[インデックス 14216] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のsyscall
パッケージ内のsyscall_linux_arm.go
ファイルに対する変更です。このファイルは、Linux ARMアーキテクチャに特化したシステムコール関連の機能を提供します。具体的には、プロセスをトレースする際に使用されるレジスタ情報(PtraceRegs
構造体)の操作に関する機能が追加されています。
コミット
- コミットハッシュ:
7c412e962c1cf5de4e128c0ca2caed14f9b87003
- 作者: Shenghou Ma minux.ma@gmail.com
- 日付: 2012年10月25日 木曜日 13:41:04 +0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/7c412e962c1cf5de4e128c0ca2caed14f9b87003
元コミット内容
syscall: implement (*PtraceRegs).PC() and SetPC()
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6763043
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語のsyscall
パッケージがLinux ARMアーキテクチャ上でのプロセスデバッグやトレース機能をより完全にサポートする必要があったことが挙げられます。
変更前のsrc/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
ファイルには、PtraceRegs
構造体に対するPC()
メソッドとSetPC()
メソッドが定義されていましたが、これらはそれぞれreturn 0
と空の関数として実装されていました。これは、これらの機能がまだ実装されておらず、将来的な対応が期待されていたことを示唆しています(コード内の// TODO(kaib): add support for tracing
コメントからも明らかです)。
PC
(プログラムカウンタ)は、CPUが次に実行する命令のアドレスを保持する非常に重要なレジスタです。デバッガなどのツールがプロセスの実行状態を制御したり、スタックトレースを生成したりする際には、このプログラムカウンタの値を読み書きする機能が不可欠です。
このコミットは、ARM Linux環境において、PtraceRegs
からプログラムカウンタの値を正確に取得し、また設定できるようにすることで、Go言語のランタイムやデバッグツールがより高度なプロセス制御を行えるようにするために行われました。
前提知識の解説
syscall
パッケージ
Go言語のsyscall
パッケージは、オペレーティングシステムが提供する低レベルなシステムコールへのインターフェースを提供します。これにより、Goプログラムからファイル操作、プロセス管理、ネットワーク通信など、OSカーネルの機能に直接アクセスできます。OSやアーキテクチャに依存する機能は、syscall_linux_arm.go
のように特定のファイルに分離して実装されることが一般的です。
PtraceRegs
構造体
PtraceRegs
は、ptrace
システムコールを通じて取得されるプロセスのCPUレジスタの状態を保持するための構造体です。ptrace
は、デバッガが別のプロセスの実行を監視・制御するために使用するシステムコールです。この構造体には、汎用レジスタ、プログラムカウンタ、スタックポインタなどの情報が含まれます。
PC
(Program Counter)
プログラムカウンタ(PC)は、CPUの内部レジスタの一つで、次に実行される機械語命令のアドレスを指し示します。CPUはPCが指すアドレスから命令をフェッチし、実行します。デバッグ時には、このPCの値を操作することで、プログラムの実行フローを制御したり、特定の命令から実行を再開させたりすることが可能になります。
ARMアーキテクチャとUregs[15]
ARM(Advanced RISC Machine)は、モバイルデバイスや組み込みシステムで広く使用されているCPUアーキテクチャです。ARMプロセッサには、汎用レジスタ(R0-R12)、スタックポインタ(SP、R13)、リンクレジスタ(LR、R14)、プログラムカウンタ(PC、R15)などがあります。
PtraceRegs
構造体内のUregs
フィールドは、これらの汎用レジスタや特殊レジスタの値を配列として保持していることが一般的です。ARMアーキテクチャでは、プログラムカウンタは通常R15レジスタに対応します。したがって、Uregs[15]
はプログラムカウンタの値を表します。
技術的詳細
このコミットは、PtraceRegs
構造体のPC()
メソッドとSetPC()
メソッドの実装を修正することで、Linux ARM環境におけるプロセスデバッグの基盤を強化しています。
PC()
メソッド: このメソッドは、PtraceRegs
構造体から現在のプログラムカウンタの値を読み出す役割を担います。ARMアーキテクチャの慣例に従い、Uregs
配列のインデックス15(Uregs[15]
)がプログラムカウンタ(R15)に対応するため、その値をuint64
型にキャストして返します。SetPC()
メソッド: このメソッドは、指定されたpc
(プログラムカウンタ)の値をPtraceRegs
構造体に書き込む役割を担います。これにより、デバッガはトレース対象プロセスの次に実行される命令のアドレスを変更できます。pc
の値はuint32
型にキャストされ、Uregs[15]
に格納されます。ARMのレジスタは通常32ビット幅であるため、uint32
へのキャストが適切です。
これらの変更により、Go言語のランタイムやデバッグツールは、ARM Linux上で実行されているプロセスのプログラムカウンタを正確に読み書きできるようになり、ブレークポイントの設定、ステップ実行、レジスタの検査といったデバッグ機能の実装が可能になります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
+++ b/src/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
@@ -170,10 +170,9 @@ func Setrlimit(resource int, rlim *Rlimit) (err error) {
return setrlimit(resource, &rl)
}
-// TODO(kaib): add support for tracing
-func (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return 0 }
+func (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return uint64(r.Uregs[15]) }
