[インデックス 13573] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のビルドツール (cmd/go
) において、Cgoを使用する際に.syso
ファイルを適切にリンクできるようにする変更を導入しています。これにより、Cgoを介してC言語の関数が.syso
ファイルに実装されている場合に発生していた未定義シンボルの問題を解決します。
コミット
commit 2f2df2aceb4fdd02ac4a93e43a823a55341c9439
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date: Sat Aug 4 18:02:12 2012 +0300
cmd/go: allow to use syso files with cgo
I have C functions implemented in .syso file (rather than .so or inlined in .go file).
W/o this change the gcc invocation fails with undefined symbols.
R=minux.ma, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6352076
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/2f2df2aceb4fdd02ac4a93e43a823a55341c9439
元コミット内容
cmd/go
ツールがCgoを使用する際に、.syso
ファイルを利用できるようにする。
コミットの作者は、C関数を.syso
ファイルに実装しており、この変更がないとgcc
の呼び出しが未定義シンボルエラーで失敗すると述べている。
変更の背景
Go言語はCgoという機能を提供しており、これによりGoプログラムからC言語のコードを呼び出すことができます。Cgoを使用する際、C言語のソースコードはGoのビルドプロセス中にコンパイルされ、Goの実行可能ファイルにリンクされます。
しかし、C言語の関数が.go
ファイル内に直接インラインで記述されているか、または共有ライブラリ(.so
など)として提供されるのではなく、事前にコンパイルされたオブジェクトファイルである.syso
ファイルとして提供される場合があります。
このコミットが導入される前は、Goのビルドツール(cmd/go
)がCgoのビルドプロセスにおいて、.syso
ファイルに含まれるシンボルを適切にリンクしていませんでした。その結果、Cgoを介して.syso
ファイル内のC関数を呼び出そうとすると、リンカがそれらのシンボルを見つけられず、「undefined symbols」(未定義シンボル)エラーが発生していました。
この変更は、GoのビルドプロセスがCgoを使用する際に、プロジェクト内の.syso
ファイルを自動的に検出し、リンク対象に含めることで、この未定義シンボルエラーを解消し、より柔軟なCgoの利用を可能にすることを目的としています。
前提知識の解説
Go言語のビルドプロセス
Go言語のプログラムは、go build
コマンドによってコンパイルされ、実行可能なバイナリが生成されます。このプロセスには、ソースコードのコンパイル、依存関係の解決、そして最終的な実行可能ファイルのリンクが含まれます。リンカは、コンパイルされたオブジェクトファイルやライブラリを結合して、完全なプログラムを作成する役割を担います。
Cgo
Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoの機能です。Goのソースファイル内にimport "C"
という行を記述し、その後にC言語のコードをコメント形式で記述することで、GoとCの相互運用が可能になります。Cgoを使用すると、Goのビルドツールは内部的にCコンパイラ(通常はGCC)を呼び出し、Cコードをコンパイルし、Goのコードとリンクします。
.syso
ファイル
.syso
ファイルは、Go言語のビルドシステムにおいて特別な意味を持つファイルです。これらは「system object」ファイルの略で、Goのビルドプロセス中に自動的にリンクされる、事前にコンパイルされたオブジェクトファイル(通常はC、C++、またはアセンブリ言語で書かれたコード)です。
- 自動リンク:
.syso
ファイルがGoのソースコードと同じディレクトリに配置されている場合、go build
コマンドは自動的にそのファイルを検出し、最終的な実行可能ファイルにリンクします。 - 用途:
- Cgoとの連携: Cgoを使用する際に、C言語のコードを
.go
ファイル内に直接記述する代わりに、外部のC/C++コンパイラでコンパイルしたオブジェクトファイル(.o
や.obj
)を.syso
として提供し、Goのビルドプロセスに含めることができます。これにより、複雑なCコードの管理や、特定のプラットフォーム向けに最適化されたCコードの配布が容易になります。 - リソースの埋め込み: Windows環境では、バージョン情報、アイコン、マニフェストなどのリソースをGoの実行可能ファイルに埋め込むためによく使用されます。
- アセンブリコードの埋め込み: パフォーマンスが重要な部分で、GoのABI(Application Binary Interface)に準拠したアセンブリコードを直接埋め込むためにも使用されることがあります。
- Cgoとの連携: Cgoを使用する際に、C言語のコードを
未定義シンボル (Undefined Symbols)
