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[インデックス 1454] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラ(gc)における型システム関連の変更です。具体的には、mapchanstringといった組み込み型が「実際の型 (real types)」として扱われるようになったことに伴い、これらの型に対してもメソッドを宣言できるようになるための修正が含まれています。これにより、ポインタに関する懸念なしに、これらの型に直接メソッドを関連付けることが可能になりました。

コミット

now that TCHAN, TMAP, and TSTRING are real types,
can do methods on them without pointer worries.

R=ken
OCL=22434
CL=22436

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/316d377ac29b450fe17046d3a7abe7d954d8a996

元コミット内容

now that TCHAN, TMAP, and TSTRING are real types,
can do methods on them without pointer worries.

R=ken
OCL=22434
CL=22436

変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階における型システムの進化を反映しています。Go言語では、構造体(struct)だけでなく、任意の型に対してメソッドを定義できます。しかし、初期のコンパイラ実装では、mapchanstringといった特定の組み込み型が、メソッドの宣言という観点からは「実際の型」として完全に扱われていませんでした。

コミットメッセージにある「now that TCHAN, TMAP, and TSTRING are real types」という記述は、これらの型がコンパイラ内部でより堅牢な型表現を持つようになったことを示唆しています。以前は、これらの型にメソッドを定義しようとすると、内部的なポインタの扱いなどに関する問題が発生する可能性があったと考えられます。この変更により、これらの型が他のユーザー定義型と同様に、メソッドのレシーバとして適切に機能するようになり、より一貫性のある型システムが実現されました。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびコンパイラの基本的な概念を理解しておく必要があります。

  1. Go言語の型システム:

    • Go言語は静的型付け言語であり、すべての変数には型があります。
    • Goでは、構造体だけでなく、任意の型(プリミティブ型、スライス、マップ、チャネルなど)に対してメソッドを定義できます。メソッドはレシーバ引数を持つ関数として定義されます。
    • レシーバ: メソッドが関連付けられる型を指します。レシーバは値レシーバ(T)またはポインタレシーバ(*T)のいずれかです。
    • メソッドセット: ある型が持つメソッドの集合です。値レシーバのメソッドとポインタレシーバのメソッドは、型によって異なるメソッドセットを持ちます。
  2. Goコンパイラ(gc)の内部表現:

    • Goコンパイラは、ソースコードを解析し、内部的な抽象構文木(AST)や型表現に変換します。
    • Type構造体: コンパイラ内部で型を表すためのデータ構造です。
    • etype (element type): Type構造体内のフィールドで、型の種類(例: TSTRUCTは構造体、TARRAYは配列、TMAPはマップ、TCHANはチャネル、TSTRINGは文字列)を識別するために使用されます。
    • dclmethod関数: コンパイラ内部の関数で、型にメソッドを宣言する際の処理を担当します。この関数は、与えられた型がメソッドを持つことができるかどうか、またその型がメソッドのレシーバとして適切であるかをチェックします。
  3. ポインタの扱いとメソッド:

    • Goでは、メソッドのレシーバが値型の場合、メソッド呼び出し時にレシーバのコピーが渡されます。ポインタ型の場合、レシーバへのポインタが渡されます。
    • 特に、mapchanstringのような組み込み型は、内部的にポインタや参照によって実装されていることが多く、これらの型に直接メソッドを定義する際には、コンパイラがその内部的なポインタのセマンティクスを正しく理解し、処理する必要がありました。このコミット以前は、その「ポインタの心配 (pointer worries)」があったことを示唆しています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goコンパイラのsrc/cmd/gc/subr.cファイル内のdclmethod関数の変更にあります。

dclmethod関数は、Go言語の型システムにおいて、特定の型がメソッドを持つことができるかどうかを判断し、そのメソッドの宣言を処理する役割を担っています。この関数は、与えられたType構造体tに対して、そのetype(要素型)をチェックし、メソッドの宣言が許可されるべき型であるかを検証します。

