[インデックス 13719] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリ runtime/pprof
における型定義のドキュメントコメントから削除されていた冠詞("A")を復元するものです。これにより、ドキュメントの可読性と自然な表現が向上します。
コミット
commit 020c6558d9de2f9b5a5a5f67dfc6e342d43c819a
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Fri Aug 31 13:49:57 2012 -0400
runtime/pprof: restore articles in type doc comments
Reverts part of CL 6460082.
If a doc comment describes a type by explaining the
meaning of one instance of the type, a leading article
is fine and makes the text less awkward.
Compare:
// A dog is a kind of animal.
// Dog is a kind of animal.
R=golang-dev, dsymonds, dvyukov, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6494066
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/020c6558d9de2f9b5a5a5f67dfc6e342d43c819a
元コミット内容
runtime/pprof: restore articles in type doc comments
Reverts part of CL 6460082.
If a doc comment describes a type by explaining the
meaning of one instance of the type, a leading article
is fine and makes the text less awkward.
Compare:
// A dog is a kind of animal.
// Dog is a kind of animal.
変更の背景
このコミットは、以前の変更(CL 6460082の一部)によって runtime/pprof
パッケージ内の型定義のドキュメントコメントから削除された冠詞("A")を復元することを目的としています。
Go言語のドキュメンテーションスタイルガイドでは、型を説明するドキュメントコメントの冒頭に冠詞を使用するかどうかが議論の対象となることがあります。一般的に、Goのドキュメントコメントは簡潔で直接的であることが好まれますが、型がその型の「インスタンス」の意味を説明する場合には、冠詞を付けることで文章がより自然で読みやすくなるという考え方があります。
コミットメッセージに示されている例「// A dog is a kind of animal.
」と「// Dog is a kind of animal.
」を比較すると、前者の「A dog」の方が、その型(Dog
)の一般的なインスタンスについて説明しているというニュアンスが伝わりやすく、より自然な英語表現となります。
以前の変更(CL 6460082)では、おそらくドキュメントコメントの簡潔性を追求する目的で冠詞が削除されたと考えられます。しかし、このコミットでは、特定の文脈(型のインスタンスの意味を説明する場合)においては冠詞があった方が可読性が高いと判断され、その変更が部分的に元に戻されました。
前提知識の解説
Go言語のドキュメンテーションコメント
Go言語では、エクスポートされた(大文字で始まる)型、関数、変数、定数にはドキュメンテーションコメントを記述することが推奨されています。これらのコメントは godoc
ツールによって解析され、HTML形式のドキュメントとして生成されます。
ドキュメンテーションコメントは、その要素の直前に記述され、要素名で始まる単一の文で構成されるのが一般的です。例えば、type Profile struct { ... }
のドキュメントコメントは // Profile is ...
のように始まります。
冠詞(Article)の使用
英語における冠詞(a, an, the)は、名詞が特定のものか不特定のものかを示す重要な役割を果たします。
- 不定冠詞 (a/an): 不特定のもの、一般的なもの、または初めて言及されるものを示します。
- 定冠詞 (the): 特定のもの、既に言及されたもの、または文脈から特定できるものを示します。
Goのドキュメンテーションコメントにおいて、型を説明する際に「A TypeName is ...
」のように不定冠詞を使用することは、その型が「ある種の」または「一般的な」インスタンスであることを示唆し、読者にとって理解しやすい自然な表現となる場合があります。
runtime/pprof
パッケージ
runtime/pprof
パッケージは、Goプログラムのプロファイリングデータ(CPUプロファイル、メモリプロファイルなど)を生成および解析するための機能を提供します。これにより、開発者はプログラムのパフォーマンスボトルネックを特定し、最適化を行うことができます。
このパッケージは、go tool pprof
コマンドと連携して使用され、プロファイリングデータを可視化したり、詳細なレポートを生成したりするために利用されます。
Go Gerrit Change-ID (CL)
Goプロジェクトでは、コードレビューと変更管理にGerritを使用しています。各変更は「Change-ID」または「CL (Change List)」と呼ばれる一意の識別子を持ちます。コミットメッセージに「Reverts part of CL XXXXXXX.
」とある場合、それは以前のGerrit変更の一部を元に戻すことを意味します。
今回のコミットメッセージにある CL 6460082
は、ウェブ検索では直接的な情報が見つかりませんでしたが、これはGoの内部的な変更管理システムにおける特定の変更を指していると考えられます。
技術的詳細
このコミットの技術的なポイントは、Go言語のドキュメンテーションコメントにおける「自然な言語表現」と「簡潔性」のバランスにあります。
Goのドキュメンテーションは godoc
ツールによって自動生成されるため、コメントの記述スタイルは非常に重要です。godoc
はコメントの最初の文を要約として使用することが多く、その後の詳細な説明が続きます。
以前の CL 6460082
では、おそらくドキュメントコメントの簡潔性を極限まで高めるために、型定義のコメント冒頭から冠詞が削除されたと推測されます。しかし、Russ Cox氏(Go言語の主要な設計者の一人)は、型がその「インスタンス」の意味を説明する場合には、冠詞があった方が文章がより自然で、読者にとって理解しやすいと判断しました。
具体的には、// A Profile is a collection of stack traces...
