Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

[インデックス 1354] ファイルの概要

このコミットは、Goコンパイラ(gc)における型チェックのエラーメッセージに関する改善です。具体的には、「want type got name」という種類のエラーケースをさらに一つ追加で捕捉し、より適切なエラーメッセージを生成するように修正されています。これは、コンパイラが期待する型と、実際にコードで指定された名前が一致しない場合に発生するエラーを、より正確にユーザーに伝えるための変更です。

コミット

commit 99435cac09e2f678bdfc256af70a6afb465f9831
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Tue Dec 16 17:37:07 2008 -0800

    another "want type got name" error case

    R=ken
    OCL=21377
    CL=21377

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/99435cac09e2f678bdfc256af70a6afb465f9831

元コミット内容

another "want type got name" error case

R=ken
OCL=21377
CL=21377

変更の背景

Go言語の初期開発段階において、コンパイラのエラーメッセージはまだ洗練されていませんでした。特に、型システムが複雑になるにつれて、ユーザーが意図しない型指定や名前の使用を行った際に、コンパイラがより分かりやすいフィードバックを提供する必要がありました。

このコミットは、Goコンパイラが「型を期待しているのに名前が与えられた」という特定のシナリオで発生するエラーを、より適切に検出して報告するためのものです。これは、コンパイラの堅牢性を高め、開発者がコードの誤りを迅速に特定し修正できるようにするための継続的な改善の一環です。コンパイラのエラーメッセージの質は、言語の使いやすさに直結するため、このような細かな改善が積み重ねられていました。

前提知識の解説

Goコンパイラ (gc)

Go言語の公式コンパイラは、主にgc(Go Compiler)と呼ばれます。これは、Goのソースコードを機械語に変換する役割を担っています。gcは、字句解析、構文解析、意味解析、中間コード生成、最適化、コード生成といったコンパイラの一般的なフェーズを実行します。

Yacc/Bisonとgo.y

  • Yacc (Yet Another Compiler Compiler) または Bison (GNU Parser Generator): これらは、文法定義ファイル(通常.y拡張子を持つ)からC言語のパーサーコードを生成するツールです。コンパイラの構文解析フェーズで利用され、プログラミング言語の文法規則を定義するのに使われます。
  • go.y: Goコンパイラgcのソースコード内に存在するファイルで、Go言語の文法規則がYacc/Bison形式で記述されています。このファイルは、Goのソースコードがどのように構文的に解析されるかを定義しており、新しい構文要素の追加や既存の構文の変更は、このファイルを修正することから始まります。

型システムと型チェック

プログラミング言語における型システムは、プログラムの各値が持つ「型」(整数、文字列、ブール値など)を定義し、それらの型がどのように相互作用できるかを規定します。型チェックは、コンパイラがプログラムの型規則に違反がないかを確認するプロセスです。これにより、実行時エラーの多くをコンパイル時に検出でき、プログラムの信頼性が向上します。

エラーハンドリングとエラーメッセージ

コンパイラは、ソースコードに文法エラーや型エラーなどの問題がある場合、それを検出してユーザーに報告します。この報告がエラーメッセージです。良いエラーメッセージは、問題の場所と内容を明確に示し、開発者が問題を解決するためのヒントを提供します。

yyerror

yyerrorは、Yacc/Bisonによって生成されるパーサー内で使用される標準的なエラー報告関数です。パーサーが文法エラーを検出した際にこの関数を呼び出し、指定されたエラーメッセージを出力します。

技術的詳細

このコミットは、Goコンパイラの構文解析器(パーサー)の定義ファイルであるsrc/cmd/gc/go.yに対する変更です。具体的には、latypeという構文規則のブロック内に、単に空行を追加しています。

latypeは、Go言語の型定義に関連する構文規則の一部であると推測されます。Yacc/Bisonの文法定義では、ルールのアクションブロック({ ... }で囲まれた部分)の最後に、追加の処理やエラーチェックを記述することが一般的です。

このコミットで追加された空行は、一見すると意味がないように見えますが、Yacc/Bisonの文法定義において、ルールのアクションブロックの最後に空行やコメントを追加することで、特定のコンパイラ生成ツールやリンターが期待するフォーマットに合わせたり、将来的なコード追加のためのプレースホルダーとして機能したりすることがあります。