-func (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) {}
+func (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) { r.Uregs[15] = uint32(pc) }
func (iov *Iovec) SetLen(length int) {
iov.Len = uint32(length)
コアとなるコードの解説
-
func (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return 0 }
からfunc (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return uint64(r.Uregs[15]) }
への変更:- 変更前は、
PC()
メソッドは常に0
を返していました。これは、プログラムカウンタの実際の値を取得する機能が未実装であったことを意味します。 - 変更後は、
r.Uregs[15]
の値をuint64
にキャストして返すようになりました。Uregs
はPtraceRegs
構造体内のレジスタ値を保持する配列であり、ARMアーキテクチャではインデックス15がプログラムカウンタ(R15)に対応します。これにより、実際のプログラムカウンタの値が取得できるようになりました。
- 変更前は、
-
func (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) {}
からfunc (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) { r.Uregs[15] = uint32(pc) }
への変更:- 変更前は、
SetPC()
メソッドは何も処理を行わない空の関数でした。これは、プログラムカウンタの値を設定する機能が未実装であったことを意味します。 - 変更後は、引数として渡された
pc
(プログラムカウンタの値)をuint32
にキャストし、r.Uregs[15]
に代入するようになりました。これにより、トレース対象プロセスのプログラムカウンタを外部から設定できるようになりました。ARMのレジスタが32ビット幅であることを考慮し、uint32
へのキャストが行われています。
- 変更前は、
これらの変更により、Go言語のsyscall
パッケージは、Linux ARM環境において、ptrace
システムコールを通じてプロセスのプログラムカウンタを正確に操作する能力を獲得しました。
関連リンク
- Go言語
syscall
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/syscall - Linux
ptrace
manページ:man 2 ptrace
(Linuxシステム上で実行) - ARMアーキテクチャのレジスタセットに関する情報 (一般的な情報源):
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード (特に
src/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
の周辺コード) - ARMアーキテクチャのレジスタに関する一般的な知識
- Linux
ptrace
システムコールに関する一般的な知識 - https://golang.org/cl/6763043 (Go Gerrit Code Review)
[インデックス 14216] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のsyscall
パッケージ内のsyscall_linux_arm.go
ファイルに対する変更です。このファイルは、Linux ARMアーキテクチャに特化したシステムコール関連の機能を提供します。具体的には、プロセスをトレースする際に使用されるレジスタ情報(PtraceRegs
構造体)の操作に関する機能が追加されています。
コミット
- コミットハッシュ:
7c412e962c1cf5de4e128c0ca2caed14f9b87003
- 作者: Shenghou Ma minux.ma@gmail.com
- 日付: 2012年10月25日 木曜日 13:41:04 +0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/7c412e962c1cf5de4e128c0ca2caed14f9b87003
元コミット内容
syscall: implement (*PtraceRegs).PC() and SetPC()
R=golang-dev, rsc
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6763043
変更の背景
このコミットの背景には、Go言語のsyscall
パッケージがLinux ARMアーキテクチャ上でのプロセスデバッグやトレース機能をより完全にサポートする必要があったことが挙げられます。
変更前のsrc/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
ファイルには、PtraceRegs
構造体に対するPC()
メソッドとSetPC()
メソッドが定義されていましたが、これらはそれぞれreturn 0
と空の関数として実装されていました。これは、これらの機能がまだ実装されておらず、将来的な対応が期待されていたことを示唆しています(コード内の// TODO(kaib): add support for tracing
コメントからも明らかです)。
PC
(プログラムカウンタ)は、CPUが次に実行する命令のアドレスを保持する非常に重要なレジスタです。デバッガなどのツールがプロセスの実行状態を制御したり、スタックトレースを生成したりする際には、このプログラムカウンタの値を読み書きする機能が不可欠です。
このコミットは、ARM Linux環境において、PtraceRegs
からプログラムカウンタの値を正確に取得し、また設定できるようにすることで、Go言語のランタイムやデバッグツールがより高度なプロセス制御を行えるようにするために行われました。
前提知識の解説
syscall
パッケージ
Go言語のsyscall
パッケージは、オペレーティングシステムが提供する低レベルなシステムコールへのインターフェースを提供します。これにより、Goプログラムからファイル操作、プロセス管理、ネットワーク通信など、OSカーネルの機能に直接アクセスできます。OSやアーキテクチャに依存する機能は、syscall_linux_arm.go
のように特定のファイルに分離して実装されることが一般的です。
PtraceRegs
構造体
PtraceRegs
は、ptrace
システムコールを通じて取得されるプロセスのCPUレジスタの状態を保持するための構造体です。ptrace
