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[インデックス 1385] ファイルの概要

コミット

このコミットは、Go言語の初期開発段階におけるソースコードの変更に伴い、ビルドシステムを更新するものです。具体的には、usr/gri/pretty/Makefile.iantというMakefileが修正され、新しいコンポーネント(型チェッカー、オブジェクト、型、グローバル変数、ユニバースなど)のビルドと依存関係が追加されています。これは、Go言語のコンパイラまたは関連ツールの「pretty-printer」部分の機能拡張または再構築を示唆しています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/4f3506b4eebf2530b0f35bdba7be435ec85acf99

元コミット内容

commit 4f3506b4eebf2530b0f35bdba7be435ec85acf99
Author: Ian Lance Taylor <iant@golang.org>
Date:   Fri Dec 19 14:32:00 2008 -0800

    Update for source code changes.
    
    R=gri
    DELTA=15  (13 added, 1 deleted, 1 changed)
    OCL=21632
    CL=21639

変更の背景

このコミットは、Go言語のソースコード自体に大規模な変更があったことを背景としています。コミットメッセージ「Update for source code changes.」が示す通り、既存のソースコードに新たな機能が追加されたか、あるいは既存の機能が再設計・再実装された結果、ビルドプロセスを定義するMakefileもそれに合わせて更新する必要が生じました。

特に、追加されたオブジェクトファイル名(globals.o, object.o, type.o, typechecker.o, universe.o)から推測すると、Go言語の型システム、オブジェクトモデル、スコープ(ユニバース)、およびそれらを検証する型チェッカーといった、言語の根幹に関わる部分が新たに導入されたか、大幅に改修された可能性が高いです。これらの変更は、Go言語がその設計思想を固め、より堅牢な言語機能を提供するための重要なステップであったと考えられます。

前提知識の解説

Makefileとビルドシステム

Makefileは、プログラムのコンパイルやビルドプロセスを自動化するためのスクリプトファイルです。makeコマンドによって解釈され、ソースコードから実行可能ファイルやライブラリを生成する手順を定義します。

  • ターゲット (Target): ビルドしたい最終的な成果物(例: pretty実行ファイル)や、実行したいアクション(例: clean)を指します。
  • 依存関係 (Dependencies): ターゲットをビルドするために必要となるファイルや他のターゲットです。依存関係が更新されている場合、ターゲットは再ビルドされます。
  • レシピ (Recipe): 依存関係が満たされたときに実行されるコマンド群です。

このMakefileでは、.o(オブジェクトファイル)が中間生成物として定義されており、これらが最終的な実行ファイルprettyを構成しています。

コンパイラの基本構造

Go言語のようなコンパイラは、通常、以下のような段階を経てソースコードを実行可能な形式に変換します。

  1. 字句解析 (Lexical Analysis / Scanning): ソースコードをトークン(意味を持つ最小単位)の並びに変換します。関連ファイル: scanner.o
  2. 構文解析 (Syntactic Analysis / Parsing): トークンの並びが言語の文法規則に合致するかを検証し、抽象構文木(AST: Abstract Syntax Tree)を構築します。関連ファイル: parser.o, ast.o
  3. 意味解析 (Semantic Analysis / Type Checking): 抽象構文木を走査し、型の一貫性や変数の宣言・使用に関するルールなど、意味的な正当性を検証します。この段階で、型情報やスコープ情報が重要になります。関連ファイル: typechecker.o, type.o, object.o, globals.o, universe.o
  4. コード生成 (Code Generation): 意味解析された抽象構文木から、ターゲットマシンが理解できる機械語コードなどを生成します。

このコミットで追加されたファイル群は、特に意味解析の段階、すなわち型チェックやスコープ管理に関連するコンポーネントの導入を示唆しています。

Go言語の初期開発

Go言語は2007年にGoogleで設計が始まり、2009年にオープンソースとして公開されました。このコミットの日付(2008年12月)は、Go言語がまだ活発に開発され、その中核となる機能や設計が固められている初期段階であることを示しています。この時期のコミットは、言語の進化における重要なマイルストーンとなることが多いです。

技術的詳細

このコミットは、usr/gri/pretty/Makefile.iantというMakefileに対して行われた変更です。このMakefileは、Go言語のツールチェインの一部である「pretty-printer」またはそれに類するツールのビルドプロセスを管理していると考えられます。

変更の核心は、ビルド対象となるオブジェクトファイル群(PRETTY_OBJS)の更新と、それらのオブジェクトファイル間の依存関係の追加です。

具体的には、以下の新しいオブジェクトファイルがPRETTY_OBJSリストに追加されました。

  • globals.o: グローバルなシンボルや定数、設定などを管理するコンポーネント。
  • object.o: プログラム内の「オブジェクト」の表現や操作に関連するコンポーネント。Go言語における型付きの値や変数などを抽象的に扱うための基盤となる可能性があります。
  • type.o: 型システムに関連するコンポーネント。Go言語の静的型付けを実装するために、型の定義、比較、変換などを扱う役割を担います。
  • typechecker.o: 型チェッカーの主要なロジックを含むコンポーネント。構文解析によって生成されたASTを走査し、プログラムが型規則に準拠しているかを検証します。
  • universe.o: 「ユニバース」とは、プログラミング言語において、あらかじめ定義されている組み込みの識別子(例: int, string, true, false, nilなど)やスコープを指すことがあります。universe.oは、Go言語の組み込み型や関数、定数などを管理する役割を担っていると考えられます。

