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[インデックス 1379] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラ(gc)におけるエラーメッセージの改善に関するものです。具体的には、ポインタ型とインターフェース型、構造体型の間で発生する型不一致エラーに対して、より分かりやすい診断メッセージを提供するように変更が加えられています。

コミット

commit c4416ac06b8bf6e086411c3ea6f22643b2d41d7a
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Fri Dec 19 09:03:24 2008 -0800

    new error messages
    
    x.go:11: illegal types for operand: AS
            *I
            *T
            (*interface vs *struct)
    
    R=r
    DELTA=10  (8 added, 0 deleted, 2 changed)
    OCL=21457
    CL=21602

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/c4416ac06b8bf6e086411c3ea6f22643b2d41d7a

元コミット内容

このコミットは、Goコンパイラgcの内部コードに変更を加え、特定の型不一致エラーが発生した際に、より詳細でユーザーフレンドリーなエラーメッセージを出力するように改善しています。特に、ポインタ型のインターフェースと構造体の間で型変換や比較が行われる際に発生する「illegal types for operand: AS」というエラーに対して、具体的な型(*interface vs *struct)を示すメッセージが追加されました。

変更の背景

Go言語は、その設計思想として「シンプルさ」と「実用性」を重視しています。初期のGoコンパイラは、まだ開発途上にあり、エラーメッセージも洗練されていない部分がありました。特に型システムはGo言語の根幹をなす部分であり、型に関するエラーは開発者が頻繁に遭遇する問題の一つです。

このコミットが行われた2008年12月は、Go言語がまだ一般に公開される前の初期開発段階にあたります。当時のコンパイラは、型不一致のような一般的なプログラミングエラーに対して、必ずしも分かりやすいメッセージを提供していませんでした。例えば、ポインタ型を持つインターフェースと構造体を誤って比較したり、代入しようとしたりした場合、コンパイラは単に「不正な型」といった抽象的なエラーを返すだけでした。

このような抽象的なエラーメッセージは、開発者が問題の原因を特定し、修正するのに時間を要する原因となります。特に、Go言語の型システムにおけるインターフェースと構造体の関係は、他の言語とは異なるニュアンスを持つため、初期のGo開発者にとっては混乱を招きやすいポイントでした。

Russ Cox氏(Go言語の主要な開発者の一人)によるこのコミットは、このような開発者の体験を改善することを目的としています。具体的な型情報(*interface*struct)をエラーメッセージに含めることで、開発者はどの型が問題を引き起こしているのかを即座に理解し、より迅速にコードを修正できるようになります。これは、Go言語が「実用的な言語」として成長していく上で、非常に重要な改善点の一つでした。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびコンパイラの基本的な概念を理解しておく必要があります。

Go言語の型システム

Go言語は静的型付け言語であり、変数は特定の型を持ちます。主要な型として、以下が挙げられます。

  • 構造体 (struct): 関連するフィールドをまとめた複合データ型です。C言語の構造体やJava/C++のクラスのデータ部分に似ています。
  • インターフェース (interface): メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。Go言語のポリモーフィズムの主要なメカニズムであり、特定のインターフェースを実装する型であれば、そのインターフェース型として扱うことができます。Goのインターフェースは、JavaやC++のインターフェースとは異なり、明示的なimplementsキーワードは不要で、定義されたメソッドを実装していれば自動的にそのインターフェースを満たします(ダックタイピング)。
  • ポインタ (pointer): 変数のメモリアドレスを保持する型です。Goではポインタ演算は制限されており、主に値の共有や大きな構造体のコピー回避に用いられます。*Tは型Tへのポインタを表します。

Goコンパイラ gc

gcは、Go言語の公式コンパイラであり、Goのソースコードを機械語に変換します。コンパイルプロセスには、字句解析、構文解析、意味解析、最適化、コード生成などが含まれます。このコミットが関連するのは、主に意味解析フェーズにおける型チェックとエラー報告のロジックです。

AS オペランド(内部表現)

