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[インデックス 14102] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のmisc/cgo/testディレクトリ内のテストコードissue4029.goにおけるビルド問題を解決するためのものです。具体的には、Linux環境でのCgoリンカーフラグの追加と、Windows環境での当該テストの条件付き無効化(スキップ)を行います。

コミット

commit 24ab448c69f383cd23a2b88a5a240dd28269e6e2
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date:   Wed Oct 10 01:30:34 2012 +0800

    misc/cgo/test: add -ldl to LDFLAGS on Linux, ignore issue4029 on windows (fix build)
    
    R=golang-dev
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6631054

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/24ab448c69f383cd23a2b88a5a240dd28269e6e2

元コミット内容

このコミットの目的は、misc/cgo/test/issue4029.goというテストファイルが、異なるオペレーティングシステム(特にLinuxとWindows)で正しくビルドされるように修正することです。

具体的には、以下の2つの主要な変更が含まれています。

  1. Linux向け: misc/cgo/test/issue4029.go内でCgoを使用する際に、動的リンクライブラリ(libdl)をリンクするための-ldlフラグをLinux環境でのみ追加します。
  2. Windows向け: misc/cgo/test/issue4029.goがWindowsでビルドされないように除外し、代わりにWindows専用のダミーファイルissue4029w.goを追加することで、Windowsでのビルドエラーを回避します。

これにより、クロスプラットフォームでのGoプロジェクトのビルドの健全性が保たれます。

変更の背景

Go言語はクロスプラットフォーム開発を強く意識していますが、C言語のコードをGoから呼び出すCgo機能を使用する場合、OS固有のライブラリやリンカーの挙動の違いが問題となることがあります。

このコミットの背景には、misc/cgo/test/issue4029.goというテストファイルが、LinuxとWindowsでビルドエラーを引き起こしていたという問題があります。

  • Linuxでの問題: issue4029.goはCのdlfcn.hヘッダーに含まれる関数(例: dlopen, dlsym)を使用しています。これらの関数は、Unix系システム(Linuxを含む)で動的ライブラリをロードするために使われますが、通常、これらの関数が定義されているlibdlライブラリを明示的にリンクする必要があります。GoのCgoは、Cコードをコンパイルし、Goコードとリンクする際に、必要なライブラリが指定されていないとリンカーエラーを引き起こします。
  • Windowsでの問題: WindowsにはUnix系システムのようなdlfcn.hlibdlに直接対応するAPIが存在しません。そのため、issue4029.goがWindowsでビルドされると、dlfcn.hが見つからない、あるいは関連する関数が未定義であるといったエラーが発生します。

このコミットは、これらのOS固有のビルド問題を解決し、Goのテストスイートが異なるプラットフォームで安定して動作するようにするために行われました。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の技術的な概念を把握しておく必要があります。

1. Go言語のCgo

Cgoは、GoプログラムからC言語のコードを呼び出すためのGoの機能です。Goのソースファイル内にCのコードを直接記述したり、既存のCライブラリをリンクしたりすることができます。Cgoを使用する際には、GoのビルドシステムがCコンパイラとリンカーを呼び出し、GoとCのコードを結合します。

  • import "C": Goファイル内でimport "C"と記述することで、Cgo機能が有効になります。
  • Cgoディレクティブ: Cgoは、Goのコメント形式で特別なディレクティブ(指示)を受け付けます。これらはCgoのビルドプロセスに影響を与えます。
    • #cgo LDFLAGS: ...: リンカーに渡すフラグを指定します。例えば、-lはライブラリをリンクするために使われます。
    • #cgo CFLAGS: ...: Cコンパイラに渡すフラグを指定します。
    • #cgo linux LDFLAGS: ...: 特定のOS(この場合はLinux)でのみ適用されるディレクティブです。

