[インデックス 1473] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一つであるgccgo
が生成するエラーメッセージを、テストスイートが正しく認識できるようにするための変更です。具体的には、型互換性のない代入に関するエラーメッセージのパターンに、gccgo
が出力する可能性のある「incompatible」というキーワードを追加しています。これにより、gccgo
を使用した場合でも、既存のテストが期待されるエラーを適切に検出できるようになります。
コミット
- コミットハッシュ:
87af75ff7478de95ba8a9ec70b7470127fd48323
- 作者: Ian Lance Taylor iant@golang.org
- コミット日時: 2009年1月15日 木曜日 10:15:23 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/87af75ff7478de95ba8a9ec70b7470127fd48323
元コミット内容
Recognize gccgo error messages:
interface5.go:15:5: error: incompatible types in assignment
interface5.go:16:5: error: incompatible types in assignment
(Yes, these could be better).
R=rsc
DELTA=2 (0 added, 0 deleted, 2 changed)
OCL=22821
CL=22826
変更の背景
Go言語の初期開発段階において、複数のコンパイラ(例えば、公式のgc
コンパイラとGCCベースのgccgo
コンパイラ)が存在していました。これらのコンパイラは、同じGoのソースコードに対して、異なる形式のエラーメッセージを出力する可能性がありました。
test/interface5.go
のようなテストファイルは、特定のコードがコンパイルエラーになることを期待し、そのエラーメッセージの内容を正規表現でチェックしていました。しかし、gccgo
が「incompatible types in assignment」のような、gc
コンパイラとは異なるエラーメッセージを出力した場合、テストスイートは期待するエラーを検出できず、テストが失敗する可能性がありました。
このコミットは、gccgo
が生成するエラーメッセージの具体的な例(interface5.go:15:5: error: incompatible types in assignment
)を認識し、テストが両方のコンパイラで正しく動作するように、エラーメッセージのパターンを更新することを目的としています。コミットメッセージにある「(Yes, these could be better)」というコメントは、当時のgccgo
のエラーメッセージがまだ洗練されていなかったことを示唆しています。
前提知識の解説
Go言語のインターフェースと型互換性
Go言語のインターフェースは、メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。ある型がインターフェースのすべてのメソッドを実装していれば、その型は暗黙的にそのインターフェースを満たします。
Goにおける型互換性は厳格です。特に代入においては、代入元の型が代入先の型に変換可能であるか、あるいは代入先のインターフェース型が代入元の具象型を保持できるか、といったルールが適用されます。
このコミットで参照されているtest/interface5.go
のシナリオは、おそらく以下のような状況を想定しています。
type T struct {
// ...
}
func (t T) MethodA() { /* ... */ }
type I interface {
MethodA()
MethodB() // T does not implement MethodB
}
func main() {
var i I
var t T
i = t // ERROR: T does not implement I (missing MethodB)
t = i // ERROR: I cannot be assigned to T directly, unless I holds a T
}
上記の例では、T
型がI
インターフェースのMethodB
を実装していないため、i = t
という代入はコンパイルエラーになります。また、t = i
という代入も、i
がT
以外の型を保持している可能性があるため、直接代入することはできません(型アサーションが必要)。
gccgo
コンパイラ
gccgo
は、Go言語のフロントエンドをGCC(GNU Compiler Collection)に統合したコンパイラです。Go言語の初期段階では、Googleが開発した公式のgc
コンパイラと並行して、GCCプロジェクトによってgccgo
が開発されていました。
gccgo
はGCCのバックエンドを利用するため、GCCがサポートする様々なアーキテクチャや最適化の恩恵を受けることができます。しかし、エラーメッセージの形式や内部実装の詳細はgc
コンパイラとは異なる場合がありました。
テストにおけるエラーメッセージの正規表現マッチング
Go言語のテストスイートでは、コンパイルエラーを期待するテストケースにおいて、特定のキーワードやパターンがエラーメッセージに含まれていることを確認するために正規表現が使用されることがあります。これは、コンパイラが意図したエラーを正しく報告しているかを検証するための重要な手法です。
例えば、// ERROR "missing"
というコメントは、その行がコンパイルエラーとなり、かつエラーメッセージに「missing」という文字列が含まれることを期待していることを示します。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Go言語のテストフレームワークがコンパイラのエラーメッセージをどのように処理していたか、そして異なるコンパイラ(gc
とgccgo
)が同じエラーに対して異なるメッセージを出力する可能性があった点に集約されます。
test/interface5.go
のようなテストファイルでは、特定のコード行の隣に// ERROR "..."
