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[インデックス 13641] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のmisc/cgo/lifeサンプルにおけるWindows/amd64ビルドの問題を解決するために、cgoのリンカーフラグから-lmsvcrtを削除する変更です。

コミット

commit 9d303b8aace05fac837871c72f6071271fdf0e0d
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Fri Aug 17 09:10:01 2012 +0800

    misc/cgo/life: remove -lmsvcrt to fix windows/amd64 build
            I guess this is the problem as I can't reproduce the failure.
    
    R=golang-dev, alex.brainman
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6465060

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/9d303b8aace05fac837871c72f6071271fdf0e0d

元コミット内容

このコミットは、Go言語のリポジトリ内のmisc/cgo/lifeというディレクトリにあるサンプルコードにおいて、WindowsのAMD64アーキテクチャでのビルドが失敗する問題を修正するためのものです。具体的には、cgoのビルド設定から-lmsvcrtというリンカーフラグを削除しています。コミットメッセージには、作者がこの問題を直接再現できなかったものの、これが原因であると推測している旨が記載されています。

変更の背景

Go言語はクロスプラットフォーム開発を強く意識しており、様々なOSやアーキテクチャで動作するバイナリを生成できます。cgoはGoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのメカニズムを提供しますが、これには各プラットフォームのCコンパイラやリンカーの挙動を理解する必要があります。

このコミットの背景には、WindowsのAMD64環境でmisc/cgo/lifeサンプルをビルドする際に発生していたリンカーエラーがあります。Goのツールチェインは、Windows上でのCコードのコンパイルに通常MinGW-w64などのGCC互換ツールチェーンを使用します。一方、-lmsvcrtはMicrosoft Visual C++ Runtime Library (MSVCRT) へのリンクを指示するフラグです。

問題は、MinGW-w64でビルドされたGoプログラムが、Visual C++のランタイムライブラリと直接リンクしようとすると、シンボル解決の不一致や互換性の問題が発生する可能性があったことです。特に、Goのランタイム自体が独自のCランタイム(またはMinGW-w64が提供するCランタイム)を使用している場合、異なるCランタイムを混在させようとすると衝突が生じ、ビルドが失敗することがあります。

このコミットは、特定の環境(Windows/amd64)でのビルド失敗報告に対応するために行われました。作者は問題を再現できなかったものの、-lmsvcrtが原因であると推測し、その削除によってビルドが成功するようになったと考えられます。

前提知識の解説

cgo

cgoはGo言語の機能の一つで、GoプログラムからC言語の関数を呼び出したり、C言語のデータ構造を扱ったりすることを可能にします。また、C言語のコードからGoの関数を呼び出すこともできます。cgoを使用するには、Goのソースファイル内に特別なコメントブロック(// #cgo ...)を記述し、C言語のコードをインポートします。

cgoのコメントブロックには、Cコンパイラやリンカーに渡すオプションを指定できます。

  • CFLAGS: Cコンパイラに渡すフラグ(例: -I/path/to/include
  • LDFLAGS: リンカーに渡すフラグ(例: -L/path/to/lib -lfoo

LDFLAGS

LDFLAGSは、リンカー(linker)に渡されるオプションを指定するための環境変数またはビルド設定です。リンカーは、コンパイルされたオブジェクトファイルとライブラリを結合して実行可能ファイルや共有ライブラリを作成するツールです。

-lオプションは、特定のライブラリをリンクすることをリンカーに指示します。例えば、-lmsvcrtmsvcrtという名前のライブラリ(通常はmsvcrt.libまたはmsvcrt.dll)をリンクすることを意味します。

msvcrt (Microsoft Visual C++ Runtime Library)

msvcrt.dllは、Microsoft Windowsオペレーティングシステムに付属するC標準ライブラリの実装です。これは、Visual C++コンパイラでビルドされたアプリケーションが使用する基本的なCランタイム関数(メモリ管理、文字列操作、I/Oなど)を提供します。

Windows上でのC/C++開発では、通常、以下のいずれかのCランタイムを使用します。

  1. MSVCRT: Microsoft Visual C++コンパイラが生成するコードが使用するランタイム。
  2. MinGW/CygwinのCランタイム: GCCなどのGNUツールチェーンが使用するランタイム。これらは通常、独自のCランタイム実装(例えばlibmingwex.acygwin1.dllなど)を持ちます。