しかし、このコミットメッセージが「another "want type got name" error case」と明記していることから、この空行の追加は、単なるフォーマット調整ではなく、パーサーの動作に微妙な影響を与える可能性があります。Yacc/Bisonのパーサーは、文法規則の定義に基づいて状態遷移を行います。特定のルールのアクションブロックの構造が、パーサーの内部的な状態やエラー検出ロジックに影響を与えるケースも稀に存在します。

最も可能性が高いのは、この空行が、latypeルールに関連する既存のyyerror呼び出しの直後に追加されている点です。これは、yyerrorが呼び出された後に、パーサーが特定の状態に遷移するのを防ぐ、あるいは、エラー後のリカバリパスを改善するための、非常に微細な調整である可能性があります。例えば、特定の文法エラーが検出された直後に、パーサーが不適切なトークンを読み進めてしまい、後続の正しい構文までエラーとして報告してしまうような「カスケードエラー」を防ぐ目的があったのかもしれません。

Goコンパイラの初期段階では、このような微細な調整が、コンパイラの安定性とエラー報告の精度を向上させるために頻繁に行われていました。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/gc/go.y
+++ b/src/cmd/gc/go.y
@@ -2037,5 +2037,6 @@ latype:
 		yyerror("no type %s.%s", context, $3->name);\n \t\tYYERROR;\n \t}\n+\n /**/\n \n```

## コアとなるコードの解説

変更は`src/cmd/gc/go.y`ファイルの`latype`というセクションにあります。

元のコードは以下のようになっていました。

```yacc
latype:
    // ... 既存のルールとアクション ...
    {
        yyerror("no type %s.%s", context, $3->name);
        YYERROR;
    }
/**/

このコミットによって、}/**/の間に新しい行が追加されました。

 latype:
 	\t\tyyerror("no type %s.%s", context, $3->name);\n \t\tYYERROR;\n \t}\n+\n /**/\n \n```

この変更は、`latype`ルールの特定のアクションブロックの直後に空行を挿入するものです。`yyerror`は、コンパイラが「no type %s.%s」というエラーメッセージを出力するために呼び出される関数です。`YYERROR`は、Yacc/Bisonパーサーにエラー状態を通知し、エラーリカバリプロセスを開始させるマクロです。

この空行の追加が直接的に新しいエラーケースを検出するロジックを追加しているわけではありません。しかし、Yacc/Bisonのパーサー生成の仕組みや、Goコンパイラのコードベースの特定の慣習によっては、このような微細な変更がパーサーの動作に影響を与えることがあります。

考えられる影響としては:
1.  **パーサー生成ツールの挙動**: Yacc/Bisonのようなツールは、文法定義ファイルの空白や改行の扱いに敏感な場合があります。特定のパターンでコードが生成される際に、この改行が影響し、結果としてパーサーの内部状態やエラーリカバリのタイミングに変化をもたらす可能性があります。
2.  **コードの可読性/保守性**: 将来的にこの部分にコードを追加する際のプレースホルダーとして、あるいは特定のコードスタイルガイドラインに準拠するための変更である可能性もゼロではありません。しかし、コミットメッセージが「another "want type got name" error case」と明記していることから、単なるフォーマット変更以上の意図があったと考えるのが自然です。
3.  **エラーリカバリの改善**: `YYERROR`の直後に空行があることで、パーサーがエラーを検出した後の次のトークン処理や状態遷移が、より意図した通りに行われるようになった可能性があります。これにより、以前は検出できなかった、あるいは誤って報告されていた「want type got name」エラーの特定のバリアントが、正しく捕捉されるようになったのかもしれません。

Goコンパイラの初期のコミットでは、このような非常に小さな変更が、コンパイラの挙動に大きな影響を与えることがありました。これは、コンパイラがまだ成熟しておらず、多くのエッジケースが発見され、修正されていた時期の典型的なパターンです。

## 関連リンク

*   Go言語公式ウェブサイト: [https://go.dev/](https://go.dev/)
*   Go言語のソースコード(GitHub): [https://github.com/golang/go](https://github.com/golang/go)
*   Yacc (Wikipedia): [https://ja.wikipedia.org/wiki/Yacc](https://ja.wikipedia.org/wiki/Yacc)
*   Bison (GNU): [https://www.gnu.org/software/bison/](https://www.gnu.org/software/bison/)

## 参考にした情報源リンク

*   Go言語のコンパイラに関する一般的な知識
*   Yacc/Bisonの文法定義とパーサーの動作に関する一般的な知識
*   Go言語の初期のコミット履歴と開発プロセスに関する一般的な理解