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[インデックス 1391] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の初期のコンパイラの一部である src/cmd/6g/gen.c ファイルに対する変更です。6g は、当時のGoコンパイラが64ビットシステムをターゲットとしていた際の名称であり、gen.c はそのコンパイラのコード生成を担当するC言語のソースファイルでした。このファイルは、Goのソースコードを機械語に変換する過程で、中間表現から最終的なアセンブリコードを生成する役割を担っていました。

コミット

このコミットは、regfree という関数呼び出しを追加することで、レジスタの解放処理を適切に行うように修正しています。これにより、コンパイラが一時的に使用したレジスタを確実に解放し、レジスタの枯渇や不適切な再利用を防ぐことを目的としています。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/2b33a134a86817edf441d260421d2a6d8c32e7d4

元コミット内容

regfree

R=r
OCL=21685
CL=21687
---
 src/cmd/6g/gen.c | 2 +-|
 1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)

変更の背景

この変更の背景には、コンパイラのレジスタ管理の正確性を向上させるという目的があります。コンパイラは、プログラムの実行速度を最大化するために、CPUのレジスタを効率的に利用します。しかし、レジスタは限られたリソースであるため、使用後は適切に解放し、他の用途に再利用できるようにする必要があります。

cgen_aret 関数は、おそらくアドレスの戻り値や配列の戻り値を処理するコード生成関数であり、その中で一時的なレジスタ (nod2) を使用していました。このレジスタが使用後に解放されない場合、レジスタリークが発生し、コンパイル時のレジスタ割り当てが非効率になったり、最悪の場合、レジスタが不足してコンパイルエラーを引き起こす可能性がありました。

このコミットは、このような潜在的な問題を解決し、コンパイラの堅牢性と効率性を向上させるために regfree の呼び出しを追加しました。

前提知識の解説

  • Goコンパイラ (初期の 6g): Go言語の初期バージョンでは、コンパイラはC言語で書かれており、6g は64ビットシステム向けのコンパイラを指す名称でした。現在のGoコンパイラはGo言語自体で書かれており(ブートストラップ)、当時の実装とは大きく異なります。
  • gen.c: 6g コンパイラの一部であり、コード生成(Code Generation)を担当するC言語のソースファイルでした。抽象構文木(AST)や中間表現(IR)から、ターゲットアーキテクチャ(この場合は64ビットシステム)のアセンブリコードを生成する役割を担っていました。
  • レジスタ割り当て (Register Allocation): コンパイラの最適化フェーズの一つで、プログラムの変数や中間結果をCPUの高速なレジスタに割り当てるプロセスです。レジスタにデータを置くことで、メモリへのアクセスを減らし、プログラムの実行速度を向上させます。
  • regalloc: レジスタを割り当てる(確保する)ための関数です。この関数が呼び出されると、利用可能なレジスタの中から適切なものが選択され、使用中としてマークされます。
  • regfree: 割り当てられたレジスタを解放するための関数です。この関数が呼び出されると、使用済みとなったレジスタが解放され、再び利用可能な状態に戻されます。
  • cgen_aret: gen.c 内に存在するコード生成関数の一つで、おそらく「アドレス戻り値のコード生成 (Code Generation for Address Return)」や「配列戻り値のコード生成」といった意味合いを持つと考えられます。関数が値を返す際のアドレス処理や、配列のような複雑なデータ構造の戻り値を扱うためのコードを生成していたと推測されます。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、コンパイラのレジスタ管理における「リソースのライフサイクル管理」の重要性を示しています。cgen_aret 関数内で regalloc(&nod2, types[tptr], res); によって nod2 というノード(おそらく一時的なレジスタを表す)にレジスタが割り当てられています。このレジスタは、gins(ALEAQ, &nod1, &nod2); および gins(AMOVQ, &nod2, res); の処理において一時的な値を保持するために使用されます。

変更前は、この一時レジスタ nod2 が使用された後、明示的に解放されることなくスコープを抜けていました。これは、コンパイラのレジスタ割り当て器が、このレジスタがまだ使用中であると誤って認識し続ける可能性を意味します。結果として、利用可能なレジスタのプールが減少し、後続のコード生成でレジスタが不足したり、不必要なメモリへのスピル(レジスタからメモリへの退避)が発生したりする原因となります。

regfree(&nod2); の追加は、nod2 に割り当てられたレジスタがその役割を終えた直後に、そのレジスタを解放し、利用可能なレジスタプールに戻すことを保証します。これにより、レジスタの再利用が促進され、コンパイラのレジスタ割り当ての効率が向上し、生成されるコードの品質にも寄与します。これは、コンパイラのコード生成フェーズにおけるメモリ管理(この場合はレジスタという限られたリソースの管理)のベストプラクティスに従った修正と言えます。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/6g/gen.c
+++ b/src/cmd/6g/gen.c
@@ -901,10 +901,10 @@ cgen_aret(Node *n, Node *res)
 	nod1.type = fp->type;
 
 	if(res->op != OREGISTER) {
-print("its 1\n");
 		regalloc(&nod2, types[tptr], res);
 		gins(ALEAQ, &nod1, &nod2);
 		gins(AMOVQ, &nod2, res);
+		regfree(&nod2);
 	} else
 		gins(ALEAQ, &nod1, res);
 }

コアとなるコードの解説

変更の中心は src/cmd/6g/gen.c ファイル内の cgen_aret 関数です。

この関数は、res というノードが OREGISTER (レジスタ) ではない場合に、特定の処理を行います。

  1. regalloc(&nod2, types[tptr], res);: nod2 という一時的なノードに対して、ポインタ型 (types[tptr]) のレジスタを割り当てます。この nod2 は、res の値を一時的に保持するために使用されます。
  2. gins(ALEAQ, &nod1, &nod2);: nod1 のアドレスを nod2 にロードするアセンブリ命令 (ALEAQ) を生成します。
  3. gins(AMOVQ, &nod2, res);: nod2 の内容を res に移動するアセンブリ命令 (AMOVQ) を生成します。

変更前は、これらの操作の後、nod2 に割り当てられたレジスタは明示的に解放されていませんでした。 変更によって追加された行は以下の通りです。

regfree(&nod2);

この行は、nod2 に割り当てられたレジスタが、その役割(nod1 のアドレスを一時的に保持し、res に移動する)を終えた直後に、そのレジスタを解放することを保証します。これにより、このレジスタは他のコード生成処理で再利用可能となり、コンパイラのレジスタ管理がより効率的かつ正確になります。

また、print("its 1\n"); というデバッグ用の出力が削除されている点も注目に値します。これは、開発中のデバッグ目的で一時的に挿入されたコードであり、機能が安定した段階で削除されたものと考えられます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • h-da.de (Goコンパイラの6ggen.ccgen_aretに関する情報)
  • redhat.com (レジスタ割り当ての概念に関する情報)
  • wazero.io (レジスタ割り当ての概念に関する情報)
  • github.com (レジスタ割り当ての概念に関する情報)
  • googlesource.com (Goコンパイラのgg.hなど、コード生成関数に関する情報)
  • go.dev (Goコンパイラのブートストラップに関する情報)
  • golangbridge.org (Goコンパイラのブートストラップに関する情報)
  • reddit.com (Goコンパイラのブートストラップに関する情報)
  • reddit.com (Goコンパイラのブートストラップに関する情報)