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コミット
- コミットハッシュ:
f653dfeb498b96c72fbad92ef3dab2887435230f
- 作者: Shenghou Ma minux.ma@gmail.com
- コミット日時: 2012年8月28日 火曜日 04:03:27 +0800
- コミットメッセージ:
cmd/api: recognize version "devel" as dev. branch and apply -next R=golang-dev, bradfitz CC=golang-dev https://golang.org/cl/6476066
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/f653dfeb498b96c72fbad92ef3dab2887435230f
元コミット内容
cmd/api: recognize version "devel" as dev. branch and apply -next
このコミットは、Go言語のcmd/api
ツールにおいて、Goのバージョンが"devel"である場合に、開発ブランチとして認識し、-next
オプションで指定されたAPI定義ファイルを適用できるようにする変更です。
変更の背景
Go言語の開発プロセスにおいて、安定版リリースとは別に、開発中の最新版(開発ブランチ)が存在します。cmd/api
ツールは、GoのAPIの互換性をチェックするために使用されます。これまでは、runtime.Version()
が"weekly"(週次リリース版)を含む場合にのみ、-next
オプションで指定されたAPI定義ファイル(将来のAPI変更を記述したもの)が適用されていました。
しかし、Goの開発ブランチは必ずしも"weekly"という文字列をバージョンに含んでいるわけではなく、特に開発の最先端では"devel"というバージョン文字列が使われることがあります。このコミット以前は、"devel"バージョンのGoを使用している場合、cmd/api
ツールは-next
オプションを無視してしまい、開発中のAPI変更を正しくチェックできないという問題がありました。
この変更の目的は、"devel"バージョンも開発ブランチとして適切に認識させ、将来のAPI変更に対するチェックを開発の早い段階で行えるようにすることです。これにより、APIの互換性維持がより確実になり、開発者が最新のAPI変更に追従しやすくなります。
前提知識の解説
- Go言語のバージョン管理: Go言語は、安定版リリース(例: Go 1.x)と、その間の開発版(例: weeklyリリース、開発ブランチの
devel
バージョン)が存在します。runtime.Version()
関数は、現在実行中のGoプログラムが使用しているGoのバージョン文字列を返します。例えば、go1.0.3
やdevel +a1b2c3d
のような文字列が返されます。 cmd/api
ツール: Go言語の標準ライブラリに含まれるツールの一つで、GoのAPIの互換性をチェックするために使用されます。新しいGoのバージョンがリリースされる際に、既存のプログラムとの互換性が損なわれないように、APIの変更点を検出します。-next
オプション:cmd/api
ツールで使用されるオプションで、将来のAPI変更を記述したファイル(通常はapi/next.txt
のようなファイル)を指定します。このファイルには、次のリリースで追加される予定のAPIや、変更されるAPIの定義が含まれています。cmd/api
は、このファイルと現在のAPI定義を比較することで、将来のAPI変更が互換性を損なわないか、あるいは意図した変更であるかを検証します。- API互換性: ソフトウェア開発において、API(Application Programming Interface)の互換性は非常に重要です。特にライブラリやフレームワークでは、APIの変更が既存のユーザーコードを壊さないように細心の注意が払われます。Go言語では、後方互換性を非常に重視しており、APIの変更は厳格に管理されています。
cmd/api
ツールはその管理を支援するものです。 strings.Contains()
関数: Go言語の標準ライブラリstrings
パッケージに含まれる関数で、ある文字列が別の文字列の部分文字列として含まれているかどうかをチェックします。runtime.Version()
関数: Go言語の標準ライブラリruntime
パッケージに含まれる関数で、現在実行中のGoプログラムのバージョン文字列を返します。
技術的詳細
このコミットは、src/cmd/api/goapi.go
ファイル内のmain
関数におけるバージョンチェックロジックを変更しています。
変更前は以下の条件文でした。
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") {
// ... -nextオプションを無視するロジック ...
