[インデックス 14183] ファイルの概要
このコミットは、Go言語プロジェクトのコードレビューシステムの一部である lib/codereview/codereview.py
ファイルに対する変更です。このファイルは、Goプロジェクトが当時使用していたMercurial (hg) バージョン管理システムと連携し、コードの提出(submit)プロセスを管理するためのPythonスクリプトです。具体的には、変更をリモートリポジトリにプッシュする際の堅牢性を高めるための修正が行われています。
コミット
このコミットは、Mercurialリポジトリへのプッシュ操作において、上流(upstream)リポジトリが読み取り専用である場合に発生する可能性のある問題を保護するためのものです。hg_push
関数が成功したかどうかを明示的にチェックし、プッシュが失敗した場合には hg_util.Abort
例外を発生させることで、コード提出プロセスが予期せぬ状態に陥ることを防ぎます。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/bcdb7926dd5f020e0cc67ca8cbec872dd666f172
元コミット内容
commit bcdb7926dd5f020e0cc67ca8cbec872dd666f172
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Sat Oct 20 17:23:48 2012 +0800
codereview: protect against read-only upstream repository
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6742053
---
lib/codereview/codereview.py | 3 ++-
1 file changed, 2 insertions(+), 1 deletion(-)
diff --git a/lib/codereview/codereview.py b/lib/codereview/codereview.py
index 86373ccbfb..ede91fdaed 100644
--- a/lib/codereview/codereview.py
+++ b/lib/codereview/codereview.py
@@ -1951,7 +1951,8 @@ def submit(ui, repo, *pats, **opts):\
# Push changes to remote. If it works, we're committed. If not, roll back.
try:
- hg_push(ui, repo)
+ if hg_push(ui, repo):
+ raise hg_util.Abort("push error")
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
変更の背景
この変更の背景には、Go言語プロジェクトが当時採用していたコードレビューとバージョン管理のワークフローがあります。Goプロジェクトは初期にMercurial (hg) を使用しており、コードの変更はRietveldベースのコードレビューシステムを通じて行われ、最終的に中央のリポジトリにプッシュされていました。
通常、開発者は自身のローカルリポジトリで作業し、変更をレビューシステムにアップロードします。レビューが承認されると、その変更は公式の上流リポジトリに「提出(submit)」されます。この提出プロセスには、ローカルの変更をリモートリポジトリにプッシュする操作が含まれます。
問題は、何らかの理由で上流リポジトリが読み取り専用になっていたり、プッシュ操作が成功しなかったりした場合に発生します。従来の hg_push(ui, repo)
の呼び出しだけでは、プッシュが実際に成功したかどうかを確実に判断できない、あるいはプッシュが失敗した場合に適切なエラーハンドリングが行われない可能性がありました。特に、プッシュ操作自体はエラーを発生させずに完了したように見えても、実際には変更がリモートに反映されていない、あるいは部分的にしか反映されていないといった「サイレントな失敗」が発生するリスクがありました。
このコミットは、このようなサイレントな失敗を防ぎ、プッシュ操作の堅牢性を高めることを目的としています。hg_push
の戻り値をチェックし、プッシュが成功しなかった場合に明示的にエラーを発生させることで、コード提出プロセス全体の信頼性を向上させています。これにより、開発者が変更を提出した際に、その変更が確実に上流リポジトリに反映されたことを保証しようとしています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。
-
Mercurial (hg):
- Gitと同様の分散型バージョン管理システム(DVCS)です。リポジトリのクローン、コミット、プッシュ、プルなどの操作が可能です。
hg push
: ローカルリポジトリの変更をリモートリポジトリに送信するコマンドです。hg_util.Abort
: MercurialのPython APIにおける例外クラスの一つで、操作が中断されたり、致命的なエラーが発生したりした場合にスローされます。これは、Mercurialコマンドが非ゼロの終了コードを返すような状況に対応します。
-
Go言語のコードレビュープロセス(当時のRietveldベース):
- Goプロジェクトは、初期にはGoogleが開発したRietveldというWebベースのコードレビューシステムを使用していました。
- 開発者は変更をローカルでコミットし、
go upload
コマンド(またはそれに相当するツール)を使ってRietveldにレビューを依頼します。 - レビューが承認されると、
go submit