は、デバッガが別のプロセスの実行を監視・制御するために使用するシステムコールです。この構造体には、汎用レジスタ、プログラムカウンタ、スタックポインタなどの情報が含まれます。
PC
(Program Counter)
プログラムカウンタ(PC)は、CPUの内部レジスタの一つで、次に実行される機械語命令のアドレスを指し示します。CPUはPCが指すアドレスから命令をフェッチし、実行します。デバッグ時には、このPCの値を操作することで、プログラムの実行フローを制御したり、特定の命令から実行を再開させたりすることが可能になります。
ARMアーキテクチャとUregs[15]
ARM(Advanced RISC Machine)は、モバイルデバイスや組み込みシステムで広く使用されているCPUアーキテクチャです。ARMプロセッサには、汎用レジスタ(R0-R12)、スタックポインタ(SP、R13)、リンクレジスタ(LR、R14)、プログラムカウンタ(PC、R15)などがあります。
PtraceRegs
構造体内のUregs
フィールドは、これらの汎用レジスタや特殊レジスタの値を配列として保持していることが一般的です。ARMアーキテクチャでは、プログラムカウンタは通常R15レジスタに対応します。したがって、Uregs[15]
はプログラムカウンタの値を表します。
技術的詳細
このコミットは、PtraceRegs
構造体のPC()
メソッドとSetPC()
メソッドの実装を修正することで、Linux ARM環境におけるプロセスデバッグの基盤を強化しています。
PC()
メソッド: このメソッドは、PtraceRegs
構造体から現在のプログラムカウンタの値を読み出す役割を担います。ARMアーキテクチャの慣例に従い、Uregs
配列のインデックス15(Uregs[15]
)がプログラムカウンタ(R15)に対応するため、その値をuint64
型にキャストして返します。SetPC()
メソッド: このメソッドは、指定されたpc
(プログラムカウンタ)の値をPtraceRegs
構造体に書き込む役割を担います。これにより、デバッガはトレース対象プロセスの次に実行される命令のアドレスを変更できます。pc
の値はuint32
型にキャストされ、Uregs[15]
に格納されます。ARMのレジスタは通常32ビット幅であるため、uint32
へのキャストが適切です。
これらの変更により、Go言語のランタイムやデバッグツールは、ARM Linux上で実行されているプロセスのプログラムカウンタを正確に読み書きできるようになり、ブレークポイントの設定、ステップ実行、レジスタの検査といったデバッグ機能の実装が可能になります。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
+++ b/src/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
@@ -170,10 +170,9 @@ func Setrlimit(resource int, rlim *Rlimit) (err error) {
return setrlimit(resource, &rl)
}
-// TODO(kaib): add support for tracing
-func (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return 0 }
+func (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return uint64(r.Uregs[15]) }
-func (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) {}
+func (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) { r.Uregs[15] = uint32(pc) }
func (iov *Iovec) SetLen(length int) {
iov.Len = uint32(length)
コアとなるコードの解説
-
func (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return 0 }
からfunc (r *PtraceRegs) PC() uint64 { return uint64(r.Uregs[15]) }
への変更:- 変更前は、
PC()
メソッドは常に0
を返していました。これは、プログラムカウンタの実際の値を取得する機能が未実装であったことを意味します。 - 変更後は、
r.Uregs[15]
の値をuint64
にキャストして返すようになりました。Uregs
はPtraceRegs
構造体内のレジスタ値を保持する配列であり、ARMアーキテクチャではインデックス15がプログラムカウンタ(R15)に対応します。これにより、実際のプログラムカウンタの値が取得できるようになりました。
- 変更前は、
-
func (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) {}
からfunc (r *PtraceRegs) SetPC(pc uint64) { r.Uregs[15] = uint32(pc) }
への変更:- 変更前は、
SetPC()
メソッドは何も処理を行わない空の関数でした。これは、プログラムカウンタの値を設定する機能が未実装であったことを意味します。 - 変更後は、引数として渡された
pc
(プログラムカウンタの値)をuint32
にキャストし、r.Uregs[15]
に代入するようになりました。これにより、トレース対象プロセスのプログラムカウンタを外部から設定できるようになりました。ARMのレジスタが32ビット幅であることを考慮し、uint32
へのキャストが行われています。
- 変更前は、
これらの変更により、Go言語のsyscall
パッケージは、Linux ARM環境において、ptrace
システムコールを通じてプロセスのプログラムカウンタを正確に操作する能力を獲得しました。
関連リンク
- Go言語
syscall
パッケージのドキュメント: https://pkg.go.dev/syscall - Linux
ptrace
manページ:man 2 ptrace
(Linuxシステム上で実行) - ARMアーキテクチャのレジスタセットに関する情報 (一般的な情報源):
参考にした情報源リンク
- Go言語のソースコード (特に
src/pkg/syscall/syscall_linux_arm.go
の周辺コード) - ARMアーキテクチャのレジスタに関する一般的な知識
- Linux
ptrace
システムコールに関する一般的な知識 - https://golang.org/cl/6763043 (Go Gerrit Code Review)
- Web検索: "ARM architecture Uregs[15] program counter"