[インデックス 136] ファイルの概要
このコミットでは、主にGo言語のテストスイートにおける期待される出力(test/golden.out
)の更新と、特定のテストファイル(test/ken/robliteral.go
)の実行方法の変更が行われています。golden.out
からは多数の「fatal error」や「BUG: known to fail incorrectly」といったエラーメッセージが削除されており、これは関連するバグが修正されたか、テストの挙動が変更されたことを示唆しています。また、robliteral.go
のテストコマンドが、コンパイルエラーを期待する形に修正されています。
コミット
- コミットハッシュ:
814896ea5fabbff590c83ac7f4de11c922c2c5d7
- 作者: Rob Pike r@golang.org
- 日付: Sun Jun 8 19:21:16 2008 -0700
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/814896ea5fabbff590c83ac7f4de11c922c2c5d7
元コミット内容
update lots of tests
SVN=121624
変更の背景
このコミットは、Go言語の非常に初期の段階(2008年6月)に行われたものであり、コンパイラやランタイムのバグ修正、またはテストフレームワーク自体の進化に伴うテスト結果の更新が背景にあります。
test/golden.out
は、Go言語のテストスイートにおいて、特定のテストケースを実行した際の標準出力やエラー出力の「ゴールデンファイル」(期待される出力)として機能していたと考えられます。このファイルから多数のエラーメッセージが削除されていることから、以下のいずれかの状況が考えられます。
- バグ修正: 以前は存在したコンパイラやランタイムのバグが修正され、それによってテストが期待通りに成功するようになったため、エラーメッセージが不要になった。
- テストの意図変更: 特定のテストが、元々はエラーを発生させることを意図していたが、その意図が変更されたか、あるいはより適切なテスト方法が導入された。
- コンパイラの進化: コンパイラがより堅牢になり、以前は「fatal error」を引き起こしていたコードが、より適切なエラーメッセージを出すか、あるいは正しくコンパイルされるようになった。
特にtest/ken/robliteral.go
のテストコマンドの変更は重要です。以前はコンパイル、リンク、実行まで行い、実行が失敗することを期待していましたが、変更後はコンパイルが失敗することを期待する形になっています。これは、このテストが、実行時エラーではなく、コンパイル時エラーを検出する目的へとシフトしたことを示唆しています。
SVN=121624
という記述は、当時のGoプロジェクトがSubversion(SVN)をバージョン管理システムとして使用していたことを示しており、このコミットがGitへの移行期またはGitとSVNが併用されていた時期のものであることを示しています。
前提知識の解説
test/golden.out
: ソフトウェア開発において、「ゴールデンファイル」または「リファレンスファイル」とは、テストの期待される出力を記録したファイルのことです。テスト実行時に生成された出力とゴールデンファイルを比較することで、プログラムの挙動が期待通りであるかを確認します。このコミットでは、Go言語のコンパイラやランタイムのテスト結果を記録していたものと考えられます。fatal error
: プログラムの実行やコンパイル中に発生する、回復不可能な重大なエラーです。通常、プログラムの異常終了を引き起こします。optoas
: Go言語のコンパイラのバックエンドにおける最適化およびアセンブリ生成フェーズに関連するエラーである可能性が高いです。Goの初期のコンパイラは、Plan 9 Cコンパイラツールチェーンをベースにしており、optoas
はそのような低レベルの最適化やアセンブリ生成の過程で発生する問題を示唆します。nodconst
: Go言語のコンパイラにおけるノード(抽象構文木の一部)の定数処理に関連するエラーである可能性が高いです。bad type <float32>FLOAT32
というメッセージから、浮動小数点数定数の型変換や表現に関する問題が示唆されます。SVN=121624
: Subversion(SVN)のリビジョン番号です。Go言語プロジェクトは、初期にはGoogle CodeのSubversionリポジトリでホストされていました。この記述は、Gitへの移行前にSubversionで行われたコミットのリビジョンを示しています。- Go言語の初期開発: Go言語は2007年にGoogleで設計が始まり、2009年にオープンソースとして公開されました。このコミットは2008年に行われており、Go言語がまだ活発に開発され、コンパイラや言語仕様が頻繁に変更されていた時期に当たります。そのため、テストの出力が頻繁に更新されるのは自然なことです。
$G
,$D
,$F
,$L
,$A
: これらはGo言語のテストスクリプトやビルドスクリプトで使われるシェル変数またはプレースホルダーと考えられます。$G
: Goコンパイラコマンド(例:go tool compile
)$D
: ディレクトリパス$F
: ファイル名$L
: Goリンカコマンド(例:go tool link
)$A
: 実行可能ファイル名
技術的詳細
このコミットの主要な変更は、test/golden.out
からの多数のエラーメッセージの削除と、test/ken/robliteral.go
のテストコマンドの変更です。
test/golden.out
の変更:
削除されたエラーメッセージは、Goコンパイラやランタイムの特定のバグに関連するものでした。例えば、以下のようなエラーが削除されています。
float_lit.go:5: syntax error
float_lit.go:28: overflow in float constant
for.go:45: fatal error: optoas: no entry MOD-<int32>INT32