コマンド(またはそれに相当するツール)を使って、変更が公式のMercurialリポジトリに統合されます。 lib/codereview/codereview.py
は、このgo submit
コマンドのバックエンドで動作するスクリプトの一部であり、Mercurialリポジトリとの実際のやり取りを担当していました。
-
Pythonの例外処理:
try...except
: Pythonにおけるエラーハンドリングの構文です。try
ブロック内で発生した例外をexcept
ブロックで捕捉し、適切な処理を行うことができます。raise
: 明示的に例外を発生させるためのキーワードです。
-
上流リポジトリ (Upstream Repository):
- 分散型バージョン管理システムにおいて、プロジェクトの公式な、あるいは主要なリポジトリを指します。開発者は通常、この上流リポジトリからコードをプルし、自身の変更をプッシュします。
このコミットは、hg_push
の呼び出しが、プッシュが成功したかどうかを示す何らかの戻り値を返すことを前提としています。もし hg_push
が True
を返した場合、それはプッシュが成功しなかったことを意味し、その場合に hg_util.Abort
例外を発生させています。これは、MercurialのPythonバインディングや、hg_push
関数の内部実装が、成功時には None
や False
を返し、失敗時には True
を返すような設計になっていることを示唆しています(一般的なPythonの慣習とは逆ですが、特定のライブラリではこのような設計も存在します)。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細を掘り下げます。
lib/codereview/codereview.py
は、Goプロジェクトのコードレビューツールの一部として機能していました。特に submit
関数は、レビューが承認された変更を公式リポジトリに統合する際の中心的なロジックを含んでいます。
変更前のコードは以下のようになっていました。
# Push changes to remote. If it works, we're committed. If not, roll back.
try:
hg_push(ui, repo)
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
ここで hg_push(ui, repo)
は、Mercurialのプッシュ操作を実行する関数です。ui
はMercurialのユーザーインターフェースオブジェクト、repo
はリポジトリオブジェクトを指します。この try...except
ブロックは、プッシュ操作中に hg_error.Abort
例外が発生した場合にそれを捕捉し、特に「push creates new heads」というメッセージが含まれる場合には、リモートリポジトリに新しいヘッド(つまり、ローカルにない変更)が存在することを示唆しているため、特別な処理(おそらくロールバックやユーザーへの通知)を行うことを意図していました。
しかし、この実装では、hg_push
が例外を発生させずに失敗した場合(例えば、リモートリポジトリが読み取り専用で、プッシュ操作自体はエラーコードを返すがPythonの例外としては扱われない場合など)に、その失敗を検知できませんでした。
新しいコードは、この問題を解決するために hg_push
の戻り値をチェックするロジックを追加しました。
try:
if hg_push(ui, repo):
raise hg_util.Abort("push error")
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
この変更の核心は if hg_push(ui, repo):
の部分です。これは、hg_push
関数が何らかの戻り値を返すことを前提としています。Pythonでは、if
ステートメントの条件式はブール値に評価されます。None
、False
、数値の 0
、空のコンテナなどは False
と評価され、それ以外の値は True
と評価されます。
したがって、このコードは hg_push
がプッシュに失敗した場合に「真」と評価される値を返すことを期待しています。もし hg_push
が成功時に None
や False
を返し、失敗時に True
や非ゼロの値を返すように設計されている場合、この if
文はプッシュの失敗を正確に検知できます。
プッシュが失敗し、hg_push
が「真」と評価される値を返した場合、raise hg_util.Abort("push error")
が実行されます。これにより、明示的に hg_util.Abort
例外がスローされ、外側の except hg_error.Abort
ブロックで捕捉されます。これにより、プッシュの失敗が確実にエラーとして扱われ、適切なエラーハンドリングパス(この場合は、既存の except
ブロック)に誘導されるようになります。
この変更は、MercurialのPythonバインディングや hg_push
関数の具体的な実装に依存しますが、一般的には、外部コマンドの実行結果(特に成功/失敗を示す終了コード)をPythonの関数がブール値として返すパターンは存在します。この修正により、読み取り専用リポジトリへのプッシュ試行など、hg_push
が例外を直接スローしない種類の失敗も捕捉できるようになり、コード提出プロセスの堅牢性が向上しました。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/lib/codereview/codereview.py
+++ b/lib/codereview/codereview.py
@@ -1951,7 +1951,8 @@ def submit(ui, repo, *pats, **opts):