という形式のコメントが記述されています。これは、その行がコンパイルエラーを引き起こすことを期待しており、引用符で囲まれた文字列は、コンパイラが出力するエラーメッセージにマッチすべき正規表現パターンを示しています。
元のコードでは、i = t; // ERROR "missing"
と t = i; // ERROR "missing"
となっていました。これは、これらの代入が型互換性の問題で失敗し、そのエラーメッセージに「missing」という単語が含まれることを期待していたことを意味します。
しかし、gccgo
コンパイラは、これらの型互換性エラーに対して「incompatible types in assignment」のような、より詳細な(あるいは異なる)メッセージを出力していました。この「incompatible」という単語は、元の正規表現パターン「missing」にはマッチしません。
このコミットでは、正規表現パターンを"missing|incompatible"
に変更しています。これは、エラーメッセージが「missing」または「incompatible」のいずれかの単語を含む場合にマッチするように拡張されたことを意味します。これにより、gc
コンパイラが出力する「missing」を含むエラーメッセージと、gccgo
が出力する「incompatible」を含むエラーメッセージの両方に対応できるようになり、テストの堅牢性が向上しました。
この変更は、Go言語のテストスイートが複数のコンパイラ実装をサポートし、それぞれのコンパイラの特性を考慮に入れる必要があった初期の状況を反映しています。
コアとなるコードの変更箇所
変更はtest/interface5.go
ファイルにのみ行われています。
--- a/test/interface5.go
+++ b/test/interface5.go
@@ -16,6 +16,6 @@ func main() {
// neither of these can work,
// because i has an extra method
// that t does not, so i cannot contain a t.
- i = t; // ERROR "missing"
- t = i; // ERROR "missing"
+ i = t; // ERROR "missing|incompatible"
+ t = i; // ERROR "missing|incompatible"
}
コアとなるコードの解説
変更されたのは、test/interface5.go
ファイルの以下の2行です。
i = t; // ERROR "missing"
t = i; // ERROR "missing"
これらの行は、Go言語のテストフレームワークがコンパイルエラーを期待する際に使用する特別なコメントです。// ERROR "..."
は、その行がコンパイルエラーを引き起こし、かつエラーメッセージが引用符内の正規表現にマッチすることを期待していることを示します。
元のコードでは、期待されるエラーメッセージのパターンが"missing"
でした。これは、型互換性の問題でコンパイルが失敗した際に、エラーメッセージに「missing」という単語が含まれることを想定していました。
このコミットによって、これらの行は以下のように変更されました。
i = t; // ERROR "missing|incompatible"
t = i; // ERROR "missing|incompatible"
変更後のパターン"missing|incompatible"
は、正規表現のOR演算子(|
)を使用しています。これは、「missing」という文字列、または「incompatible」という文字列のいずれかがエラーメッセージに含まれていれば、テストが成功することを意味します。
この変更により、gc
コンパイラが「missing」を含むエラーメッセージを出力する場合と、gccgo
コンパイラが「incompatible」を含むエラーメッセージを出力する場合の両方に対応できるようになりました。これにより、異なるコンパイラ環境下でもtest/interface5.go
のテストが安定して動作するようになりました。
関連リンク
- Go言語のインターフェースに関する公式ドキュメント (現在のバージョン): https://go.dev/tour/methods/10
- Go言語の型システムに関する議論 (初期の設計思想など): https://go.dev/doc/effective_go#interfaces
- GCC Go Front End (gccgo) プロジェクトページ: https://gcc.gnu.org/onlinedocs/gccgo/
参考にした情報源リンク
- GitHubのコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/87af75ff7478de95ba8a9ec70b7470127fd48323
- Go言語のテストにおける
// ERROR
コメントの慣習に関する情報 (Goのソースコードやテストファイルから推測) - Go言語の初期開発に関する一般的な知識 (複数のコンパイラの存在など)
- Go言語のインターフェースと型互換性に関する一般的な知識
gccgo
に関する一般的な知識# [インデックス 1473] ファイルの概要
このコミットは、Go言語のコンパイラの一つであるgccgo
が生成するエラーメッセージを、テストスイートが正しく認識できるようにするための変更です。具体的には、型互換性のない代入に関するエラーメッセージのパターンに、gccgo
が出力する可能性のある「incompatible」というキーワードを追加しています。これにより、gccgo
を使用した場合でも、既存のテストが期待されるエラーを適切に検出できるようになります。
コミット
- コミットハッシュ:
87af75ff7478de95ba8a9ec70b7470127fd48323
- 作者: Ian Lance Taylor iant@golang.org
- コミット日時: 2009年1月15日 木曜日 10:15:23 -0800
GitHub上でのコミットページへのリンク
https://github.com/golang/go/commit/87af75ff7478de95ba8a9ec70b7470127fd48323
元コミット内容
Recognize gccgo error messages:
interface5.go:15:5: error: incompatible types in assignment
interface5.go:16:5: error: incompatible types in assignment
(Yes, these could be better).
