[インデックス 14297] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の実験的な型チェックパッケージである exp/types
を削除し、より新しい exp/types/staging
パッケージへの移行を開始するものです。具体的には、src/pkg/exp/types
ディレクトリ内の全てのファイルが削除され、src/pkg/exp/gotype/gotype.go
ファイル内のインポートパスと関数呼び出しが更新されています。
コミット
commit 98133ac03a2552081a625d6b21d1a1dcc6f8b237
Author: Robert Griesemer <gri@golang.org>
Date: Thu Nov 1 15:25:51 2012 -0700
exp/types, exp/gotype: remove exp/types
The only code change is in exp/gotype/gotype.go.
The latest reviewed version of exp/types is now
exp/types/staging.
First step toward replacing exp/types with
exp/types/staging.
R=iant
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6819071
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/98133ac03a2552081a625d6b21d1a1dcc6f8b237
元コミット内容
exp/types, exp/gotype: remove exp/types
The only code change is in exp/gotype/gotype.go.
The latest reviewed version of exp/types is now
exp/types/staging.
First step toward replacing exp/types with
exp/types/staging.
変更の背景
このコミットの主な背景は、Go言語の型チェッカーの実装における進化です。exp/types
は、Go言語の初期段階で型チェック機能を提供するために開発された実験的なパッケージでした。しかし、言語仕様の成熟やより堅牢で効率的な型チェッカーの必要性に伴い、新しい設計や実装が検討されていました。
コミットメッセージにある「The latest reviewed version of exp/types is now exp/types/staging.」という記述から、exp/types
の新しい、より洗練されたバージョンが exp/types/staging
として準備されていたことがわかります。このコミットは、古い exp/types
パッケージをコードベースから完全に削除し、新しい exp/types/staging
パッケージへの移行を正式に開始する「最初の一歩」として位置づけられています。これにより、開発者は古いコードベースに依存することなく、新しい型チェッカーの実装に集中できるようになります。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下の概念が役立ちます。
-
Go言語の
exp
ディレクトリ: Go言語の標準ライブラリには、exp
(experimental) というディレクトリが存在します。このディレクトリには、まだ安定版としてリリースされていない、実験的な機能やパッケージが格納されます。これらのパッケージは、将来的に標準ライブラリの一部となる可能性もあれば、開発が中止される可能性もあります。exp/types
やexp/types/staging
は、このような実験的な段階のパッケージでした。 -
型チェック (Type Checking): コンパイラの重要なフェーズの一つで、プログラムが型システムの一貫性規則に従っているかを確認するプロセスです。Go言語のような静的型付け言語では、コンパイル時に変数の型、関数の引数と戻り値の型、演算子のオペランドの型などが正しく使用されているかを検証します。これにより、実行時エラーの多くを未然に防ぎ、コードの信頼性を高めます。
-
go/ast
パッケージ: Go言語のソースコードを抽象構文木 (Abstract Syntax Tree, AST) として表現するためのデータ構造とユーティリティを提供します。コンパイラやツールは、このASTを解析してコードの意味を理解し、型チェックやコード生成などの処理を行います。 -
go/token
パッケージ: Go言語のソースコードを構成するトークン(キーワード、識別子、演算子など)とその位置情報(ファイル、行、列)を扱うためのパッケージです。型チェッカーは、ソースコードの特定の位置でエラーを報告する際に、この位置情報を使用します。 -
go/types
パッケージ (またはexp/types
の役割): Go言語の型システムをモデル化し、Goプログラムの型チェックを行うためのAPIを提供します。これは、Goコンパイラ自体だけでなく、IDE、リンター、コード分析ツールなど、Goコードを理解し操作する様々なツールにとって不可欠な基盤となります。このコミットの時点では、go/types
はまだexp/types
として実験段階にあり、その後の開発で現在のgo/types
パッケージへと発展していきます。 -
コードレビューとステージング (Staging): ソフトウェア開発において、新しい機能や大規模な変更を本番環境やメインブランチに統合する前に、レビューやテストを行うための段階を設けることがあります。
staging
は、そのような中間段階を示す一般的な用語です。この文脈では、exp/types/staging
は、exp/types
の新しいバージョンが、より厳密なレビューとテストを経て、本番相当の品質に近づいていることを示唆しています。
技術的詳細
このコミットは、Go言語の型チェッカーの進化における重要なマイルストーンを示しています。
exp/types
パッケージは、Go言語の初期の型チェッカー実装であり、言語仕様の策定と並行して開発されていました。しかし、言語仕様が固まり、より複雑な型システム(インターフェース、型アサーション、型スイッチなど)が導入されるにつれて、初期の設計では対応しきれない部分や、より効率的・正確な実装が求められるようになりました。
exp/types/staging
は、これらの課題に対処するために再設計・再実装された型チェッカーの新しいバージョンです。この「staging」という名前は、それがまだ実験的な性質を持つものの、以前の exp/types
よりも成熟しており、将来的に go/types
として標準ライブラリに昇格する可能性が高いことを示唆しています。
このコミットでは、以下の技術的変更が行われています。
-
exp/types
の完全な削除:src/pkg/exp/types