変更前のコードでは、dclmethod関数内で、mapchanstringといった型に対するメソッドの扱いが不完全であることを示すTODOコメントがありました。

// TODO(rsc): map, chan etc are not quite right
if(!issimple[t->etype])
switch(t->etype) {
default:
	return T;
case TSTRUCT:
case TARRAY:
	break;
}

このTODOコメントは、これらの型がTSTRUCT(構造体)やTARRAY(配列)のように、メソッドのレシーバとして完全にサポートされていないことを示していました。issimple配列は、プリミティブ型など、メソッドを持たない単純な型を識別するために使用されます。!issimple[t->etype]の条件は、メソッドを持つ可能性のある複雑な型に対してのみ、以下のswitch文で詳細なチェックを行うことを意味します。

変更の目的は、TMAPTCHANTSTRINGが「実際の型」としてコンパイラ内部で完全にサポートされるようになったため、これらの型もTSTRUCTTARRAYと同様に、メソッドのレシーバとして適切に扱われるようにすることです。

具体的には、switch(t->etype)文のcaseリストにTMAPTCHANTSTRINGが追加されました。これにより、dclmethod関数は、これらの型がメソッドを持つことを許可し、それらのメソッド宣言を正しく処理するようになります。

この変更は、Go言語の型システムの一貫性を高め、開発者がmapchanstringといった組み込み型に対しても、他のユーザー定義型と同様に自然な形でメソッドを定義できるようになったことを意味します。これにより、コードの表現力と再利用性が向上しました。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/gc/subr.cファイルのdclmethod関数内のswitch文に以下の行が追加されました。

--- a/src/cmd/gc/subr.c
+++ b/src/cmd/gc/subr.c
@@ -1556,13 +1556,15 @@ dclmethod(Type *t)
  	t->methptr |= 1<<ptr;

  	// check types
-	// TODO(rsc): map, chan etc are not quite right
  	if(!issimple[t->etype])
  	switch(t->etype) {
  	default:
  	\treturn T;
  	case TSTRUCT:
  	case TARRAY:
+	case TMAP:
+	case TCHAN:
+	case TSTRING:
  	\tbreak;
  	}

コアとなるコードの解説

変更は、dclmethod関数内のswitch(t->etype)ブロックに集中しています。

  • 削除された行:

    // TODO(rsc): map, chan etc are not quite right
    

    このTODOコメントは、mapchanなどの型に対するメソッドの扱いが不完全であることを示していました。このコミットによって問題が解決されたため、コメントが削除されました。

  • 追加された行:

    case TMAP:
    case TCHAN:
    case TSTRING:
    

    これらの行は、switch文の既存のcase TSTRUCT:case TARRAY:の後に挿入されました。これは、コンパイラがTMAP(マップ型)、TCHAN(チャネル型)、TSTRING(文字列型)を、TSTRUCT(構造体型)やTARRAY(配列型)と同様に、メソッドのレシーバとして有効な型として認識し、処理することを意味します。

この変更により、dclmethod関数は、これらの組み込み型がメソッドを持つことを許可し、それらのメソッド宣言を正しくコンパイルできるようになりました。以前は、これらの型にメソッドを定義しようとすると、コンパイラがエラーを出すか、予期せぬ動作をする可能性がありましたが、この修正によってその問題が解消されました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のGitHubリポジトリのコミット履歴
  • Go言語の初期開発に関するメーリングリストやフォーラムの議論(一般的な情報源として)
  • Go言語のコンパイラ設計に関する論文やブログ記事(一般的な情報源として)
  • Go言語の型システムに関する解説記事(一般的な情報源として)

[インデックス 1454] ファイルの概要

このコミットは、Go言語のコンパイラ(gc)における型システム関連の変更です。具体的には、mapchanstringといった組み込み型が「実際の型 (real types)」として扱われるようになったことに伴い、これらの型に対してもメソッドを宣言できるようになるための修正が含まれています。これにより、ポインタに関する懸念なしに、これらの型に直接メソッドを関連付けることが可能になりました。

コミット

now that TCHAN, TMAP, and TSTRING are real types,
can do methods on them without pointer worries.