2. 動的リンクライブラリとlibdl

  • 動的リンクライブラリ (Dynamic Link Library, DLL): プログラムの実行時にロードされるライブラリです。これにより、プログラムのサイズを小さくしたり、複数のプログラムで同じライブラリを共有したりできます。WindowsではDLL、Unix系システムではShared Object (SO) と呼ばれます。
  • dlfcn.h: Unix系システムで動的ライブラリをロード、シンボルを検索、アンロードするためのAPIを提供するCヘッダーファイルです。主要な関数には以下があります。
    • dlopen(): 動的ライブラリをロードします。
    • dlsym(): ロードされたライブラリから特定のシンボル(関数や変数)のアドレスを取得します。
    • dlclose(): ロードされたライブラリをアンロードします。
  • -ldl: リンカーにlibdlライブラリをリンクするように指示するフラグです。dlfcn.hで宣言されている関数を使用する場合、このライブラリが必要になります。

3. Goのビルドタグ (Build Tags)

Goのビルドタグは、特定の条件に基づいてソースファイルをコンパイルに含めるか除外するかを制御するためのメカニズムです。これは、クロスプラットフォーム開発においてOS固有のコードを扱う際に非常に重要です。

  • // +build tag: ソースファイルの先頭に// +build tagという形式のコメントを記述することで、そのファイルが特定のビルドタグが有効な場合にのみコンパイルされるように指定できます。
  • // +build !tag: !を前置すると、そのタグが無効な場合にのみファイルがコンパイルされます。
  • OS固有のタグ: Goは、linux, windows, darwin (macOS), freebsdなどのOS名をビルドタグとして認識します。
  • 使用例:
    • // +build linux: このファイルはLinuxでのみコンパイルされます。
    • // +build !windows: このファイルはWindows以外でコンパイルされます。
    • filename_windows.go: ファイル名にOS名を含めることでも、自動的にそのOSでのみコンパイルされるように指定できます(これはビルドタグの糖衣構文のようなものです)。

これらの知識が、コミットの変更内容とその意図を深く理解するための基盤となります。

技術的詳細

このコミットは、GoのCgo機能とビルドタグを組み合わせて、クロスプラットフォームでのビルド問題を解決する典型的なアプローチを示しています。

Linux環境でのlibdlのリンク

misc/cgo/test/issue4029.goは、Cのdlfcn.hをインクルードし、動的ライブラリ関連の関数を使用することを意図しています。LinuxのようなUnix系システムでは、これらの関数はlibdlという共有ライブラリに実装されています。GoのCgoは、GoとCのコードを最終的にリンクする際に、Cコードが依存するライブラリもリンクする必要があります。

コミットでは、issue4029.goのCgoブロック内に以下の行を追加しています。

#cgo linux LDFLAGS: -ldl
  • #cgo: Cgoディレクティブであることを示します。
  • linux: このディレクティブがLinux環境でのみ適用されることを指定します。これにより、他のOSで不要なリンカーフラグが渡されることを防ぎます。
  • LDFLAGS: -ldl: リンカーに-ldlフラグを渡すように指示します。このフラグは、リンカーがlibdl.so(Linuxにおけるlibdlの共有ライブラリファイル名)を探し、そこから必要なシンボル(dlopenなど)を解決するようにします。これにより、Linux上でのビルド時の未定義参照エラーが解消されます。

Windows環境でのテストのスキップ

Windowsにはdlfcn.hlibdlに直接対応するAPIが存在しないため、issue4029.goをそのままWindowsでビルドしようとするとエラーになります。この問題を解決するために、コミットはGoのビルドタグを利用して、Windows環境ではissue4029.goをコンパイル対象から除外し、代わりにWindows専用のダミーテストファイルを用意するという戦略をとっています。

  1. misc/cgo/test/issue4029.goの変更: ファイルの先頭に以下のビルドタグが追加されました。

    // +build !windows
    

    このタグは、「Windows以外の環境でこのファイルをビルドする」という意味です。これにより、issue4029.goはLinux、macOSなどのUnix系システムではコンパイルされますが、Windowsではコンパイルされなくなります。

  2. misc/cgo/test/issue4029w.goの新規作成: 新たにissue4029w.goというファイルが作成されました。このファイルの先頭には以下のビルドタグが記述されています。

