[インデックス 14115] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである runtime/debug
パッケージ内の stack_test.go
ファイルに対する修正です。runtime/debug
パッケージは、Goプログラムのデバッグ情報、特にスタックトレースの取得と操作に関する機能を提供します。stack_test.go
は、このパッケージのスタックトレース関連機能が正しく動作するかを検証するためのテストファイルです。
コミット
runtime/debug: fix the test
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/be2b95fe3a296803cf8cecde14c4123e04f1aa2d
元コミット内容
commit be2b95fe3a296803cf8cecde14c4123e04f1aa2d
Author: Dmitriy Vyukov <dvyukov@google.com>
Date: Wed Oct 10 20:49:18 2012 +0400
runtime/debug: fix the test
If source are not available, then the stack looks like:
stack_test.go:40: /tmp/gobuilder/linux-amd64-race-72b15c5d6f65/go/src/pkg/runtime/debug/bla-bla-bla/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go:15 (0x43fb11)
stack_test.go:40: /tmp/gobuilder/linux-amd64-race-72b15c5d6f65/go/src/pkg/runtime/debug/bla-bla-bla/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go:18 (0x43fb7a)
stack_test.go:40: /tmp/gobuilder/linux-amd64-race-72b15c5d6f65/go/src/pkg/runtime/debug/bla-bla-bla/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go:37 (0x43fbf4)
stack_test.go:40: /tmp/gobuilder/linux-amd64-race-72b15c5d6f65/go/src/pkg/testing/bla-bla-bla/src/pkg/testing/testing.go:301 (0x43b5ba)
stack_test.go:40: /tmp/gobuilder/linux-amd64-race-72b15c5d6f65/go/src/pkg/runtime/bla-bla-bla/src/pkg/runtime/proc.c:276 (0x410670)
stack_test.go:40:
which is 6 lines.
R=golang-dev, minux.ma
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6637060
変更の背景
このコミットの背景には、Goプログラムのスタックトレースの出力形式に関する特定の挙動があります。通常、Goのスタックトレースは、関数呼び出しの連鎖をファイル名、行番号、関数名、そして場合によってはソースコードのパスと共に表示します。しかし、コンパイルされたバイナリからソースコードが利用できない環境(例えば、gobuilder
のようなビルドシステムで生成されたバイナリを実行する場合)では、スタックトレースの出力形式が変化することがあります。
元の stack_test.go
のテストでは、スタックトレースの行数が「6行以下」である場合にエラーとする len(lines) <= 6
という条件が設定されていました。しかし、ソースコードが利用できない特定の環境下では、スタックトレースの出力がちょうど6行になることが判明しました。この場合、テストは「行数が少なすぎる」と誤って判断し、失敗してしまいます。
このコミットは、このような環境でのテストの誤検出を修正し、スタックトレースが実際に期待される最小行数(この場合は6行)よりも少ない場合にのみエラーとなるように、条件を調整することを目的としています。
前提知識の解説
Go言語のスタックトレース
Go言語では、runtime.Stack()
関数や runtime/debug.Stack()
関数を使用して、現在のゴルーチンのスタックトレースを取得できます。スタックトレースは、プログラムが実行されている時点での関数呼び出しの履歴を示し、デバッグやエラー解析に非常に役立ちます。各行は通常、ファイル名:行番号 関数名 (アドレス)
の形式で表示されます。
runtime/debug
パッケージ
runtime/debug
パッケージは、Goプログラムのデバッグに関する追加機能を提供します。これには、スタックトレースの取得 (Stack
関数)、GC (ガベージコレクション) の制御、メモリプロファイルの取得などが含まれます。特に debug.Stack()
は、runtime.Stack()
よりも詳細な情報(例えば、ゴルーチンIDなど)を含むスタックトレースを返すことがあります。
Goのテストフレームワーク (testing
パッケージ)
Goには標準で testing
パッケージが用意されており、ユニットテストやベンチマークテストを記述できます。テスト関数は TestXxx
の形式で定義され、*testing.T
型の引数を受け取ります。t.Fatal()
や t.Errorf()
などのメソッドを使ってテストの失敗を報告します。
ビルド環境とソースコードの可用性
Goプログラムはコンパイルされると単一のバイナリになります。通常、このバイナリにはデバッグ情報が含まれており、実行時にスタックトレースが生成される際に、元のソースコードのファイルパスや行番号が参照されます。しかし、ビルドプロセスや環境によっては、ソースコードのパスがビルド時の環境に依存する一時的なパスになったり、あるいはソースコード情報が完全に欠落したりすることがあります。gobuilder
のような自動ビルドシステムでは、このような一時的なパスが生成されることが一般的です。
技術的詳細
このコミットが修正している問題は、runtime/debug.Stack()
が返すスタックトレースの行数に関するものです。コミットメッセージに示されているように、ソースコードが利用できない環境(例: /tmp/gobuilder/...
