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[インデックス 14196] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のビルドシステムにおけるビルド制約(build constraints)の動作、特に複数のビルド制約がどのように組み合わされるかについて、src/pkg/go/build/doc.go ドキュメントに追記するものです。これにより、開発者がGoのビルド制約をより正確に理解し、意図した通りにコードを条件付きでコンパイルできるようになります。

コミット

commit 80c4eac6379bc43b339a67f47c2559aa71119eec
Author: Nigel Tao <nigeltao@golang.org>
Date:   Mon Oct 22 11:15:17 2012 +1100

    go/build: document the behavior of multiple build constraints.
    
    R=rsc, pkleiweg
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6725052

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/80c4eac6379bc43b339a67f47c2559aa71119eec

元コミット内容

このコミットは、src/pkg/go/build/doc.go ファイルに以下の10行を追加しています。

--- a/src/pkg/go/build/doc.go
+++ b/src/pkg/go/build/doc.go
@@ -74,6 +74,16 @@
 //
 //	(linux AND 386) OR (darwin AND (NOT cgo))
 //
+// A file may have multiple build constraints. The overall constraint is the AND
+// of the individual constraints. That is, the build constraints:
+//
+//	// +build linux darwin
+//	// +build 386
+//
+// corresponds to the boolean formula:
+//
+//	(linux OR darwin) AND 386
+//
 // During a particular build, the following words are satisfied:
 //
 //	- the target operating system, as spelled by runtime.GOOS

追加された内容は、複数の // +build 行が存在する場合のビルド制約の評価方法を明確に説明しています。具体的には、各 // +build 行がそれぞれ独立した制約として評価され、それら全ての制約が論理積(AND)で結合されることを示しています。

変更の背景

Go言語のビルドシステムでは、特定の環境(OS、アーキテクチャ、Goのバージョン、タグなど)でのみファイルをコンパイルするかどうかを制御するために「ビルド制約」を使用します。これは通常、ソースファイルの先頭に // +build コメントとして記述されます。

このコミットが行われた2012年当時、Goのビルド制約に関するドキュメントは存在していましたが、複数の // +build 行がファイルに記述された場合の正確な動作について、明確な説明が不足していた可能性があります。例えば、

// +build linux darwin
// +build 386

のような記述があった場合、これが (linux OR darwin) AND 386 を意味するのか、あるいは (linux AND 386) OR (darwin AND 386) を意味するのか、といった解釈の曖昧さがあったかもしれません。

このコミットの目的は、この曖昧さを解消し、複数のビルド制約行が論理積(AND)として結合されるという既存の動作を明示的にドキュメント化することにあります。これにより、開発者がビルド制約を誤解なく使用し、クロスプラットフォーム開発や特定の環境に特化したコードの管理をより正確に行えるようになります。

前提知識の解説

Go言語のビルド制約(Build Constraints / Build Tags)

Go言語には、ソースファイルを特定のビルド条件に基づいて含めるか除外するかを制御するメカニズムがあります。これを「ビルド制約」または「ビルドタグ」と呼びます。これは、主にクロスプラットフォーム開発や、特定の機能が特定の環境でのみ利用可能である場合などに使用されます。

ビルド制約は、Goソースファイルの先頭(パッケージ宣言の前)に // +build という形式のコメントとして記述されます。

基本的な構文:

  • // +build tag1 tag2tag1 または tag2 のいずれかが有効な場合にファイルがビルドされます(論理和 OR)。
  • // +build !tagtag が有効でない場合にファイルがビルドされます(論理否定 NOT)。
  • // +build tag1,tag2tag1tag2 の両方が有効な場合にファイルがビルドされます(論理積 AND)。ただし、このカンマ区切り形式は現在では非推奨であり、代わりに複数の // +build 行を使用することが推奨されます。

有効なタグの例:

  • OS名: linux, windows, darwin (macOS), freebsd など。runtime.GOOS の値に対応します。
  • アーキテクチャ名: amd64, 386, arm, arm64 など。runtime.GOARCH の値に対応します。
  • Goのバージョン: go1.X (例: go1.18)。現在のGoのバージョンが指定されたバージョン以上の場合に有効です。
  • カスタムタグ: go build -tags "mytag" のように、go build コマンドの -tags オプションで指定できる任意の文字列。
  • cgo: CGOが有効な場合に有効になります。

go/build パッケージ

go/build パッケージは、Goのソースコードパッケージの構造を解析し、ビルド制約を評価するための機能を提供します。Goツールチェインの内部で、ソースファイルの依存関係を解決し、どのファイルをコンパイルに含めるべきかを決定する際に利用されます。このパッケージは、Goのビルドプロセスの中核をなす部分であり、Goのモジュールシステムやワークスペースの基盤ともなっています。doc.go ファイルは、このパッケージの動作や使用方法に関する公式ドキュメントを提供します。