# Push changes to remote. If it works, we're committed. If not, roll back.
try:
- hg_push(ui, repo)
+ if hg_push(ui, repo):
+ raise hg_util.Abort("push error")
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなる変更は、lib/codereview/codereview.py
ファイル内の submit
関数における hg_push
の呼び出し方です。
変更前は、単に hg_push(ui, repo)
を呼び出していました。この場合、hg_push
関数が内部でエラーを検知し、hg_error.Abort
のような例外を直接スローしない限り、プッシュ操作の失敗を try...except
ブロックで捕捉することはできませんでした。例えば、リモートリポジトリが読み取り専用であるためにプッシュが拒否された場合、hg_push
はエラーコードを返すかもしれませんが、Pythonの例外としては扱われない可能性がありました。
変更後は、以下の1行が追加され、既存の1行が変更されました。
- hg_push(ui, repo)
+ if hg_push(ui, repo):
+ raise hg_util.Abort("push error")
この変更のポイントは以下の通りです。
hg_push
の戻り値のチェック:if hg_push(ui, repo):
という条件式が追加されました。これは、hg_push
関数がプッシュ操作の結果を示す何らかの値を返すことを前提としています。Pythonのif
文では、None
、False
、空のコレクション、数値の0
などは「偽」と評価され、それ以外の値は「真」と評価されます。したがって、このコードはhg_push
がプッシュに失敗した場合に「真」と評価される値を返すことを期待しています。- 明示的な例外の発生: もし
hg_push
が「真」と評価される値を返した場合(つまり、プッシュが失敗したと判断された場合)、raise hg_util.Abort("push error")
が実行されます。これにより、hg_util.Abort
例外が明示的にスローされます。 - 既存の例外ハンドリングとの連携: この明示的にスローされた
hg_util.Abort
例外は、外側のtry...except hg_error.Abort
ブロックによって捕捉されます。これにより、hg_push
が直接例外をスローしなかった種類のプッシュ失敗(例: 読み取り専用リポジトリへのプッシュ拒否)も、既存のエラーハンドリングメカニズムを通じて適切に処理されるようになります。
この修正により、コード提出プロセスにおけるプッシュ操作の堅牢性が大幅に向上しました。プッシュが成功したかどうかをより確実に判断し、失敗した場合には一貫した方法でエラーを報告できるようになっています。
関連リンク
- Mercurial 公式サイト: https://www.mercurial-scm.org/
- Go言語のコードレビュープロセス(Rietveld)に関する情報:
- Goプロジェクトは現在Gerritを使用していますが、このコミット当時はRietveldが使われていました。Rietveldに関する一般的な情報は、Google Codeのアーカイブなどから見つけることができます。
- Goプロジェクトの初期のコードレビューに関する議論やドキュメントは、Goのメーリングリストアーカイブや古いGoのWikiページに存在する可能性があります。
参考にした情報源リンク
- コミット情報:
/home/orange/Project/comemo/commit_data/14183.txt
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/bcdb7926dd5f020e0cc67ca8cbec872dd666f172
- Mercurialのドキュメント(
hg push
、Python APIなど) - Pythonの例外処理に関する一般的な知識
- Go言語プロジェクトの歴史と開発ワークフローに関する一般的な知識(特にMercurialとRietveldの使用について)
- (具体的なURLは、当時のGoプロジェクトのドキュメントやメーリングリストのアーカイブに依存するため、ここでは一般的な情報源として記載)
- GoプロジェクトのコードレビューシステムがRietveldからGerritに移行した経緯なども、当時の背景を理解する上で参考になります。
- MercurialのPythonバインディングの動作に関する情報。# [インデックス 14183] ファイルの概要
このコミットは、Go言語プロジェクトのコードレビューシステムの一部である lib/codereview/codereview.py
ファイルに対する変更です。このファイルは、Goプロジェクトが当時使用していたMercurial (hg) バージョン管理システムと連携し、コードの提出(submit)プロセスを管理するためのPythonスクリプトです。具体的には、変更をリモートリポジトリにプッシュする際の堅牢性を高めるための修正が行われています。
コミット
このコミットは、Mercurialリポジトリへのプッシュ操作において、上流(upstream)リポジトリが読み取り専用である場合に発生する可能性のある問題を保護するためのものです。hg_push