}
このロジックは、「現在のGoのバージョン文字列に"weekly"が含まれていない場合」に-next
オプションを無視するというものでした。これは、"weekly"リリース版以外のバージョン(例えば、安定版リリース)では、将来のAPI変更をチェックする必要がない、あるいはチェックすべきではないという前提に基づいています。
変更後は以下の条件文になりました。
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && runtime.Version() != "devel" {
// ... -nextオプションを無視するロジック ...
}
この変更により、条件が「現在のGoのバージョン文字列に"weekly"が含まれておらず、かつ、バージョン文字列が"devel"ではない場合」に-next
オプションを無視するように拡張されました。
つまり、この条件文の否定(if
ブロックに入らない場合)が-next
オプションを適用する条件となります。
- 変更前:
strings.Contains(runtime.Version(), "weekly")
の場合、-next
オプションが適用される。 - 変更後:
strings.Contains(runtime.Version(), "weekly")
またはruntime.Version() == "devel"
の場合、-next
オプションが適用される。
これにより、Goの開発ブランチでよく使われる"devel"
というバージョン文字列を持つGoバイナリでcmd/api
を実行した場合でも、-next
オプションが正しく機能し、開発中のAPI変更を検証できるようになりました。これは、GoのAPI互換性チェックプロセスをより堅牢にし、開発の最前線でのAPI変更の追跡を容易にするための重要な改善です。
コアとなるコードの変更箇所
変更はsrc/cmd/api/goapi.go
ファイルのmain
関数内の一行です。
--- a/src/cmd/api/goapi.go
+++ b/src/cmd/api/goapi.go
@@ -100,7 +100,7 @@ func setContexts() {
func main() {
flag.Parse()
- if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") {
+ if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && runtime.Version() != "devel" {
if *nextFile != "" {
fmt.Printf("Go version is %q, ignoring -next %s\\n", runtime.Version(), *nextFile)
*nextFile = ""
具体的には、if
文の条件式に&& runtime.Version() != "devel"
が追加されました。
コアとなるコードの解説
変更された行は、cmd/api
ツールが-next
オプションで指定されたAPI定義ファイルを適用するかどうかを決定するロジックの一部です。
元のコード:
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") {
// ...
}
この条件は、「現在のGoのバージョン文字列に"weekly"が含まれていない場合」に真となります。この場合、cmd/api
は-next
オプションを無視します。つまり、"weekly"バージョンでのみ-next
オプションが有効でした。
変更後のコード:
if !strings.Contains(runtime.Version(), "weekly") && runtime.Version() != "devel" {
// ...
}
この新しい条件は、「現在のGoのバージョン文字列に"weekly"が含まれておらず、かつ、バージョン文字列が"devel"ではない場合」に真となります。
この条件が真の場合、引き続き-next
オプションは無視されます。
この変更の論理的な意味は以下の通りです。
-next
オプションが有効になる条件は、上記のif
文の条件が偽になる場合です。
- 変更前:
strings.Contains(runtime.Version(), "weekly")
が真の場合(つまり、バージョンが"weekly"を含む場合)に-next
が有効。 - 変更後:
strings.Contains(runtime.Version(), "weekly")
が真、またはruntime.Version() == "devel"
が真の場合に-next
が有効。
これにより、Goの開発ブランチで使われる"devel"
バージョンも、"weekly"
バージョンと同様に、将来のAPI変更をチェックするための-next
オプションの適用対象となりました。これは、GoのAPI互換性チェックのワークフローを、より広範な開発環境に対応させるための修正です。
関連リンク
- Go言語の公式ウェブサイト: https://golang.org/
- Goの
runtime
パッケージ: https://pkg.go.dev/runtime - Goの
strings
パッケージ: https://pkg.go.dev/strings
参考にした情報源リンク
- コミットメッセージに記載されているGoのコードレビューシステムへのリンク: https://golang.org/cl/6476066 (これはGoの内部的なコードレビューシステムであり、現在はアクセスできない可能性がありますが、当時の変更の議論や背景を理解するための重要な情報源です。)
- Go言語のソースコード(
src/cmd/api/goapi.go
): https://github.com/golang/go/blob/master/src/cmd/api/goapi.go (コミット時点のコードとは異なる可能性がありますが、現在の実装を確認できます。)