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[インデックス 14265] ファイルの概要

このコミットは、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html における、構造体リテラルに関する記述の微調整を行っています。具体的には、「literal」という単語が「element list」に置き換えられ、形式的な矛盾を解消し、より正確な表現に修正されています。

コミット

commit 369a974b41d0b75778a50f6d531263c99d98432a
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date:   Wed Oct 31 15:07:25 2012 -0700

    spec: slight wording change to remove a formal contradiction
    
    Fixes #4324.
    
    R=r
    CC=golang-dev
    https://golang.org/cl/6822062

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/369a974b41d0b75778a50f6d531263c99d98432a

元コミット内容

spec: slight wording change to remove a formal contradiction Fixes #4324.

このコミットは、Go言語の仕様書におけるわずかな文言の変更であり、形式的な矛盾を解消することを目的としています。Fixes #4324 とありますが、現在のGitHubリポジトリではこの番号のIssueは見つかりませんでした。これは、Issueトラッカーの移行や、古いIssueがアーカイブされたことによるものかもしれません。しかし、コミットメッセージから、仕様の記述に何らかの曖昧さや矛盾があったことが伺えます。

変更の背景

Go言語の仕様は、言語の挙動を厳密に定義する非常に重要なドキュメントです。このコミットは、その仕様書 doc/go_spec.html の中で、構造体リテラル(struct literals)に関する記述に存在する「形式的な矛盾 (formal contradiction)」を解消するために行われました。

構造体リテラルは、Goにおいて構造体の値を初期化するための構文です。この構文には、フィールド名を指定しない場合(順序通りに値を指定)と、フィールド名を指定する場合(任意の順序で一部のフィールドのみ指定可能)の2つの形式があります。

以前の仕様の記述では、これらのケースを説明する際に使われる用語が、文脈によっては誤解を招いたり、厳密な意味で矛盾している可能性がありました。特に、「literal」という単語が、構造体リテラル全体を指す場合と、その内部の要素リスト(フィールドと値のペアのリスト)を指す場合で混同される可能性があったと考えられます。

このコミットは、このような用語の曖昧さを解消し、仕様の記述をより正確で矛盾のないものにすることを目的としています。これにより、Go言語の挙動に関する解釈の揺れを防ぎ、コンパイラの実装者や言語の利用者がより明確に仕様を理解できるようになります。

前提知識の解説

Go言語の構造体 (Structs)

Go言語における構造体は、異なるデータ型のフィールドをまとめた複合データ型です。C言語の構造体や、他の言語のクラスのプロパティに似ています。

type Person struct {
    Name string
    Age  int
}

構造体リテラル (Struct Literals)

構造体リテラルは、構造体の新しい値を初期化するための構文です。Goでは、以下の2つの主要な形式があります。

  1. フィールド名を省略した形式: 構造体のフィールドが宣言された順序で値を指定します。すべてのフィールドに値を指定する必要があります。

    p1 := Person{"Alice", 30} // Name: "Alice", Age: 30
    
  2. フィールド名を指定した形式: フィールド名と値をペアで指定します。この形式では、すべてのフィールドを指定する必要はなく、省略されたフィールドはそれぞれの型のゼロ値で初期化されます。フィールドの順序は任意です。

    p2 := Person{Name: "Bob", Age: 25} // Name: "Bob", Age: 25
    p3 := Person{Name: "Charlie"}     // Name: "Charlie", Age: 0 (intのゼロ値)
    

ゼロ値 (Zero Value)

Go言語では、変数を宣言した際に明示的に初期化しなくても、その型に応じた「ゼロ値」が自動的に割り当てられます。

  • 数値型 (int, float64など): 0
  • ブール型 (bool): false
  • 文字列型 (string): "" (空文字列)
  • ポインタ、スライス、マップ、チャネル、関数、インターフェース: nil

構造体の場合、その各フィールドがそれぞれの型のゼロ値で初期化されます。

Go言語の仕様書 (Go Specification)

Go言語の仕様書は、Go言語の構文、セマンティクス、標準ライブラリの挙動などを厳密に定義した公式ドキュメントです。Goコンパイラやツールの実装者はこの仕様書に基づいて開発を行い、Goプログラマーはこの仕様書を参照して言語の正確な挙動を理解します。仕様書は、Go言語の安定性と互換性を保証する上で極めて重要です。

技術的詳細

このコミットの技術的な詳細は、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html 内の構造体リテラルに関するセクションの文言修正にあります。

変更前と変更後の差分を見ると、主に以下の2つの箇所で literal という単語が element list に置き換えられています。

  1. フィールド名を省略した形式の説明:

    • 変更前: A literal that does not contain any keys must list an element for each struct field in the order in which the fields are declared.
    • 変更後: An element list that does not contain any keys must list an element for each struct field in the order in which the fields are declared.