のように「A Profile」とすることで、「プロファイルとは、スタックトレースの集合である」という一般的な定義をより明確に表現できます。もし「Profile is a collection...」となると、文法的には間違いではないものの、やや不自然に聞こえる可能性があります。これは、英語のネイティブスピーカーにとっての自然な読解体験に影響します。
この変更は、コードの機能そのものには影響を与えませんが、Go言語のドキュメンテーションの品質と一貫性を維持する上で重要な意味を持ちます。良いドキュメンテーションは、ライブラリやフレームワークの利用者がコードを理解し、効果的に使用するために不可欠です。
コアとなるコードの変更箇所
変更は src/pkg/runtime/pprof/pprof.go
ファイルの2箇所です。
--- a/src/pkg/runtime/pprof/pprof.go
+++ b/src/pkg/runtime/pprof/pprof.go
@@ -23,7 +23,7 @@ import (
// BUG(rsc): A bug in the OS X Snow Leopard 64-bit kernel prevents
// CPU profiling from giving accurate results on that system.
-// Profile is a collection of stack traces showing the call sequences
+// A Profile is a collection of stack traces showing the call sequences
// that led to instances of a particular event, such as allocation.
// Packages can create and maintain their own profiles; the most common
// use is for tracking resources that must be explicitly closed, such as files
@@ -250,7 +250,7 @@ func (x stackProfile) Less(i, j int) bool {
return len(t) < len(u)
}
-// countProfile is a set of stack traces to be printed as counts
+// A countProfile is a set of stack traces to be printed as counts
// grouped by stack trace. There are multiple implementations:
// all that matters is that we can find out how many traces there are
// and obtain each trace in turn.
具体的には、以下の2つのドキュメントコメントの冒頭に「A
」が追加されています。
Profile
型のドキュメントコメント:- // Profile is a collection of stack traces showing the call sequences
+ // A Profile is a collection of stack traces showing the call sequences
countProfile
型のドキュメントコメント:- // countProfile is a set of stack traces to be printed as counts
+ // A countProfile is a set of stack traces to be printed as counts
コアとなるコードの解説
このコミットで変更されたのは、runtime/pprof
パッケージ内の2つの型 Profile
と countProfile
のドキュメントコメントです。
-
Profile
型:Profile
は、CPUプロファイルやメモリプロファイルなど、特定のイベント(例: メモリ割り当て)のインスタンスにつながる呼び出しシーケンスを示すスタックトレースの集合を表します。この型は、プロファイリングデータの主要な構造体であり、pprof
ツールが解析するデータの基盤となります。コメントに「A Profile is...
」とすることで、この型が「ある種のプロファイル」を定義していることを明確に示し、一般的な概念としてのプロファイルを説明していることが伝わりやすくなります。 -
countProfile
型:countProfile
は、スタックトレースをカウントとして出力するためのスタックトレースの集合です。これは、特定のスタックトレースが何回出現したかを数える際に使用される内部的な型です。同様に、コメントに「A countProfile is...
」とすることで、この型が「ある種のカウントプロファイル」を定義していることを示し、その目的をより自然に説明しています。
これらの変更は、コードの動作には一切影響を与えません。純粋にドキュメンテーションの品質向上を目的としたものであり、godoc
によって生成されるドキュメントの可読性を高めることに貢献します。Go言語の設計哲学の一つに「シンプルさと明瞭さ」があり、ドキュメンテーションもその例外ではありません。このコミットは、その哲学をドキュメンテーションの細部にまで適用しようとする試みと言えます。
関連リンク
- Go言語のドキュメンテーションに関する公式ガイドライン(Goのソースコードリポジトリ内の
doc/effective_go.html
やdoc/go_spec.html
に関連情報がある場合がありますが、具体的なURLは変更される可能性があります。) godoc
ツールに関する情報:go doc
コマンドやgodoc
コマンドのヘルプを参照。
参考にした情報源リンク
- コミットメッセージ自体:
020c6558d9de2f9b5a5a5f67dfc6e342d43c819a
- Go言語の公式ドキュメンテーション(特に「Effective Go」や「Go Language Specification」のコメントに関するセクション)
- Go言語のGerritコードレビューシステム(
https://go.googlesource.com/go/+/refs/heads/master
) runtime/pprof
パッケージのソースコード- 英語の冠詞に関する一般的な文法知識
- Go言語のコミュニティにおけるドキュメンテーションスタイルの議論(GoのメーリングリストやIssueトラッカーなど)
- Go言語のGitHubリポジトリ:
https://github.com/golang/go
- Go言語のGerrit CL 6494066:
https://golang.org/cl/6494066
(このコミットのGerritページ) - Go言語のGerrit CL 6460082 (このコミットで部分的にRevertされた変更のGerritページ。ただし、ウェブ検索では直接的な情報が見つかりませんでした。)