hashmap.go:46: fatal error: optoas: no entry LSH-<uint32>UINT32
literal.go:127: fatal error: nodconst: bad type <float32>FLOAT32
ken/robfor.go:45: fatal error: optoas: no entry MOD-<int32>INT32
bugs/bug016.go:7: fatal error: optoas: no entry LSH-<int32>INT32
これらのエラーは、浮動小数点数リテラルの処理、ループの最適化、ハッシュマップの操作、リテラルの型変換など、Go言語の基本的な機能における初期のバグを示しています。これらのメッセージがgolden.out
から削除されたことは、これらのバグが修正され、関連するテストが成功するようになったことを強く示唆しています。
一方で、literal.go
とken/robliteral.go
には、新たにfatal error: nodconst: bad type <float32>FLOAT32
というエラーが追加されています。これは、以前のバグが修正された結果、新たな(または以前は隠れていた)型関連のバグが表面化した可能性、あるいはテストの意図が変更され、特定の型エラーを意図的に発生させるようになった可能性を示唆しています。
test/ken/robliteral.go
のテストコマンドの変更:
この変更は、テストの評価方法の根本的な変更を示しています。
-
変更前:
$G $D/$F.go && $L $F.$A && ! ./$A.out && echo BUG: known to fail incorrectly
- これは、「Goコンパイラでソースファイルをコンパイルし、リンクして実行可能ファイルを生成し、その実行可能ファイルが**非ゼロの終了コードで終了する(つまり失敗する)**ことを期待する」というコマンドです。もし実行が失敗すれば、「BUG: known to fail incorrectly」と出力されます。これは、このテストがランタイムエラーを検出することを目的としていたことを意味します。
-
変更後:
$G $D/$F.go || echo BUG: known to fail incorrectly
- これは、「Goコンパイラでソースファイルをコンパイルし、もしコンパイルが非ゼロの終了コードで終了する(つまり失敗する)ことを期待する」というコマンドです。コンパイルが失敗すれば、「BUG: known to fail incorrectly」と出力されます。この変更により、テストの焦点がランタイムエラーからコンパイル時エラーへと移ったことが明確になります。
この変更は、robliteral.go
がテストしていたバグが、ランタイムの問題からコンパイル時の問題へと移行したか、あるいはコンパイラがより厳密になり、以前は実行時まで検出されなかった問題がコンパイル時に検出されるようになったことを示唆しています。
コアとなるコードの変更箇所
test/golden.out
- 多数の
float_lit.go
,for.go
,hashmap.go
,ken/robfor.go
,bugs/bug016.go
に関連するfatal error
およびBUG: known to fail incorrectly
の行が削除されました。 literal.go
とken/robliteral.go
のセクションに、新たにfatal error: nodconst: bad type <float32>FLOAT32
とBUG: fatal error
の行が追加されました。fixedbugs/bug016.go
のセクションが追加されましたが、内容は空です。これは、このバグが修正されたことを示すプレースホルダーである可能性があります。
test/ken/robliteral.go
--- a/test/ken/robliteral.go
+++ b/test/ken/robliteral.go
@@ -2,7 +2,7 @@
// Use of this source code is governed by a BSD-style
// license that can be found in the LICENSE file.
-// $G $D/$F.go && $L $F.$A && ! ./$A.out && echo BUG: known to fail incorrectly
+// $G $D/$F.go || echo BUG: known to fail incorrectly
package main
コアとなるコードの解説
test/golden.out
の変更は、Goコンパイラとランタイムの安定化とバグ修正の進捗を反映しています。多くの「fatal error」が削除されたことは、Go言語の初期開発における重要なマイルストーンであり、コンパイラがより堅牢になったことを示しています。一方で、新たなnodconst
エラーの追加は、開発の過程で新たな問題が発見されたか、あるいはより厳密な型チェックが導入された結果である可能性があります。
test/ken/robliteral.go
のテストコマンドの変更は、このテストの目的が、実行時エラーの検出からコンパイル時エラーの検出へとシフトしたことを明確に示しています。これは、Goコンパイラが、以前は実行時まで持ち越されていた問題を、より早い段階(コンパイル時)で捕捉できるようになったことを意味するかもしれません。この変更は、Go言語のコンパイラの成熟度と、開発者がコンパイル時エラーを重視するようになったことを示唆しています。
関連リンク
- Go言語の初期の歴史に関する情報: https://go.dev/doc/history
- Go言語のテストに関する一般的な情報: https://go.dev/doc/tutorial/add-a-test
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Gitコミット履歴の分析
- Subversionに関する一般的な知識
- Go言語のコンパイラエラーメッセージに関する一般的な理解