のような一時的なパスでビルドされた場合)では、スタックトレースの各行が非常に長くなり、ファイルパスが bla-bla-bla
のようなプレースホルダーを含む形式で表示されることがあります。
重要なのは、この特定のシナリオにおいて、スタックトレースの出力が「ちょうど6行」になるという点です。
元のテストコードでは、スタックトレースを改行文字で分割し、その行数を lines
スライスに格納していました。そして、if len(lines) <= 6
という条件で、行数が6行以下であればテストを失敗させていました。これは、通常期待されるスタックトレースの行数よりも少ない場合にエラーを検出するためのチェックでした。
しかし、ソースコードが利用できない環境でスタックトレースが正確に6行で出力される場合、この条件 len(lines) <= 6
は true
となり、テストは「too few lines」(行数が少なすぎる)として誤って失敗してしまいます。
このコミットは、この誤検出を修正するために、条件を if len(lines) < 6
に変更しています。これにより、スタックトレースの行数が厳密に6行である場合はテストが成功し、5行以下の場合にのみテストが失敗するようになります。これは、スタックトレースが6行で出力されることが、特定の環境下での「正常な」挙動であることを認識し、テストのロジックをその挙動に合わせるための修正です。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
+++ b/src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
@@ -36,7 +36,7 @@ func (t T) method() []byte {
func TestStack(t *testing.T) {
b := T(0).method()
lines := strings.Split(string(b), "\\n")
- if len(lines) <= 6 {
+ if len(lines) < 6 {
t.Fatal(\"too few lines\")
}
n := 0
コアとなるコードの解説
変更は src/pkg/runtime/debug/stack_test.go
ファイルの TestStack
関数内で行われています。
元のコード:
if len(lines) <= 6 {
t.Fatal("too few lines")
}
この行は、debug.Stack()
から取得したスタックトレースを改行で分割した結果の行数 (len(lines)
) が6行以下である場合に、テストを失敗させる (t.Fatal
) というロジックでした。
変更後のコード:
if len(lines) < 6 {
t.Fatal("too few lines")
}
変更点は、比較演算子が <=
(以下) から <
(未満) に変わったことです。
この変更により、スタックトレースの行数が「6行未満」(つまり5行以下)の場合にのみテストが失敗するようになります。スタックトレースが正確に6行である場合は、この条件は false
となり、テストは続行されます。
この修正は、特定のビルド環境(ソースコードが利用できない場合)でスタックトレースが6行で出力されるという事実に対応し、テストがその正常な挙動を誤ってエラーとして検出しないようにするために不可欠でした。これにより、テストの堅牢性が向上し、環境依存の誤検出が排除されます。
関連リンク
- Go CL (Change List): https://golang.org/cl/6637060
参考にした情報源リンク
- Go言語公式ドキュメント:
runtime/debug
パッケージ - Go言語公式ドキュメント:
testing
パッケージ - Go言語のスタックトレースに関する一般的な情報源 (例: Goのブログ記事、チュートリアルなど)
- Goのビルドプロセスとデバッグ情報の関連性に関する情報源