関数が成功したかどうかを明示的にチェックし、プッシュが失敗した場合には hg_util.Abort
例外を発生させることで、コード提出プロセスが予期せぬ状態に陥ることを防ぎます。
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/bcdb7926dd5f020e0cc67ca8cbec872dd666f172
元コミット内容
commit bcdb7926dd5f020e0cc67ca8cbec872dd666f172
Author: Shenghou Ma <minux.ma@gmail.com>
Date: Sat Oct 20 17:23:48 2012 +0800
codereview: protect against read-only upstream repository
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6742053
---
lib/codereview/codereview.py | 3 ++-
1 file changed, 2 insertions(+), 1 deletion(-)
diff --git a/lib/codereview/codereview.py b/lib/codereview/codereview.py
index 86373ccbfb..ede91fdaed 100644
--- a/lib/codereview/codereview.py
+++ b/lib/codereview/codereview.py
@@ -1951,7 +1951,8 @@ def submit(ui, repo, *pats, **opts):
# Push changes to remote. If it works, we're committed. If not, roll back.
try:
- hg_push(ui, repo)
+ if hg_push(ui, repo):
+ raise hg_util.Abort("push error")
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
変更の背景
この変更の背景には、Go言語プロジェクトが当時採用していたコードレビューとバージョン管理のワークフローがあります。Goプロジェクトは初期にMercurial (hg) を使用しており、コードの変更はRietveldベースのコードレビューシステムを通じて行われ、最終的に中央のリポジトリにプッシュされていました。
通常、開発者は自身のローカルリポジトリで作業し、変更をレビューシステムにアップロードします。レビューが承認されると、その変更は公式の上流リポジトリに「提出(submit)」されます。この提出プロセスには、ローカルの変更をリモートリポジトリにプッシュする操作が含まれます。
問題は、何らかの理由で上流リポジトリが読み取り専用になっていたり、プッシュ操作が成功しなかったりした場合に発生します。従来の hg_push(ui, repo)
の呼び出しだけでは、プッシュが実際に成功したかどうかを確実に判断できない、あるいはプッシュが失敗した場合に適切なエラーハンドリングが行われない可能性がありました。特に、プッシュ操作自体はエラーを発生させずに完了したように見えても、実際には変更がリモートに反映されていない、あるいは部分的にしか反映されていないといった「サイレントな失敗」が発生するリスクがありました。
このコミットは、このようなサイレントな失敗を防ぎ、プッシュ操作の堅牢性を高めることを目的としています。hg_push
の戻り値をチェックし、プッシュが成功しなかった場合に明示的にエラーを発生させることで、コード提出プロセス全体の信頼性を向上させています。これにより、開発者が変更を提出した際に、その変更が確実に上流リポジトリに反映されたことを保証しようとしています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の前提知識が必要です。
-
Mercurial (hg):
- Gitと同様の分散型バージョン管理システム(DVCS)です。リポジトリのクローン、コミット、プッシュ、プルなどの操作が可能です。
hg push
: ローカルリポジトリの変更をリモートリポジトリに送信するコマンドです。hg_util.Abort
: MercurialのPython APIにおける例外クラスの一つで、操作が中断されたり、致命的なエラーが発生したりした場合にスローされます。これは、Mercurialコマンドが非ゼロの終了コードを返すような状況に対応します。
-
Go言語のコードレビュープロセス(当時のRietveldベース):
- Goプロジェクトは、初期にはGoogleが開発したRietveldというWebベースのコードレビューシステムを使用していました。
- 開発者は変更をローカルでコミットし、
go upload
コマンド(またはそれに相当するツール)を使ってRietveldにレビューを依頼します。 - レビューが承認されると、
go submit
コマンド(またはそれに相当するツール)を使って、変更が公式のMercurialリポジトリに統合されます。 lib/codereview/codereview.py
は、このgo submit
コマンドのバックエンドで動作するスクリプトの一部であり、Mercurialリポジトリとの実際のやり取りを担当していました。
-
Pythonの例外処理:
try...except
: Pythonにおけるエラーハンドリングの構文です。try
ブロック内で発生した例外をexcept
ブロックで捕捉し、適切な処理を行うことができます。raise
: 明示的に例外を発生させるためのキーワードです。
-
上流リポジトリ (Upstream Repository):
- 分散型バージョン管理システムにおいて、プロジェクトの公式な、あるいは主要なリポジトリを指します。開発者は通常、この上流リポジトリからコードをプルし、自身の変更をプッシュします。
このコミットは、hg_push
の呼び出しが、プッシュが成功したかどうかを示す何らかの戻り値を返すことを前提としています。もし hg_push
が True
を返した場合、それはプッシュが成功しなかったことを意味し、その場合に hg_util.Abort
例外を発生させています。これは、MercurialのPythonバインディングや、hg_push
関数の内部実装が、成功時には None
や False
を返し、失敗時には True
を返すような設計になっていることを示唆しています(一般的なPythonの慣習とは逆ですが、特定のライブラリではこのような設計も存在します)。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細を掘り下げます。
lib/codereview/codereview.py
は、Goプロジェクトのコードレビューツールの一部として機能していました。特に submit
関数は、レビューが承認された変更を公式リポジトリに統合する際の中心的なロジックを含んでいます。
変更前のコードは以下のようになっていました。
# Push changes to remote. If it works, we're committed. If not, roll back.
try:
hg_push(ui, repo)
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
ここで hg_push(ui, repo)
は、Mercurialのプッシュ操作を実行する関数です。ui
はMercurialのユーザーインターフェースオブジェクト、repo
はリポジトリオブジェクトを指します。この try...except
ブロックは、プッシュ操作中に hg_error.Abort
例外が発生した場合にそれを捕捉し、特に「push creates new heads」というメッセージが含まれる場合には、リモートリポジトリに新しいヘッド(つまり、ローカルにない変更)が存在することを示唆しているため、特別な処理(おそらくロールバックやユーザーへの通知)を行うことを意図していました。
しかし、この実装では、hg_push
が例外を発生させずに失敗した場合(例えば、リモートリポジトリが読み取り専用で、プッシュ操作自体はエラーコードを返すがPythonの例外としては扱われない場合など)に、その失敗を検知できませんでした。
新しいコードは、この問題を解決するために hg_push
の戻り値をチェックするロジックを追加しました。
try:
if hg_push(ui, repo):
raise hg_util.Abort("push error")
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
この変更の核心は if hg_push(ui, repo):
の部分です。これは、hg_push
関数が何らかの戻り値を返すことを前提としています。Pythonでは、if
ステートメントの条件式はブール値に評価されます。None
、False
、数値の 0
、空のコンテナなどは False
と評価され、それ以外の値は True
と評価されます。
したがって、このコードは hg_push
がプッシュに失敗した場合に「真」と評価される値を返すことを期待しています。もし hg_push
が成功時に None
や False
を返し、失敗時に True
や非ゼロの値を返すように設計されている場合、この if
文はプッシュの失敗を正確に検知できます。
プッシュが失敗し、hg_push
が「真」と評価される値を返した場合、raise hg_util.Abort("push error")
が実行されます。これにより、明示的に hg_util.Abort
例外がスローされ、外側の except hg_error.Abort
ブロックで捕捉されます。これにより、プッシュの失敗が確実にエラーとして扱われ、適切なエラーハンドリングパス(この場合は、既存の except
ブロック)に誘導されるようになります。
この変更は、MercurialのPythonバインディングや hg_push
関数の具体的な実装に依存しますが、一般的には、外部コマンドの実行結果(特に成功/失敗を示す終了コード)をPythonの関数がブール値として返すパターンは存在します。この修正により、読み取り専用リポジトリへのプッシュ試行など、hg_push
が例外を直接スローしない種類の失敗も捕捉できるようになり、コード提出プロセスの堅牢性が向上しました。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/lib/codereview/codereview.py
+++ b/lib/codereview/codereview.py
@@ -1951,7 +1951,8 @@ def submit(ui, repo, *pats, **opts):