プログラムのリンク時に発生するエラーの一種です。これは、プログラムが参照している関数や変数などのシンボルが、リンク対象のどのオブジェクトファイルやライブラリにも見つからない場合に発生します。リンカは、すべての参照が解決されるまで実行可能ファイルを生成できません。
技術的詳細
このコミットの技術的な核心は、GoのビルドツールがCgoのビルドフェーズで、Goパッケージに属する.syso
ファイルをリンカに渡すように変更された点にあります。
Goのビルドプロセスにおいて、src/cmd/go/build.go
ファイルは、Goコマンドのビルドロジックの大部分を担っています。特に、Cgoに関連する処理は、このファイル内のcgo
関数によって管理されています。この関数は、Cgoのソースファイルをコンパイルし、Goのコードとリンクするために必要なgcc
コマンドの呼び出しを構築します。
変更前は、cgo
関数がgcc
に渡すオブジェクトファイルのリスト(linkobj
)に、Goのソースファイルから生成されたオブジェクトファイルやCgoが生成したオブジェクトファイルは含まれていましたが、Goパッケージに属する.syso
ファイルは含まれていませんでした。
このコミットでは、p.SysoFiles
という、現在のパッケージ(p
)に関連付けられた.syso
ファイルのリストを、linkobj
スライスに追加しています。これにより、gcc
が最終的なリンクを行う際に、これらの.syso
ファイルも考慮されるようになり、.syso
ファイル内に定義されているC関数などのシンボルが正しく解決されるようになります。
具体的には、build.go
内のcgo
関数が、Cgoによって生成されたオブジェクトファイル(ofile
)をlinkobj
に追加した後、パッケージの.syso
ファイルもlinkobj
に追加するように修正されています。これにより、Goのビルドシステムは、Cgoのコンパイルとリンクの過程で、ユーザーが提供した.syso
ファイルを自動的に含めることができるようになります。
コアとなるコードの変更箇所
diff --git a/src/cmd/go/build.go b/src/cmd/go/build.go
index ecb2454212..0ded45ed19 100644
--- a/src/cmd/go/build.go
+++ b/src/cmd/go/build.go
@@ -1576,6 +1576,7 @@ func (b *builder) cgo(p *Package, cgoExe, obj string, gccfiles []string) (outGo,\n linkobj = append(linkobj, ofile)\n outObj = append(outObj, ofile)\n }\n+\tlinkobj = append(linkobj, p.SysoFiles...)\n dynobj := obj + "_cgo_.o"\n if goarch == "arm" && goos == "linux" { // we need to use -pie for Linux/ARM to get accurate imported sym\n cgoLDFLAGS = append(cgoLDFLAGS, "-pie")
コアとなるコードの解説
変更はsrc/cmd/go/build.go
ファイルの1行の追加のみです。
linkobj = append(linkobj, p.SysoFiles...)
linkobj
: これは、Cgoのビルドプロセスにおいて、最終的にgcc
などのCコンパイラ/リンカに渡されるオブジェクトファイルのパスのリストを保持するスライスです。p
: 現在ビルド中のGoパッケージを表す構造体です。p.SysoFiles
:p
パッケージに関連付けられたすべての.syso
ファイルのパスのリストです。Goのビルドシステムは、パッケージディレクトリ内の.syso
ファイルを自動的に検出し、このリストに格納します。...
: これはGoのスライス展開演算子です。p.SysoFiles
スライスのすべての要素を個別の引数としてappend
関数に渡します。
この行が追加されることで、Cgoのビルドプロセス中に、Goパッケージが持つ.syso
ファイルが、Cコンパイラ/リンカが処理するオブジェクトファイルのリストに明示的に追加されるようになります。これにより、.syso
ファイル内のシンボルがGoの実行可能ファイルに正しくリンクされ、未定義シンボルエラーが解消されます。
関連リンク
- Go CL (Change List): https://golang.org/cl/6352076
参考にした情報源リンク
- Go Wiki: Command Cgo: https://go.dev/cmd/cgo/
- Go Wiki: Build Modes: https://go.dev/doc/go1.8#build-modes (
.syso
ファイルの一般的な情報源として) - Stack Overflow: What are .syso files in Go?: https://stackoverflow.com/questions/24920700/what-are-syso-files-in-go
- Reddit: What are .syso files in Go?: https://www.reddit.com/r/golang/comments/101010/what_are_syso_files_in_go/
- ralch.com: Embedding data in Go binaries: https://ralch.com/blog/embedding-data-in-go-binaries (
.syso
ファイルの用途に関する追加情報として)