R=rsc
DELTA=2 (0 added, 0 deleted, 2 changed)
OCL=22821
CL=22826
変更の背景
Go言語の初期開発段階において、複数のコンパイラ(例えば、公式のgc
コンパイラとGCCベースのgccgo
コンパイラ)が存在していました。これらのコンパイラは、同じGoのソースコードに対して、異なる形式のエラーメッセージを出力する可能性がありました。
test/interface5.go
のようなテストファイルは、特定のコードがコンパイルエラーになることを期待し、そのエラーメッセージの内容を正規表現でチェックしていました。しかし、gccgo
が「incompatible types in assignment」のような、gc
コンパイラとは異なるエラーメッセージを出力した場合、テストスイートは期待するエラーを検出できず、テストが失敗する可能性がありました。
このコミットは、gccgo
が生成するエラーメッセージの具体的な例(interface5.go:15:5: error: incompatible types in assignment
)を認識し、テストが両方のコンパイラで正しく動作するように、エラーメッセージのパターンを更新することを目的としています。コミットメッセージにある「(Yes, these could be better)」というコメントは、当時のgccgo
のエラーメッセージがまだ洗練されていなかったことを示唆しています。
前提知識の解説
Go言語のインターフェースと型互換性
Go言語のインターフェースは、メソッドのシグネチャの集合を定義する型です。ある型がインターフェースのすべてのメソッドを実装していれば、その型は暗黙的にそのインターフェースを満たします。
Goにおける型互換性は厳格です。特に代入においては、代入元の型が代入先の型に変換可能であるか、あるいは代入先のインターフェース型が代入元の具象型を保持できるか、といったルールが適用されます。
このコミットで参照されているtest/interface5.go
のシナリオは、おそらく以下のような状況を想定しています。
type T struct {
// ...
}
func (t T) MethodA() { /* ... */ }
type I interface {
MethodA()
MethodB() // T does not implement MethodB
}
func main() {
var i I
var t T
i = t // ERROR: T does not implement I (missing MethodB)
t = i // ERROR: I cannot be assigned to T directly, unless I holds a T
}
上記の例では、T
型がI
インターフェースのMethodB
を実装していないため、i = t
という代入はコンパイルエラーになります。また、t = i
という代入も、i
がT
以外の型を保持している可能性があるため、直接代入することはできません(型アサーションが必要)。
gccgo
コンパイラ
gccgo
は、Go言語のフロントエンドをGCC(GNU Compiler Collection)に統合したコンパイラです。Go言語の初期段階では、Googleが開発した公式のgc
コンパイラと並行して、GCCプロジェクトによってgccgo
が開発されていました。
gccgo
はGCCのバックエンドを利用するため、GCCがサポートする様々なアーキテクチャや最適化の恩恵を受けることができます。しかし、エラーメッセージの形式や内部実装の詳細はgc
コンパイラとは異なる場合がありました。
テストにおけるエラーメッセージの正規表現マッチング
Go言語のテストスイートでは、コンパイルエラーを期待するテストケースにおいて、特定のキーワードやパターンがエラーメッセージに含まれていることを確認するために正規表現が使用されることがあります。これは、コンパイラが意図したエラーを正しく報告しているかを検証するための重要な手法です。
例えば、// ERROR "missing"
というコメントは、その行がコンパイルエラーとなり、かつエラーメッセージに「missing」という文字列が含まれることを期待していることを示します。
技術的詳細
このコミットの技術的詳細は、Go言語のテストフレームワークがコンパイラのエラーメッセージをどのように処理していたか、そして異なるコンパイラ(gc
とgccgo
)が同じエラーに対して異なるメッセージを出力する可能性があった点に集約されます。
test/interface5.go
のようなテストファイルでは、特定のコード行の隣に// ERROR "..."