コミットメッセージにある「AS」は、Go言語のソースコードに直接現れるキーワードではありません。これは、Goコンパイラgcの内部で使われる抽象構文木(AST)のノードタイプ、または中間表現におけるオペレーションコード(opcode)の一つであると推測されます。

コンパイラは、ソースコードを解析してASTを構築し、そのASTに対して様々な変換やチェックを行います。ASは、おそらく型変換(キャスト)や代入、あるいは特定の二項演算など、異なる型のオペランドが関与する操作を表す内部的な識別子であると考えられます。このエラーメッセージは、「ASという操作において、オペランドの型が不正である」ことを示しています。

エラーメッセージの重要性

コンパイラのエラーメッセージは、開発プロセスにおいて非常に重要です。良いエラーメッセージは、問題の場所、種類、そして可能な解決策を明確に示し、開発者がデバッグにかける時間を大幅に削減します。逆に、不明瞭なエラーメッセージは、開発者を混乱させ、生産性を低下させます。このコミットは、まさにこの「良いエラーメッセージ」を提供するための改善です。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goコンパイラgcの型チェックロジックに、特定の型不一致パターン(*interface*structの間の操作)を検出し、それに対する専用のエラーメッセージを追加した点にあります。

Goコンパイラは、ソースコードを解析する際に、各式の型を推論し、操作が型の規則に準拠しているかを検証します。型が一致しない場合や、操作がその型に対して定義されていない場合、コンパイラはエラーを報告します。

変更が加えられたsrc/cmd/gc/subr.cファイルは、Goコンパイラのサブルーチンやユーティリティ関数が含まれる部分であり、特に型チェックやエラー報告に関連するロジックが実装されている可能性が高いです。

追加されたコードは、以下の条件をチェックしています。

  1. tltrという2つの型が存在すること(オペランドの型)。
  2. 両方の型がポインタ型であること(isptr[tl->etype]isptr[tr->etype])。
  3. 一方のポインタが指す型が構造体(TSTRUCT)であり、もう一方がインターフェース(TINTER)であること。またはその逆の組み合わせであること。

これらの条件がすべて満たされた場合、つまり*struct*interfaceの間で不正な操作が行われた場合に、コンパイラは「(*struct vs *interface)」または「(*interface vs *struct)」という補足的なエラーメッセージを出力します。

これは、コンパイラが単に「型が不正」と報告するだけでなく、具体的な型情報を提供することで、開発者が直面している問題の性質をより深く理解できるようにするための、診断的な改善です。Go言語のインターフェースは、その柔軟性ゆえに、ポインタとの組み合わせで誤解を招くことがあります。例えば、interface{}型の変数にstruct{}のポインタを代入することはできますが、*interface{}*struct{}は異なる型であり、直接的な比較や代入は通常できません。このコミットは、そのような一般的な誤解や間違いを早期に、かつ明確に指摘することを意図しています。

src/cmd/gc/go.hの変更は、TSTRUCTTINTERという型定数にコメントを追加し、その値(23と26)を明示しています。これは、コードの可読性を向上させ、これらの型がコンパイラ内部でどのように扱われているかを明確にするための、小さなドキュメンテーション的な変更です。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる主要なコード変更は以下の2つのファイルにあります。

  1. src/cmd/gc/go.h:

    --- a/src/cmd/gc/go.h
    +++ b/src/cmd/gc/go.h
    @@ -351,10 +351,10 @@ enum
     	TFUNC,
     	TARRAY,
     	T_old_DARRAY,
    -	TSTRUCT,
    +	TSTRUCT,		// 23
     	TCHAN,
     	TMAP,
    -	TINTER,
    +	TINTER,			// 26
     	TFORW,
     	TFIELD,
     	TANY,
    

    この変更は、Goコンパイラの内部で使用される型定数TSTRUCTTINTERの定義に、コメントとしてその数値(列挙型における値)を追加しています。これは機能的な変更ではなく、コードの可読性と理解を助けるためのものです。