これらの追加は、Go言語のコンパイラまたはツールの意味解析フェーズが強化され、より洗練された型システムとスコープ管理が導入されたことを強く示唆しています。

また、既存のcompilation.oの依存関係にtypechecker.oが追加されたことは、コンパイルプロセスにおいて型チェックが不可欠なステップとして組み込まれたことを意味します。これは、Go言語が静的型付け言語としての堅牢性を確保するための重要な変更です。

コアとなるコードの変更箇所

変更はusr/gri/pretty/Makefile.iantファイルに集中しています。

--- a/usr/gri/pretty/Makefile.iant
+++ b/usr/gri/pretty/Makefile.iant
@@ -10,12 +10,17 @@ LDFLAGS = -Wl,-R,/home/iant/go/lib
 
 PRETTY_OBJS = \
 	ast.o \
-	pretty.o \
 	compilation.o \
+	globals.o \
+	object.o \
 	parser.o \
 	platform.o \
+	pretty.o \
 	printer.o \
 	scanner.o \
+	type.o \
+	typechecker.o \
+	universe.o \
 	utils.o
  
 pretty: $(PRETTY_OBJS)
@@ -33,7 +38,7 @@ clean:
 
 pretty.o:	 platform.o printer.o compilation.o
 
-compilation.o:	 platform.o scanner.o parser.o ast.o
+compilation.o:	 platform.o scanner.o parser.o ast.o typechecker.o
 
 ast.o:	 scanner.o
 
@@ -45,6 +50,13 @@ platform.o:	 utils.o
 
 printer.o:	 scanner.o ast.o
 
+typechecker.o:   ast.o universe.o globals.o type.o
+
+universe.o:      globals.o object.o type.o
+
+object.o:        globals.o
+
+type.o:          globals.o object.o
 
 .SUFFIXES:
 .SUFFIXES: .go .o

コアとなるコードの解説

  1. PRETTY_OBJSリストの変更:

    • pretty.oがリスト内で移動し、その代わりにglobals.o, object.o, type.o, typechecker.o, universe.oが追加されました。これは、prettyというツール(おそらくGoコードの整形ツールや、コンパイラのフロントエンドの一部)が、これらの新しいコンポーネントに依存するようになったことを示しています。これらのコンポーネントは、Go言語のセマンティクス(意味論)を理解し、処理するために不可欠な要素です。
  2. compilation.oの依存関係の追加:

    • compilation.oの依存関係にtypechecker.oが追加されました。
      • 変更前: compilation.o: platform.o scanner.o parser.o ast.o
      • 変更後: compilation.o: platform.o scanner.o parser.o ast.o typechecker.o
    • これは、compilation.oが担当するコンパイルのフェーズにおいて、型チェックが必須のステップとして組み込まれたことを意味します。つまり、ソースコードが抽象構文木に変換された後、型チェッカーによってその意味的な正当性が検証されてから、次のコンパイルステップに進むようになったということです。
  3. 新しいオブジェクトファイルの依存関係の定義:

    • typechecker.o: ast.o universe.o globals.o type.o
      • 型チェッカーは、抽象構文木(ast.o)を解析し、ユニバース(universe.o)、グローバルな情報(globals.o)、および型情報(type.o)を参照して型チェックを実行することを示しています。
    • universe.o: globals.o object.o type.o
      • ユニバースは、グローバルな情報(globals.o)、オブジェクトの概念(object.o)、および型情報(type.o)に依存して構築されることを示唆しています。これは、組み込みの型や関数がどのように定義され、管理されるかに関連します。
    • object.o: globals.o
      • オブジェクトの概念がグローバルな情報に依存していることを示します。
    • type.o: globals.o object.o
      • 型情報がグローバルな情報とオブジェクトの概念に依存していることを示します。

これらの変更は、Go言語のコンパイラが、より複雑で堅牢な型システムと意味解析の機能を実装するために、その内部構造を拡張したことを明確に示しています。特に、型チェッカーの導入は、Go言語が静的型付け言語としての厳密性を確立する上で極めて重要なステップでした。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語のGitHubリポジトリのコミット履歴
  • Makefileの一般的な構文と使用法に関するドキュメント
  • コンパイラ設計に関する一般的な知識
  • Go言語の初期開発に関する歴史的資料(もしあれば)
  • usr/gri/pretty/ ディレクトリの命名規則から、Go言語の初期の「pretty-printer」ツールに関連するものであると推測。
  • Go言語の型システムと意味解析に関する一般的な情報。