[インデックス 13986] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のドキュメンテーションツールである godoc
の cmd/godoc
パッケージ内の FormatSelections
関数における軽微なバグ修正に関するものです。具体的には、LinkWriter
が nil
の場合に nil
関数が呼び出される可能性のあるロジックを修正しています。
コミット
commit 7c8e26ee2f47541dbc5865e00bf1862b449a1b64
Author: Paul Chang <paulchang@google.com>
Date: Fri Sep 28 14:19:43 2012 -0700
cmd/godoc: fix minor bug in FormatSelections.
FormatSelections tries to call a nil function value if lw is nil
and the final entry in the selections array is non-nil. Luckily,
this doesn't actually happen in practice since godoc doesn't use
this combination (no line numbers, but with selections).
R=gri
CC=gobot, golang-dev
https://golang.org/cl/6488106
---
src/cmd/godoc/format.go | 2 +-\n 1 file changed, 1 insertion(+), 1 deletion(-)\n
diff --git a/src/cmd/godoc/format.go b/src/cmd/godoc/format.go
index 3b1b9a8226..64f4b80305 100644
--- a/src/cmd/godoc/format.go
+++ b/src/cmd/godoc/format.go
@@ -108,7 +108,7 @@ func FormatSelections(w io.Writer, text []byte, lw LinkWriter, links Selection,\n break\n }\n // determine the kind of segment change
- if index == len(selections)-1 {\n+ if lw != nil && index == len(selections)-1 {\n // we have a link segment change:\n // format the previous selection segment, write the\n // link tag and start a new selection segment
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/7c8e26ee2f47541dbc5865e00bf1862b449a1b64
元コミット内容
cmd/godoc
: FormatSelections
の軽微なバグを修正。
FormatSelections
は、lw
(LinkWriter) が nil
で、かつ selections
配列の最後の要素が nil
でない場合に、nil
関数値を呼び出そうとします。幸いなことに、godoc
がこの組み合わせ(行番号なしで選択範囲がある場合)を使用しないため、実際にはこの問題は発生していませんでした。
変更の背景
このコミットは、godoc
ツール内の潜在的なランタイムパニック(プログラムの異常終了)を引き起こす可能性のあるバグを修正するために行われました。具体的には、FormatSelections
関数が特定の条件下で nil
ポインタ(この場合は LinkWriter
インターフェースの nil
実装)のメソッドを呼び出そうとするロジック上の欠陥がありました。
コミットメッセージによると、このバグは「実際には発生していなかった」とされています。これは、godoc
の現在の使用パターンでは、LinkWriter
が nil
であると同時に selections
配列の最後の要素が非 nil
となるような状況が発生しなかったためです。しかし、将来的なコード変更や異なる使用シナリオにおいて、この潜在的な問題が顕在化する可能性がありました。そのため、コードの堅牢性を高め、将来的なバグを防ぐための予防的な修正としてこの変更が導入されました。
前提知識の解説
godoc
: Go言語の公式ドキュメンテーションツールです。Goのソースコードからコメントや宣言を解析し、HTML形式などでドキュメントを生成します。開発者がGoのパッケージや関数の使い方を理解するのに役立ちます。io.Writer
インターフェース: Go言語の標準ライブラリio
パッケージで定義されている基本的なインターフェースです。Write([]byte) (n int, err error)
メソッドを持つ型がこのインターフェースを満たします。ファイル、ネットワーク接続、標準出力など、様々な出力先にバイト列を書き込むための抽象化を提供します。LinkWriter
インターフェース:godoc
内部で使用されるインターフェースで、ドキュメント生成時にコード内の要素(例えば、関数名や型名)にリンクを生成する役割を担います。このインターフェースの実装は、生成されるドキュメントの形式(HTMLなど)に応じて、適切なリンクタグを挿入する責任があります。Selection
型:godoc
内部で、ソースコード内の特定の選択範囲(例えば、ハイライトされたコードブロックや、特定の行範囲)を表すために使用される型です。nil
関数値とnil
インターフェース値: Go言語において、関数型やインターフェース型の変数はnil
値を持つことができます。nil
関数値: 関数型の変数がnil
の場合、その関数を呼び出そうとするとランタイムパニック(panic: call of nil function value
)が発生します。nil