  2. src/cmd/gc/subr.c:

    --- a/src/cmd/gc/subr.c
    +++ b/src/cmd/gc/subr.c
    @@ -2140,6 +2140,14 @@ loop:
     		print("\t%lT\n", tl);
     	if(tr != T)
     		print("\t%lT\n", tr);
    +\
    +\	// common mistake: *struct and *interface.\
    +\	if(tl && tr && isptr[tl->etype] && isptr[tr->etype]) {
    +\		if(tl->type->etype == TSTRUCT && tr->type->etype == TINTER)
    +\			print("\t(*struct vs *interface)\n");
    +\		else if(tl->type->etype == TINTER && tr->type->etype == TSTRUCT)
    +\			print("\t(*interface vs *struct)\n");
    +\	}
     }
     
     /*
    

    この変更は、subr.c内のエラー報告を行う関数(おそらくtypecheckやそれに類する関数の一部)に、新しい条件分岐を追加しています。この新しいロジックは、2つのオペランドtltrが両方ともポインタ型であり、かつ一方が構造体へのポインタ(*struct)で、もう一方がインターフェースへのポインタ(*interface)である場合に、具体的な型を示すエラーメッセージ「(*struct vs *interface)」または「(*interface vs *struct)」を出力します。

コアとなるコードの解説

src/cmd/gc/subr.cに追加されたコードブロックは、Goコンパイラが型チェックを行う際に、特定の「よくある間違い」を検出して、より詳細なエラーメッセージを提供するメカニズムを実装しています。

	// common mistake: *struct and *interface.
	if(tl && tr && isptr[tl->etype] && isptr[tr->etype]) {
		if(tl->type->etype == TSTRUCT && tr->type->etype == TINTER)
			print("\t(*struct vs *interface)\n");
		else if(tl->type->etype == TINTER && tr->type->etype == TSTRUCT)
			print("\t(*interface vs *struct)\n");
	}

このコードは、既存のエラーメッセージ出力ロジックの直後に挿入されています。

  • tltr: これらは、型チェックの対象となっている2つのオペランドの型を表す内部的なデータ構造へのポインタです。
  • isptr[tl->etype]isptr[tr->etype]: isptrは、Goコンパイラ内部で定義されている配列またはマップで、与えられた型(etype)がポインタ型であるかどうかを示すフラグを保持しています。この条件は、両方のオペランドがポインタ型であることを確認します。
  • tl->type->etype: ポインタ型の場合、tl->typeはそのポインタが指す基底の型を表します。etypeはその基底型の種類(例: TSTRUCTTINTER)を示します。

このifブロックは、以下のシナリオを捕捉します。

  1. tl*struct型で、tr*interface型の場合。
  2. tl*interface型で、tr*struct型の場合。

これらのケースは、Go言語の初心者や、他の言語の型システムに慣れている開発者が陥りやすい誤解に基づいています。Goでは、interface{}型の変数に任意の型の値を代入できますが、それは値そのものがインターフェース型に「ラップ」されるのであって、その値のポインタがインターフェースのポインタになるわけではありません。*interface{}という型は、インターフェース値そのものへのポインタを意味し、これは*struct{}とは全く異なる型です。

この追加されたprint文は、コンパイラが「illegal types for operand: AS」のような一般的なエラーメッセージを出力した後、さらに具体的な「(*struct vs *interface)」という補足情報を提供します。これにより、開発者はエラーメッセージを見ただけで、問題がポインタとインターフェース、構造体の間の型不一致にあることを即座に理解し、デバッグの効率を大幅に向上させることができます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

このコミットは、Go言語のコンパイラ(gc)におけるエラーメッセージの改善に関するものです。具体的には、ポインタ型とインターフェース型、構造体型の間で発生する型不一致エラーに対して、より分かりやすい診断メッセージを提供するように変更が加えられています。

コミット

commit c4416ac06b8bf6e086411c3ea6f22643b2d41d7a
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Fri Dec 19 09:03:24 2008 -0800

    new error messages
    
    x.go:11: illegal types for operand: AS
            *I
            *T
            (*interface vs *struct)
    
