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[インデックス 14018] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の標準ツールであるgo testコマンドに、ベンチマーク実行時のメモリ割り当て統計を表示するための-test.benchmemフラグのサポートを追加するものです。これにより、開発者はベンチマークのパフォーマンスだけでなく、メモリ使用量も詳細に分析できるようになり、より効率的なコードの最適化が可能になります。

コミット

commit 7e2e4a732df1c6259ebea6b65deb3fc8421fbd13
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Thu Oct 4 13:20:18 2012 +0800

    cmd/go: add support for -test.benchmem
    
    R=golang-dev, r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6587074

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/7e2e4a732df1c6259ebea6b65deb3fc8421fbd13

元コミット内容

cmd/go: add support for -test.benchmem

R=golang-dev, r
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6587074

変更の背景

Go言語のベンチマークツールは、関数の実行速度を測定し、パフォーマンスのボトルネックを特定するために非常に強力です。しかし、実行速度だけでなく、プログラムがどれだけのメモリを割り当てているか、特にベンチマーク中にどれだけのヒープメモリが使用されているかを把握することは、メモリ効率の高いコードを書く上で不可欠です。

このコミット以前は、go testコマンドにはベンチマーク実行時のメモリ割り当て統計を直接表示する機能がありませんでした。開発者は、メモリプロファイリングツール(例: pprof)を別途使用するか、手動でメモリ使用量を測定する必要がありました。これは手間がかかるだけでなく、ベンチマーク結果とメモリ使用量の関連性を即座に把握することを困難にしていました。

-test.benchmemフラグの導入により、ベンチマーク実行時に自動的にメモリ割り当て統計(割り当てられたバイト数と割り当て回数)が表示されるようになり、開発者はパフォーマンスとメモリ効率の両面からコードを評価し、最適化を進めることができるようになりました。これは、特に高パフォーマンスが要求されるアプリケーションや、メモリフットプリントを最小限に抑える必要があるシステムにおいて、開発効率とコード品質を向上させる重要な改善です。

前提知識の解説

Go言語のベンチマーク

Go言語には、標準ライブラリに組み込まれた強力なベンチマーク機能があります。testingパッケージを使用し、BenchmarkXxxという命名規則に従って関数を記述することで、コードのパフォーマンスを測定できます。

例:

package mypackage

import "testing"

func BenchmarkMyFunction(b *testing.B) {
    for i := 0; i < b.N; i++ {
        // ベンチマーク対象のコード
    }
}

このベンチマークは、go test -bench=.コマンドで実行できます。b.Nは、ベンチマークが実行されるイテレーション回数で、Goのテストフレームワークが自動的に調整し、統計的に有意な結果が得られるようにします。

go testコマンド

go testは、Go言語のパッケージのテストとベンチマークを実行するための主要なコマンドです。このコマンドは、指定されたパッケージ内の_test.goファイルを探し、その中のテスト関数(TestXxx)とベンチマーク関数(BenchmarkXxx)を実行します。

go testには多くのフラグがあり、テストやベンチマークの挙動を制御できます。例えば:

  • -v: 詳細なテスト結果を表示します。
  • -run <regexp>: 指定された正規表現にマッチするテストのみを実行します。
  • -bench <regexp>: 指定された正規表現にマッチするベンチマークのみを実行します。
  • -cpuprofile <file>: CPUプロファイルを生成します。

メモリ割り当てとガベージコレクション (GC)

Go言語はガベージコレクタ(GC)を持つ言語です。プログラムが実行中にメモリを必要とすると、ヒープ領域からメモリが割り当てられます。不要になったメモリはGCによって自動的に解放されます。

メモリ割り当ての回数や割り当てられるバイト数が多いと、GCの頻度が増え、プログラムの実行速度に影響を与える可能性があります。特にベンチマークのようなパフォーマンス測定の文脈では、メモリ割り当てのオーバーヘッドは重要な考慮事項となります。

-test.benchmemフラグは、ベンチマーク実行中に発生したメモリ割り当ての総バイト数と総回数を報告することで、開発者がメモリ効率のボトルネックを特定し、オブジェクトの再利用やアロケーションの削減といった最適化を行うための手がかりを提供します。

技術的詳細

このコミットは、go testコマンドが-test.benchmemフラグを認識し、それをテストバイナリに適切に渡すための変更です。Goのコマンドラインツールは、cmd/goディレクトリ内のコードによって実装されています。

具体的には、以下の2つのファイルが変更されています。

  1. src/cmd/go/test.go: このファイルはgo testコマンドの主要なロジックを含んでおり、ユーザーに表示されるヘルプメッセージやフラグの定義が含まれています。この変更では、-test.benchmemフラグに関する説明が追加され、ユーザーがこのフラグの目的を理解できるようにしています。
  2. src/cmd/go/testflag.go: このファイルは、go testコマンドが受け入れることができる様々なフラグを定義し、それらのフラグがどのようにテストバイナリに渡されるかを管理します。この変更では、-benchmemフラグが新しいtestFlagSpecとして追加され、go testがこのフラグを認識し、内部的にtest.プレフィックスを付けてテストバイナリに渡すように設定されています。

Goのテストフレームワークでは、go testコマンドに渡されたフラグの一部は、実際にテストを実行する際に生成されるテストバイナリに渡されます。例えば、-benchフラグは-test.benchとしてテストバイナリに渡されます。このコミットも同様に、go test-benchmemフラグをテストバイナリの-test.benchmemフラグとして機能させるための橋渡しを行っています。テストバイナリ側では、このフラグが設定されている場合にメモリ割り当て統計を収集・表示するロジックが既に存在するか、あるいは別途追加されることになります(このコミットの範囲外)。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/go/test.go の変更

--- a/src/cmd/go/test.go
+++ b/src/cmd/go/test.go
@@ -94,6 +94,9 @@ directory containing the package sources, has its own flags:
 	    Run benchmarks matching the regular expression.
 	    By default, no benchmarks run.
 
