール値」という概念との間の潜在的な曖昧さを解消します。gc(Goコンパイラ)とggcgo(GCCベースのGoコンパイラ)の両方がbool型として扱っているという事実も、この変更の正当性を裏付けています。

これらの変更は、Go言語の並行処理モデルの基盤であるチャネルのセマンティクスをより正確に定義し、プログラマがチャネルを扱う際の誤解を防ぎ、より堅牢なコードを書くことを支援します。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/doc/go_spec.html b/doc/go_spec.html
index 90acc1704e..53089160f1 100644
--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -1,6 +1,6 @@
 <!--{\n \t\"Title\": \"The Go Programming Language Specification\",\n-\t\"Subtitle\": \"Version of June 4, 2012\",\n+\t\"Subtitle\": \"Version of June 22, 2012\",\n \t\"Path\": \"/ref/spec\"\n }-->\n \n@@ -3184,6 +3184,9 @@ the value of the receive operation <code>&lt;-ch</code> is the value received\n from the channel <code>ch</code>. The type of the value is the element type of\n the channel. The expression blocks until a value is available.\n Receiving from a <code>nil</code> channel blocks forever.\n+Receiving from a <a href=\"#Close\">closed</a> channel always succeeds,\n+immediately returning the element type\'s <a href=\"#The_zero_value\">zero\n+value</a>.\n </p>\n \n <pre>\n@@ -3204,11 +3207,11 @@ var x, ok = &lt;-ch\n </pre>\n \n <p>\n-yields an additional result.\n-The boolean variable <code>ok</code> indicates whether\n-the received value was sent on the channel (<code>true</code>)\n-or is a <a href=\"#The_zero_value\">zero value</a> returned\n-because the channel is closed and empty (<code>false</code>).\n+yields an additional result of type <code>bool</code> reporting whether the\n+communication succeeded. The value of <code>ok</code> is <code>true</code>\n+if the value received was delivered by a successful send operation to the\n+channel, or <code>false</code> if it is a zero value generated because the\n+channel is closed and empty.\n </p>\n \n <!--\n```

## コアとなるコードの解説

このコミットは、`doc/go_spec.html`というGo言語の仕様書HTMLファイルに対して変更を加えています。

1.  **仕様書の日付更新**:
    ```diff
    -	\"Subtitle\": \"Version of June 4, 2012\",
    +	\"Subtitle\": \"Version of June 22, 2012\",
    ```
    これは、仕様書自体のバージョン日付を「2012年6月4日版」から「2012年6月22日版」に更新したものです。これは、このコミットによって仕様書の内容が更新されたことを示す標準的な慣行です。

2.  **クローズされたチャネルからの受信に関する明確化**:
    ```diff
    @@ -3184,6 +3184,9 @@ the value of the receive operation <code>&lt;-ch</code> is the value received
     from the channel <code>ch</code>. The type of the value is the element type of
     the channel. The expression blocks until a value is available.\n     Receiving from a <code>nil</code> channel blocks forever.\n+Receiving from a <a href=\"#Close\">closed</a> channel always succeeds,\n+immediately returning the element type\'s <a href=\"#The_zero_value\">zero\n+value</a>.\n     </p>\n ```
    この追加された3行は、チャネルからの受信操作に関する既存の段落に追記されています。
    -   `Receiving from a <a href="#Close">closed</a> channel always succeeds,`: クローズされたチャネルからの受信は、常に成功することを明記しています。これは、エラーを返したり、パニックを起こしたりしないことを意味します。
    -   `immediately returning the element type's <a href="#The_zero_value">zero value</a>.`: クローズされたチャネルから受信する際に、チャネル内に送信された値が残っていない場合、受信操作はブロックせずに直ちにチャネルの要素型のゼロ値を返すことを明確にしています。これにより、プログラマはクローズされたチャネルからの受信の挙動を正確に理解できます。

3.  **多値返却形式における`ok`変数の型に関する明確化**:
    ```diff
    @@ -3204,11 +3207,11 @@ var x, ok = &lt;-ch\n </pre>\n \n <p>\n-yields an additional result.\n-The boolean variable <code>ok</code> indicates whether\n-the received value was sent on the channel (<code>true</code>)\n-or is a <a href=\"#The_zero_value\">zero value</a> returned\n-because the channel is closed and empty (<code>false</code>).\n+yields an additional result of type <code>bool</code> reporting whether the\n+communication succeeded. The value of <code>ok</code> is <code>true</code>\n+if the value received was delivered by a successful send operation to the\n+channel, or <code>false</code> if it is a zero value generated because the\n+channel is closed and empty.\n </p>\n ```
    この変更は、`value, ok := <-ch`形式の受信に関する段落を修正しています。
    -   `- The boolean variable <code>ok</code> indicates whether...`: 以前の記述では、「ブール変数`ok`」とされていました。
    -   `+ yields an additional result of type <code>bool</code> reporting whether the communication succeeded.`: 新しい記述では、`ok`が「`bool`型」であることを明示しています。これにより、`ok`の型が`bool`であることが明確になり、仕様の厳密性が向上しています。残りの部分は、`ok`が`true`または`false`になる条件を再記述しており、意味的な変更はありませんが、より簡潔で明確な表現になっています。

これらの変更は、Go言語のチャネルのセマンティクスをより正確に定義し、プログラマがチャネルを扱う際の誤解を防ぐことを目的としています。

## 関連リンク

-   Go Code Review (CL) リンク: [https://golang.org/cl/6333057](https://golang.org/cl/6333057)

## 参考にした情報源リンク

-   Go言語の公式ドキュメントおよび仕様書(このコミットが変更を加えている対象そのもの)
-   Go言語のチャネルに関する一般的な知識
-   Go言語のゼロ値に関する一般的な知識