    R=r
    DELTA=10  (8 added, 0 deleted, 2 changed)
    OCL=21457
    CL=21602

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/c4416ac06b8bf6e086411c3ea6f22643b2d41d7a

元コミット内容

このコミットは、Goコンパイラgcの内部コードに変更を加え、特定の型不一致エラーが発生した際に、より詳細でユーザーフレンドリーなエラーメッセージを出力するように改善しています。特に、ポインタ型のインターフェースと構造体の間で型変換や比較が行われる際に発生する「illegal types for operand: AS」というエラーに対して、具体的な型(*interface*struct)を示すメッセージが追加されました。

変更の背景

Go言語は、その設計思想として「シンプルさ」と「実用性」を重視しています。初期のGoコンパイラは、まだ開発途上にあり、エラーメッセージも洗練されていない部分がありました。特に型システムはGo言語の根幹をなす部分であり、型に関するエラーは開発者が頻繁に遭遇する問題の一つです。

このコミットが行われた2008年12月は、Go言語がまだ一般に公開される前の初期開発段階にあたります。当時のコンパイラは、型不一致のような一般的なプログラミングエラーに対して、必ずしも分かりやすいメッセージを提供していませんでした。例えば、ポインタ型を持つインターフェースと構造体を誤って比較したり、代入しようとしたりした場合、コンパイラは単に「不正な型」といった抽象的なエラーを返すだけでした。

このような抽象的なエラーメッセージは、開発者が問題の原因を特定し、修正するのに時間を要する原因となります。特に、Go言語の型システムにおけるインターフェースと構造体の関係は、他の言語とは異なるニュアンスを持つため、初期のGo開発者にとっては混乱を招きやすいポイントでした。Goのインターフェースは値の型であり、ポインタではありません。そのため、*struct型の値がinterface{}型に代入されることはあっても、*interface{}型と*struct{}型は異なる型であり、直接的な互換性はありません。この違いは、Goに慣れていない開発者にとって混乱の元となりがちです。

Russ Cox氏(Go言語の主要な開発者の一人)によるこのコミットは、このような開発者の体験を改善することを目的としています。具体的な型情報(*interface*struct)をエラーメッセージに含めることで、開発者はどの型が問題を引き起こしているのかを即座に理解し、より迅速にコードを修正できるようになります。これは、Go言語が「実用的な言語」として成長していく上で、非常に重要な改善点の一つでした。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびコンパイラの基本的な概念を理解しておく必要があります。

Go言語の型システム

Go言語は静的型付け言語であり、変数は特定の型を持ちます。主要な型として、以下が挙げられます。

  • 構造体 (struct): 関連するフィールドをまとめた複合データ型です。C言語の構造体やJava/C++のクラスのデータ部分に似ています。
  • インターフェース (interface): メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。Go言語のポリモーフィズムの主要なメカニズムであり、特定のインターフェースを実装する型であれば、そのインターフェース型として扱うことができます。Goのインターフェースは、JavaやC++のインターフェースとは異なり、明示的なimplementsキーワードは不要で、定義されたメソッドを実装していれば自動的にそのインターフェースを満たします(ダックタイピング)。
  • ポインタ (pointer): 変数のメモリアドレスを保持する型です。Goではポインタ演算は制限されており、主に値の共有や大きな構造体のコピー回避に用いられます。*Tは型Tへのポインタを表します。

Goのインターフェースは、内部的に「型(type)」と「値(value)」のペアとして表現されます。インターフェース変数がnilでないのは、その内部の型または値のどちらかがnilでない場合です。この特性が、nilインターフェースとnilポインタの混同など、Goの型システムにおける一般的な誤解の原因となることがあります。

Goコンパイラ gc

gcは、Go言語の公式コンパイラであり、Goのソースコードを機械語に変換します。コンパイルプロセスには、字句解析、構文解析、意味解析、最適化、コード生成などが含まれます。このコミットが関連するのは、主に意味解析フェーズにおける型チェックとエラー報告のロジックです。