インターフェース値: インターフェース型の変数がnil
の場合、そのインターフェースが持つメソッドを呼び出そうとするとランタイムパニック(panic: call of nil pointer method
)が発生します。これは、インターフェースが内部的に型と値のペアを保持しており、値がnil
であるにもかかわらずメソッドが呼び出された場合に発生します。このコミットのケースは後者に該当します。lw
がLinkWriter
インターフェース型であり、その具体的な値がnil
であるときに、そのメソッドを呼び出そうとしていました。
len(selections)-1
: スライスや配列の最後の要素のインデックスを表す一般的なGoのイディオムです。len
は要素数を返し、インデックスは0から始まるため、最後の要素のインデックスは要素数 - 1
となります。
技術的詳細
src/cmd/godoc/format.go
内の FormatSelections
関数は、ソースコードのテキストと、その中の特定の選択範囲(links Selection
)を整形し、io.Writer
に書き出す役割を担っています。この関数は LinkWriter
インターフェース (lw
) を引数として受け取り、これを使って選択範囲にリンクを埋め込むことができます。
問題の箇所は、selections
配列をループ処理し、各セグメントの変更を検出する部分にありました。元のコードでは、index == len(selections)-1
という条件で、selections
配列の最後の要素に到達したかどうかを判断していました。この条件が真の場合、コードは lw
を使用してリンクタグを書き出す処理に進んでいました。
// Original code snippet
if index == len(selections)-1 {
// we have a link segment change:
// format the previous selection segment, write the
// link tag and start a new selection segment
// ... (code that uses lw)
}
ここで問題となるのは、lw
が nil
である可能性があるにもかかわらず、この if
ブロック内で lw
のメソッドが呼び出される可能性があった点です。Goのインターフェースは、具体的な型と値のペアを保持します。lw
が nil
インターフェース値である場合、そのメソッドを呼び出すとランタイムパニックが発生します。
コミットメッセージが指摘するように、godoc
の実際の運用では、lw
が nil
である(つまり、行番号が不要な場合)と同時に selections
配列の最後の要素が非 nil
であるという状況が発生しなかったため、このバグは顕在化していませんでした。しかし、これはあくまで偶然に依存したものであり、コードの論理的な欠陥でした。
修正は、この if
条件に lw != nil
というチェックを追加することで、lw
が有効な場合にのみリンクタグの書き出し処理に進むようにしました。これにより、nil
インターフェース値のメソッド呼び出しによるパニックが回避されます。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/cmd/godoc/format.go
+++ b/src/cmd/godoc/format.go
@@ -108,7 +108,7 @@ func FormatSelections(w io.Writer, text []byte, lw LinkWriter, links Selection,\n break\n }\n // determine the kind of segment change
- if index == len(selections)-1 {\n+ if lw != nil && index == len(selections)-1 {\n // we have a link segment change:\n // format the previous selection segment, write the\n // link tag and start a new selection segment
コアとなるコードの解説
変更は src/cmd/godoc/format.go
ファイルの FormatSelections
関数内で行われています。
元のコードの該当行は以下の通りでした。
if index == len(selections)-1 {
この条件は、selections
スライスの最後の要素に到達したかどうかをチェックしています。このブロックの内部では、lw
(LinkWriter) のメソッドが呼び出される可能性がありました。
修正後のコードは以下の通りです。
if lw != nil && index == len(selections)-1 {
この変更により、条件式に lw != nil
というチェックが追加されました。これは論理AND (&&
) 演算子によって結合されています。
lw != nil
:LinkWriter
インターフェースlw
がnil
でないことを確認します。つまり、有効なLinkWriter
の実装が提供されている場合にのみ、この条件の後半部分が評価されます。index == len(selections)-1
:selections
スライスの最後の要素に到達したかどうかをチェックします。
この修正によって、lw
が nil
の場合には、たとえ index == len(selections)-1
が真であっても、if
ブロック内のコード(lw
のメソッド呼び出しを含む)は実行されなくなります。これにより、nil
インターフェース値のメソッド呼び出しによるランタイムパニックが効果的に防止されます。これは、コードの安全性と堅牢性を高めるための重要な変更です。
関連リンク
- Go CL 6488106: https://golang.org/cl/6488106
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメンテーション
- Go言語のインターフェースとnilに関する一般的な情報