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[インデックス 1431] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラの一部であるsrc/cmd/gc/go.yファイルに対する変更です。go.yファイルは、Goコンパイラのフロントエンドにおける構文解析器(パーサー)の定義を記述したYacc/Bison形式の文法ファイルです。このファイルは、Go言語のソースコードを解析し、抽象構文木(AST)を構築する役割を担っています。

コミット

このコミットは、GoコンパイラのOCONV(型変換)処理において、iscomposite(複合型であるかどうかのチェック)のテストが不要になったことを示しています。これは、OCOMP(おそらく複合型の処理を扱う新しい、または改良されたメカニズム)が存在するようになったためです。これにより、コンパイラのコードが簡素化され、冗長なチェックが削除されました。

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/855495eab6dd0ebe5e8682d99ccf6817d5e1a774

元コミット内容

commit 855495eab6dd0ebe5e8682d99ccf6817d5e1a774
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date:   Wed Jan 7 12:39:48 2009 -0800

    iscomposite test in OCONV is unnecessary
    now that OCOMP exists
    
    R=ken
    OCL=22216
    CL=22216
---
 src/cmd/gc/go.y | 2 --
 1 file changed, 2 deletions(-)

diff --git a/src/cmd/gc/go.y b/src/cmd/gc/go.y
index ffaad5d89b..d3a88ea9b1 100644
--- a/src/cmd/gc/go.y
+++ b/src/cmd/gc/go.y
@@ -878,8 +878,6 @@ pexpr:
  	{
  		$$ = nod(OCONV, $3, N);\n \t\t$$->type = oldtype($1);\n-\t\tif(iscomposite($$->type))\n-\t\t\tyyerror(\"illegal conversion type %T\", $$->type);\n \t}\n |\tconvtype \'{\' braced_keyexpr_list \'}\'\n \t{\n```

## 変更の背景

このコミットは、Go言語がまだ一般に公開される前の、非常に初期の開発段階(2009年1月)に行われたものです。当時のGoコンパイラ(`gc`、現在の`cmd/compile`の前身)は、C言語で書かれており、その内部構造は現在とは異なる部分が多くありました。

変更の背景には、コンパイラの内部表現(Intermediate Representation: IR)の進化と最適化があります。`OCONV`は型変換を表すIRノード、`OCOMP`は複合型(構造体、配列、スライスなど)の処理に関連するIRノードまたは操作を指していると考えられます。

初期のコンパイラでは、型変換を行う際に、変換先の型が複合型である場合に特別なチェック(`iscomposite`)を行っていた可能性があります。しかし、`OCOMP`という新しいメカニズムが導入されたことで、複合型の処理がより体系的に、または別の段階で適切に扱われるようになり、`OCONV`の段階での冗長な`iscomposite`チェックが不要になったと推測されます。これにより、コンパイラのコードベースが整理され、効率が向上しました。

## 前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下の前提知識が役立ちます。

1.  **コンパイラの基本構造**:
    *   **フロントエンド**: ソースコードを解析し、抽象構文木(AST)を生成します。これには字句解析、構文解析、意味解析が含まれます。
    *   **中間表現(IR)**: ASTから生成される、機械語に依存しない中間的なコード表現です。コンパイラ内部で様々な最適化や変換が行われます。
    *   **バックエンド**: IRをターゲットの機械語に変換し、実行可能ファイルを生成します。

2.  **Yacc/Bison**:
    *   Yacc(Yet Another Compiler Compiler)やBisonは、文法定義から構文解析器(パーサー)を自動生成するツールです。`go.y`ファイルは、Go言語の文法規則を定義しており、Yacc/BisonによってC言語のパーサーコードが生成されます。
    *   Yacc/Bisonの文法ファイルでは、ルールごとにアクション(`{ ... }`で囲まれたC言語のコード)を記述し、構文解析中に実行される処理を定義します。`$$`は現在のルールの結果、`$1`, `$2`, ... はルールの各要素に対応します。

3.  **Go言語の型システム**:
    *   Go言語には、プリミティブ型(`int`, `string`, `bool`など)と複合型(`struct`, `array`, `slice`, `map`, `chan`, `interface`など)があります。
    *   型変換(Type Conversion)は、ある型の値を別の型に明示的に変換する操作です。Goでは厳密な型システムを持つため、不適切な型変換はコンパイル時にエラーとなります。

4.  **Goコンパイラ(`gc`)の内部**:
    *   Goコンパイラは、ソースコードを解析し、内部的にノード(`Node`構造体)と呼ばれる中間表現を構築します。これらのノードは、操作の種類(`Op`)と関連するデータ(型情報など)を持ちます。
    *   `OCONV`や`OCOMP`は、当時の`gc`コンパイラ内部で定義されていた、特定の操作やノードの種類を表す列挙型(`Op`)の値であると推測されます。

## 技術的詳細

`src/cmd/gc/go.y`ファイルは、Go言語の構文規則を定義するYacc文法ファイルです。このファイル内の`pexpr`(primary expression、主要な式)のルールの一部が変更されています。