GoのWindowsビルドは、通常MinGW-w64ツールチェーンを使用するため、MinGWのCランタイムと互換性があります。cgo-lmsvcrtを明示的にリンクしようとすると、MinGWのツールチェーンがMSVCRTライブラリのシンボルを解決しようとして問題が発生することがあります。これは、異なるコンパイラが生成したオブジェクトファイルやライブラリ間で、同じ名前の関数や変数の定義が異なっていたり、呼び出し規約が異なっていたりするために起こります。

技術的詳細

この問題の技術的な核心は、Goのビルドシステム(特にcgoを使用する場合)とWindows上のCランタイムライブラリの互換性にあります。

Goは、Windows上でCコードをコンパイル・リンクする際に、通常はMinGW-w64(Minimalist GNU for Windows)というツールチェーンを利用します。MinGW-w64はGCCコンパイラコレクションをWindowsに移植したもので、独自のCランタイムライブラリ(通常はmsvcrt.dllをラップしたもの、または独自の互換実装)を使用します。

一方、#cgo windows LDFLAGS: -lmsvcrtという行は、Windows環境でビルドする際に、リンカーに対して明示的にMicrosoft Visual C++ Runtime Library (msvcrt.libまたはmsvcrt.dll) をリンクするように指示しています。

ここで問題となるのは、MinGW-w64でコンパイルされたGoのコード(およびcgo経由でコンパイルされたCコード)が、Microsoft Visual C++コンパイラでコンパイルされたmsvcrtと直接リンクしようとすることです。

考えられる問題点:

  1. シンボル名の衝突または不一致: MinGW-w64とVisual C++では、同じC標準関数であっても、内部的なシンボル名や呼び出し規約が微妙に異なる場合があります。これにより、リンカーが正しい関数を見つけられなかったり、誤った関数をリンクしてしまったりする可能性があります。
  2. 異なるCランタイムの混在: Goプログラム自体がMinGW-w64のCランタイムに依存している場合、そこにさらにMSVCRTをリンクしようとすると、二つの異なるCランタイムが同じプロセス空間にロードされることになります。これは、グローバル変数や静的変数の状態、メモリ管理、スレッドローカルストレージなどの点で予期せぬ衝突や未定義の動作を引き起こす可能性があります。
  3. リンカーの挙動: MinGW-w64のリンカー(ld)は、Visual C++の.libファイルを直接扱うことはできますが、その内部構造やシンボル解決のメカニズムが完全に一致するわけではありません。特に、Goのビルドプロセスが生成するオブジェクトファイルとMSVCRTの間に互換性のない依存関係が生じることがあります。

misc/cgo/lifeは、C言語で実装されたライフゲームのロジックをGoから呼び出すサンプルです。このサンプルが特定のCランタイムに強く依存するような特殊なC関数を使用していた場合、上記のようなリンカーエラーが発生しやすくなります。

-lmsvcrtを削除することで、GoのビルドシステムはデフォルトのCランタイム(MinGW-w64が提供するもの)を使用するようになり、異なるCランタイム間の衝突が回避され、ビルドが成功するようになったと考えられます。これは、life.hで定義されているC関数が、特別なCランタイム機能に依存しておらず、標準的なC関数のみを使用しているため、明示的なmsvcrtへのリンクが不要であったことを示唆しています。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/misc/cgo/life/life.go
+++ b/misc/cgo/life/life.go
@@ -6,7 +6,6 @@
 
 package life
 
-// #cgo windows LDFLAGS: -lmsvcrt
 // #include "life.h"
 import "C"
 

コアとなるコードの解説

変更はmisc/cgo/life/life.goファイルの一行のみです。

削除された行:

// #cgo windows LDFLAGS: -lmsvcrt

この行はcgoディレクティブであり、Goのビルドシステムに対してCコードをコンパイル・リンクする際の指示を与えます。

  • // #cgo: cgoディレクティブの開始を示します。
  • windows: このディレクティブがWindowsオペレーティングシステムでのビルド時にのみ適用されることを示します。
  • LDFLAGS: -lmsvcrt: リンカーフラグとして-lmsvcrtを追加することを指示します。これは、リンカーがmsvcrtという名前のライブラリ(Microsoft Visual C++ Runtime Library)をリンクすることを意味します。

この行が削除されたことにより、Windows環境でmisc/cgo/lifeをビルドする際に、明示的にmsvcrtライブラリをリンクする指示がなくなりました。結果として、Goのビルドツールチェーンは、その環境でデフォルトとして設定されているCランタイムライブラリ(通常はMinGW-w64が提供するもの)を使用するようになります。これにより、MinGW-w64とMSVCRT間のリンカー互換性の問題が解消され、Windows/amd64でのビルドが成功するようになりました。

関連リンク

参考にした情報源リンク