[インデックス 14726] ファイルの概要
このコミットは、Go言語の標準ライブラリである fmt
パッケージのドキュメントを改善し、書式設定における幅 (width) とフラグ (flags) の挙動について、より明確な説明を追加するものです。特に、文字列と数値に対する幅の適用方法、およびゼロパディング (0
フラグ) の挙動に関する記述が修正・追記されています。
コミット
commit 1cad1f8d1c605e527422b569e9daabc60c66f936
Author: Russ Cox <rsc@golang.org>
Date: Sat Dec 22 13:36:39 2012 -0500
fmt: document width and flags a bit more
Fixes #4581.
R=golang-dev, bradfitz
CC=golang-dev
https://golang.org/cl/7000052
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/1cad1f8d1c605e527422b569e9daabc60c66f936
元コミット内容
fmt: document width and flags a bit more
Fixes #4581.
このコミットは、fmt
パッケージのドキュメントにおいて、書式設定における「幅 (width)」と「フラグ (flags)」に関する説明をさらに詳細にするものです。また、Fixes #4581
との記述がありますが、このコミットが作成された時点でのGoプロジェクトのIssueトラッカーにおける問題 #4581 を修正する意図があったことを示唆しています。しかし、現在のGitHubリポジトリではこの番号のIssueは確認できませんでした。
変更の背景
Go言語の fmt
パッケージは、C言語の printf
に似た書式設定機能を提供します。この書式設定は非常に強力ですが、特に「幅 (width)」や「精度 (precision)」、「フラグ (flags)」といったオプションの挙動は、データ型(文字列、数値など)によって微妙に異なる場合があります。
以前のドキュメントでは、文字列に対する幅と精度の説明がやや曖昧でした。特に、幅が「出力する最小文字数」として定義され、文字列に対してはパディングが行われるとされていましたが、これが他の値(数値など)にも一般的に適用されるのか、あるいは文字列に特有の挙動なのかが不明瞭でした。また、ゼロパディング (0
フラグ) の挙動についても、数値に適用された場合の詳細な挙動(符号の後にパディングが来るなど)が不足していました。
このような曖昧さは、開発者が fmt
パッケージを正確に利用する上で混乱を招く可能性がありました。このコミットは、これらの点を明確にし、ドキュメントの正確性と網羅性を向上させることを目的としています。これにより、開発者は fmt
パッケージの書式設定オプションをより効果的に、かつ意図通りに利用できるようになります。
前提知識の解説
Go言語の fmt
パッケージ
fmt
パッケージは、Go言語におけるI/Oフォーマット機能を提供します。これは、C言語の printf
や scanf
に似た関数群を含み、様々なデータ型を整形して出力したり、文字列からデータを読み取ったりするために使用されます。
書式設定動詞 (Format Verbs)
fmt
パッケージでは、%v
(デフォルトの書式)、%d
(整数)、%s
(文字列)、%f
(浮動小数点数)、%t
(真偽値) など、様々な書式設定動詞が提供されています。これらの動詞は、値の型に応じて適切な表現に変換します。
幅 (Width)
書式設定における「幅」は、出力される値が占める最小の文字数を指定します。指定された幅よりも値の書式化された表現が短い場合、通常はスペースでパディング(埋め合わせ)されます。例えば、%5d
は整数を少なくとも5文字幅で出力し、必要に応じて左側にスペースを追加します。
精度 (Precision)
「精度」は、浮動小数点数では小数点以下の桁数、文字列では出力される最大文字数を指定します。例えば、%.2f
は浮動小数点数を小数点以下2桁で出力し、%.5s
は文字列を最大5文字で出力し、必要に応じて切り捨てます。
フラグ (Flags)
フラグは、書式設定の挙動をさらに細かく制御するためのオプションです。一般的なフラグには以下のようなものがあります。
+
: 数値に常に符号を付ける (+123
,-45
)。-
: 左寄せにする(デフォルトは右寄せ)。#
: 代替書式を使用する(例:%#x
で0x
プレフィックスを付ける)。0
: ゼロパディングを行う。
技術的詳細
このコミットは、src/pkg/fmt/doc.go
ファイル内のドキュメントコメントを修正しています。主な変更点は以下の通りです。
-
幅の定義の一般化: 変更前は「文字列の場合、幅は出力する最小文字数であり、必要に応じてスペースでパディングされる」と記述されていました。 変更後は「ほとんどの値の場合、幅は出力する最小文字数であり、必要に応じて書式化された形式をスペースでパディングする」と修正され、幅の概念が文字列だけでなく、より一般的な値に適用されることが明確化されました。
-
文字列の精度の明確化: 変更前は「精度は出力する最大文字数であり、必要に応じて切り捨てられる」と記述されていましたが、これが文字列に特化したものであることが明示されていませんでした。 変更後は「文字列の場合、精度は出力する最大文字数であり、必要に応じて切り捨てられる」と修正され、文字列に対する精度の適用が明確になりました。
-
ゼロパディング (
0
フラグ) の詳細化: 変更前は「0
で先頭をスペースではなくゼロでパディングする」とだけ記述されていました。 変更後は「0
で先頭をスペースではなくゼロでパディングする;数値の場合、これはパディングを符号の後に移動させる」という記述が追加されました。これにより、数値に0
フラグを適用した場合、符号(例:-
)の直後にゼロが続く形でパディングされるという、より具体的な挙動が明記されました。例えば、-123
を%05d
で書式設定すると、-0123
となります。 -
フラグの無視に関する注意書きの追加: 「フラグは、それらを期待しない動詞によって無視される。例えば、代替の10進数書式はないため、
%#d
と%d
は同じように振る舞う」という新しい段落が追加されました。これは、開発者が不必要なフラグを使用してもエラーにならないが、効果がないことを明確にするための重要な情報です。
これらの変更により、fmt
パッケージの書式設定オプションに関するドキュメントがより正確で、理解しやすくなりました。
コアとなるコードの変更箇所
--- a/src/pkg/fmt/doc.go
+++ b/src/pkg/fmt/doc.go
@@ -63,9 +63,10 @@
The default precision for %e and %f is 6; for %g it is the smallest
number of digits necessary to identify the value uniquely.