技術的詳細

このコミットの核心は、Goのビルドシステムが複数の // +build 行をどのように解釈するかというルールを明確にすることです。

Goのビルドシステムは、ソースファイルをコンパイルに含めるかどうかを決定する際に、そのファイルに記述されたすべてのビルド制約を評価します。この評価プロセスにおいて、以下の重要な原則が適用されます。

  1. 行内は論理和(OR): 単一の // +build 行内でスペース区切りで複数のタグが指定されている場合、それらのタグは論理和(OR)として扱われます。例えば、// +build linux darwin は「linux が有効であるか、または darwin が有効であるか」を意味します。

  2. 行間は論理積(AND): 複数の // +build 行がファイルに記述されている場合、それぞれの行が独立したビルド制約として評価され、それら全ての制約が論理積(AND)で結合されます。これがこのコミットで明確化された主要な点です。

    例として、コミットで示されているケースを考えます。

    // +build linux darwin
    // +build 386
    

    この場合、

    • 最初の行 // +build linux darwin(linux OR darwin) と評価されます。
    • 二番目の行 // +build 386(386) と評価されます。

    そして、これら二つの独立した制約が論理積(AND)で結合されるため、最終的なビルド制約は (linux OR darwin) AND 386 となります。これは、「OSがLinuxまたはmacOSであり、かつアーキテクチャが386である場合にのみ、このファイルをビルドする」という意味になります。

このルールは、複雑な条件を持つファイルを正確にターゲットとするために不可欠です。例えば、特定のOSと特定のアーキテクチャの組み合わせでのみ動作するコードや、特定のGoバージョンと特定のカスタムタグの両方が必要なコードなどを記述する際に、このAND結合の特性を理解している必要があります。

このドキュメントの追加は、Goのビルド制約の動作に関する公式な仕様を補強し、開発者がより堅牢で移植性の高いGoアプリケーションを構築するのを支援します。

コアとなるコードの変更箇所

変更は src/pkg/go/build/doc.go ファイルに対して行われました。このファイルは、go/build パッケージのドキュメントを生成するためのGoソースファイルです。

具体的には、既存のビルド制約の例の後に、複数の // +build 行の動作を説明する新しいセクションが追加されました。

// A file may have multiple build constraints. The overall constraint is the AND
// of the individual constraints. That is, the build constraints:
//
//	// +build linux darwin
//	// +build 386
//
// corresponds to the boolean formula:
//
//	(linux OR darwin) AND 386

この追加により、Goのビルド制約に関する公式ドキュメントがより完全なものになりました。

コアとなるコードの解説

このコミットは、Goのソースコード自体に機能的な変更を加えるものではなく、go/build パッケージのドキュメントを更新するものです。したがって、「コアとなるコードの解説」は、追加されたドキュメントの内容そのものに焦点を当てます。

追加されたドキュメントは、Goのビルド制約の評価ロジックにおける重要な側面を明確にしています。それは、「ファイルが複数のビルド制約を持つ場合、全体の制約は個々の制約の論理積(AND)である」という点です。

これは、Goコンパイラやビルドツールがソースファイルを処理する際の内部的な動作を反映しています。各 // +build 行は独立した条件式として扱われ、それら全ての条件式が真(true)である場合にのみ、そのソースファイルがビルドプロセスに含まれます。

このドキュメントの追加は、Goのビルドシステムがどのように設計され、動作しているかについての理解を深める上で非常に価値があります。特に、複雑なビルド条件を扱う開発者にとっては、この明確化されたルールが、予期せぬビルドエラーや、特定の環境でファイルがコンパイルされないといった問題を回避するのに役立ちます。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント(go/build パッケージの現在のドキュメント):https://pkg.go.dev/go/build
  • Go言語のビルド制約に関する一般的な情報源(例: Goのブログ記事、技術解説サイトなど)
  • GitHubのコミット履歴とファイル変更履歴
  • Go言語のソースコードリポジトリ内の関連ファイル