変更された部分は、型変換(`convtype`とそれに続く式)を処理するルールです。具体的には、以下のYaccルールに対応するC言語のアクションブロックです。

```yacc
pexpr:
    convtype '(' pexpr ')'
    {
        $$ = nod(OCONV, $3, N); // OCONVノードを生成。$3は変換される式。
        $$->type = oldtype($1); // 変換後の型を設定。$1は変換先の型。
        // 削除されたコード:
        // if(iscomposite($$->type))
        //     yyerror("illegal conversion type %T", $$->type);
    }
  • nod(OCONV, $3, N): これは、OCONVという操作を表す新しい中間表現ノードを作成する関数呼び出しです。$3は変換される元の式を表すノード、Nはnilまたは追加の引数です。
  • $$->type = oldtype($1): 生成されたOCONVノードの型を、変換先の型($1で表されるconvtype)に設定します。
  • iscomposite($$->type): これは、変換後の型が複合型であるかどうかをチェックする関数です。
  • yyerror("illegal conversion type %T", $$->type): iscompositeが真(複合型である)の場合に、コンパイルエラーを報告する関数です。

このコミットは、if(iscomposite($$->type))によるチェックと、それに続くエラー報告の行を削除しています。これは、OCOMPという新しいメカニズムが導入されたことにより、この段階での複合型に関する不正な変換のチェックが不要になったことを意味します。

考えられるシナリオとしては:

  1. OCOMPによる複合型処理の統合: OCOMPが、複合型の生成、操作、および型チェックをより包括的に扱うようになったため、OCONVの段階で個別にiscompositeチェックを行う必要がなくなった。例えば、OCOMPが複合型の構造をより厳密に定義し、不適切な型変換をより早い段階または別のフェーズで検出するようになった。
  2. 型システムの一貫性の向上: コンパイラの型システム全体が改善され、OCONVが処理する型変換が、iscompositeチェックなしでも常に有効な複合型変換のみを許可するように保証されるようになった。
  3. 最適化と簡素化: 冗長なチェックを削除することで、コンパイラのコードが簡素化され、コンパイル速度がわずかに向上した可能性があります。

この変更は、Goコンパイラの内部設計が成熟し、より洗練された中間表現と型チェックのメカニズムが導入されたことを示唆しています。

コアとなるコードの変更箇所

--- a/src/cmd/gc/go.y
+++ b/src/cmd/gc/go.y
@@ -878,8 +878,6 @@ pexpr:
  	{
  		$$ = nod(OCONV, $3, N);\n \t\t$$->type = oldtype($1);\n-\t\tif(iscomposite($$->type))\n-\t\t\tyyerror(\"illegal conversion type %T\", $$->type);\n \t}\n |\tconvtype \'{\' braced_keyexpr_list \'}\'\n \t{\n```

## コアとなるコードの解説

削除された2行は以下の通りです。

1.  `if(iscomposite($$->type))`
    *   これは条件分岐の開始です。`iscomposite`関数は、`$$->type`(型変換後のノードの型)が複合型(例: 構造体、配列、スライスなど)である場合に真を返します。
    *   このチェックは、型変換の対象が複合型である場合に、何らかの特別な処理や検証が必要であったことを示唆しています。

2.  `yyerror("illegal conversion type %T", $$->type);`
    *   上記の`if`文の条件が真であった場合に実行されるコードです。
    *   `yyerror`はYacc/Bisonによって提供されるエラー報告関数で、指定されたメッセージをコンパイルエラーとして出力します。
    *   `"illegal conversion type %T"`はエラーメッセージのフォーマット文字列で、`%T`は`$$->type`の具体的な型情報に置き換えられます。
    *   この行は、複合型への型変換が、特定の条件下で「不正な変換」と見なされていたことを示しています。

これらの行が削除されたということは、`OCONV`ノードが処理される段階で、複合型への変換に関するこの特定の「不正な変換」のチェックが不要になったことを意味します。これは、`OCOMP`という新しいメカニズムが、複合型の処理をより適切に、またはより早い段階で扱うようになったため、この場所での冗長なチェックが排除されたと解釈できます。

## 関連リンク

*   Go言語の公式ウェブサイト: [https://go.dev/](https://go.dev/)
*   Go言語の初期の歴史に関する情報(Wikipediaなど): [https://en.wikipedia.org/wiki/Go_(programming_language)](https://en.wikipedia.org/wiki/Go_(programming_language))
*   Yacc/Bisonに関する一般的な情報: [https://www.gnu.org/software/bison/manual/](https://www.gnu.org/software/bison/manual/)

## 参考にした情報源リンク

*   [https://en.wikipedia.org/wiki/Go_(programming_language)](https://en.wikipedia.org/wiki/Go_(programming_language))
*   [https://go.dev/](https://go.dev/)
*   [https://go.dev/blog/go-compiler](https://go.dev/blog/go-compiler)
*   [https://github.com/golang/go](https://github.com/golang/go)
*   [https://medium.com/golang-learn/go-compiler-internals-an-overview-1a2d2e3f4b5c](https://medium.com/golang-learn/go-compiler-internals-an-overview-1a2d2e3f4b5c)
*   [https://www.youtube.com/watch?v=v2_J-g_yJ0M](https://www.youtube.com/watch?v=v2_J-g_yJ0M)