[インデックス 14708] ファイルの概要
このコミットは、Goコンパイラ (cmd/gc
) およびGoランタイム (runtime
) から、内部関数である mapassign2
の定義と宣言を削除するものです。これは、mapassign2
がもはや存在しない、つまり使用されなくなったことを反映しています。
コミット
commit 64eb7749bca304a858638222849c5765e6427c79
Author: Rémy Oudompheng <oudomphe@phare.normalesup.org>
Date: Fri Dec 21 20:39:30 2012 +0100
cmd/gc: mapassign2 doesn't exist anymore.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/6997043
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/64eb7749bca304a858638222849c5765e6427c79
元コミット内容
cmd/gc: mapassign2 doesn't exist anymore.
変更の背景
この変更の背景には、Go言語のマップ(map
)型に対する内部的な操作、特に値の割り当て(代入)に関するランタイム関数の進化があります。Goのマップは、キーと値のペアを格納するための組み込みデータ構造であり、その実装はコンパイラとランタイムによって密接に連携して行われます。
mapassign2
は、Goのマップに値を割り当てる際に使用される可能性のある内部ランタイム関数の一つでした。しかし、Go言語の進化に伴い、マップの内部実装やコンパイラの最適化が進む中で、特定のランタイム関数が不要になったり、より汎用的な関数に統合されたりすることがあります。
このコミットメッセージ「mapassign2 doesn't exist anymore.
」が示すように、mapassign2
はもはやGoのマップ割り当てロジックにおいて必要とされなくなったため、その宣言と定義がコードベースから削除されました。これは、Goのマップ実装がより効率的または簡潔な形にリファクタリングされた結果であると考えられます。具体的には、マップへの値の代入が、mapassign1
のような単一の関数で処理できるようになったか、あるいは別のメカニズムで処理されるようになったことを示唆しています。
前提知識の解説
このコミットを理解するためには、以下のGo言語の内部構造に関する前提知識が必要です。
-
Goのマップ(
map
): Goのマップはハッシュテーブルとして実装されており、キーから値へのマッピングを提供します。マップの操作(作成、要素の追加・更新、要素の取得、要素の削除など)は、Goコンパイラによって生成されるコードと、Goランタイムに実装された内部関数(ランタイム関数)の組み合わせによって行われます。 -
Goコンパイラ (
cmd/gc
):cmd/gc
はGo言語の公式コンパイラです。Goのソースコードをコンパイルし、実行可能なバイナリを生成します。このコンパイラは、Goの言語仕様に準拠したコードを生成するだけでなく、Goランタイムが提供する特定の内部関数を呼び出すためのコードも生成します。src/cmd/gc/builtin.c
は、コンパイラが認識すべき組み込み関数やランタイム関数のシグネチャ(型情報)を定義しているファイルの一つです。これはC言語で書かれていますが、Goコンパイラのビルドプロセスの一部として利用されます。 -
Goランタイム (
runtime
): Goランタイムは、Goプログラムの実行を管理するシステムです。ガベージコレクション、スケジューリング、チャネル操作、そしてマップ操作などの低レベルな機能を提供します。src/cmd/gc/runtime.go
は、Goランタイムの一部として、Go言語で書かれたランタイム関数の宣言を含んでいます。これらの関数は、コンパイラによって生成されたコードから呼び出され、Goプログラムの実行時に特定のタスクを実行します。 -
mapassign
関数群: Goのマップに値を割り当てる操作は、内部的にmapassign
という名前のランタイム関数によって処理されます。mapassign1
: 一般的なマップへの値の代入(キーが存在しない場合は追加、存在する場合は更新)を処理する関数。mapassign2
: このコミットで削除された関数。かつては、マップへの値の代入と同時に、そのキーがマップに存在したかどうかを示すブール値を返すような、より複雑な割り当てシナリオを処理するために存在した可能性があります。しかし、Goのマップ操作のセマンティクスや内部実装の変更により、この特定のシグネチャを持つ関数が不要になったと考えられます。
技術的詳細
このコミットは、Go言語のマップ実装における内部的なリファクタリングの結果です。Goのマップへの値の代入は、一見すると単純な操作に見えますが、内部的にはハッシュ衝突の解決、マップの拡張(リサイズ)、メモリ割り当てなど、複雑なロジックを含んでいます。
mapassign2
の削除は、Goのマップ割り当てロジックが簡素化されたか、あるいは mapassign1
などの既存の関数がより汎用的に設計され、mapassign2
が提供していた特定の機能が吸収されたことを示唆しています。
考えられるシナリオとしては、以下のようなものがあります。
- 機能の統合:
mapassign2
が提供していた特定の機能(例えば、値の代入と同時にキーの存在チェックを行うなど)が、mapassign1
のような別の関数に統合されたか、あるいはコンパイラが生成するコード側でそのロジックが処理されるようになった。 - セマンティクスの変更: Go言語のマップ操作のセマンティクス自体が変更され、
mapassign2
が対応していた特定のユースケースがもはや存在しなくなった。 - 最適化: マップの内部実装が最適化され、
mapassign2
のような特定のオーバーロードされた関数が不要になった。例えば、マップへの代入操作が常に同じランタイム関数を呼び出すように統一された可能性。
この変更は、Goのマップ実装が成熟し、より効率的で保守しやすい形に進化していることを示しています。Goのランタイム関数は、Goプログラムのパフォーマンスと安定性に直結するため、このような内部的なクリーンアップは、言語全体の品質向上に貢献します。
コアとなるコードの変更箇所
このコミットでは、以下の2つのファイルから mapassign2
に関連する行が削除されています。
diff --git a/src/cmd/gc/builtin.c b/src/cmd/gc/builtin.c
index fc99597387..3c399b1812 100644
--- a/src/cmd/gc/builtin.c
+++ b/src/cmd/gc/builtin.c
@@ -65,7 +65,6 @@ char *runtimeimport =
"func @\"\".mapaccess1(@\"\".mapType *byte, @\"\".hmap map[any]any, @\"\".key any) (@\"\".val any)\n"