    // +build windows
    

    このタグは、「Windows環境でのみこのファイルをビルドする」という意味です。issue4029w.goの内容は、test4029という名前の空のテスト関数のみです。

    package cgotest
    
    import "testing"
    
    func test4029(t *testing.T) {
    }
    

    これにより、Windowsでgo testが実行された際には、issue4029.goの代わりにissue4029w.goがコンパイルされ、test4029テストは実質的に何もしないまま成功します。これは、特定のプラットフォームでテストが関連しない、または実行できない場合に、テストスイート全体のビルドを壊さないための一般的なプラクティスです。

この二重のアプローチにより、Goのビルドシステムは各OSの特性に合わせて適切なファイルをコンパイルし、リンカーフラグを適用することで、クロスプラットフォームでのビルドの成功を保証しています。

コアとなるコードの変更箇所

misc/cgo/test/issue4029.go

--- a/misc/cgo/test/issue4029.go
+++ b/misc/cgo/test/issue4029.go
@@ -2,10 +2,13 @@
 // Use of this source code is governed by a BSD-style
 // license that can be found in the LICENSE file.
 
+// +build !windows
+
 package cgotest
 
 /*
 #include <dlfcn.h> 
+#cgo linux LDFLAGS: -ldl
 */
 import "C"
 

misc/cgo/test/issue4029w.go (新規ファイル)

--- /dev/null
+++ b/misc/cgo/test/issue4029w.go
@@ -0,0 +1,12 @@
+// Copyright 2012 The Go Authors.  All rights reserved.
+// Use of this source code is governed by a BSD-style
+// license that can be found in the LICENSE file.
+
+// +build windows
+
+package cgotest
+
+import "testing"
+
+func test4029(t *testing.T) {
+}

コアとなるコードの解説

misc/cgo/test/issue4029.goの変更点

  1. // +build !windows の追加: この行は、Goのビルドタグディレクティブです。これは、このissue4029.goファイルがWindowsオペレーティングシステム向けにビルドされる際には含まれないことをGoコンパイラに指示します。これにより、Windows環境でdlfcn.hや関連する動的リンクAPIが存在しないことによるコンパイルエラーを防ぎます。

  2. #cgo linux LDFLAGS: -ldl の追加: この行はCgoディレクティブであり、CコードをGoコードとリンクする際のリンカーフラグを指定します。

    • linux: このフラグがLinux環境でのみ適用されることを示します。
    • LDFLAGS: -ldl: リンカーに対して、libdlライブラリをリンクするように指示します。dlfcn.hで宣言されているdlopen()dlsym()などの関数は、通常libdlに実装されているため、これらの関数を使用するCコードをGoプログラムに組み込む際には、このライブラリを明示的にリンクする必要があります。この追加により、Linux上でのビルド時のリンカーエラーが解消されます。

misc/cgo/test/issue4029w.goの新規作成と内容

  1. // +build windows の追加: この行は、このissue4029w.goファイルがWindowsオペレーティングシステム向けにビルドされる際にのみ含まれることをGoコンパイラに指示します。

  2. package cgotest: issue4029.goと同じパッケージに属していることを示します。これにより、テストスイートの一部として認識されます。

  3. import "testing": Goの標準テストパッケージをインポートしています。

  4. func test4029(t *testing.T) {}: Testプレフィックスを持つ関数はGoのテストとして認識されます。この関数は*testing.T型の引数を受け取りますが、関数本体は空です。これは、Windows環境ではissue4029に関連するCgoのテストを実際には実行せず、単にテストスイートがビルドされ、このテストが成功したと見なされるようにするためのダミーの実装です。これにより、Windowsでのビルドエラーを回避しつつ、テストスイートの構造を維持しています。

これらの変更により、Goのビルドシステムは、各プラットフォームの特性に合わせて適切なソースファイルをコンパイルし、必要なリンカーオプションを適用することで、クロスプラットフォームでのビルドの成功とテストの実行を保証しています。

関連リンク

参考にした情報源リンク