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[インデックス 13439] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の公式ドキュメント doc/debugging_with_gdb.html に、gc コンパイラによる最適化(関数のインライン化や変数のレジスタ割り当て)を無効化してGDBでのデバッグを容易にする方法を追記するものです。具体的には、go build コマンドに -gcflags "-N -l" オプションを渡すことで、これらの最適化を抑制できることを説明しています。

コミット

commit d9c4cef67050791892511d1c2cb653dbcb15204c
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Tue Jul 3 12:50:03 2012 -0400

    doc/debugging_with_gdb: mention how to disable gc optimization
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6353055

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/d9c4cef67050791892511d1c2cb653dbcb15204c

元コミット内容

doc/debugging_with_gdb: mention how to disable gc optimization

R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6353055

変更の背景

Go言語のコンパイラ gc は、生成されるバイナリのパフォーマンスを向上させるために、様々な最適化を行います。これには、関数のインライン化(関数呼び出しをその場で展開する)や、変数をメモリではなくCPUのレジスタに割り当てるレジスタ割り当てなどが含まれます。これらの最適化は実行速度の向上に寄与しますが、デバッグ時には問題となることがあります。

例えば、関数がインライン化されると、GDBのようなデバッガでその関数にブレークポイントを設定しても、実際にそのコードが独立した関数として存在しないため、期待通りに停止しない場合があります。また、変数がレジスタに割り当てられると、デバッガからその変数の値を検査するのが難しくなることがあります。

このコミットは、このような最適化がGDBでのデバッグを困難にするという問題に対処するため、開発者がデバッグ時にこれらの最適化を一時的に無効にする方法を公式ドキュメントに明記することを目的としています。これにより、Goプログラムのデバッグ体験が向上します。

前提知識の解説

  • Go言語の gc コンパイラ: gc はGo言語の公式コンパイラであり、Goソースコードを機械語に変換する役割を担っています。パフォーマンス向上のため、様々な最適化を自動的に適用します。
  • GDB (GNU Debugger): GDBは、Unix系システムで広く使われているコマンドラインベースのデバッガです。プログラムの実行を一時停止させたり、変数の値を検査したり、メモリの内容を調べたりするなど、デバッグ作業に不可欠な機能を提供します。
  • 最適化: コンパイラが行う処理で、生成されるコードの実行速度やサイズを改善することを目的とします。
    • インライン化 (Inlining): 関数呼び出しのオーバーヘッドを削減するために、呼び出される関数の本体を呼び出し元のコードに直接埋め込む最適化手法です。これにより、関数呼び出しのスタックフレームの作成や破棄が不要になり、実行速度が向上します。しかし、デバッグ時には、元の関数が独立したエンティティとして存在しないため、ブレークポイントの設定やステップ実行が難しくなることがあります。
    • レジスタ割り当て (Registerization / Register Allocation): プログラムの変数をメインメモリではなく、CPUの高速なレジスタに割り当てる最適化です。レジスタへのアクセスはメモリへのアクセスよりもはるかに高速であるため、プログラムの実行速度が大幅に向上します。しかし、デバッグ時には、変数がレジスタに存在するため、デバッガがその変数のアドレスを特定し、値を読み取るのが難しくなる場合があります。

技術的詳細

Goの go build コマンドには、コンパイラに特定のフラグを渡すための -gcflags オプションがあります。このコミットで追加された -N-l フラグは、gc コンパイラの最適化動作を制御するために使用されます。

  • -N フラグ: このフラグは、コンパイラの最適化を無効にします。具体的には、コードの再配置、命令のスケジューリング、不要なコードの削除など、多くの最適化パスを停止させます。これにより、生成されるコードはソースコードの構造に忠実になり、デバッグが容易になります。
  • -l フラグ: このフラグは、関数のインライン化を無効にします。-N フラグが広範な最適化を無効にするのに対し、-l は特にインライン化に焦点を当てています。インライン化はデバッグ時に特に問題となることが多いため、このフラグはデバッグビルドにおいて非常に重要です。

これらのフラグを go build -gcflags "-N -l" your_program.go のように組み合わせることで、コンパイラは最適化をほとんど行わずにコードを生成します。これにより、GDBのようなデバッガで変数の値を正確に追跡したり、関数呼び出しのスタックトレースをより明確に表示したりすることが可能になります。

ただし、最適化を無効にすると、生成されるバイナリのサイズが大きくなり、実行速度も低下します。そのため、これらのフラグはデバッグ目的でのみ使用し、本番環境向けのビルドでは使用しないことが推奨されます。

コアとなるコードの変更箇所

変更は doc/debugging_with_gdb.html ファイルに対して行われました。具体的には、既存のデバッグ情報に関する段落の後に、新しい <p> タグで囲まれた説明が追加されています。

--- a/doc/debugging_with_gdb.html
+++ b/doc/debugging_with_gdb.html
@@ -23,6 +23,14 @@ Pass the <code>\'-s\'</code> flag to the linker to omit the debug information
 (for example, <code>go build -ldflags \"-s\" prog.go</code>).\n </p>\n \n+<p>\n+The code generated by the <code>gc</code> compiler includes inlining of\n+function invocations and registerization of variables. These optimizations\n+can sometimes make debugging with <code>gdb</code> harder. To disable them\n+when debugging, pass the flags <code>-gcflags \"-N -l\"</code> to the\n+<a href=\"/cmd/go\"><code>go</code></a> command used to build the code being\n+debugged.\n+</p>\n \n <h3 id=\"Common_Operations\">Common Operations</h3>

コアとなるコードの解説

追加されたHTMLスニペットは、以下の情報をユーザーに提供します。

  1. 問題の提起: gc コンパイラが生成するコードには、関数のインライン化や変数のレジスタ割り当てといった最適化が含まれていることを説明します。
  2. デバッグへの影響: これらの最適化がGDBでのデバッグを困難にする場合があることを指摘します。
  3. 解決策の提示: デバッグ時にこれらの最適化を無効にする方法として、go コマンドに -gcflags "-N -l" フラグを渡すことを具体的に指示します。また、go コマンドへのリンクも提供し、ユーザーがさらに詳細な情報を参照できるようにしています。

この変更により、Go言語のデバッグに関する公式ドキュメントがより包括的になり、開発者が最適化によるデバッグの課題に直面した際に、適切な解決策を迅速に見つけられるようになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク