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[インデックス 13413] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のランタイムにおける文字列最適化のバグ修正に関するものです。具体的には、文字列連結処理 concatstring において、空文字列や単一の非空文字列が連結される際の挙動が修正されています。

コミット

commit 71643b2fdbc600fea6498ed20a17ec14bb13a841
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Wed Jun 27 17:32:41 2012 -0400

    runtime: fix string optimization
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6354048

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/71643b2fdbc600fea6498ed20a17ec14bb13a841

元コミット内容

Go言語のランタイムにおける文字列連結の最適化に関するバグ修正。

変更の背景

Go言語のランタイムには、文字列の連結処理を効率化するための最適化が組み込まれています。特に、複数の文字列を連結する際に、結果として生成される文字列のメモリ割り当てを最適化したり、不要なコピーを避けるためのロジックが含まれています。

このコミットが行われた2012年6月時点のGo言語は、まだ比較的新しい言語であり、ランタイムのパフォーマンス改善やバグ修正が活発に行われていました。文字列操作は多くのプログラムで頻繁に行われるため、その効率性は言語全体のパフォーマンスに大きく影響します。

この特定の修正は、concatstring 関数における文字列連結の最適化ロジックに潜在的なバグが存在したためと思われます。特に、連結対象の文字列が0個または1個の場合の特殊なケースにおいて、期待される結果が返されない、あるいは非効率な処理が行われる可能性があったと考えられます。

コミットメッセージの「fix string optimization」という記述から、既存の最適化ロジックが特定の条件下で正しく機能していなかったか、あるいはエッジケースを適切に処理できていなかったことが示唆されます。

なお、コミットメッセージに記載されている https://golang.org/cl/6354048 というChange List (CL) へのリンクは、現在のGoのコードレビューシステムにおけるCLとは異なるようです。現在の golang.org/cl/6354048 は「go: all: remove support for Go 1.21 and earlier」という全く異なる内容を示しており、このコミットとは関連がありません。これは、GoのCLシステムが時間とともに進化し、古いCL番号が再利用されたか、あるいは異なるシステムで管理されていた時期があったためと考えられます。したがって、このCLリンクからは直接的な背景情報は得られません。

前提知識の解説

Go言語のランタイム (runtime)

Go言語のプログラムは、Goランタイム上で動作します。ランタイムは、ガベージコレクション、スケジューリング、メモリ管理、プリミティブ型の操作(文字列、スライスなど)といった低レベルな機能を提供します。Goの文字列は不変であり、文字列の連結は新しい文字列を生成します。このため、効率的な文字列連結はランタイムの重要な役割の一つです。

Go言語の文字列 (String)

Go言語の文字列はバイトのシーケンスであり、不変です。これは、一度作成された文字列の内容は変更できないことを意味します。文字列を連結する操作(例: s1 + s2)は、常に新しい文字列を生成し、その中に連結された内容をコピーします。この特性は、文字列操作の安全性を高める一方で、頻繁な連結はメモリ割り当てとコピーのオーバーヘッドを引き起こす可能性があります。

gostringsize 関数

Goランタイム内部で使用される関数で、指定されたバイト数の新しい文字列を割り当て、その文字列へのポインタを返します。文字列連結の際には、連結後の文字列の合計サイズを計算し、この関数を使って新しい文字列のためのメモリを確保します。

runtime·emptystring

Goランタイムが提供する、空文字列を表す定数です。Goでは、空文字列は特別な内部表現を持つことがあり、不要なメモリ割り当てを避けるために利用されます。

concatstring 関数

このコミットで修正されている concatstring 関数は、Goランタイム内部で複数の文字列を連結するために使用される関数です。Goのコンパイラは、複数の文字列リテラルや変数の連結を検出すると、この関数を呼び出すようにコードを生成することがあります。この関数は、連結される文字列の数や内容に応じて、最適な方法で新しい文字列を構築しようとします。

count 変数

concatstring 関数内で使用される count 変数は、連結対象の文字列のうち、空ではない文字列の数を数えるために使用されます。これは、連結後の文字列のサイズを正確に計算し、また、連結対象が0個または1個の場合に特殊な最適化パスを通るために重要です。

技術的詳細

このコミットは、src/pkg/runtime/string.goc ファイル内の concatstring 関数における文字列連結の最適化ロジックを修正しています。

元のコードでは、count <= 1 という条件で、連結対象の非空文字列が0個または1個の場合の最適化パスに入っていました。

// src/pkg/runtime/string.goc (before)
if(count <= 1) // zero or one non-empty string in concatenation
	return out;

この条件は、以下の2つのケースをカバーしていました。

  1. count == 0: 連結対象の文字列がすべて空文字列であるか、あるいは連結対象の文字列が全くない場合。この場合、結果は空文字列になるべきです。
  2. count == 1: 連結対象の文字列のうち、非空文字列が1つだけの場合。この場合、その単一の非空文字列がそのまま結果となるべきです(コピーを避ける最適化)。

しかし、元のコードの if(count <= 1) のブロック内では、out 変数が返されています。out 変数は、ループ内で最後に処理された非空文字列が代入されるか、あるいは初期値のままです。

問題は count == 0 のケースです。もし count が0の場合、つまり連結対象の文字列がすべて空であるか、全くない場合、out には有効な文字列が代入されない可能性があります。この場合、out をそのまま返すと、未定義の動作や誤った結果を引き起こす可能性がありました。空文字列を返すためには、明示的に runtime·emptystring を返す必要があります。

この修正は、このエッジケースを正確に処理するために、count == 0 のケースを count == 1 のケースから分離しています。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/pkg/runtime/string.goc
+++ b/src/pkg/runtime/string.goc
@@ -155,7 +155,9 @@ concatstring(int32 n, String *s)
 		out = s[i];
 	}
-	if(count <= 1) // zero or one non-empty string in concatenation
+	if(count == 0)
+		return runtime·emptystring;
+	if(count == 1) // zero or one non-empty string in concatenation
 		return out;
 	
 	out = gostringsize(l);

コアとなるコードの解説

変更前は、count <= 1 という単一の条件で、非空文字列が0個または1個の場合を処理していました。

変更後は、この条件が2つの独立した条件に分割されています。

  1. if(count == 0):

    • この条件は、連結対象の文字列がすべて空であるか、あるいは連結対象の文字列が全くない場合に真となります。
    • この場合、結果として空文字列を返すのが正しい挙動です。そのため、return runtime·emptystring; が追加されました。これにより、常に正しい空文字列の内部表現が返されることが保証され、未定義の動作や誤ったメモリ参照が回避されます。
  2. if(count == 1):

    • この条件は、連結対象の文字列のうち、非空文字列がちょうど1つだけの場合に真となります。
    • この場合、その単一の非空文字列 (out に格納されている) がそのまま結果となるべきです。不要なメモリ割り当てやコピーを避けるための最適化パスです。このケースは変更前と同じロジックで処理されます。

この修正により、concatstring 関数は、連結対象の文字列が0個の場合に常に正しい空文字列を返すようになり、文字列連結の最適化がより堅牢になりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のソースコード (特に src/pkg/runtime/string.goc の履歴)
  • Go言語の文字列に関するドキュメントやブログ記事 (不変性、メモリ管理など)
  • Go言語のコミット履歴とコードレビューシステム (CL) の一般的な理解
  • Web検索 (ただし、golang.org/cl/6354048 のリンクは今回のコミット内容とは無関係でした)
  • Go言語のランタイムの内部動作に関する一般的な知識。