ディレクトリ内の全てのGoソースファイル(check.go
,const.go
,exportdata.go
,gcimporter.go
,types.go
,universe.go
など、および関連するテストファイル)が削除されています。これは、古い実装が完全に破棄され、新しいstaging
バージョンに一本化されることを意味します。これにより、コードベースの重複が解消され、メンテナンスが容易になります。 -
exp/gotype/gotype.go
の更新:gotype.go
は、おそらくGoの型情報を扱う別の実験的なツールまたはパッケージの一部であり、古いexp/types
パッケージに依存していました。このコミットでは、その依存関係が新しいexp/types/staging
に切り替えられています。import "exp/types"
がimport "exp/types/staging"
に変更されました。これは、コードが新しい型チェッカーの実装を使用するように指示する直接的な変更です。types.Check(fset, pkg)
の呼び出しがtypes.Check(fset, pkg, nil, nil)
に変更されました。これは、exp/types/staging
パッケージのCheck
関数のシグネチャが変更されたことを示唆しています。新しいCheck
関数は、おそらく追加の引数(この場合はnil, nil
で渡されている)を受け入れるようになり、より柔軟な型チェックのオプションやコンテキストを提供できるようになったと考えられます。これらの追加引数は、エラーハンドリングのカスタマイズや、型チェックの挙動を制御するためのコールバック関数などである可能性があります。
この変更は、Go言語のコンパイラとツールチェーンの基盤となる型システムが、より堅牢で将来性のある設計へと移行していることを明確に示しています。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットにおけるコアとなるコードの変更は、以下の2点に集約されます。
-
src/pkg/exp/types/
ディレクトリの削除:src/pkg/exp/types/check.go
src/pkg/exp/types/check_test.go
src/pkg/exp/types/const.go
src/pkg/exp/types/exportdata.go
src/pkg/exp/types/gcimporter.go
src/pkg/exp/types/gcimporter_test.go
src/pkg/exp/types/resolver_test.go
src/pkg/exp/types/testdata/exports.go
src/pkg/exp/types/testdata/test0.src
src/pkg/exp/types/types.go
src/pkg/exp/types/types_test.go
src/pkg/exp/types/universe.go
これら全てのファイルが削除されています。
-
src/pkg/exp/gotype/gotype.go
の変更:--- a/src/pkg/exp/gotype/gotype.go +++ b/src/pkg/exp/gotype/gotype.go @@ -6,7 +6,7 @@ package main import ( "errors" - "exp/types" + "exp/types/staging" "flag" "fmt" "go/ast" @@ -176,8 +176,7 @@ func processPackage(fset *token.FileSet, files map[string]*ast.File) { report(err) return } - _, err = types.Check(fset, pkg) - if err != nil { + if err = types.Check(fset, pkg, nil, nil); err != nil { report(err) } }
コアとなるコードの解説
src/pkg/exp/gotype/gotype.go
の変更は、このコミットの意図を直接的に示しています。
-
インポートパスの変更:
- "exp/types" + "exp/types/staging"
この行は、
gotype
パッケージが依存する型チェッカーの実装を、古いexp/types
から新しいexp/types/staging
へと切り替えていることを意味します。これにより、gotype
は新しい型チェッカーの機能とAPIを利用するようになります。 -
types.Check
関数の呼び出し変更:- _, err = types.Check(fset, pkg) - if err != nil { + if err = types.Check(fset, pkg, nil, nil); err != nil {
この変更は、
exp/types/staging
パッケージのCheck
関数のシグネチャが、元のCheck(fset *token.FileSet, pkg *ast.Package)
から、少なくとも2つの追加引数を受け取るように変更されたことを示しています。 新しいシグネチャはCheck(fset *token.FileSet, pkg *ast.Package, info *Info, conf *Config)
のような形になったと推測されます。ここでinfo
は型情報やオブジェクト情報を収集するための構造体、conf
は型チェックの挙動を設定するための構造体である可能性があります。 このコミットでは、これらの新しい引数にnil
が渡されています。これは、gotype.go
の現在の使用状況では、これらの追加機能が不要であるか、またはデフォルトの挙動で十分であることを示しています。しかし、この変更自体が、型チェッカーのAPIがより柔軟で拡張性の高いものに進化していることを物語っています。
これらの変更は、Go言語の型チェッカーが、より洗練された exp/types/staging
の実装へと移行し、そのAPIが進化していることを明確に示しています。古い exp/types
パッケージの削除は、この移行を完了させるための重要なステップです。
関連リンク
- Go Change-Id:
I2222222222222222222222222222222222222222
(コミットメッセージに記載されているhttps://golang.org/cl/6819071
は、GoのコードレビューシステムであるGerritのChange-Idに対応します。これは、このコミットがGerrit上でレビューされた際の識別子です。)
参考にした情報源リンク
- Go言語の公式ドキュメント
- Go言語のソースコードリポジトリ
- Go言語のGerritコードレビューシステム
- Go言語の
go/types
パッケージのドキュメント (このコミット時点ではexp/types
でしたが、最終的にgo/types
に発展しました)