R=ken
OCL=22434
CL=22436

GitHub上でのコミットページへのリンク

https://github.com/golang/go/commit/316d377ac29b450fe17046d3a7abe7d954d8a996

元コミット内容

now that TCHAN, TMAP, and TSTRING are real types,
can do methods on them without pointer worries.

R=ken
OCL=22434
CL=22436

変更の背景

このコミットは、Go言語の初期開発段階における型システムの進化を反映しています。Go言語では、構造体(struct)だけでなく、任意の型に対してメソッドを定義できます。しかし、初期のコンパイラ実装では、mapchanstringといった特定の組み込み型が、メソッドの宣言という観点からは「実際の型」として完全に扱われていませんでした。

コミットメッセージにある「now that TCHAN, TMAP, and TSTRING are real types」という記述は、これらの型がコンパイラ内部でより堅牢な型表現を持つようになったことを示唆しています。以前は、これらの型にメソッドを定義しようとすると、内部的なポインタの扱いなどに関する問題が発生する可能性があったと考えられます。この変更により、これらの型が他のユーザー定義型と同様に、メソッドのレシーバとして適切に機能するようになり、より一貫性のある型システムが実現されました。

前提知識の解説

このコミットを理解するためには、以下のGo言語およびコンパイラの基本的な概念を理解しておく必要があります。

  1. Go言語の型システム:

    • Go言語は静的型付け言語であり、すべての変数には型があります。
    • Goでは、構造体だけでなく、任意の型(プリミティブ型、スライス、マップ、チャネルなど)に対してメソッドを定義できます。メソッドはレシーバ引数を持つ関数として定義されます。
    • レシーバ: メソッドが関連付けられる型を指します。レシーバは値レシーバ(T)またはポインタレシーバ(*T)のいずれかです。
    • メソッドセット: ある型が持つメソッドの集合です。値レシーバのメソッドとポインタレシーバのメソッドは、型によって異なるメソッドセットを持ちます。
  2. Goコンパイラ(gc)の内部表現:

    • Goコンパイラは、ソースコードを解析し、内部的な抽象構文木(AST)や型表現に変換します。
    • Type構造体: コンパイラ内部で型を表すためのデータ構造です。
    • etype (element type): Type構造体内のフィールドで、型の種類(例: TSTRUCTは構造体、TARRAYは配列、TMAPはマップ、TCHANはチャネル、TSTRINGは文字列)を識別するために使用されます。
    • dclmethod関数: コンパイラ内部の関数で、型にメソッドを宣言する際の処理を担当します。この関数は、与えられた型がメソッドを持つことができるかどうか、またその型がメソッドのレシーバとして適切であるかをチェックします。
  3. ポインタの扱いとメソッド:

    • Goでは、メソッドのレシーバが値型の場合、メソッド呼び出し時にレシーバのコピーが渡されます。ポインタ型の場合、レシーバへのポインタが渡されます。
    • 特に、mapchanstringのような組み込み型は、内部的にポインタや参照によって実装されていることが多く、これらの型に直接メソッドを定義する際には、コンパイラがその内部的なポインタのセマンティクスを正しく理解し、処理する必要がありました。このコミット以前は、その「ポインタの心配 (pointer worries)」があったことを示唆しています。

技術的詳細

このコミットの技術的な核心は、Goコンパイラのsrc/cmd/gc/subr.cファイル内のdclmethod関数の変更にあります。

dclmethod関数は、Go言語の型システムにおいて、特定の型がメソッドを持つことができるかどうかを判断し、そのメソッドの宣言を処理する役割を担っています。この関数は、与えられたType構造体tに対して、そのetype(要素型)をチェックし、メソッドの宣言が許可されるべき型であるかを検証します。