# Push changes to remote. If it works, we're committed. If not, roll back.
try:
- hg_push(ui, repo)
+ if hg_push(ui, repo):
+ raise hg_util.Abort("push error")
except hg_error.Abort, e:
if e.message.find("push creates new heads") >= 0:
# Remote repository had changes we missed.
コアとなるコードの解説
このコミットのコアとなる変更は、lib/codereview/codereview.py
ファイル内の submit
関数における hg_push
の呼び出し方です。
変更前は、単に hg_push(ui, repo)
を呼び出していました。この場合、hg_push
関数が内部でエラーを検知し、hg_error.Abort
のような例外を直接スローしない限り、プッシュ操作の失敗を try...except
ブロックで捕捉することはできませんでした。例えば、リモートリポジトリが読み取り専用であるためにプッシュが拒否された場合、hg_push
はエラーコードを返すかもしれませんが、Pythonの例外としては扱われない可能性がありました。
変更後は、以下の1行が追加され、既存の1行が変更されました。
- hg_push(ui, repo)
+ if hg_push(ui, repo):
+ raise hg_util.Abort("push error")
この変更のポイントは以下の通りです。
hg_push
の戻り値のチェック:if hg_push(ui, repo):
という条件式が追加されました。これは、hg_push
関数がプッシュ操作の結果を示す何らかの値を返すことを前提としています。Pythonのif
文では、None
、False
、空のコレクション、数値の0
などは「偽」と評価され、それ以外の値は「真」と評価されます。したがって、このコードはhg_push
がプッシュに失敗した場合に「真」と評価される値を返すことを期待しています。- 明示的な例外の発生: もし
hg_push
が「真」と評価される値を返した場合(つまり、プッシュが失敗したと判断された場合)、raise hg_util.Abort("push error")
が実行されます。これにより、hg_util.Abort
例外が明示的にスローされます。 - 既存の例外ハンドリングとの連携: この明示的にスローされた
hg_util.Abort
例外は、外側のtry...except hg_error.Abort
ブロックによって捕捉されます。これにより、hg_push
が直接例外をスローしなかった種類のプッシュ失敗(例: 読み取り専用リポジトリへのプッシュ拒否)も、既存のエラーハンドリングメカニズムを通じて適切に処理されるようになります。
この修正により、コード提出プロセスにおけるプッシュ操作の堅牢性が大幅に向上しました。プッシュが成功したかどうかをより確実に判断し、失敗した場合には一貫した方法でエラーを報告できるようになっています。
関連リンク
- Mercurial 公式サイト: https://www.mercurial-scm.org/
- Go言語のコードレビュープロセス(Rietveld)に関する情報:
- Goプロジェクトは現在Gerritを使用していますが、このコミット当時はRietveldが使われていました。Rietveldに関する一般的な情報は、Google Codeのアーカイブなどから見つけることができます。
- Goプロジェクトの初期のコードレビューに関する議論やドキュメントは、Goのメーリングリストアーカイブや古いGoのWikiページに存在する可能性があります。
参考にした情報源リンク
- コミット情報:
/home/orange/Project/comemo/commit_data/14183.txt
- GitHubコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/bcdb7926dd5f020e0cc67ca8cbec872dd666f172
- Mercurialのドキュメント(
hg push
、Python APIなど) - Pythonの例外処理に関する一般的な知識
- Go言語プロジェクトの歴史と開発ワークフローに関する一般的な知識(特にMercurialとRietveldの使用について)
- (具体的なURLは、当時のGoプロジェクトのドキュメントやメーリングリストのアーカイブに依存するため、ここでは一般的な情報源として記載)
- GoプロジェクトのコードレビューシステムがRietveldからGerritに移行した経緯なども、当時の背景を理解する上で参考になります。
- MercurialのPythonバインディングの動作に関する情報。