AS オペランド(内部表現)

コミットメッセージにある「AS」は、Go言語のソースコードに直接現れるキーワードではありません。これは、Goコンパイラgcの内部で使われる抽象構文木(AST)のノードタイプ、または中間表現におけるオペレーションコード(opcode)の一つであると推測されます。

コンパイラは、ソースコードを解析してASTを構築し、そのASTに対して様々な変換やチェックを行います。ASは、おそらく型変換(キャスト)や代入、あるいは特定の二項演算など、異なる型のオペランドが関与する操作を表す内部的な識別子であると考えられます。このエラーメッセージは、「ASという操作において、オペランドの型が不正である」ことを示しています。

エラーメッセージの重要性

コンパイラのエラーメッセージは、開発プロセスにおいて非常に重要です。良いエラーメッセージは、問題の場所、種類、そして可能な解決策を明確に示し、開発者がデバッグにかける時間を大幅に削減します。逆に、不明瞭なエラーメッセージは、開発者を混乱させ、生産性を低下させます。このコミットは、まさにこの「良いエラーメッセージ」を提供するための改善です。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goコンパイラgcの型チェックロジックに、特定の型不一致パターン(*interface*structの間の操作)を検出し、それに対する専用のエラーメッセージを追加した点にあります。

Goコンパイラは、ソースコードを解析する際に、各式の型を推論し、操作が型の規則に準拠しているかを検証します。型が一致しない場合や、操作がその型に対して定義されていない場合、コンパイラはエラーを報告します。

変更が加えられたsrc/cmd/gc/subr.cファイルは、Goコンパイラのサブルーチンやユーティリティ関数が含まれる部分であり、特に型チェックやエラー報告に関連するロジックが実装されている可能性が高いです。

追加されたコードは、以下の条件をチェックしています。

  1. tltrという2つの型が存在すること(オペランドの型)。
  2. 両方の型がポインタ型であること(isptr[tl->etype]isptr[tr->etype])。isptrは、Goコンパイラ内部で定義されている配列またはマップで、与えられた型(etype)がポインタ型であるかどうかを示すフラグを保持しています。
  3. 一方のポインタが指す型が構造体(TSTRUCT)であり、もう一方がインターフェース(TINTER)であること。またはその逆の組み合わせであること。tl->type->etypeは、ポインタが指す基底の型を表します。

これらの条件がすべて満たされた場合、つまり*struct*interfaceの間で不正な操作が行われた場合に、コンパイラは「(*struct vs *interface)」または「(*interface vs *struct)」という補足的なエラーメッセージを出力します。

これは、コンパイラが単に「型が不正」と報告するだけでなく、具体的な型情報を提供することで、開発者が直面している問題の性質をより深く理解できるようにするための、診断的な改善です。Go言語のインターフェースは、その柔軟性ゆえに、ポインタとの組み合わせで誤解を招くことがあります。例えば、interface{}型の変数にstruct{}のポインタを代入することはできますが、*interface{}*struct{}は異なる型であり、直接的な比較や代入は通常できません。このコミットは、そのような一般的な誤解や間違いを早期に、かつ明確に指摘することを意図しています。

src/cmd/gc/go.hの変更は、TSTRUCTTINTERという型定数にコメントを追加し、その値(23と26)を明示しています。これは、コードの可読性を向上させ、これらの型がコンパイラ内部でどのように扱われているかを明確にするための、小さなドキュメンテーション的な変更です。

コアとなるコードの変更箇所

このコミットによる主要なコード変更は以下の2つのファイルにあります。

  1. src/cmd/gc/go.h:

    --- a/src/cmd/gc/go.h
    +++ b/src/cmd/gc/go.h
    @@ -351,10 +351,10 @@ enum
     	TFUNC,
     	TARRAY,
     	T_old_DARRAY,
    -	TSTRUCT,
    +	TSTRUCT,		// 23
     	TCHAN,
     	TMAP,
    -	TINTER,
    +	TINTER,			// 26
     	TFORW,
     	TFIELD,
     	TANY,
    