変更前のコードでは、dclmethod関数内で、mapchanstringといった型に対するメソッドの扱いが不完全であることを示すTODOコメントがありました。

// TODO(rsc): map, chan etc are not quite right
if(!issimple[t->etype])
switch(t->etype) {
default:
	return T;
case TSTRUCT:
case TARRAY:
	break;
}

このTODOコメントは、これらの型がTSTRUCT(構造体)やTARRAY(配列)のように、メソッドのレシーバとして完全にサポートされていないことを示していました。issimple配列は、プリミティブ型など、メソッドを持たない単純な型を識別するために使用されます。!issimple[t->etype]の条件は、メソッドを持つ可能性のある複雑な型に対してのみ、以下のswitch文で詳細なチェックを行うことを意味します。

変更の目的は、TMAPTCHANTSTRINGが「実際の型」としてコンパイラ内部で完全にサポートされるようになったため、これらの型もTSTRUCTTARRAYと同様に、メソッドのレシーバとして適切に扱われるようにすることです。

具体的には、switch(t->etype)文のcaseリストにTMAPTCHANTSTRINGが追加されました。これにより、dclmethod関数は、これらの型がメソッドを持つことを許可し、それらのメソッド宣言を正しく処理するようになります。

この変更は、Go言語の型システムの一貫性を高め、開発者がmapchanstringといった組み込み型に対しても、他のユーザー定義型と同様に自然な形でメソッドを定義できるようになったことを意味します。これにより、コードの表現力と再利用性が向上しました。

コアとなるコードの変更箇所

src/cmd/gc/subr.cファイルのdclmethod関数内のswitch文に以下の行が追加されました。

--- a/src/cmd/gc/subr.c
+++ b/src/cmd/gc/subr.c
@@ -1556,13 +1556,15 @@ dclmethod(Type *t)
  	t->methptr |= 1<<ptr;

  	// check types
-	// TODO(rsc): map, chan etc are not quite right
  	if(!issimple[t->etype])
  	switch(t->etype) {
  	default:
  	\treturn T;
  	case TSTRUCT:
  	case TARRAY:
+	case TMAP:
+	case TCHAN:
+	case TSTRING:
  	\tbreak;
  	}

コアとなるコードの解説

変更は、dclmethod関数内のswitch(t->etype)ブロックに集中しています。

  • 削除された行:

    // TODO(rsc): map, chan etc are not quite right
    

    このTODOコメントは、mapchanなどの型に対するメソッドの扱いが不完全であることを示していました。このコミットによって問題が解決されたため、コメントが削除されました。

  • 追加された行:

    case TMAP:
    case TCHAN:
    case TSTRING:
    

    これらの行は、switch文の既存のcase TSTRUCT:case TARRAY:の後に挿入されました。これは、コンパイラがTMAP(マップ型)、TCHAN(チャネル型)、TSTRING(文字列型)を、TSTRUCT(構造体型)やTARRAY(配列型)と同様に、メソッドのレシーバとして有効な型として認識し、処理することを意味します。

この変更により、dclmethod関数は、これらの組み込み型がメソッドを持つことを許可し、それらのメソッド宣言を正しくコンパイルできるようになりました。以前は、これらの型にメソッドを定義しようとすると、コンパイラがエラーを出すか、予期せぬ動作をする可能性がありましたが、この修正によってその問題が解消されました。

関連リンク

参考にした情報源リンク

  • Go言語の公式ドキュメント
  • Go言語のGitHubリポジトリのコミット履歴
  • Go言語の初期開発に関するメーリングリストやフォーラムの議論(一般的な情報源として)
  • Go言語のコンパイラ設計に関する論文やブログ記事(一般的な情報源として)
  • Go言語の型システムに関する解説記事(一般的な情報源として)