という形式のコメントが記述されています。これは、その行がコンパイルエラーを引き起こすことを期待しており、引用符で囲まれた文字列は、コンパイラが出力するエラーメッセージにマッチすべき正規表現パターンを示しています。
元のコードでは、i = t; // ERROR "missing"
と t = i; // ERROR "missing"
となっていました。これは、これらの代入が型互換性の問題で失敗し、そのエラーメッセージに「missing」という単語が含まれることを期待していたことを意味します。
しかし、gccgo
コンパイラは、これらの型互換性エラーに対して「incompatible types in assignment」のような、より詳細な(あるいは異なる)メッセージを出力していました。この「incompatible」という単語は、元の正規表現パターン「missing」にはマッチしません。
このコミットでは、正規表現パターンを"missing|incompatible"
に変更しています。これは、エラーメッセージが「missing」または「incompatible」のいずれかの単語を含む場合にマッチするように拡張されたことを意味します。これにより、gc
コンパイラが出力する「missing」を含むエラーメッセージと、gccgo
が出力する「incompatible」を含むエラーメッセージの両方に対応できるようになり、テストの堅牢性が向上しました。
この変更は、Go言語のテストスイートが複数のコンパイラ実装をサポートし、それぞれのコンパイラの特性を考慮に入れる必要があった初期の状況を反映しています。
コアとなるコードの変更箇所
変更はtest/interface5.go
ファイルにのみ行われています。
--- a/test/interface5.go
+++ b/test/interface5.go
@@ -16,6 +16,6 @@ func main() {
// neither of these can work,
// because i has an extra method
// that t does not, so i cannot contain a t.
- i = t; // ERROR "missing"
- t = i; // ERROR "missing"
+ i = t; // ERROR "missing|incompatible"
+ t = i; // ERROR "missing|incompatible"
}
コアとなるコードの解説
変更されたのは、test/interface5.go
ファイルの以下の2行です。
i = t; // ERROR "missing"
t = i; // ERROR "missing"
これらの行は、Go言語のテストフレームワークがコンパイルエラーを期待する際に使用する特別なコメントです。// ERROR "..."
は、その行がコンパイルエラーを引き起こし、かつエラーメッセージが引用符内の正規表現にマッチすることを期待していることを示します。
元のコードでは、期待されるエラーメッセージのパターンが"missing"
でした。これは、型互換性の問題でコンパイルが失敗した際に、エラーメッセージに「missing」という単語が含まれることを想定していました。
このコミットによって、これらの行は以下のように変更されました。
i = t; // ERROR "missing|incompatible"
t = i; // ERROR "missing|incompatible"
変更後のパターン"missing|incompatible"
は、正規表現のOR演算子(|
)を使用しています。これは、「missing」という文字列、または「incompatible」という文字列のいずれかがエラーメッセージに含まれていれば、テストが成功することを意味します。
この変更により、gc
コンパイラが「missing」を含むエラーメッセージを出力する場合と、gccgo
コンパイラが「incompatible」を含むエラーメッセージを出力する場合の両方に対応できるようになりました。これにより、異なるコンパイラ環境下でもtest/interface5.go
のテストが安定して動作するようになりました。
関連リンク
- Go言語のインターフェースに関する公式ドキュメント (現在のバージョン): https://go.dev/tour/methods/10
- Go言語の型システムに関する議論 (初期の設計思想など): https://go.dev/doc/effective_go#interfaces
- GCC Go Front End (gccgo) プロジェクトページ: https://gcc.gnu.org/onlinedocs/gccgo/
参考にした情報源リンク
- GitHubのコミットページ: https://github.com/golang/go/commit/87af75ff7478de95ba8a9ec70b7470127fd48323
- Go言語のテストにおける
// ERROR
コメントの慣習に関する情報 (Goのソースコードやテストファイルから推測) - Go言語の初期開発に関する一般的な知識 (複数のコンパイラの存在など)
- Go言語のインターフェースと型互換性に関する一般的な知識
gccgo
に関する一般的な知識