    この変更は、Goコンパイラの内部で使用される型定数TSTRUCTTINTERの定義に、コメントとしてその数値(列挙型における値)を追加しています。これは機能的な変更ではなく、コードの可読性と理解を助けるためのものです。

  2. src/cmd/gc/subr.c:

    --- a/src/cmd/gc/subr.c
    +++ b/src/cmd/gc/subr.c
    @@ -2140,6 +2140,14 @@ loop:
     		print("\t%lT\n", tl);
     	if(tr != T)
     		print("\t%lT\n", tr);
    +\
    +\	// common mistake: *struct and *interface.\
    +\	if(tl && tr && isptr[tl->etype] && isptr[tr->etype]) {
    +\		if(tl->type->etype == TSTRUCT && tr->type->etype == TINTER)
    +\			print("\t(*struct vs *interface)\n");
    +\		else if(tl->type->etype == TINTER && tr->type->etype == TSTRUCT)
    +\			print("\t(*interface vs *struct)\n");
    +\	}
     }
     
     /*
    

    この変更は、subr.c内のエラー報告を行う関数(おそらくtypecheckやそれに類する関数の一部)に、新しい条件分岐を追加しています。この新しいロジックは、2つのオペランドtltrが両方ともポインタ型であり、かつ一方が構造体へのポインタ(*struct)で、もう一方がインターフェースへのポインタ(*interface)である場合に、具体的な型を示すエラーメッセージ「(*struct vs *interface)」または「(*interface vs *struct)」を出力します。

コアとなるコードの解説

src/cmd/gc/subr.cに追加されたコードブロックは、Goコンパイラが型チェックを行う際に、特定の「よくある間違い」を検出して、より詳細なエラーメッセージを提供するメカニズムを実装しています。

	// common mistake: *struct and *interface.
	if(tl && tr && isptr[tl->etype] && isptr[tr->etype]) {
		if(tl->type->etype == TSTRUCT && tr->type->etype == TINTER)
			print("\t(*struct vs *interface)\n");
		else if(tl->type->etype == TINTER && tr->type->etype == TSTRUCT)
			print("\t(*interface vs *struct)\n");
	}

このコードは、既存のエラーメッセージ出力ロジックの直後に挿入されています。

  • tltr: これらは、型チェックの対象となっている2つのオペランドの型を表す内部的なデータ構造へのポインタです。
  • isptr[tl->etype]isptr[tr->etype]: isptrは、Goコンパイラ内部で定義されている配列またはマップで、与えられた型(etype)がポインタ型であるかどうかを示すフラグを保持しています。この条件は、両方のオペランドがポインタ型であることを確認します。
  • tl->type->etype: ポインタ型の場合、tl->typeはそのポインタが指す基底の型を表します。etypeはその基底型の種類(例: TSTRUCTTINTER)を示します。

このifブロックは、以下のシナリオを捕捉します。

  1. tl*struct型で、tr*interface型の場合。
  2. tl*interface型で、tr*struct型の場合。

これらのケースは、Go言語の初心者や、他の言語の型システムに慣れている開発者が陥りやすい誤解に基づいています。Goでは、interface{}型の変数に任意の型の値を代入できますが、それは値そのものがインターフェース型に「ラップ」されるのであって、その値のポインタがインターフェースのポインタになるわけではありません。*interface{}という型は、インターフェース値そのものへのポインタを意味し、これは*struct{}とは全く異なる型です。

この追加されたprint文は、コンパイラが「illegal types for operand: AS」のような一般的なエラーメッセージを出力した後、さらに具体的な「(*struct vs *interface)」という補足情報を提供します。これにより、開発者はエラーメッセージを見ただけで、問題がポインタとインターフェース、構造体の間の型不一致にあることを即座に理解し、デバッグの効率を大幅に向上させることができます。

関連リンク

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