    ここでは、フィールド名を省略して値を指定する形式について説明しています。この形式は、構造体リテラル全体ではなく、その内部の「要素のリスト」({"Alice", 30} の部分)がキーを含まない場合に適用されるルールです。したがって、「literal」という広範な用語ではなく、「element list」というより具体的な用語を使用することで、このルールが適用される対象を明確にしています。

  2. フィールド名を指定した形式の説明:

    • 変更前: A literal that contains keys does not need to have an element for each struct field. Omitted fields get the zero value for that field.
    • 変更後: An element list that contains keys does not need to have an element for each struct field. Omitted fields get the zero value for that field.

    同様に、フィールド名を指定して値を指定する形式についても、「literal」ではなく「element list」が使用されています。このルールも、構造体リテラル全体ではなく、その内部の「要素のリスト」({Name: "Bob", Age: 25} の部分)がキーを含む場合に適用されるため、用語の修正が適切です。

さらに、以下の箇所でも literalelement list に置き換えられています。

  • 変更前: A literal may omit the element list; such a literal evaluates to the zero value for its type.
  • 変更後: A literal may omit the element list; such a literal evaluates to the zero value for its type.

この変更は、構造体リテラルが要素リストを省略できる場合(例: Person{} のように空の構造体リテラル)に、そのリテラルがゼロ値に評価されることを説明しています。ここでも、「literal」という用語が使われていますが、その後の説明で「element list」を省略できるという文脈で使われているため、一貫性を保つために修正されたと考えられます。

これらの変更は、Go言語の仕様書における用語の厳密性を高め、構造体リテラルの構文とセマンティクスに関する記述の正確性を向上させるものです。これにより、仕様の解釈における曖昧さが排除され、Go言語の設計意図がより明確に伝わるようになります。

コアとなるコードの変更箇所

diff --git a/doc/go_spec.html b/doc/go_spec.html
index bd3c75f515..0f3c5ed312 100644
--- a/doc/go_spec.html
+++ b/doc/go_spec.html
@@ -2128,18 +2128,18 @@ For struct literals the following rules apply:
 <ul>
 	<li>A key must be a field name declared in the LiteralType.
 	</li>
-	<li>A literal that does not contain any keys must
+	<li>An element list that does not contain any keys must
 	    list an element for each struct field in the
 	    order in which the fields are declared.
 	</li>
 	<li>If any element has a key, every element must have a key.
 	</li>
-	<li>A literal that contains keys does not need to
+	<li>An element list that contains keys does not need to
 	    have an element for each struct field. Omitted fields
 	    get the zero value for that field.
 	</li>
 	<li>A literal may omit the element list; such a literal evaluates
-\t\tto the zero value for its type.\n+\t    to the zero value for its type.
+\t    to the zero value for its type.
 	</li>
 	<li>It is an error to specify an element for a non-exported
 	    field of a struct belonging to a different package.

コアとなるコードの解説

上記の差分は、Go言語の仕様書 doc/go_spec.html の「For struct literals the following rules apply:」というセクションにおける変更を示しています。

具体的には、以下の3つの箇所の文言が修正されています。

  1. 変更前: <li>A literal that does not contain any keys must 変更後: <li>An element list that does not contain any keys must

    この変更は、構造体リテラルにおいてフィールド名を省略して値を指定する形式(例: Person{"Alice", 30})に関するルールを説明しています。以前は「literal」という単語が使われていましたが、このルールが適用されるのは構造体リテラル全体ではなく、その内部の「要素のリスト」({"Alice", 30} の部分)であるため、「element list」というより正確な用語に修正されました。これにより、キーを持たない要素リストは、構造体のフィールドが宣言された順序で各フィールドの要素をリストする必要がある、というルールが明確になります。

  2. 変更前: <li>A literal that contains keys does not need to 変更後: <li>An element list that contains keys does not need to

    この変更は、構造体リテラルにおいてフィールド名を指定して値を指定する形式(例: Person{Name: "Bob", Age: 25})に関するルールを説明しています。ここでも同様に、「literal」から「element list」への変更が行われました。これにより、キーを持つ要素リストは、すべての構造体フィールドの要素を持つ必要はなく、省略されたフィールドはそのフィールドのゼロ値を取得する、というルールがより正確に表現されます。

  3. 変更前: <li>A literal may omit the element list; such a literal evaluates\n\t\tto the zero value for its type. 変更後: <li>A literal may omit the element list; such a literal evaluates\n\t to the zero value for its type.

    この変更は、構造体リテラルが要素リストを省略できる場合(例: Person{})に、そのリテラルがその型のゼロ値に評価されることを説明しています。ここでは「literal」という単語が残っていますが、これは構造体リテラル全体が要素リストを省略できるという文脈であるため適切です。変更は主にインデントの修正と、行末の不要なスペースの削除(\t\t から \t へ)によるものです。

これらの変更は、Go言語の仕様書における用語の厳密性を高め、構造体リテラルの構文とセマンティクスに関する記述の正確性を向上させることを目的としています。これにより、仕様の解釈における曖昧さが排除され、Go言語の設計意図がより明確に伝わるようになります。

関連リンク

参考にした情報源リンク