+\t-test.benchmem
+\t    Print memory allocation statistics for benchmarks.
+\
 \t-test.cpuprofile cpu.out
 \t    Write a CPU profile to the specified file before exiting.
 \ndiff --git a/src/cmd/go/testflag.go b/src/cmd/go/testflag.go

src/cmd/go/testflag.go の変更

--- a/src/cmd/go/testflag.go
+++ b/src/cmd/go/testflag.go
@@ -25,6 +25,7 @@ var usageMessage = `Usage of go test:\n \n   // These flags can be passed with or without a \"test.\" prefix: -v or -test.v.\n   -bench=\"\": passes -test.bench to test\n+  -benchmem=false: print memory allocation statistics for benchmarks\n   -benchtime=1: passes -test.benchtime to test\n   -cpu=\"\": passes -test.cpu to test\n   -cpuprofile=\"\": passes -test.cpuprofile to test\n@@ -75,6 +76,7 @@ var testFlagDefn = []*testFlagSpec{\n \n \t// passed to 6.out, adding a \"test.\" prefix to the name if necessary: -v becomes -test.v.\n \t{name: \"bench\", passToTest: true},\n+\t{name: \"benchmem\", boolVar: new(bool), passToTest: true},\n \t{name: \"benchtime\", passToTest: true},\n \t{name: \"cpu\", passToToTest: true},\n \t{name: \"cpuprofile\", passToTest: true},\

コアとなるコードの解説

src/cmd/go/test.go の変更点

この変更は、go testコマンドのヘルプメッセージに-test.benchmemフラグの説明を追加しています。

+\t-test.benchmem
+\t    Print memory allocation statistics for benchmarks.

これは、ユーザーがgo help testを実行した際に、この新しいフラグの存在と機能を知ることができるようにするためのドキュメントの追加です。これにより、開発者はメモリ割り当て統計の表示機能が利用可能になったことを認識し、その使い方を理解できます。

src/cmd/go/testflag.go の変更点

このファイルでは、go testコマンドが受け入れるフラグの定義と、それらをテストバイナリにどのように渡すかが管理されています。

  1. usageMessage 変数への追加:

    +  -benchmem=false: print memory allocation statistics for benchmarks
    

    これは、go testの一般的な使用方法メッセージに-benchmemフラグのデフォルト値(false)と簡単な説明を追加しています。これにより、ユーザーはgo testのフラグ一覧を見たときに、この新しいオプションがあることを確認できます。

  2. testFlagDefn スライスへの追加:

    +\t{name: "benchmem", boolVar: new(bool), passToTest: true},
    

    これは、testFlagDefnというtestFlagSpec型のスライスに新しいエントリを追加しています。

    • name: "benchmem": フラグの名前を定義します。ユーザーは-benchmemまたは-test.benchmemとして指定できます。
    • boolVar: new(bool): このフラグがブール型であることを示し、その値を格納するためのポインタを割り当てます。これにより、goコマンドはフラグの存在を認識し、その値を処理できます。
    • passToTest: true: この最も重要な部分です。これは、go testコマンドがこのフラグを受け取った場合、そのフラグを(必要に応じてtest.プレフィックスを付けて)実際にテストを実行するバイナリに渡す必要があることを示します。つまり、go test -benchmemと実行すると、内部的にはテストバイナリが-test.benchmemフラグを受け取って実行されることになります。テストバイナリ側でこのフラグを処理し、メモリ割り当て統計を出力するロジックが実装されている必要があります。

これらの変更により、go testコマンドは-test.benchmemフラグを正式にサポートし、ベンチマーク実行時にメモリ割り当てに関する貴重な情報を提供できるようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のソースコード (特にsrc/cmd/goディレクトリ)
  • Go言語のベンチマークとメモリプロファイリングに関する一般的な知識
  • https://golang.org/cl/6587074 (元のGo CL)
  • https://go.dev/doc/go1.1 (Go 1.1リリースノート - -benchmemが導入されたバージョン)
    • Go 1.1リリースノートには、go test -benchmemが追加されたことが明記されています。

      The go test command now supports a -benchmem flag to report memory allocation statistics for benchmarks. (引用元: https://go.dev/doc/go1.1)

    • このコミットはGo 1.1リリースの一部として導入された機能であることが確認できます。
  • https://go.dev/blog/go1.1 (Go 1.1のブログ記事)
    • このブログ記事でも、ベンチマークの改善点として-benchmemが言及されています。

      The go test command has a new -benchmem flag that prints memory allocation statistics for benchmarks. (引用元: https://go.dev/blog/go1.1)