"func @\"\".mapaccess2(@\"\".mapType *byte, @\"\".hmap map[any]any, @\"\".key any) (@\"\".val any, @\"\".pres bool)\n"
"func @\"\".mapassign1(@\"\".mapType *byte, @\"\".hmap map[any]any, @\"\".key any, @\"\".val any)\n"
-" func @\"\".mapassign2(@\"\".mapType *byte, @\"\".hmap map[any]any, @\"\".key any, @\"\".val any, @\"\".pres bool)\\n"\n
"func @\"\".mapiterinit(@\"\".mapType *byte, @\"\".hmap map[any]any, @\"\".hiter *any)\n"
"func @\"\".mapdelete(@\"\".mapType *byte, @\"\".hmap map[any]any, @\"\".key any)\n"
"func @\"\".mapiternext(@\"\".hiter *any)\n"
diff --git a/src/cmd/gc/runtime.go b/src/cmd/gc/runtime.go
index f45de0c997..73c81fad2c 100644
--- a/src/cmd/gc/runtime.go
+++ b/src/cmd/gc/runtime.go
@@ -91,7 +91,6 @@ func makemap(mapType *byte, hint int64) (hmap map[any]any)\n func mapaccess1(mapType *byte, hmap map[any]any, key any) (val any)\n func mapaccess2(mapType *byte, hmap map[any]any, key any) (val any, pres bool)\n func mapassign1(mapType *byte, hmap map[any]any, key any, val any)\n-func mapassign2(mapType *byte, hmap map[any]any, key any, val any, pres bool)\n func mapiterinit(mapType *byte, hmap map[any]any, hiter *any)\n func mapdelete(mapType *byte, hmap map[any]any, key any)\n func mapiternext(hiter *any)\n```
## コアとなるコードの解説
1. **`src/cmd/gc/builtin.c`**:
このファイルは、GoコンパイラがGoランタイムの内部関数をどのように認識するかを定義しています。具体的には、`runtimeimport` というC言語の文字列リテラルの中に、Goランタイム関数のシグネチャが記述されています。コンパイラは、この情報に基づいて、Goコードからランタイム関数を呼び出すための適切な命令を生成します。
削除された行は、`mapassign2` という関数が、`mapType *byte, hmap map[any]any, key any, val any, pres bool` という引数と戻り値の型を持つことをコンパイラに伝えていました。この行が削除されたことで、コンパイラはもはや `mapassign2` というランタイム関数を認識しなくなり、その関数を呼び出すコードを生成することもなくなります。
2. **`src/cmd/gc/runtime.go`**:
このファイルは、Goランタイムの一部として、Go言語で書かれたランタイム関数の宣言を含んでいます。これらの関数は、Goプログラムの実行時に実際にマップ操作などの低レベルなタスクを実行します。
削除された行は、`mapassign2` というGoの関数宣言でした。この宣言が削除されたことで、Goランタイム自体から `mapassign2` の実装が取り除かれたことを意味します。
これら2つのファイルの変更は一貫しており、`mapassign2` がGoのコンパイラとランタイムの両方から完全に削除されたことを示しています。これは、この関数がもはやGoのマップ割り当てロジックにおいて必要とされなくなったためであり、Goの内部実装がより洗練された結果であると言えます。
## 関連リンク
* Go言語の公式リポジトリ: [https://github.com/golang/go](https://github.com/golang/go)
* このコミットが参照しているGoの変更リスト (CL): [https://golang.org/cl/6997043](https://golang.org/cl/6997043)
## 参考にした情報源リンク
* Go言語のドキュメント (マップ): [https://go.dev/doc/effective_go#maps](https://go.dev/doc/effective_go#maps)
* Go言語のランタイムソースコード (マップ関連): [https://github.com/golang/go/tree/master/src/runtime](https://github.com/golang/go/tree/master/src/runtime)
* Go言語のコンパイラソースコード (cmd/compile): [https://github.com/golang/go/tree/master/src/cmd/compile](https://github.com/golang/go/tree/master/src/cmd/compile)
* Go言語の内部実装に関するブログや記事 (一般的な情報源として)
* "Go's map implementation" by Dave Cheney: [https://dave.cheney.net/2018/05/29/gos-map-implementation](https://dave.cheney.net/2018/05/29/gos-map-implementation) (これはコミット時期より新しいですが、Goのマップ実装の一般的な理解に役立ちます)
* "The Go Programming Language Specification - Map types": [https://go.dev/ref/spec#Map_types](https://go.dev/ref/spec#Map_types)
* "Go Data Structures: Maps": [https://go.dev/blog/maps](https://go.dev/blog/maps) (これもコミット時期より新しいですが、Goのマップの基本的な動作を理解するのに役立ちます)