- For strings, width is the minimum number of characters to output,
- padding with spaces if necessary, and precision is the maximum
- number of characters to output, truncating if necessary.
+ For most values, width is the minimum number of characters to output,
+ padding the formatted form with spaces if necessary.
+ For strings, precision is the maximum number of characters to output,
+ truncating if necessary.
Other flags:
+ always print a sign for numeric values;
@@ -77,7 +78,12 @@
write e.g. U+0078 'x' if the character is printable for %U (%#U).
' ' (space) leave a space for elided sign in numbers (% d);
put spaces between bytes printing strings or slices in hex (% x, % X)
- 0 pad with leading zeros rather than spaces
+ 0 pad with leading zeros rather than spaces;
+ for numbers, this moves the padding after the sign
+
+ Flags are ignored by verbs that do not expect them.
+ For example there is no alternate decimal format, so %#d and %d
+ behave identically.
For each Printf-like function, there is also a Print function
that takes no format and is equivalent to saying %v for every
コアとなるコードの解説
このコミットは、src/pkg/fmt/doc.go
ファイル内のコメントブロックを修正しています。
変更前:
For strings, width is the minimum number of characters to output,
padding with spaces if necessary, and precision is the maximum
number of characters to output, truncating if necessary.
この記述では、「幅」と「精度」の説明が文字列に限定されているように読めました。特に「幅」が文字列にのみ適用されるかのような印象を与えていました。
変更後:
For most values, width is the minimum number of characters to output,
padding the formatted form with spaces if necessary.
For strings, precision is the maximum number of characters to output,
truncating if necessary.
最初の行が For most values, width is the minimum number of characters to output, ...
と変更されたことで、「幅」の概念が文字列だけでなく、ほとんどのデータ型に一般的に適用されることが明確になりました。その後の行で For strings, precision is the maximum number of characters to output, ...
と続くことで、文字列に対する「精度」の挙動が改めて強調されています。これにより、幅と精度の適用範囲がより正確に伝わるようになりました。
変更前:
0 pad with leading zeros rather than spaces
ゼロパディング (0
フラグ) の説明が簡潔すぎて、数値に適用された場合の詳細な挙動が不明瞭でした。
変更後:
0 pad with leading zeros rather than spaces;
for numbers, this moves the padding after the sign
for numbers, this moves the padding after the sign
という追記により、数値に対して 0
フラグを使用した場合、パディングが符号の直後に行われるという重要な詳細が追加されました。これは、例えば -123
を %05d
で書式設定すると -0123
となるような挙動を明確にしています。
新規追加:
Flags are ignored by verbs that do not expect them.
For example there is no alternate decimal format, so %#d and %d
behave identically.
この新しい段落は、書式設定動詞が特定のフラグをサポートしていない場合、そのフラグが無視されることを明示しています。具体例として、10進数 (%d
) には代替書式がないため、%#d
と %d
が同じ結果になることが挙げられています。これは、開発者が不適切なフラグを使用した場合の挙動を理解するのに役立ちます。
これらの変更は、fmt
パッケージのドキュメントの正確性、網羅性、および明確性を大幅に向上させています。
関連リンク
- Go言語の
fmt
パッケージ公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/fmt
参考にした情報源リンク
- Go言語の
fmt
パッケージ公式ドキュメント: https://pkg.go.dev/fmt - GitHub: golang/go リポジトリ: https://github.com/golang/go
- Go言語の書式設定に関する一般的な情報源 (例: Go by Example: String Formatting): https://gobyexample.com/string-formatting (これは一般的な情報源であり、このコミットの直接の参照元ではありませんが、関連する概念を理解するのに役立ちます。)
- Go言語のコミットメッセージの慣習に関する情報 (例: Goの貢献ガイドライン): https://go.dev/doc/contribute (これも一般的な情報源であり、このコミットの直接の参照元ではありませんが、コミットメッセージの理解に役立ちます。)
- Go言語のIssueトラッカー (過去のIssueを検索する際の参考): https://github.com/golang/go/issues (Issue #4581 は見つかりませんでしたが、一般的なIssueの検索方法として記載)